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30 仕事
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「あの騎士は、顔が良いからとモテる割に女の前では氷のようだって、噂になっていたわ。そのせいで、他の騎士たちからもやっかみを受けていたわね。今はそんなことはないけれど、騎士になったばかりの頃はひどかったように思うわ。前に行われた大会で、新人騎士にしては良い成績を収めたはずだから、周囲の態度はましになったのでしょう。女性に対して完全に無視だったから、その態度も好感に変わったのよ。カロリーナが関わっていれば、そうはいかなかったでしょうね。とにもかくにも、カロリーナは徹底していたということよ。でももう、彼女は王宮に戻ることはないから、安心するといいわ」
副大臣は、面目を潰したカロリーナを、屋敷に閉じ込めているようだ。王宮に来ることはもうないと、アデラが教えてくれる。副大臣がセドリックだけでなく、オレリアを知らなかったことに、アデラはほくそ笑んでいた。カロリーナたち侍女を、ずっとなんとかしたかったそうだ。
「お兄様も安心したでしょう? 彼女が婚約者になっていたかもしれないのよ?」
「ぞっとしないな」
「お兄様狙いで、私の侍女になりたがる者は多いのよ。お父様も、お兄様をものにできるのならば、やってみろと好きにさせたのだろうけれど、結果がこれよ」
オレリアは社交界にほとんど出ていない。オレリアも副大臣の名前は知っていたが、会ったことはなかった。父親は、オレリアがコネを使わずに、薬学魔法士になることを夢見ていることを応援してくれているため、オレリアの紹介はしなかった。
それが功を奏したというのならば、副大臣の見立ては甘かったのだろう。副大臣はオレリアの父親が若くして大臣になったことについて、不快感を示していたと聞いている。オレリアのことを知らなくても当然だ。
カロリーナが再び王宮で働くことは難しいだろう。今後関わることがないと思うと安堵するが、しかし、エヴァンはどうしているのか、心配になってくる。あれっきり、エヴァンには会っていない。
エヴァンは、カロリーナを恋人だと思っていた。
だが、騎士たちの前では、カロリーナはその態度を見せていなかった。仕事中だから、親しくできないとでも言っていたのだろうか。エヴァンは良くも悪くも素直で、カロリーナの言葉を鵜呑みにしたのかもしれない。
植物園では、あんなにべったりしていたのに。植物園には人はいなかったため、問題なかったのだ。
オレリアがターンフェルトの学院を去った後、彼らがどうやって王宮に来て会うことになったのか、聞いたことはない。カロリーナはセドリックの相手として王宮にやってきたわけだが、その時にはまだエヴァンはターンフェルトの町にいたのだろうか。
エヴァンはターンフェルトの学院で、カロリーナとうまくいったと言っていた。その頃は、カロリーナも純粋に、エヴァンが好きだったのだろうか。
「エヴァンが心配か?」
「子供の頃は、カロリーナと親しくなれて、喜んでいたのにと思うと」
「王宮に戻ってこないのならば、エヴァンが声をかけに行くだろう。それでカロリーナがどうするかだな」
「そうですね」
それで、セドリックを諦めて、エヴァンを取るというのも、釈然としないが。
「オレリアさん、消毒薬、お願い」
「わかりました!」
「また、怪我人です!」
試合が始まった途端に、休憩所はごった返した。馬上から落ちたり、槍に引っかかったり、ひどいと馬に踏まれた者が運ばれてくる。
怪我人たちは、まず医療魔法士が治療するが、魔力の減りを考えて、重症者だけが医療魔法士の治療を受けた。擦り傷などの軽い怪我などは、薬学魔法士が治療した。治療を行うのはリビーとベンヤミンだけの予定だったが、最初から軽傷者が何人も運ばれてくるので、ディーンも治療に入り、オレリアが三人の助手を務めた。
セドリックは王族と一緒に観戦中で、途中試合にも参加する。そのため、局長の仕事は休みだ。
「馬から、落ちすぎじゃね? なんでこんなに来るんだ」
「部屋に入りきれない人が、廊下で待ってます」
「嘘だろ?」
頭を打った重症患者が別の部屋に入るのを横目にして、オレリアは廊下で待つ騎士たちに血止め用の布を巻いてやる。
まだ団体戦も始まっていないのに、個人戦でこの人数が怪我や体調不良では、団体戦が行えるのだろうか。団体戦は騎士たちの所属対決になるので、力も入る。怪我人が増えることが見込まれていた。
