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商人と探偵の密談
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「ラ・ヴォワサン……ですか」
レディントン伯爵のお屋敷から飛び出した僕は、町中にあるハイド先生の家に直接尋ねた。
玄関先で大声をあげて開けてくれと叫んでいれば、ハイド先生は最初だけ驚いた様子を見せたけど、勝手に入ればよろしかったのにと言いつつ部屋にいれてくれた。
いつものように紅茶を飲むか聞かれたけれど、それを断って椅子に座るふりをする。
体重も何もないから本当に座ってるわけじゃないけど。
ハイド先生が紅茶を飲むのを見ながら、僕はついさっきの出来事と、僕の知っていることを全部話した。
それに返ってきたのが、今の言葉。
「そうだよ。たぶん、父さんからも先生に調査依頼入ってたはず」
「ええ、そうですねぇ。確か一ヶ月ほど前から王都城下で出回り初め、その出所の経由地にレディントン領も含まれていたとかで、身の潔白を証明するためにも調査を仰せつかっておりましたヨ」
「そのとおり。で、その調査の報告は」
「さっぱり不明。レディントン領は酪農が盛んではありませんので、王都にまでミルクは届きません。かといってレディントン領地にはそのミルクは出回っておりませんでした」
「そのラ・ヴォワサンの毒薬をレディントン伯爵のお抱え医師が持っていた……」
「ふむ、素晴らしいミステリーでございますねぇ」
ハイド先生が顎に手をやりながら視線を天井に向ける。
「例えば、レディントン伯爵の私財がお嬢様の薬のためではなく全く別のモノのために減り、哀れお嬢様をダシにミルワード家の財力を手に入れようとしている」
「やめてくれ。レディントン伯爵がそんなことをするもんか」
「三男坊、固定観念を崩して考えなくては探偵は務まりませんヨ?」
「僕は探偵じゃない。それにそんなことをするくらいなら、レディントン伯爵は薬じゃなくて金を寄越せと要求するだろう。今の今まで、伯爵は直接的なお金を要求したことはないけどね」
馬鹿げたことをいうハイド先生を睨み付ければ、彼は肩をすくめた。
それから首を傾けて頬杖をつくと、唇を尖らせてくる。
そんな顔しても、フローラじゃないから可愛くはないぞ。
「ならば医師が知らずに毒入りミルクを処方していたと?」
「それはない。『ラ・ヴォワサン』が出回り始めてから酪農系の商業ルート以外にも、薬関連のルートは全部抑えてある。医師が購入するものも、薬剤師が調合するものも、すべて通達済み」
「では?」
すねた表情のハイド先生が僕に先を促す。
僕は眉をしかめながら、可能性の一つを提示した。
「……ノーマン医師の独断じゃないかな。彼は、独自のルートで『ラ・ヴォワサンのマザーズミルク』を手に入れた」
「動機は?」
「それは……」
ハイド先生の指摘に口ごもってしまう。
そう、それが無い。
ノーマン医師がフローラに毒を盛る理由が分からない。
「誰かに頼まれたとか……?」
「では誰に?」
「伯爵を恨んだり、陥れたりしたい人とか」
「病弱な娘を持つ伯爵、その私財はほぼゼロ。あるのは伯爵位だけ。では誰がそんな貴族を狙うのです?」
「……」
そう……なんだよね。
レディントン伯爵に狙われるような要素はないはず。
もしそんな要素があればフローラとの婚約前に、ハイド先生にお願いした身辺調査で引っかかっている。
「今あるのは『ノーマン医師が毒入りミルクのラベルを付けた瓶を持っていた』という事実だけ。それが果たしてお姫様を弑す毒リンゴになりえるんでしょうかねぇ」
「……僕の思い過ごしだと言いたいのかい?」
半眼になってじろりと睨めば、ハイド先生がくすりと笑う。
「いいえぇ? それで、この謎を貴方はどうしたいのかと思いまして」
ハイド先生の目が妖しく光る。
この謎を僕がどうしたいか?
そんなの決まってる。
「フローラを助ける。彼女の病気がもし何かの毒が原因なら……それを止める」
「そのためには何が必要で?」
「……証拠だ。まずはノーマン医師が処方している薬が本当に薬なのかを確かめないと。それと動機」
「それを調べるのは誰が?」
ぐっ、そんな痛いところを突くなんて意地の悪い!
「……ハイド先生」
「残念ながら、私も多忙な身でございましてねぇ~? やって差し上げたいのはやまやまですが、こうも二つ三つも案件を抱えてしまってはねぇ?」
「父さんからも何かを請け負っているのか?」
「勿論。私はミルワード家のお抱え探偵ですから? お仕事をいただかないとお賃金もらえないんですヨ」
よよよ、と泣き真似をするハイド先生に僕は考える。
最優先事項はなんだ?
ハイド先生はミルワード家のお抱え探偵。
最優先するべきはミルワード家当主の父さんの命令だろう。
「……先生。今先生が父さんから受けている仕事は何?」
「それは秘密ですヨ。守秘義務は探偵の信用に関わりますので」
やっぱりそう簡単には教えてはくれないか……。
先生はのらりくらりとしていて緩そうに見えるけど、実はそうじゃない。
必要な情報は必要なだけ。
相手から抜き取り、自分は開示する。
商人である僕らとは違って、人に寄り添って話すからつい何でも話してしまうし、何でも教えてくれる気にもなるけど。
ハイド先生を手駒にするには一筋縄ではいかないことを、今、思い出した。
それなら、と僕は考える。
今父さんが抱えている案件で最優先事項はなんだ。
そしてハイド先生を動かすような案件とは。
僕は腕を組むと目をつむる。
暗闇の中で、情報を整理していく。
まず、大きな商売取引の話は出ていない。
出ていたら僕たち兄弟にも話が通るはず。
じゃあ何を調べさせる必要がある?
今までハイド先生が動いてきた事例はなんだっけ。
得意先の顧客情報。
個人取引での身辺調査。
不正取引の解明。
危ない取引における冤罪の証明。
「……そういえばラ・ヴォワサンのミルクの調査は終わったのか? 原因不明のまま父さんはこの件を据え置いているのかい?」
目を開けてまっすぐにハイド先生を見れば、ハイド先生はふふふと笑って目を細める。
「いいえぇ? ミルクの調査は今も続けておりますヨ。進展はなかなかありませんでしたが……」
それなら……!
「今回の件を詳しく調査できれば、父さんに上げる報告も増えると思わないか」
「物は言いようですねぇ? ですが調査するには私の体が足りておりません。今は三男坊の身体の管理もしておりますからねぇ?」
えっ、僕の身体の管理?
「そういえば僕の身体って」
「ちゃぁんと管理しておりますヨ? ミルワード家の氷室で」
「氷室!?」
なんでそんな所にいれられてるんだ!?
「ちょ、何故!? というか報告! 今の僕の身体どうなってるの!?」
「何故と言われてもねぇ。というかまるっと二日放置して伯爵家のお嬢様のお部屋に入り浸りだったのは三男坊じゃないですかぁ」
ぐっ……!
確かにフローラのことばっかりで自分のこと放置してたのは僕だけども!
「いいから報告! 今僕の身体どうなってるのさ!?」
「は~い。せかせかと忙しい幽霊さんですねぇ」
「幽霊いうな!」
笑い事じゃないからなその冗談!
深く息をつけば、ハイド先生がティーカップに口をつけて喉を潤した。
「三男坊の身体ですが。干からびたミイラになっては可哀想ですので、せめて見目良く保存できるようにとミルワード家の氷室にこっそりとですね」
「隠したのか!? そんなところに隠したのか!?」
「隠した……というのは冗談ですヨ」
じょ、冗談~~!?
