29 / 70
中章 雨は止むことを知らず
第28話 何事にも希望はある
しおりを挟む
そんなことを話している内に居間へとたどり着いた。簡素なテーブル。座布団。まるでお爺ちゃんの家だ。
「ここでお待ちください。準備が終わったら来ますので」
「は、はい」
貴大が歩いていった後、八重はすぐに時雨を寝かせた。座布団を折って枕のようにする。少しは寝やすくなるだろう。
……足の方をチラリと見る。テーピングから漏れた膿。あまりにも痛々しい姿に目を逸らした。
「……どんな夢を見てんだろうね」
光が時雨の頬を撫でながら話す。
「案外普通の夢だったりして」
「はは。俺らは変な夢ばっかり見るのに。なんだかずるいな」
普通の会話――のように思える。だが2人、いや4人とも疲れきっていた。
「これからどうなるんだろうな」
「さぁ……また海月の時みたいにならなかったらいいが」
「そうだな……」
壁にもたれかかる。――その時、窓の外に傘を指した老婆がいるのが見えた。
「どうもどうも朱美さん。突然すみませんねぇ」
「……祭松さん。何を入れたんだい?」
老婆の名前は朱美。どうやら祭松と顔見知りらしい。朱美は本堂の方で祭松と話を始めた。
「さぁねぇ。友人の方は『何もしてない』って言ってたけど」
「馬鹿言うでないよ。外の方まで漏れてたぞ」
「確かに強大ですね――だから貴女を呼んだんです」
朱美は『フッ』と古い刑事ドラマの主人公みたいに笑った。
「龍宮の坊やは?」
「既に呼んでます」
「鮫島と松明はどうだ。あの二人は最近見てないが」
「しばらく山篭りしてたらしいです。ちゃんと呼んでますから」
「ま、祭松さん直々に呼んでるならな」
羽織っていた服を放り投げる。
「貴大は使えるのか?」
「私の息子ですよ?」
「――いいね」
――ちょうど話題が出たタイミングで貴大が本堂へと入ってきた。
「来てたんですか朱美さん」
「久しぶりだな貴大。お前……図体ばっかでかくなりやがってよ」
拳で貴大を小突く。
「さて――他の奴らが来る前に用意を終わらせておくぞ。祭松さんは触媒を。貴大は力仕事を手伝え」
「はい」
「任せてください」
「気張れやお前ら。今回は激しい戦いになるぞ……!!」
空は暗く。太陽と同じように月は雲に隠れている。雨はまだ止まない。それどころか勢いを増すばかりであった。
土砂降りの空を眺めながら八重はぼーっとしていた。会話をするでもなく。スマホを見るでもなく。暇を潰すこともしない。
それは他の3人にも言えること。光は机に突っ伏して木目を数えている。弦之介は寝っ転がって天井を眺めている。石蕗は片膝を立てて座っている。
時雨は全く起きる気配がない。もしかしたらこのまま起きない方が幸せなのかも――そんなことを思い始めていた。
(……お前のせい、か)
言葉を思い出した。あの言葉は3人の誰かが言ったのじゃない。おそらくは幽霊の――雨宮祐希が言った言葉だ。
自分に向けられた言葉か。時雨に向けられた言葉か。考えても分からな――。
「――――――あれ?」
――――ふと疑問ができた。
「どうした?」
「……光。お前は幽霊と話したんだよな?」
「え……うん」
「その時に『時雨に殺された』とか言ってたらしいな?」
「うん……」
「――おかしくないか?」
3人とも八重の方へ顔を向ける。
「だって……雨宮祐希は時雨が産まれる前に死んだんだぞ?なんで殺されるんだ?」
「死んだ?え?どういうこと?」
「あ、そういえば言ってなかったな。その雨宮祐希って女が時雨の父親をストーカーしていたのは言ったよな?」
「うん」
「実はその女はその後に自殺したらしいんだ」
「……自殺?」
「おかしいだろ?時雨が産まれてからならまだ幾分か納得できる。だが時雨が産まれる前だぞ?なんで時雨が殺すんだ?」
弦之介と石蕗は『確かに』という顔をしていた。むしろ今まで気が付かなかった方がおかしいというくらいに。
「間接的に……とかですかね」
「どういうことですか?」
「女は好きな人に子供が産まれるから――つまり時雨ちゃんが産まれるからショックで自殺した。だから『お前が私を殺した』とか」
「んな馬鹿な。いくら異常者でもそんなこと」
「ないとは言いきれないですけど……お坊さんは『末代まで呪うほどの強大な恨み』と言っていました。たかが現代人の1人がそんな強い呪いを残せますかね?」
「まぁそうですよね」
八重は時雨の顔を覗いた。とても安らかな寝顔。まるで死んでいるかのような――八重が思いついた。
「もしかして――違うのか」
「違うって?」
「俺は幽霊が雨宮祐希って思い込んでいたけど……もしかしたら違うんじゃないか」
「でも幽霊は明らかに雨宮祐希だったぞ?」
「確か女が自殺した時、なんか魔法陣のようなものを描いていたって言ってただろ?もしかしたらなにかを呼び出したとか」
「……ありえなくは無いですね」
石蕗はそう言った。むしろそう言うしかなかった。今まで言った話は全てが推測。確定したものじゃない。
だけど――光の表情はどこか嬉しそうだった。時雨は何も悪くない。そんな希望が出てきたからだった。
