22 / 47
22 手伝い
しおりを挟む
「ご、ごめんさい。昔、拝見した時、遠目からでも年齢のわからない顔をされていたし、落ち着いた方だなって思っていましたので」
「そんな頭して、ヒゲはやしているからよ。そうよねえ。私だって、こんなのが息子だとは思いたくないわ。せっかく、可愛く産んであげたのに、しつこい者たち程度をあしらえないなんて。面倒を起こす者たちになど、しっかりわからせてやれば良いだけのことでしょう。それができないからと、顔を隠して逃げるような真似をして、情けないこと」
エリザベトはぴしゃりと叱る。王族ならばそれくらい当然に行うことだと言われてしまえば、セドリックは何も言えなかった。エリザベトはセドリックの母親だけあって、それこそ人外の美しさだ。母親とは思えないほど若く、愛らしい顔をしている。顔は小さいし手足は長く、それこそ人形のように美しい。王女時代は色々あったのだろう。
カロリーナとは違うのは、そこに堂々とした雰囲気があるからだろうか。偽りのない、自然体の美しさだ。
「お互い、虫除けに良いのでしょう? あなたの幼馴染の恋人の誤解も、少しは解けるのではないの?」
「それは、そうかもしれませんが」
オレリアに恋人がいれば、カロリーナも静かになるのではないかという、エリザベトの提案は、たしかに良いかもしれない。しかし、オレリアがセドリックの恋人だと思われては、セドリックも嫌がるだろう。
女性たちにとやかく言われることについて、オレリアも気分の良いものではないが、大抵のことは言い返せる。面倒なのは、カロリーナのように、わけのわからない言い掛かりをつけてくることだ。
「セドリックが守れば、なんの問題もないでしょう?」
「母上。いい加減にしてくれ。オレリアに失礼だろう」
「だってえ。王がうるさいのだもの!」
「結局、そこか!」
「そうよ。うるさいのよ、あの方は! 王女の心配だけしておきなさいと言っているのに、息子の相手はまだか、決まらないのか。なら、こちらで決めるぞ。って言うのだもの。だったら、私が決めた方がいいでしょう!?」
「よくない……」
「お前が決めないのだから、私が決めると言っているだけです。ねえ、オレリアさん。大丈夫よ。ナヴァール大臣も心配されているのではないの? お相手が決まっていないのは、お互い様。お互いに、偽装すれば良いのではなくて? それって、とっても面白いと思うのよ。それで、本当になっても良いのだし?」
「母上!」
エリザベトの勢いが激しい。オレリアの手をぎゅっと握りしめてくる。
「かねがね、娘が欲しいと思っていたの。だから、着飾ったりしたいのよ」
「趣旨が違っているから、手を離してあげてくれ。困っているだろう!」
「はあ、残念ね。では、一人で頑張りなさいな。王は本気でいらっしゃるわよ」
いい加減身を固めろと、王からの圧力がかかるとは。セドリックは頭を抱えた。いつまでも逃げられないとは思っていただろうが、こんなに早く言われるとは、考えていなかったようだ。
「悪かったな。先ほどは」
「いえ、エリザベト様の気持ちもわかりますし。私の両親にも、似たようなことは言われているのだろうなと、想像できます」
お互いに、いつも薬学の研究をしている。オレリアに至っては、貴族の令嬢らしく、淑女のための学院で終えるべきだという親は多いのに、魔法学院に入学した。
成績によっては、薬学魔法士として王宮で働ける可能性も出てくる。薬学魔法士の資格は卒院にかかっており、成績によっては資格が取れないかもしれない。
オレリアの成績でそれはないだろうが、父親にとっては、王宮で働けた方が安心できるだろう。最高の研究所で働いて欲しいと思っているのは、オレリアもわかっている。オレリアのわがままで、大臣の娘ではなく、薬学魔法士を目指す一学生として生活しているのだから、王宮に辿り着いてほしいのだ。そうすれば、周囲の誰も文句は言えない。
身分を隠しているのも同じ。研究に没頭するのも同じ。両親に心配をかけているのも同じ。
「親近感を抱くな」
セドリックも同じことを考えていると、恥ずかしそうに笑う。
なんだかおかしくなってくる。二人で笑い合うと、セドリックは、エリザベトの言う通り、反論もできないと、静かに肩を下ろした。
