幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

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8 偶然

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 どうしてカロリーナがここに? しかも、王女の侍女だ。
 頭が、ぐわんぐわんと揺れる気がした。
(やっぱり、エヴァンと婚約したの? 結婚? エヴァンと一緒に、都に来たの!?)

「エヴァンから王宮で会ったと聞いていたから、私も会えるのかと思っていたのだけれど、変わっていらっしゃらなかったから、すぐにわかったわ」

 オレリアの心が狭いせいか、子供の頃からなんの変わりもないのだと言われているような気がして、胸の中が気持ち悪くなってきた。
 しかも、エヴァンはオレリアのことをカロリーナに話しているのだ。エヴァンと親しいのだと暗に言われている気がして、胸がギュッと痛んでくる。

「女性なのに、研究員を目指しているとは思わなかったわ。アデラ殿下、私たち、同じ学院だったのですよ。淑女のための勉強をしていたのです。それなのに」

 そう言って、ちらりとオレリアを見やる。カロリーナは侍女らしく美しく装っていて、優雅な雰囲気をまとっていた。それに比べてオレリアは、白衣にパンツ姿。髪が短ければ、男だと思われても仕方のないような格好をしている。
 それだけで、すごく惨めに見られている気がした。これは自分が望んだ格好なのに、それでも、みすぼらしく思われているような気がしてくる。後ろにいた他の侍女たちは、そんな目で見てきていた。蔑むような視線が痛い。

「殿下、申し訳ありません。早く研究所に戻らなければなりませんので」
「あら、ごめんなさいね。もう行って良いわ」
 アデラの言葉に、セドリックは頭を下げて通り過ぎる。その後を逃げるように追って、オレリアはその場を過ぎ去った。







「さっきの女は、なにかの因縁の相手か?」
「いえ、幼馴染の恋人なだけで。話したこともありません」

 セドリックに問われて、オレリアは唇を噛み締める。別に因縁などではない。自分が勝手に惨めになっているだけだ。
 エヴァンに、聞いていない。カロリーナと一緒に王宮にいるなんて。そんなことを言いたくなって、さらに惨めになってくる。

「ならいいんだ。妙な雰囲気に感じたから」
 セドリックはわざと急いでいると言ってくれたようだ。気を遣われて、なんだか恥ずかしくなってくる。側にいて、居心地の悪さを勘付かれていたとは。

「話しかけてきた女は、王女の侍女に入ったばかりだな。後ろの女たちも変わったようだ。今まで見たことがない」
「そうですか……」

 カロリーナが王女の侍女になれる身分だとは知らなかった。地方にある学院に通っていて、身分が高い者は数人知っていたが、そこにカロリーナは入っていなかったはずだ。
 それでも侍女になっているのだから、どこかにツテがあったのかもしれない。
 考えても仕方がない。王宮にエヴァンがいて、カロリーナがいても、オレリアには関わりがないのだ。
 オレリアは頭の中でかぶりを振る。

 それにしても、セドリックと王女との会話は、冷え切ったような感じがしたが、仲が悪いのだろうか。王とはあんなに仲が良さそうだったのに。アデラ王女とは継承権を争っているわけではないが、第一、第二継承権ということで、そこまで慣れ合っていないのかもしれない。そう思ったが、セドリックは肩を竦める。

「あそこで俺の名前を言ったら、幼少の頃のアデラの素行の悪さを、あちこちに言いふらしてやる」
「じゃあ、わざとあんな風に、局長と呼ばせているんですか?」
「名前を言ったら、なんのために小汚くしているのか、意味がなくなるだろうが」
「それもそうですね」
 アデラもわざと局長などと呼んだのか。セドリックは王女の名前を呼び捨てているので、本来は気安い関係のようだ。

「あの女が気になるのなら、アデラに聞いておいてやるぞ?」
「あ、いえ。大丈夫です。幼馴染とは疎遠になっているので」
「そうか? ならいいが」
 気にしなくていいのに。そんなことまで心配してくれるのか。

 セドリックは、第一印象は最悪だったが、かなり心優しい人のようだ。女性に運がないため、無条件で女性に嫌悪感があるのだろう。エヴァンも同じだった。
 そこでエヴァンを思い出して、すぐに頭から追い出す。
 もう考える必要なんてない。それなのに、どうしてここで、二人に会わなければならないのだろう。

 研究が誉められて喜んでいたのに、急激に気持ちが塞いでしまった。もう、あの時の気持ちは思い出したくない。
 オレリアは、もう関わらないようにしようと、強く心に留めたのだ。







 
 薬学植物園でリビーと共に魔力を注いでから、薬学研究所に戻ると、なぜか知った顔が廊下で待っていた。
「あ、帰ってきた。オレリア、待っていたんだよ」
「エヴァン。なにをしているの、ここで」

 扉の前で、なぜかセドリックと一緒にいる。いつからいたのか、開いた扉の部屋の中には、ベンヤミンもディーンもいた。四人で何かを話していたのか?

「久しぶりに会ったのだから、話がしたくて、待っていたんだ。食事に行かない?」
「今から?」
「そう、今から。って、思ったんだけれど、学院の寮は、門限があるんだよね。だから、今度、許可をもらってよ。街に食事に行こう」
「そんなこと言われても、外出の許可が出るのかは」
「学院の寮は、先に伝えておけば、門限を越えていいって聞いたよ」
 誰がそんなことを言ったのか。くるりと三人を見ると、ディーンがさっと床に視線を逸らした。犯人だ。

「誤解されたくないから、遠慮しとくわ」
「誤解?」
「彼女に会ったの。王女付きの侍女をしているのでしょう?」
「そうだよ。急に決まって、王宮に入ったんだ。カロリーナは関係ないでしょう? 二人で一緒に行こう。いい店を知っているんだ」
「エヴァン……。はあ、わかったわ」

 エヴァンは久しぶりなのだから、たくさん話があると、無邪気な笑顔で寄ってくる。もう関わりたくないと思っているのに。それでも、いつまでもここで話しているのも気が引けるので、仕方なく頷いた。
 本当は、行きたくないのだけれど。

 事情を知っているベンヤミンは、気遣わしげに眉を下げていたが、軽く笑って返しておいた。
(一度だけよ。ただそれだけ)
 エヴァンはただ、久しぶりだからと、声をかけてくれただけなのだから。
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