幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

文字の大きさ
35 / 47

35 理由

しおりを挟む
「殺された二人の騎士たちに、長く金をせびられてたんだと。騎士の中では、そいつが一番弱いって、結構馬鹿にされていたみたいだな。その恨みで殺したみたいだけど」

 セドリックを刺した、黒髪の騎士。同じ所属の騎士たちからいじめを受けていたようだ。オレリアを殺しの犯人だと言いに来た騎士たちの中にいた男で、親友を殺されたと言っていた騎士の後ろで、オレリアを犯人にしようと誘導するように口を挟んでいた。

 オレリアを犯人に仕立て、自らの仕業を誤魔化そうとしたのだ。
 捕えられたその黒髪の騎士は調べを受けている途中で、今のところわかっていることはそれだけらしい。

「またなんかわかったら、すぐ伝えにくるわ」
「ありがとうございます」
「治療はできてんだから、あんま気にしすぎないようにな」

 オレリアは頷いて、ディーンが部屋を出ていくのを見送る。
 セドリックが毒で倒れ、すぐにその治療をディーンが行ったが、毒の周りが早く、治療を終えた今も意識が戻っていない。

 毒は、騎士たちを殺した毒と同じ。成分は毒を持つ動物から得たもので、薬草から作られた毒ではなかった。
 体に周った毒は取り除いたが、飲み込んだだけで死に至る毒だ。傷口からでも体内に入れば、細胞を壊してしまう。内臓に入ったわけではないため、早めの治療により死亡は免れたが、それでも影響はある。
 治療後、セドリックは屋敷に運ばれた。それから一日経ったが、まだ目が覚めないのだ。

「オレリア様、少し休まれませんと」
「大丈夫です。側にいたいので」

 ブルーノとクレアが側に控えていたが、ブルーノは頷くと、何かあればベルを鳴らすようにと言って、クレアを連れて部屋を出ていく。
 エリザベトも部屋にいたが、王に現状を伝えると言って、先程出て行った。

 自分を庇ったせいだと何度も謝ったが、謝って済む問題ではない。エリザベトは大丈夫だと抱きしめてくれたが、もし、このまま目が覚めなければ、

「どうすればいいの?」
 ぎゅっと握った手は冷たく、体温を感じないほどだ。
 もし、オレリアのせいでセドリックに何かあれば、どうすれば良いのだろう。
 ディーンはもうすぐ目が覚めると言ってくれたが、本当に目が覚めるまで、安心などできるはずがなかった。
 もしなにかあれば、どうすればよいのか。

 手を握りしめて、祈るように自分の額に当てる。
 誰かを失うことは恐ろしい。それが、大切な人ならばなおさら。

(私、この人が本当に好きなんだわ)
 そんなことを、こんな時に、はっきりと気づくなど。
 急に涙が出そうになる。こんな風にならなければ、ここまで好きと気づかないなど、自分の鈍感さに呆れてしまう。

 最初は、一緒にいて居心地の良い人という程度だった。勉強にもなるし、自分の見識を増やすことができて、楽しい程度。話せば心優しく、温かい人だとわかった。パートナーになって、気になる気持ちが膨れて、一緒にいたいと思うようになった。
 パーティの後は、大会もあって忙しくして、二人きりで話す時間を取れなかったが、こんな風に二人きりになるなんて、考えもしない。

「セドリック様、どうか、目を覚ましてください」
 何度も呟いて、オレリアはただ、セドリックの瞼が開くことを待ち続けた。








 遠くで、オレリアを呼ぶ声が聞こえる気がした。

「―――リア、オレリア」
「んんっ。―――せ、セドリック様!?」

 呼んだのはセドリックで、青白い顔で寝転んだまま、オレリアの髪の毛をそろりと指で引っ張った。
 気づけば窓の外は明るくなっており、いつの間にか朝になっていた。ベッドに寄りかかって眠ってしまっていたようだ。

「ずっと、ここにいたのか?」
 少しだけかすれた声に、オレリアは涙が出そうになる。セドリックは重病人のような顔をしていた。髪の毛に触れる指も、冷えたまま。唇はカサついて、目元はくすんで見えた。

「目が覚めないのかと思って、心配したんですよ! どうして、私を庇うような真似を。ああ、そんなことより、医療魔法士を呼んできます。すぐに呼んで、」
 立ちあがろうとすると、セドリックが袖を引っ張った。
 めまいでもするのか、起きあがろうとするので、すぐにそれを助けてやる。ぐらりと傾きそうになるセドリックの肩を支えて、クッションを置いてもたれさせてやると、うっすらと微笑んだ。

「無事でよかった」
「私は無事でしたが、局長が!」
「さっきは、名前で呼んだのに」
「た、他意はないです。驚いて、お名前で呼んでしまっただけで」
「本当に?」

 セドリックはニッと笑って、オレリアに苦しそうながらも、いたずらっ子のような顔を向ける。伸ばされた手が頬に触れて、髪の毛を耳にかけてくれた。
 それだけで顔が熱くなる気がする。セドリックはそのままベッドに寄りかかっていたオレリアの手をとると、そっと甲に口付けた。

「君が無事でよかった。オレリア」
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。私は彼女の秘密を知ってしまったようです【完結】

小平ニコ
恋愛
選ばれた貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される王立高等貴族院で、私は婚約者のチェスタスと共に楽しい学園生活を謳歌していた。 しかし、ある日突然転入してきたチェスタスの幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変してしまう。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。 チェスタスが言うには、『まだ王立高等貴族院の生活に慣れてないエミリーナを気遣ってやりたい』とのことだったが、彼のエミリーナに対する特別扱いは、一週間経っても、二週間経っても続き、私はどこか釈然としない気持ちで日々を過ごすしかなかった。 そんなある日、エミリーナの転入が、不正な方法を使った裏口入学であることを私は知ってしまう。私は間違いを正すため、王立高等貴族院で最も信頼できる若い教師――メイナード先生に、不正の報告をしようとした。 しかし、その行動に気がついたエミリーナは、私を屋上に連れて行き、口封じのために、地面に向かって突き落としたのだった……

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木 うりこ
恋愛
 父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。 「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」  庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。  少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *) HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい! 色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー! ★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!  これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい! 【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...