12 / 70
前章 大雨。後に豪雨
第11話 愛と憎悪をふたつやみっつ
しおりを挟む
「――――うぉぉあぁ!!??」
机と椅子を押しのけながら腰を抜かす。
「ハァハァ……!?」
さっきの景色。それから現れたあの言葉。景色は幻。もしくは夢のような何かだと仮定することはできる。
だが言葉。あの言葉だけは現実のものとしか思えなかった。隣で囁かれたというよりも、真正面から面と向かって言われた、としか思えなかった。
「今のは……一体……?」
困惑の色を隠せない八重。だがしかし。異常に晒されていたのは八重だけではなかった。
――数分前。弦之介は八重に言われた通り、風呂場の方へと来ていた。
「うげっ、汚ぇ」
予想通り、それ以上の汚さであった。やはり水周りは放置すると臭くなる。
床はボロボロ。ネズミや猫の糞が土のように散らばっている。一瞬だけ『外』と勘違いするほどにだ。
そんな状態ならば浴槽などは言うまでもなく……汚い。良く言えばエメラルドグリーン色。悪く言えばドブ川だ。しかも工場近くの温かさを感じる特別汚い川の水。
「あーヤダヤダ。ここから出たら八重に文句言ってやる。……いやダメだ。金を貸してもらってるから文句が言えねぇ」
ここには何もない。八重と合流しようと振り向く直前――少し違和感のある物が視界に入った。
鏡だ。割れた鏡。不良にでもやられたか。風化したのか。野生動物に壊されたのか。どれにせよただの鏡である。
割れて無数に散らばった鏡の破片は全て弦之介を写している。まぁ当たり前だ。当たり前なのだが――そのうちの一つ。
一つだけ微かに黒かった。傷や汚れじゃない。鏡に反射した弦之介の後方が黒かったのだ。他の破片は別に黒くない。それだけが黒いのだ。
「…………」
ゆっくりと振り向く――何もいない。何もない。確かに薄暗いが、違和感を感じるほどじゃない。
また鏡を見る――黒みが増していた。いや、黒いだけじゃない。いるのだ。弦之介の後ろに黒い女が――。
「はっ――――!?」
振り向く。……何もいない。何もいないのは変わらない。だがその目で確実に見ている。
また鏡――やはりいる。女がいる。セミロングでワンピースを着ている女が。
「ひいっ……!?」
女の顔はよく見えない。だが動きだけは小さい破片の反射でもよく見えた。
細い腕がゆっくりと弦之介の首元へと伸びていく。枝木のように細い腕。病的なほどに白い肌。長く伸びた爪は手入れされてるようには見えない。
鏡に映る女の手は弦之介の首を強く掴んだ。思い込みか、本当に掴まれているのか。
「こひゅ――――」
動いた。走った。鏡に背を向けて走った。場所は八重のいるキッチン。さっきまでの運動音痴な姿とは思えないほど速く。必死に。
「――八重!!」
ちょうど意識を取り戻して困惑していた八重に叫ぶ。
「ここはやべぇ!!早く出ようぜ!!」
「お、おう……」
弦之介の異様な震え方に何かを察した八重は言われるがまま外へと脱出した。
「――やべぇよ!!ここやべぇよ!!」
過呼吸気味に肩で息を吸いながらも叫ぶ弦之介。
「確かにヤバいな」
「な、なんかよ、割れた鏡のひとつに女が映ってよ、その女が俺の首を締めてきて……」
「……女、か」
――八重はこの前の夢のことを思い出した。時雨が『殺した』と言っていた女のことを。
「その女。髪が短くてワンピースを着てたりしなかったか?」
「そ、そうだ。まんまお前の言う通りだよ」
「同じ……か」
「何か知ってんのか?」
八重の夢に出てきた女と弦之介が見た女はおそらく同一人物だ。やはりおかしい。時雨の過去に何かがある。そしてその何かに八重や弦之介が見た『女』が関わっている。
「俺が見た夢に出てきた女も同じ特徴だ。おそらく……同じ奴」
「夢に出てきたって……じゃあなんだ?幽霊でも出てきたってのか?」
「そう考えるのが妥当だろうな」
「幽霊なんか存在するわけないだろ?科学的に考えて」
「お前の口から『科学的』なんて頭のいい言葉が出るとは思わなかったぞ」
八重は汗を拭いながら立ち上がった。
「俺もお前も。女は見たんだ。それは事実なんだろ?運動不足の男が必死に走ってきたってことはな」
「それはそうだけどよ……」
「――俄然、興味が湧いてきた」
ニヤリと笑う。