「前哨戦って感じねえ。ほら、動かないで。この程度、大した傷じゃないわ」
「薬草、足りるでしょうか」
調合した薬草を大量に用意したつもりだが、あとで調合をする必要が出てくるかもしれない。
騎士の治療だけかと思ったが、観客でも体調不良者が出た。熱気で気分を悪くする者もおり、腹痛や吐き気を訴える者まで運ばれてきた。
「ベッドが足りない! そちらの部屋を使わせてくれ!」
医療魔法士がやってきて、軽傷者たちのいる部屋を使わせろと、患者を運んできた。軽傷者を外に出して、患者を床に下ろす。途端、吐き出す者もいて、部屋は大騒ぎになった。
「オレリアさん、消毒薬を! リビーさん、他の部屋を確保してもらって。軽傷者を別の部屋に!」
ベンヤミンの指示で、軽傷者を別の部屋にうつし、部屋には体調不良者を運ばせた。オレリアは消毒薬や吐くための桶を運び、ディーンとベンヤミンは医療魔法士に混じって医療魔法をかける。
「同じ症状の者が多すぎるわね。同じ物でも食べたの?」
「昼に提供されたものに当たったのかもしれないなあ。同じ所属の騎士か? 団体戦前にもられたんじゃないのか?」
「感染する可能性があるから、外に出る時は手と足元消毒させて。オレリアさん、用意をお願い」
「わかりました! すぐ用意します!」
自分の足元を消毒してから、オレリアは部屋から飛び出す。足を漬けられる桶に消毒用の薬草を混ぜて、外に出る際に足を浸してもらう。
治療が終わった者は、身綺麗にしてから別の部屋に運ばれた。部屋を増やし、急いでベッドを作った。
医療魔法士たちは、原因不明の体調不良者と、重症の怪我人たちの治療を行う。
少し時間があれば、試合を見学しようという話もあったが、そんな暇もなく、セドリックの試合も見ることはできなそうだった。
セドリックの勇姿を見たかったのだが、仕方がない。
結局その日は、一日中忙しくして、休む間もなく働き続けたのだ。
「大変だったな」
「大変でしたよー」
セドリックは大会後、やっと現れた。一番忙しかった時に局長が不在だったため、申し訳なさそうな顔をする。
医療班の忙しさはセドリックの耳に届いていたが、王の命令により動けなかったそうだ。医療魔法士の局長がいるため、問題ないとされたらしい。
「申し訳ない。オレリアも、朝から働いてくれていたのに」
「大丈夫ですよ。みなさんから指示をいただいて、言う通りに動いていただけでしたから。試合はどうだったんですか?」
「わざと負けようとするなと忠告されて、最後まで残ってしまった」
疲れ切った顔をしたが、優勝したのはセドリックだったようだ。それは見たかった。セドリックは試合後すぐにこちらに来るつもりだったが、それすら邪魔されたそうだ。
副大臣は、面目を潰したカロリーナを、屋敷に閉じ込めているようだ。王宮に来ることはもうないと、アデラが教えてくれる。副大臣がセドリックだけでなく、オレリアを知らなかったことに、アデラはほくそ笑んでいた。カロリーナたち侍女を、ずっとなんとかしたかったそうだ。
「お兄様も安心したでしょう? 彼女が婚約者になっていたかもしれないのよ?」
「ぞっとしないな」
「お兄様狙いで、私の侍女になりたがる者は多いのよ。お父様も、お兄様をものにできるのならば、やってみろと好きにさせたのだろうけれど、結果がこれよ」
オレリアは社交界にほとんど出ていない。オレリアも副大臣の名前は知っていたが、会ったことはなかった。父親は、オレリアがコネを使わずに、薬学魔法士になることを夢見ていることを応援してくれているため、オレリアの紹介はしなかった。
それが功を奏したというのならば、副大臣の見立ては甘かったのだろう。副大臣はオレリアの父親が若くして大臣になったことについて、不快感を示していたと聞いている。オレリアのことを知らなくても当然だ。
カロリーナが再び王宮で働くことは難しいだろう。今後関わることがないと思うと安堵するが、しかし、エヴァンはどうしているのか、心配になってくる。あれっきり、エヴァンには会っていない。
エヴァンは、カロリーナを恋人だと思っていた。
だが、騎士たちの前では、カロリーナはその態度を見せていなかった。仕事中だから、親しくできないとでも言っていたのだろうか。エヴァンは良くも悪くも素直で、カロリーナの言葉を鵜呑みにしたのかもしれない。
植物園では、あんなにべったりしていたのに。植物園には人はいなかったため、問題なかったのだ。
オレリアがターンフェルトの学院を去った後、彼らがどうやって王宮に来て会うことになったのか、聞いたことはない。カロリーナはセドリックの相手として王宮にやってきたわけだが、その時にはまだエヴァンはターンフェルトの町にいたのだろうか。