「ここでお待ちください。準備が終わったら来ますので」
「は、はい」
貴大が歩いていった後、八重はすぐに時雨を寝かせた。座布団を折って枕のようにする。少しは寝やすくなるだろう。
……足の方をチラリと見る。テーピングから漏れた膿。あまりにも痛々しい姿に目を逸らした。
「……どんな夢を見てんだろうね」
光が時雨の頬を撫でながら話す。
「案外普通の夢だったりして」
「はは。俺らは変な夢ばっかり見るのに。なんだかずるいな」
普通の会話――のように思える。だが2人、いや4人とも疲れきっていた。
「これからどうなるんだろうな」
「さぁ……また海月の時みたいにならなかったらいいが」
「そうだな……」
壁にもたれかかる。――その時、窓の外に傘を指した老婆がいるのが見えた。
「どうもどうも朱美さん。突然すみませんねぇ」
「……祭松さん。何を入れたんだい?」
老婆の名前は朱美。どうやら祭松と顔見知りらしい。朱美は本堂の方で祭松と話を始めた。
「さぁねぇ。友人の方は『何もしてない』って言ってたけど」
「馬鹿言うでないよ。外の方まで漏れてたぞ」
「確かに強大ですね――だから貴女を呼んだんです」
朱美は『フッ』と古い刑事ドラマの主人公みたいに笑った。
「龍宮の坊やは?」
「既に呼んでます」
「鮫島と松明はどうだ。あの二人は最近見てないが」
「しばらく山篭りしてたらしいです。ちゃんと呼んでますから」
「ま、祭松さん直々に呼んでるならな」
羽織っていた服を放り投げる。
「貴大は使えるのか?」
「私の息子ですよ?」
「――いいね」
――ちょうど話題が出たタイミングで貴大が本堂へと入ってきた。
「来てたんですか朱美さん」
「久しぶりだな貴大。お前……図体ばっかでかくなりやがってよ」
拳で貴大を小突く。
「さて――他の奴らが来る前に用意を終わらせておくぞ。祭松さんは触媒を。貴大は力仕事を手伝え」
「はい」
「任せてください」
「気張れやお前ら。今回は激しい戦いになるぞ……!!」
空は暗く。太陽と同じように月は雲に隠れている。雨はまだ止まない。それどころか勢いを増すばかりであった。
土砂降りの空を眺めながら八重はぼーっとしていた。会話をするでもなく。スマホを見るでもなく。暇を潰すこともしない。
それは他の3人にも言えること。光は机に突っ伏して木目を数えている。弦之介は寝っ転がって天井を眺めている。石蕗は片膝を立てて座っている。
時雨は全く起きる気配がない。もしかしたらこのまま起きない方が幸せなのかも――そんなことを思い始めていた。
(……お前のせい、か)
言葉を思い出した。あの言葉は3人の誰かが言ったのじゃない。おそらくは幽霊の――雨宮祐希が言った言葉だ。
自分に向けられた言葉か。時雨に向けられた言葉か。考えても分からな――。
「――――――あれ?」
――――ふと疑問ができた。
「どうした?」
「……光。お前は幽霊と話したんだよな?」
「え……うん」
「その時に『時雨に殺された』とか言ってたらしいな?」
「うん……」
「――おかしくないか?」
3人とも八重の方へ顔を向ける。
「だって……雨宮祐希は時雨が産まれる前に死んだんだぞ?なんで殺されるんだ?」
「死んだ?え?どういうこと?」
「あ、そういえば言ってなかったな。その雨宮祐希って女が時雨の父親をストーカーしていたのは言ったよな?」
「うん」
「実はその女はその後に自殺したらしいんだ」
「……自殺?」
「おかしいだろ?時雨が産まれてからならまだ幾分か納得できる。だが時雨が産まれる前だぞ?なんで時雨が殺すんだ?」
弦之介と石蕗は『確かに』という顔をしていた。むしろ今まで気が付かなかった方がおかしいというくらいに。
「間接的に……とかですかね」
「どういうことですか?」
「女は好きな人に子供が産まれるから――つまり時雨ちゃんが産まれるからショックで自殺した。だから『お前が私を殺した』とか」
「んな馬鹿な。いくら異常者でもそんなこと」
「ないとは言いきれないですけど……お坊さんは『末代まで呪うほどの強大な恨み』と言っていました。たかが現代人の1人がそんな強い呪いを残せますかね?」
「まぁそうですよね」
八重は時雨の顔を覗いた。とても安らかな寝顔。まるで死んでいるかのような――八重が思いついた。
「もしかして――違うのか」
「違うって?」
「俺は幽霊が雨宮祐希って思い込んでいたけど……もしかしたら違うんじゃないか」
「でも幽霊は明らかに雨宮祐希だったぞ?」
「確か女が自殺した時、なんか魔法陣のようなものを描いていたって言ってただろ?もしかしたらなにかを呼び出したとか」
「……ありえなくは無いですね」
石蕗はそう言った。むしろそう言うしかなかった。今まで言った話は全てが推測。確定したものじゃない。
だけど――光の表情はどこか嬉しそうだった。時雨は何も悪くない。そんな希望が出てきたからだった。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる