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第1章
16.人柄の良さと王族
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夕方。東の門にリアは向かう。
「…多分、ほとんどいないだろうな。」ついぼやいてしまう。
リアが話した時、カイラ以外の兵士は、あまりいい顔をしていなかった。迷いもあるだろうが、ほとんどが不安そうな顔をしていた。
「あの顔はきっと…」
「強制的に連れて行かされる、そう思ったんでしょうね。」ヒナが言う。リアはそれに同意するようにうなづいた。
「まあ、そもそも大人数でいくつもりは元よりなかった。カイラが来てくれるなら十分だ。どうせギルドの人たちも来てくれるしな。」
強制すれば大体だって動かせるだろう。リアはそう命令できるだけの権限を王より充てられている。しかし、それをリアは否定した。
「来る、来ないは自由にしたい。本当にこの開拓に意味を感じている人たちで開拓していかないといけない。信頼こそ最大の武器になりえるし、その弱さは最大の弱点ともなりえる。」
東門の前にたどり着く。この先に何人の兵士がいるのか。そもそもいるのか?
「カイラはいるはずです。」ヒナが言う。シャリスもうんうんとうなづく。
「あの人と私は初対面だけど、すごくいい人のような気がしたわ。きっといるはず!」
二人ともリアをはげましているようだ。まるで、この先にはカイラ以外はいないと言っているような気がして、リアは余計心が重くなった。
「その時はその時、か。開けるぞ!」
リアは扉を開けた。そこには信じられない光景があった。
「お、リア様!待ってましたよ!」カイラが嬉しそうに言う。その周りにいる兵士たちも一気に盛り上がる。
「…まさか…!こんな…」
リアの目の前に広がるのは、東門前の大きな広場。そこにきれいに整列した、第8中隊の兵士たちだった。
カイラがリアの前で膝をついて敬礼する。
「リア様。大変申し訳ありません。全員は来ることはありませんでした。しかし、多くの者がリア様についていきたいと言ったのであります。第8中隊から志願者60名、エレンディア開拓の一助となれば幸いです!」
第8中隊は全部で80強。20名は来なかったとはいえ、60人の兵士がリアに賛同してくれたのだ。ヒナもシャリスも驚いて目を見開いていた。
敬礼する兵士たちの前でいい意味で茫然としていたリアは気を取り直し、声をかけた。
「ありがとう、みんな。その決断に王族を代表して礼を言う。これから、よろしく頼む。」
「「「ははっ!」」」
+++++
その夜、リアは、自室にヒナ、シャリス、そしてカイラを呼んだ。カイラは王城の内部、それも王族の部屋に入ることなど初めてであり、かちこちに固まっていた。
「緊張しなくても、ただの部屋だぞ?」
「いえ、しかし…」
「いいからいいから!」ヒナがカイラを押して部屋に入る。
扉を閉めると、リアは全員の方を見て言った。
「今日はみんなありがとう。そしてカイラ、これからよろしく頼む。」
「そのお言葉をいただけるだけで十分でございます。それに、今回の件は、リア様の人柄がなした結果でございますし、私は何もしておりません。」
カイラは話し始めた。あの後の兵士たちの雰囲気を。
兵士たちは当初、リアの予想通り、本当に強制参加させられると思っていたようだ。カイラもそのつもりで手を上げなかったらしい。
しかし、リアは兵士に対し、『希望者が、どんな思惑があっても参加したい者が参加してほしい』と伝えた。立場の差はあれど、同志のように声をかけたリアへの気持ちの表れが今回の人数だそうだ。
「兵士にとって、エレニア王族の方々は、指示系統の中枢。駒のように扱われるのが通常です。むしろそうあるべき時もあるでしょうが、兵士にとって畏怖を抱く存在です。そんな立場のリア様から、一緒に開拓する仲間が欲しいなどとお優しい言葉を言われれば、共にやっていきたいと思う者も多いはずなのです。」
「そんな大したことは言っていないが…。」リアはそこまで言ってあることに気づく。軍部で指示系統となっているのは、国王、レオン、新参者のゲルムだ。全員愛想がいいとは言えず、兵士を本当に駒と思っているような人間だと推測する。その指導者の下にいる上官も、きっと同じような考えなのだろう。上司が黒と言えば、白も黒。そんな環境でリアの言った言葉は優しく感じられたのだろう。
「そうか…。とにかくうまくいって本当に良かった。」
「で、これから何するのよ。私もう寝る時間なんですけど。」シャリスが眠そうにぼやく。感謝しあう空気感が一気に崩れていく。つい4人とも笑ってしまった。
「…ああ。今日は早く終えるさ。明日はギルドに挨拶をして、出発の計画を立てる。じっくり準備するつもりはないから、俺からは来週には出発するつもりだと伝えるが、それにあたって、組織の立ち位置を確定させておきたい。」
リアはそう言って、1冊のノートを出した。
「その前に、ここにいるみんなには、俺しか持っていない情報を見せようと思う。」
「…多分、ほとんどいないだろうな。」ついぼやいてしまう。
リアが話した時、カイラ以外の兵士は、あまりいい顔をしていなかった。迷いもあるだろうが、ほとんどが不安そうな顔をしていた。
「あの顔はきっと…」
「強制的に連れて行かされる、そう思ったんでしょうね。」ヒナが言う。リアはそれに同意するようにうなづいた。
「まあ、そもそも大人数でいくつもりは元よりなかった。カイラが来てくれるなら十分だ。どうせギルドの人たちも来てくれるしな。」
強制すれば大体だって動かせるだろう。リアはそう命令できるだけの権限を王より充てられている。しかし、それをリアは否定した。
「来る、来ないは自由にしたい。本当にこの開拓に意味を感じている人たちで開拓していかないといけない。信頼こそ最大の武器になりえるし、その弱さは最大の弱点ともなりえる。」
東門の前にたどり着く。この先に何人の兵士がいるのか。そもそもいるのか?