「そういう笑えないのはやめてくれ」
「ふふふ。では真面目に」
スッとハイド先生の表情が変わる。
仕事の顔。
急に変わるこの温度差が、時々怖くなる。
「三男坊の身体は頭を強く打ったのか、後頭部に四針分の傷がございます。 他にも外傷がありましたが頭の傷に比べれば軽傷です。ただし意識不明の昏睡状態。幸運なことに、死んではおりません。心臓も正しく動いています。ーーただし、このままの状態が続けば衰弱死が目に見えていますね」
「……身体の場所は?」
「ミルワード家にある三男坊のお部屋でございますヨ。ご当主にはお話しして、世話係をつけさせております」
そっか……。
人間が食物も水も受けつけずに餓死するまで何日だっけ。
……そんなに長くは持たないだろう。
それが、僕が本当に死ぬまでのカウントダウンということか。
それまでに僕は、自分の身体に戻る手段を見つけなければ、僕が生き返る機会が本当になくなってしまうわけで。
「……ハイド先生」
「は~い」
それでも、僕は。
「僕の身体のことよりラ・ヴォワサンのことを突き止めてほしい」
「正気ですか?」
「正気だよ」
僕の言葉に、さすがの先生も驚いたのか目を丸くする。
「身体はどうするんです? 死にますよ?」
「……こんなんじゃ死んでるも同然だよ。それよりも僕はフローラを選ぶ。フローラが少しでも生きられる可能性を」
そう言って、ハイド先生に笑かける。
「『ラ・ヴォワサン』に辿り着いたら、僕はフローラを助けられるし、先生は父さんの仕事を一つ片付けられる。僕のことは後回しでいい」
「死ぬ気ですか?」
「僕が死ぬかどうかは後で考えよう。今やることはラ・ヴォワサンの出所を突き止めることと、ノーマン医師の真実を見極めること。僕は商人だ。これ以上無い一石二鳥は無いんじゃないかな?」
「三男坊……」
呆れるハイド先生に僕は困った顔になりながらも、駄目押しでお願いしてみる。
「契約変更だ。してくれる?」
ハイド先生は空中に視線を投げやると、うーんと考え出した。
まさか無理と断るわけないだろう。
ハイド先生も合理主義者だ。
だから一人の僕が死ぬよりも、甚大な被害が出るようなことの方が優先だって分かっているはず。
そしてミルワード家の利益になることだって。
「……変更は無しですヨ、三男坊」
「え」
嘘……だろう?
「どうしてだ? 今のままじゃ僕もハイド先生も出来ることなんて限られて……!」
「そうですねぇ。でも三男坊、私は言ったでしょう? 固定観念を崩しなさいと」
ハイド先生の言うことが分からなくて、僕は眉をしかめる。
その話が、今関係あるの?
「いったい何を言いたいのさ」
「商人ならば一石二鳥どころか、三鳥くらい撃ち取りましょうヨ」
一石三鳥を狙えって?
えっ、それってどういう……?
「幽霊になってしまった三男坊。ここは魔女さんに黒魔術の一つでも教えを請うてみませんか?」
……は?
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
レディントン伯爵のお屋敷から飛び出した僕は、町中にあるハイド先生の家に直接尋ねた。
玄関先で大声をあげて開けてくれと叫んでいれば、ハイド先生は最初だけ驚いた様子を見せたけど、勝手に入ればよろしかったのにと言いつつ部屋にいれてくれた。
いつものように紅茶を飲むか聞かれたけれど、それを断って椅子に座るふりをする。
体重も何もないから本当に座ってるわけじゃないけど。
ハイド先生が紅茶を飲むのを見ながら、僕はついさっきの出来事と、僕の知っていることを全部話した。
それに返ってきたのが、今の言葉。
「そうだよ。たぶん、父さんからも先生に調査依頼入ってたはず」
「ええ、そうですねぇ。確か一ヶ月ほど前から王都城下で出回り初め、その出所の経由地にレディントン領も含まれていたとかで、身の潔白を証明するためにも調査を仰せつかっておりましたヨ」
「そのとおり。で、その調査の報告は」
「さっぱり不明。レディントン領は酪農が盛んではありませんので、王都にまでミルクは届きません。かといってレディントン領地にはそのミルクは出回っておりませんでした」
「そのラ・ヴォワサンの毒薬をレディントン伯爵のお抱え医師が持っていた……」
「ふむ、素晴らしいミステリーでございますねぇ」
ハイド先生が顎に手をやりながら視線を天井に向ける。
「例えば、レディントン伯爵の私財がお嬢様の薬のためではなく全く別のモノのために減り、哀れお嬢様をダシにミルワード家の財力を手に入れようとしている」
「やめてくれ。レディントン伯爵がそんなことをするもんか」
「三男坊、固定観念を崩して考えなくては探偵は務まりませんヨ?」
「僕は探偵じゃない。それにそんなことをするくらいなら、レディントン伯爵は薬じゃなくて金を寄越せと要求するだろう。今の今まで、伯爵は直接的なお金を要求したことはないけどね」
馬鹿げたことをいうハイド先生を睨み付ければ、彼は肩をすくめた。
それから首を傾けて頬杖をつくと、唇を尖らせてくる。
そんな顔しても、フローラじゃないから可愛くはないぞ。
「ならば医師が知らずに毒入りミルクを処方していたと?」
「それはない。『ラ・ヴォワサン』が出回り始めてから酪農系の商業ルート以外にも、薬関連のルートは全部抑えてある。医師が購入するものも、薬剤師が調合するものも、すべて通達済み」
「では?」
すねた表情のハイド先生が僕に先を促す。
僕は眉をしかめながら、可能性の一つを提示した。
「……ノーマン医師の独断じゃないかな。彼は、独自のルートで『ラ・ヴォワサンのマザーズミルク』を手に入れた」
「動機は?」
「それは……」
ハイド先生の指摘に口ごもってしまう。
そう、それが無い。
ノーマン医師がフローラに毒を盛る理由が分からない。
「誰かに頼まれたとか……?」
「では誰に?」
「伯爵を恨んだり、陥れたりしたい人とか」
「病弱な娘を持つ伯爵、その私財はほぼゼロ。あるのは伯爵位だけ。では誰がそんな貴族を狙うのです?」
「……」
そう……なんだよね。
レディントン伯爵に狙われるような要素はないはず。
もしそんな要素があればフローラとの婚約前に、ハイド先生にお願いした身辺調査で引っかかっている。
「今あるのは『ノーマン医師が毒入りミルクのラベルを付けた瓶を持っていた』という事実だけ。それが果たしてお姫様を弑す毒リンゴになりえるんでしょうかねぇ」
「……僕の思い過ごしだと言いたいのかい?」
半眼になってじろりと睨めば、ハイド先生がくすりと笑う。
「いいえぇ? それで、この謎を貴方はどうしたいのかと思いまして」
ハイド先生の目が妖しく光る。
この謎を僕がどうしたいか?
そんなの決まってる。
「フローラを助ける。彼女の病気がもし何かの毒が原因なら……それを止める」
「そのためには何が必要で?」
「……証拠だ。まずはノーマン医師が処方している薬が本当に薬なのかを確かめないと。それと動機」
「それを調べるのは誰が?」
ぐっ、そんな痛いところを突くなんて意地の悪い!
「……ハイド先生」
「残念ながら、私も多忙な身でございましてねぇ~? やって差し上げたいのはやまやまですが、こうも二つ三つも案件を抱えてしまってはねぇ?」
「父さんからも何かを請け負っているのか?」
「勿論。私はミルワード家のお抱え探偵ですから? お仕事をいただかないとお賃金もらえないんですヨ」
よよよ、と泣き真似をするハイド先生に僕は考える。
最優先事項はなんだ?
ハイド先生はミルワード家のお抱え探偵。
最優先するべきはミルワード家当主の父さんの命令だろう。
「……先生。今先生が父さんから受けている仕事は何?」
「それは秘密ですヨ。守秘義務は探偵の信用に関わりますので」
やっぱりそう簡単には教えてはくれないか……。
先生はのらりくらりとしていて緩そうに見えるけど、実はそうじゃない。
必要な情報は必要なだけ。
相手から抜き取り、自分は開示する。
商人である僕らとは違って、人に寄り添って話すからつい何でも話してしまうし、何でも教えてくれる気にもなるけど。
ハイド先生を手駒にするには一筋縄ではいかないことを、今、思い出した。
それなら、と僕は考える。
今父さんが抱えている案件で最優先事項はなんだ。
そしてハイド先生を動かすような案件とは。
僕は腕を組むと目をつむる。
暗闇の中で、情報を整理していく。
まず、大きな商売取引の話は出ていない。
出ていたら僕たち兄弟にも話が通るはず。
じゃあ何を調べさせる必要がある?
今までハイド先生が動いてきた事例はなんだっけ。
得意先の顧客情報。
個人取引での身辺調査。
不正取引の解明。
危ない取引における冤罪の証明。
「……そういえばラ・ヴォワサンのミルクの調査は終わったのか? 原因不明のまま父さんはこの件を据え置いているのかい?」
目を開けてまっすぐにハイド先生を見れば、ハイド先生はふふふと笑って目を細める。
「いいえぇ? ミルクの調査は今も続けておりますヨ。進展はなかなかありませんでしたが……」
それなら……!