エヴァンはターンフェルトの学院で、カロリーナとうまくいったと言っていた。その頃は、カロリーナも純粋に、エヴァンが好きだったのだろうか。
「エヴァンが心配か?」
「子供の頃は、カロリーナと親しくなれて、喜んでいたのにと思うと」
「王宮に戻ってこないのならば、エヴァンが声をかけに行くだろう。それでカロリーナがどうするかだな」
「そうですね」
それで、セドリックを諦めて、エヴァンを取るというのも、釈然としないが。
「オレリアさん、消毒薬、お願い」
「わかりました!」
「また、怪我人です!」
試合が始まった途端に、休憩所はごった返した。馬上から落ちたり、槍に引っかかったり、ひどいと馬に踏まれた者が運ばれてくる。
怪我人たちは、まず医療魔法士が治療するが、魔力の減りを考えて、重症者だけが医療魔法士の治療を受けた。擦り傷などの軽い怪我などは、薬学魔法士が治療した。治療を行うのはリビーとベンヤミンだけの予定だったが、最初から軽傷者が何人も運ばれてくるので、ディーンも治療に入り、オレリアが三人の助手を務めた。
セドリックは王族と一緒に観戦中で、途中試合にも参加する。そのため、局長の仕事は休みだ。
「馬から、落ちすぎじゃね? なんでこんなに来るんだ」
「部屋に入りきれない人が、廊下で待ってます」
「嘘だろ?」
頭を打った重症患者が別の部屋に入るのを横目にして、オレリアは廊下で待つ騎士たちに血止め用の布を巻いてやる。
まだ団体戦も始まっていないのに、個人戦でこの人数が怪我や体調不良では、団体戦が行えるのだろうか。団体戦は騎士たちの所属対決になるので、力も入る。怪我人が増えることが見込まれていた。
「前哨戦って感じねえ。ほら、動かないで。この程度、大した傷じゃないわ」
「薬草、足りるでしょうか」
調合した薬草を大量に用意したつもりだが、あとで調合をする必要が出てくるかもしれない。
騎士の治療だけかと思ったが、観客でも体調不良者が出た。熱気で気分を悪くする者もおり、腹痛や吐き気を訴える者まで運ばれてきた。
「ベッドが足りない! そちらの部屋を使わせてくれ!」
医療魔法士がやってきて、軽傷者たちのいる部屋を使わせろと、患者を運んできた。軽傷者を外に出して、患者を床に下ろす。途端、吐き出す者もいて、部屋は大騒ぎになった。
「オレリアさん、消毒薬を! リビーさん、他の部屋を確保してもらって。軽傷者を別の部屋に!」
ベンヤミンの指示で、軽傷者を別の部屋にうつし、部屋には体調不良者を運ばせた。オレリアは消毒薬や吐くための桶を運び、ディーンとベンヤミンは医療魔法士に混じって医療魔法をかける。
「同じ症状の者が多すぎるわね。同じ物でも食べたの?」
「昼に提供されたものに当たったのかもしれないなあ。同じ所属の騎士か? 団体戦前にもられたんじゃないのか?」
「感染する可能性があるから、外に出る時は手と足元消毒させて。オレリアさん、用意をお願い」
「わかりました! すぐ用意します!」
自分の足元を消毒してから、オレリアは部屋から飛び出す。足を漬けられる桶に消毒用の薬草を混ぜて、外に出る際に足を浸してもらう。
治療が終わった者は、身綺麗にしてから別の部屋に運ばれた。部屋を増やし、急いでベッドを作った。
医療魔法士たちは、原因不明の体調不良者と、重症の怪我人たちの治療を行う。
少し時間があれば、試合を見学しようという話もあったが、そんな暇もなく、セドリックの試合も見ることはできなそうだった。
セドリックの勇姿を見たかったのだが、仕方がない。
結局その日は、一日中忙しくして、休む間もなく働き続けたのだ。
「大変だったな」
「大変でしたよー」
セドリックは大会後、やっと現れた。一番忙しかった時に局長が不在だったため、申し訳なさそうな顔をする。
医療班の忙しさはセドリックの耳に届いていたが、王の命令により動けなかったそうだ。医療魔法士の局長がいるため、問題ないとされたらしい。
「申し訳ない。オレリアも、朝から働いてくれていたのに」
「大丈夫ですよ。みなさんから指示をいただいて、言う通りに動いていただけでしたから。試合はどうだったんですか?」
「わざと負けようとするなと忠告されて、最後まで残ってしまった」
疲れ切った顔をしたが、優勝したのはセドリックだったようだ。それは見たかった。セドリックは試合後すぐにこちらに来るつもりだったが、それすら邪魔されたそうだ。
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