「カイラはいるはずです。」ヒナが言う。シャリスもうんうんとうなづく。
「あの人と私は初対面だけど、すごくいい人のような気がしたわ。きっといるはず!」
二人ともリアをはげましているようだ。まるで、この先にはカイラ以外はいないと言っているような気がして、リアは余計心が重くなった。
「その時はその時、か。開けるぞ!」
リアは扉を開けた。そこには信じられない光景があった。
「お、リア様!待ってましたよ!」カイラが嬉しそうに言う。その周りにいる兵士たちも一気に盛り上がる。
「…まさか…!こんな…」
リアの目の前に広がるのは、東門前の大きな広場。そこにきれいに整列した、第8中隊の兵士たちだった。
カイラがリアの前で膝をついて敬礼する。
「リア様。大変申し訳ありません。全員は来ることはありませんでした。しかし、多くの者がリア様についていきたいと言ったのであります。第8中隊から志願者60名、エレンディア開拓の一助となれば幸いです!」
第8中隊は全部で80強。20名は来なかったとはいえ、60人の兵士がリアに賛同してくれたのだ。ヒナもシャリスも驚いて目を見開いていた。
敬礼する兵士たちの前でいい意味で茫然としていたリアは気を取り直し、声をかけた。
「ありがとう、みんな。その決断に王族を代表して礼を言う。これから、よろしく頼む。」
「「「ははっ!」」」
+++++
その夜、リアは、自室にヒナ、シャリス、そしてカイラを呼んだ。カイラは王城の内部、それも王族の部屋に入ることなど初めてであり、かちこちに固まっていた。
「緊張しなくても、ただの部屋だぞ?」
「いえ、しかし…」
「いいからいいから!」ヒナがカイラを押して部屋に入る。
扉を閉めると、リアは全員の方を見て言った。
「今日はみんなありがとう。そしてカイラ、これからよろしく頼む。」
「そのお言葉をいただけるだけで十分でございます。それに、今回の件は、リア様の人柄がなした結果でございますし、私は何もしておりません。」
カイラは話し始めた。あの後の兵士たちの雰囲気を。
兵士たちは当初、リアの予想通り、本当に強制参加させられると思っていたようだ。カイラもそのつもりで手を上げなかったらしい。
しかし、リアは兵士に対し、『希望者が、どんな思惑があっても参加したい者が参加してほしい』と伝えた。立場の差はあれど、同志のように声をかけたリアへの気持ちの表れが今回の人数だそうだ。
「兵士にとって、エレニア王族の方々は、指示系統の中枢。駒のように扱われるのが通常です。むしろそうあるべき時もあるでしょうが、兵士にとって畏怖を抱く存在です。そんな立場のリア様から、一緒に開拓する仲間が欲しいなどとお優しい言葉を言われれば、共にやっていきたいと思う者も多いはずなのです。」
「そんな大したことは言っていないが…。」リアはそこまで言ってあることに気づく。軍部で指示系統となっているのは、国王、レオン、新参者のゲルムだ。全員愛想がいいとは言えず、兵士を本当に駒と思っているような人間だと推測する。その指導者の下にいる上官も、きっと同じような考えなのだろう。上司が黒と言えば、白も黒。そんな環境でリアの言った言葉は優しく感じられたのだろう。
「そうか…。とにかくうまくいって本当に良かった。」
「で、これから何するのよ。私もう寝る時間なんですけど。」シャリスが眠そうにぼやく。感謝しあう空気感が一気に崩れていく。つい4人とも笑ってしまった。
「…ああ。今日は早く終えるさ。明日はギルドに挨拶をして、出発の計画を立てる。じっくり準備するつもりはないから、俺からは来週には出発するつもりだと伝えるが、それにあたって、組織の立ち位置を確定させておきたい。」
リアはそう言って、1冊のノートを出した。
「その前に、ここにいるみんなには、俺しか持っていない情報を見せようと思う。」
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