「今回の件を詳しく調査できれば、父さんに上げる報告も増えると思わないか」
「物は言いようですねぇ? ですが調査するには私の体が足りておりません。今は三男坊の身体の管理もしておりますからねぇ?」
えっ、僕の身体の管理?
「そういえば僕の身体って」
「ちゃぁんと管理しておりますヨ? ミルワード家の氷室で」
「氷室!?」
なんでそんな所にいれられてるんだ!?
「ちょ、何故!? というか報告! 今の僕の身体どうなってるの!?」
「何故と言われてもねぇ。というかまるっと二日放置して伯爵家のお嬢様のお部屋に入り浸りだったのは三男坊じゃないですかぁ」
ぐっ……!
確かにフローラのことばっかりで自分のこと放置してたのは僕だけども!
「いいから報告! 今僕の身体どうなってるのさ!?」
「は~い。せかせかと忙しい幽霊さんですねぇ」
「幽霊いうな!」
笑い事じゃないからなその冗談!
深く息をつけば、ハイド先生がティーカップに口をつけて喉を潤した。
「三男坊の身体ですが。干からびたミイラになっては可哀想ですので、せめて見目良く保存できるようにとミルワード家の氷室にこっそりとですね」
「隠したのか!? そんなところに隠したのか!?」
「隠した……というのは冗談ですヨ」
じょ、冗談~~!?
「そういう笑えないのはやめてくれ」
「ふふふ。では真面目に」
スッとハイド先生の表情が変わる。
仕事の顔。
急に変わるこの温度差が、時々怖くなる。
「三男坊の身体は頭を強く打ったのか、後頭部に四針分の傷がございます。 他にも外傷がありましたが頭の傷に比べれば軽傷です。ただし意識不明の昏睡状態。幸運なことに、死んではおりません。心臓も正しく動いています。ーーただし、このままの状態が続けば衰弱死が目に見えていますね」
「……身体の場所は?」
「ミルワード家にある三男坊のお部屋でございますヨ。ご当主にはお話しして、世話係をつけさせております」
そっか……。
人間が食物も水も受けつけずに餓死するまで何日だっけ。
……そんなに長くは持たないだろう。
それが、僕が本当に死ぬまでのカウントダウンということか。
それまでに僕は、自分の身体に戻る手段を見つけなければ、僕が生き返る機会が本当になくなってしまうわけで。
「……ハイド先生」
「は~い」
それでも、僕は。
「僕の身体のことよりラ・ヴォワサンのことを突き止めてほしい」
「正気ですか?」
「正気だよ」
僕の言葉に、さすがの先生も驚いたのか目を丸くする。
「身体はどうするんです? 死にますよ?」
「……こんなんじゃ死んでるも同然だよ。それよりも僕はフローラを選ぶ。フローラが少しでも生きられる可能性を」
そう言って、ハイド先生に笑かける。
「『ラ・ヴォワサン』に辿り着いたら、僕はフローラを助けられるし、先生は父さんの仕事を一つ片付けられる。僕のことは後回しでいい」
「死ぬ気ですか?」
「僕が死ぬかどうかは後で考えよう。今やることはラ・ヴォワサンの出所を突き止めることと、ノーマン医師の真実を見極めること。僕は商人だ。これ以上無い一石二鳥は無いんじゃないかな?」
「三男坊……」
呆れるハイド先生に僕は困った顔になりながらも、駄目押しでお願いしてみる。
「契約変更だ。してくれる?」
ハイド先生は空中に視線を投げやると、うーんと考え出した。
まさか無理と断るわけないだろう。
ハイド先生も合理主義者だ。
だから一人の僕が死ぬよりも、甚大な被害が出るようなことの方が優先だって分かっているはず。
そしてミルワード家の利益になることだって。
「……変更は無しですヨ、三男坊」
「え」
嘘……だろう?
「どうしてだ? 今のままじゃ僕もハイド先生も出来ることなんて限られて……!」
「そうですねぇ。でも三男坊、私は言ったでしょう? 固定観念を崩しなさいと」
ハイド先生の言うことが分からなくて、僕は眉をしかめる。
その話が、今関係あるの?
「いったい何を言いたいのさ」
「商人ならば一石二鳥どころか、三鳥くらい撃ち取りましょうヨ」
一石三鳥を狙えって?
えっ、それってどういう……?
「幽霊になってしまった三男坊。ここは魔女さんに黒魔術の一つでも教えを請うてみませんか?」
……は?
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
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