机と椅子を押しのけながら腰を抜かす。
「ハァハァ……!?」
さっきの景色。それから現れたあの言葉。景色は幻。もしくは夢のような何かだと仮定することはできる。
だが言葉。あの言葉だけは現実のものとしか思えなかった。隣で囁かれたというよりも、真正面から面と向かって言われた、としか思えなかった。
「今のは……一体……?」
困惑の色を隠せない八重。だがしかし。異常に晒されていたのは八重だけではなかった。
――数分前。弦之介は八重に言われた通り、風呂場の方へと来ていた。
「うげっ、汚ぇ」
予想通り、それ以上の汚さであった。やはり水周りは放置すると臭くなる。
床はボロボロ。ネズミや猫の糞が土のように散らばっている。一瞬だけ『外』と勘違いするほどにだ。
そんな状態ならば浴槽などは言うまでもなく……汚い。良く言えばエメラルドグリーン色。悪く言えばドブ川だ。しかも工場近くの温かさを感じる特別汚い川の水。
「あーヤダヤダ。ここから出たら八重に文句言ってやる。……いやダメだ。金を貸してもらってるから文句が言えねぇ」
ここには何もない。八重と合流しようと振り向く直前――少し違和感のある物が視界に入った。
鏡だ。割れた鏡。不良にでもやられたか。風化したのか。野生動物に壊されたのか。どれにせよただの鏡である。
割れて無数に散らばった鏡の破片は全て弦之介を写している。まぁ当たり前だ。当たり前なのだが――そのうちの一つ。
一つだけ微かに黒かった。傷や汚れじゃない。鏡に反射した弦之介の後方が黒かったのだ。他の破片は別に黒くない。それだけが黒いのだ。
「…………」
ゆっくりと振り向く――何もいない。何もない。確かに薄暗いが、違和感を感じるほどじゃない。
また鏡を見る――黒みが増していた。いや、黒いだけじゃない。いるのだ。弦之介の後ろに黒い女が――。
「はっ――――!?」
振り向く。……何もいない。何もいないのは変わらない。だがその目で確実に見ている。
また鏡――やはりいる。女がいる。セミロングでワンピースを着ている女が。
「ひいっ……!?」
女の顔はよく見えない。だが動きだけは小さい破片の反射でもよく見えた。
細い腕がゆっくりと弦之介の首元へと伸びていく。枝木のように細い腕。病的なほどに白い肌。長く伸びた爪は手入れされてるようには見えない。
鏡に映る女の手は弦之介の首を強く掴んだ。思い込みか、本当に掴まれているのか。
「こひゅ――――」
動いた。走った。鏡に背を向けて走った。場所は八重のいるキッチン。さっきまでの運動音痴な姿とは思えないほど速く。必死に。
「――八重!!」
ちょうど意識を取り戻して困惑していた八重に叫ぶ。
「ここはやべぇ!!早く出ようぜ!!」
「お、おう……」
弦之介の異様な震え方に何かを察した八重は言われるがまま外へと脱出した。
「――やべぇよ!!ここやべぇよ!!」
過呼吸気味に肩で息を吸いながらも叫ぶ弦之介。
「確かにヤバいな」
「な、なんかよ、割れた鏡のひとつに女が映ってよ、その女が俺の首を締めてきて……」
「……女、か」
――八重はこの前の夢のことを思い出した。時雨が『殺した』と言っていた女のことを。
「その女。髪が短くてワンピースを着てたりしなかったか?」
「そ、そうだ。まんまお前の言う通りだよ」
「同じ……か」
「何か知ってんのか?」
八重の夢に出てきた女と弦之介が見た女はおそらく同一人物だ。やはりおかしい。時雨の過去に何かがある。そしてその何かに八重や弦之介が見た『女』が関わっている。
「俺が見た夢に出てきた女も同じ特徴だ。おそらく……同じ奴」
「夢に出てきたって……じゃあなんだ?幽霊でも出てきたってのか?」
「そう考えるのが妥当だろうな」
「幽霊なんか存在するわけないだろ?科学的に考えて」
「お前の口から『科学的』なんて頭のいい言葉が出るとは思わなかったぞ」
八重は汗を拭いながら立ち上がった。
「俺もお前も。女は見たんだ。それは事実なんだろ?運動不足の男が必死に走ってきたってことはな」
「それはそうだけどよ……」
「――俄然、興味が湧いてきた」
ニヤリと笑う。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる