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番外編4-2
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「うちの父親もメーカー勤務で海外駐在してたんですよ」
「え、そうなんや。じゃあ上野くんも小さい頃から海外におったん?」
「いえ、赴任先がちょっと田舎だったらしくて。まだ俺が赤ん坊だったし、母が体が弱くて嫌がったので、父は単身赴任してました。だから俺は中国に留学したのが初めての海外だったんですけど、もし俺が選べるなら、連れて行って欲しかったと思いましたよ」
そうなっていたら、今とは色々状況が変わっていて、中国に留学はしていなかったかもしれない。
「そうなんや。まあお母さんの心配もわかるわ。医療体制が整っとらんと赤ちゃん連れて行くのはキツイやろうな」
「そうですよね。せめて幼稚園に行く年になってたらちがったんでしょうけど」
「小さい子はしょっちゅう熱出すし、言葉の通じん海外で子育ては不安やろ。うちは小学校に上がってたしクアラルンプールは大都会やったけど、それでも行く前は心配で色々調べたわ」
子供を連れて赴任する親はどこの国でも大変らしい。
「そう言えば、この前からちょっと歯が痛いなと思ってたんですけど、ご飯食べてたら詰め物が取れちゃって。その時中国人の友達が一緒にいたんですけど、いい気功師を紹介するって言われましたよ」
伊藤は笑い出す。
「それは気功では治らんやろ。紹介してもろたん?」
「はい。成り行きで」
すぐ近くに住んでいるからと酔っている友人に強引に連れて行かれてしまったのだ。
気功師のほうも突然やってきた外国人連れの友人に驚くことなく、親切に話を聞いて気功を処置してくれた。
孝弘の話を伊藤はおかしそうに肩を揺らして聞いている。
「やってもろたんや。どうやるん?」
「目の前に立って、両手をこう広げて「はあああーーーーーっ」って感じに気をぶつけてくるというか」
実際には何も感じなかったが、気功師は大まじめな顔で頑張ってくれていた。
「へえ。治った?」
「残念ながら」
気功師からは「私の力が及ばず申し訳ない」と言われたが、最初から気功では治らないだろうと思っていたからべつに腹は立たなかった。でも一生懸命やってくれたしおもしろい体験だったし、紹介してくれた友人ともども礼を言っておいた。
「それで結局、歯はどうなったん?」
「次の日に、燕沙の歯医者に行って治療してもらいました」
燕沙友誼商場、通称ルフトハンザセンターにはドイツ人の歯科医がいるのだ。
「それならよかった。でもまじめな話、歯は大事にせなあかんで。ちょっと痛いと思たらはよ見てもらいや」
「はい。その歯医者にも定期検診に来るように言われました」
「うん。それがええで。海外におったら特に健康管理には気をつけなあかんよ。留学生はみんな若いから、そんなに気にせんやろうけど、僕くらいの歳になるとあちこちガタが来るで」
小太りの伊藤がため息をついたところに、店員が大皿を運んできた。
「串揚げ盛り合わせと照り焼きチキン、お待たせしましたー」
「ほら、食べて食べて」
「はい、いただきます」
次々と料理が運ばれてきて、しばらく世間話をしながら旺盛に食べた。質素な食生活を送っている貧乏留学生の孝弘に、駐在員たちは気前よくご馳走してくれる。
仕事場から近いこの店には、祐樹とも一緒に来たことがあった。
まだ忘れてないんだな。
あの時座ったのは、カウンター脇のテーブル席だった。
そんなことまで、覚えている。
祐樹はめずらしく日本酒を飲んでいて、孝弘は燕京ビールだった。
二人で揚げ出し豆腐や軟骨の唐揚げやもつ煮込みなんかを分け合って食べた。
