幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

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4 セドリック

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 セドリック・ラブラシュリ。王の妹の子供で、王位継承権第二位の持ち主だ。
 王の子供は王女だけで、男子がいない。この国では女王が許されているので、継承権第一位は王女になる。そして、唯一のいとこであるセドリックが、第二位になるのだ。

 オレリアが聞いた噂では、セドリックは王の手伝いをする傍ら、専門的な研究に勤しんでおり、多種類の魔法学に造詣がある。地水火風の魔法から、医療や薬学の魔法が使える。不得意な魔法はないほどで、博士号も持っており、我が国にとって、欠かせない人物だとか。
 しかし、そんな大仰な噂がありながら、セドリックはほとんど姿を現さない。魔法学院を卒院以降、王宮での大きなパーティに出席する以外は、どこにいるのかわからないという、謎の人だった。

 この国は疫病が多いため、薬や医療に重きをおいていた。特に薬草の栽培や研究の水準は高く、物によっては他国に高額で取引されている。各地域に薬学植物園が多いのもそのためだ。
 その中枢といえる、王宮薬学研究所で、その人が局長として働いている。忖度なしに実力があり、能力も高いのは噂ではなかったようだ。

 セドリックは独身で、容姿端麗、頭脳明晰ということもあり、女性たちの人気は天井知らず。微笑まれれば女性たちはめくらむほどで、パーティでダンスを踊ることに成功した令嬢が、緊張のあまり気を失ったとかなんとか。
 とにかく女性にもてまくっているという話だったが、オレリアが一目見た時、そこまでの美形ぶりはわからなかった。遠目にいたのと、女性たちに囲まれていたので、よく見えなかったせいもある。

 オレリアの父親も、近づきすぎて他の女性に目をつけられるのは面倒だからと、オレリアを近づけさせなかった。
 オレリアも興味がないので、その後すっかり忘れていたが。
 まさか、女性たちの熱狂ぶりに辟易して、顔や姿を隠すようになったとは。

(見る影ないくらい、変貌していない? 本当に、王の甥なのかしら)
 王の甥として見た時は、髪の毛はすっきりしていたし、背筋もまっすぐで、もちろん髭もなく、ほんのり中性的な人なのかな? と思った程度。ただ身長は高かったので、女性に見えるということは、まったくない。
 噂していた女性たちの声を聞くに、神秘的とか、国宝とか、明らかにおかしな単語が飛び交っていたが、この人を前にして、その言葉は一つとして思い浮かばない。

 セドリックをじっくり眺めていると、セドリックが前髪の隙間から睨みつけてきた。
「終わったのか?」
「終わりました!」
 さすがにじろじろ見すぎてしまった。頼まれた書類を揃えて提出すると、セドリックは軽く見始める。そしてすぐに指摘をしてきた。

「ここ、ちょっと変だぞ」
「間違えましたか!?」
「いや、間違いではないが。ここまで細かく分けなくていい。詳細に記してくれるのはありがたいが、そこは重要じゃない。こういう場合は、別紙に補足として載せてくれ」
「すみません。気をつけます」
「いや、よくできている。こっちも頼むよ」

 新しい仕事を手に入れて、オレリアは気分よく次の作業に入る。
 忙しいため、ひっきりなしに仕事が回ってきた。局長であるセドリックは書類の束に囲まれており、そこにベンヤミンが新しい書類が来たと置いていく。そのベンヤミンは隣の部屋にある書庫を行ったり来たりして、書類をまとめていた。ディーンは実験があるらしく、別の隣の部屋に行っており、リビーは薬学植物園の管理があるからと、外に出ている。

 研究所の人数が少なすぎると思うのは当然だろう。本来ならばあと二人いたらしいのだが、一人は研究を盗んで他国に売ろうとしていたところを捕らえられており、もう一人はセドリックに令嬢を斡旋したとかで、クビになった。
 研究を盗んだ男はおいておいて、セドリックに令嬢を斡旋しただけでクビになるとは、厳しすぎないだろうか。

 しかし、それだけセドリックは女性関係で苦しんでいるようで、研究所に女性を入れないということは、暗黙の了解のようだ。リビーは元セドリックの教師で、そういったことを心配していないらしく、リビーは特別だった。
 だからこそ、教授がオレリアを紹介したことは、青天の霹靂くらいの気持ちだったのだろう。
 仕事はできそうということで、オレリアは研究所に入ることを許されたが、何かあれば直ぐに追い出される。

(せっかく、王宮の研究所に入れたのだもの。そんなバカな真似、私はしないわよ)

 そして仕事が楽しすぎる。忙しいは忙しいが、研究成果が書かれた書類などが見放題なのだ。こんな機会は滅多にない。
 薬草を詳細に描いた事典もあちこちに置いてある。暇な時は読んでいいと言われているが、暇な時間がないのが悩みだ。
 オレリアは学生寮から通っているので、一度持ち帰っても良いか、聞いておきたい。

「もうこんな時間か。令嬢、ある程度終えたら帰れよ。学生をいつまでも使っていると、教授に言われる。また明日来てくれ」
 気づけばもう夕暮れで、セドリックも今気づいたと立ち上がる。日がな一日研究所で書類に埋もれているのか、自分でコーヒーを入れると、また席に着く。ベンヤミンはまだ書庫か、開いたままの扉の向こうで物音がしていた。ディーンとリビーは、まだ姿が見えない。

 もう少し進めたかったが、セドリックに追い立てられたので、仕方なく帰ることにする。本は特別書籍でなければ学生寮に持って帰って良いとのことなので、大きな本を両手で抱えて研究所を出た。
 オレリアは授業単位をすべて取り終えているので、研究所の手伝いは朝から夕方まで。夜は勉強や薬草の研究をしているため、充実している。

 そのうち、薬学植物園にも行けるだろうか。そのためにも真面目に頑張らなければ。
 一人やる気を出していると、見覚えのある男が横を通り過ぎようとした。
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