幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

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「こんな愛らしい方を連れてきてくださるとは」
「おい、ブルーノ。勘違いをするなよ」
「普段はこんな汚い格好をしていますが、髭を剃れば、それはそれは美丈夫で、いつも女性に困らせられていて、女性嫌いに」
「人の話を聞け」
「見知らぬ女性が侵入してきたこともございまして」
「おい、余計なことは言わないでいい!」
「同情します」
「ほっといてくれ」
「私の幼馴染も、子供の頃は大変でしたから。私が元気な時は、いつも人の背中に隠れていました。今は知らないですけれど」
「君には、絶対的な信頼を持っている。って、感じだったな」

 セドリックは、エヴァンがオレリアを食事に誘うために、研究所まで来た時のことを話しだす。
 何を考えているのか、エヴァンはオレリアの子供の頃の武勇伝を、つらつらと話していたそうだ。

 病気がちだったのに、植物を見ては図鑑を持って調べ出し、熱を出してもベッドで読み耽り、図鑑を持って出かけたまま帰って来ず、ベッドで寝込む。女の子たちが好んでいるドレスも化粧も興味がなく、叔母に装ってもらいつつも、魔法の本を読み耽る。

 エヴァンが女の子に追いかけられれば、オレリアが魔法を駆使して邪魔をする。エヴァンが泣きつけば、額に氷のうを当てながら、やはり魔法で仕返しに行く。愛らしいと花を飾られたエヴァンが恥ずかしいと泣けば、その花を魔法で絵の具にして、エヴァンを楽しませてくれた。等々。
 放っておけば永遠に話していそうなほど、ぺらぺらと幼少の思い出を語っていたそうだ。

「それって、信頼って言うんでしょうか」
「勇者ですね」
「英雄譚だな」

 ブルーノが横入りすれば、セドリックも追加してくる。オレリアもそう思う。憧れの人のような、そんな人についての自慢話だ。
 セドリックは、それがエヴァンにとってのオレリアで、特別な存在だと感じたようだ。

 古い記憶であるため、補正もされているのだろう。その憧れは大きくなり、久しぶりに会っても、その思い出は大きなままで、オレリアを覆っている。
 まさか、そんな人物像になっているとは思わなかったが、それが恋だとか愛とかはエヴァンにとって関係なくとも、カロリーナからすれば、親しい女の子を自慢しているようにしか見えない。

「子供の頃に、あの侍女にその話を永遠にしていれば、君と直接話す機会がなかったとしても、気分は良くないな。それが長年の恨みになったのかもしれない」
「そんなことで、殺人犯だとか噂されたくないです」
「ごもっともだな。しばらくは、この屋敷にいればいい。今のところ、うるさい人たちがいないから」
「うるさい人たち?」
「ご両親です」

 今は旅行に行っているため、留守にしているそうだ。今さらだが、挨拶をしていなかった。オレリアもセドリックの屋敷に泊まることになって、動転していたようだ。しかし、両親が不在で、いてもいいのかという不安も出てきた。

「普段から、ほとんど家にいないんだ。家にいたら、髪を切れと言われている」
「お二人がいない時、限定なんですよ」
「じゃあ、ずっとご不在なんですか?」
「たまに戻ってくる。ごくごく、たまに」

 だから気にしないでいい。セドリックは、何度もそう言って、屋敷を自由に使うように言ってくれた。それから、書庫を勝手に見て良いとの許可もくれた。局長であるセドリックが集めた書も多く、王宮書庫にもない珍しい書もあるそうだ。

 研究所での実習は、しばらく休止になってしまった。一週間くらいは休んで、落ち着いたらまた手伝いに入る予定だ。毒の所在を調査してくれているので、それ待ちになる。
 そんなことになっているのに、この屋敷にいて良いのかと思うのだが、セドリックは毒物が使用されたことを、ひどく気にしていた。やはり過去に何かあったのかもしれない。セドリックも薬学魔法士を目指すため学院に通っていた、少ないとはいえ女生徒と学んでいたのだから。







 一緒に生活するようになって、セドリックが研究バカということがわかった。
 普段、研究所から帰ってくる時間は遅く、食事も片手で食べながら、研究に勤しむ。いつ眠っているのか、早朝出掛けて、帰りが遅いため、屋敷の者たちは帰りの遅いセドリックをいつも心配していたそうだ。

 オレリアが訪れてから、セドリックは夕食を一緒するために、早めに帰ってきていた。書庫で遅くまで何かをしてはいたが、談話室ではオレリアと研究について論じた。オレリアも一緒に、遅くまで談話室や書庫に入り浸るので、ブルーノが注意をしにくる。そのため、セドリックはいつもよりも早く眠るようになったようだ。

 ブルーノが、オレリアがいるおかげで、セドリックが言うことを聞く、と喜んでいたので笑ってしまった。
 毎日が研究三昧で、オレリアも影響される。なんといっても勉強になるし、新しい知識や見識を得られて、充実感が半端ない。

 そして、セドリックのだらしないところも露呈した。研究以外、色々適当なのだ。
 屋敷内にいる間の服装は、見目を気にしたものではなく、ブルーノに令嬢がいるのだから、少しは気をつけてほしいと怒られる。体調管理のためか、剣を持って体を動かすこともあるが、上半身裸で屋敷内をうろつき、クレアに怒られる。風呂に入った後、髪を乾かさずに、庭内にある植物園に向かい、次の日鼻声になっている。

 家でも研究をするのは、オレリアも同じだ。あんなに広い庭園があれば、植物園を作りまくるだろう。セドリックはそれを行い、自作の植物園に行っては、そのままそこで寝てしまうこともあった。オレリアがいれば、必ず寝室に戻るので、ブルーノやクレアたちに感謝された。

 セドリックは研究熱心で、変わった人だが、心優しいことはたしかだ。
(女性に嫌な思いをしているから、女性不信というのは、悲しいわよね。せっかく、モテるんだし。パーティの時は、すごかったもの)

 今も目の前で、ボサボサ頭から、ポタポタと水滴が落ちているのを気にせず、薬草の出来を確かめている。
 あれが、パーティで遠目に見た王の甥、というのは未だ信じられないが、目の前のセドリックには好感が持てた。

(私は、この姿の方が好きだけどなあ。―――って、好きって、なに! 人としてよ。人として! 尊敬できるってこと!)

「なに、踊ってるんだ?」
「ちょっと、運動を! 運動不足なもので!」
「令嬢なら、そんなものだろう?」
「私がただの令嬢に見えますか?」
「いや、見えない。その辺の虫をいきなり捕まえて、ここは溺れるわよ。花粉運んでくれてありがとうね。なんて助けて、礼は言わない」

 セドリックの笑いに、オレリアも笑う。
 心が安らぐと思うのは、研究に没頭できるからだ。そうに違いない。
 オレリアは二人きりでいるこの空間が、もう少しだけ続けばいいのにと思った。
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