孝弘はまだ祐樹への気持ちを自覚していなくて、ただ楽しい気分で中国ドラマや授業中の笑い話をしていた。祐樹はほろ酔いで、頬がうっすら染まってかわいかったと思ったことを思い出す。
「え、そうなんや。じゃあ上野くんも小さい頃から海外におったん?」
「いえ、赴任先がちょっと田舎だったらしくて。まだ俺が赤ん坊だったし、母が体が弱くて嫌がったので、父は単身赴任してました。だから俺は中国に留学したのが初めての海外だったんですけど、もし俺が選べるなら、連れて行って欲しかったと思いましたよ」
そうなっていたら、今とは色々状況が変わっていて、中国に留学はしていなかったかもしれない。
「そうなんや。まあお母さんの心配もわかるわ。医療体制が整っとらんと赤ちゃん連れて行くのはキツイやろうな」
「そうですよね。せめて幼稚園に行く年になってたらちがったんでしょうけど」
「小さい子はしょっちゅう熱出すし、言葉の通じん海外で子育ては不安やろ。うちは小学校に上がってたしクアラルンプールは大都会やったけど、それでも行く前は心配で色々調べたわ」
子供を連れて赴任する親はどこの国でも大変らしい。
「そう言えば、この前からちょっと歯が痛いなと思ってたんですけど、ご飯食べてたら詰め物が取れちゃって。その時中国人の友達が一緒にいたんですけど、いい気功師を紹介するって言われましたよ」
伊藤は笑い出す。
「それは気功では治らんやろ。紹介してもろたん?」
「はい。成り行きで」
すぐ近くに住んでいるからと酔っている友人に強引に連れて行かれてしまったのだ。
気功師のほうも突然やってきた外国人連れの友人に驚くことなく、親切に話を聞いて気功を処置してくれた。
孝弘の話を伊藤はおかしそうに肩を揺らして聞いている。
「やってもろたんや。どうやるん?」
「目の前に立って、両手をこう広げて「はあああーーーーーっ」って感じに気をぶつけてくるというか」
実際には何も感じなかったが、気功師は大まじめな顔で頑張ってくれていた。
「へえ。治った?」
「残念ながら」
気功師からは「私の力が及ばず申し訳ない」と言われたが、最初から気功では治らないだろうと思っていたからべつに腹は立たなかった。でも一生懸命やってくれたしおもしろい体験だったし、紹介してくれた友人ともども礼を言っておいた。
「それで結局、歯はどうなったん?」
「次の日に、燕沙の歯医者に行って治療してもらいました」
燕沙友誼商場、通称ルフトハンザセンターにはドイツ人の歯科医がいるのだ。
「それならよかった。でもまじめな話、歯は大事にせなあかんで。ちょっと痛いと思たらはよ見てもらいや」
「はい。その歯医者にも定期検診に来るように言われました」
「うん。それがええで。海外におったら特に健康管理には気をつけなあかんよ。留学生はみんな若いから、そんなに気にせんやろうけど、僕くらいの歳になるとあちこちガタが来るで」
小太りの伊藤がため息をついたところに、店員が大皿を運んできた。
「串揚げ盛り合わせと照り焼きチキン、お待たせしましたー」
「ほら、食べて食べて」
「はい、いただきます」
次々と料理が運ばれてきて、しばらく世間話をしながら旺盛に食べた。質素な食生活を送っている貧乏留学生の孝弘に、駐在員たちは気前よくご馳走してくれる。
仕事場から近いこの店には、祐樹とも一緒に来たことがあった。
まだ忘れてないんだな。
あの時座ったのは、カウンター脇のテーブル席だった。
そんなことまで、覚えている。
祐樹はめずらしく日本酒を飲んでいて、孝弘は燕京ビールだった。
二人で揚げ出し豆腐や軟骨の唐揚げやもつ煮込みなんかを分け合って食べた。
孝弘はまだ祐樹への気持ちを自覚していなくて、ただ楽しい気分で中国ドラマや授業中の笑い話をしていた。祐樹はほろ酔いで、頬がうっすら染まってかわいかったと思ったことを思い出す。
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