「わかってはいるんだがな。アデラが女王になれば、俺は彼女の補佐になるだろう。俺たちは継承権で争っていないし、仲もいい。アデラの今後のためにも、力になれる家の者を娶って欲しいんだ」
「家の力は、必要な時がありますからね。当然だとは思います」
もしもセドリックが娶った女性の家が、アデラを推さず、セドリックを推すようなことになれば、国の派閥が揺らぐことになる。無駄な争いに身を投じることは、セドリックもアデラも好んでいない。協力し合いたいのだから、セドリックの後ろ盾となり、意志を尊重する相手が必要だ。
セドリックは、薬学に通じているのだから、国のためにも良い補佐となるだろう。疫病の多い我が国の根底を覆し、支えになる人のはずだ。
その手伝いを、オレリアもできればいい。むしろ、それを目標にしたい。
「私も、お手伝いしたいです」
言葉が口から勝手に出て、急にストンと、心の中にその目標が入った気がした。オレリアの目標は、子供たちのための薬草作りだが、進む先は子供たちの病を少しでも減らすこと。それは、王宮で働く薬学魔法士として、基盤を支え、薬学の水準を上げることである。
「オレリア、それは、そういう意味で、とっていいのか?」
「え?」
一瞬、意味がわからなかったが、すぐにその意味に気づく。
(局長の相手が、私になったら? 何を考えているの。でも、もしも、そうなれるならば)
「毎日、研究三昧ですね」
「そ、そうだな」
(なにを言っているの!? でも、なんて答えればいいのか)
そんなつもりで言ったのではなかったが、セドリックの問いを否定できなかった。けれど、なんと答えれば良いのか分からず、誤魔化すようになってしまった。
セドリックは軽く気が抜けたようになったが、微かに笑う。そうして、突然、床に膝を突くと、オレリアの手を取った。
「オレリア。俺のパートナーに、なってもらえないだろうか」
「それって、ぎ、偽装ってことですよね! そ、それくらい、任せてください! 女の敵になるのは、慣れていますから。楽勝ですよ!」
「……君を、危険な目に遭わせたりはしない」
「局長……」
セドリックは、約束すると、手の甲に口付けた。髭が当たろうがなんだろうが、そんなことされたことがなくて、オレリアは飛び上がりそうになった。
「そ、そうだ。あの研究で、わからないところがあって!」
空気に耐えきれない。オレリアは立ち上がった。セドリックの頭がボサボサで髭面だろうが、その言葉に舞い上がりそうになる。勢いよく立ち上がったので、セドリックは一瞬目を丸くしたが、すぐにフッと口元だけで笑った。
「疑問点があれば、なんでも言ってくれ。おかしなところは、全て明らかにしないと」
そう言って立ち上がると、セドリックは共同研究を行っている部屋に、オレリアを促したのだ。
「そんな頭して、ヒゲはやしているからよ。そうよねえ。私だって、こんなのが息子だとは思いたくないわ。せっかく、可愛く産んであげたのに、しつこい者たち程度をあしらえないなんて。面倒を起こす者たちになど、しっかりわからせてやれば良いだけのことでしょう。それができないからと、顔を隠して逃げるような真似をして、情けないこと」
エリザベトはぴしゃりと叱る。王族ならばそれくらい当然に行うことだと言われてしまえば、セドリックは何も言えなかった。エリザベトはセドリックの母親だけあって、それこそ人外の美しさだ。母親とは思えないほど若く、愛らしい顔をしている。顔は小さいし手足は長く、それこそ人形のように美しい。王女時代は色々あったのだろう。
カロリーナとは違うのは、そこに堂々とした雰囲気があるからだろうか。偽りのない、自然体の美しさだ。
「お互い、虫除けに良いのでしょう? あなたの幼馴染の恋人の誤解も、少しは解けるのではないの?」
「それは、そうかもしれませんが」
オレリアに恋人がいれば、カロリーナも静かになるのではないかという、エリザベトの提案は、たしかに良いかもしれない。しかし、オレリアがセドリックの恋人だと思われては、セドリックも嫌がるだろう。
女性たちにとやかく言われることについて、オレリアも気分の良いものではないが、大抵のことは言い返せる。面倒なのは、カロリーナのように、わけのわからない言い掛かりをつけてくることだ。
「セドリックが守れば、なんの問題もないでしょう?」
「母上。いい加減にしてくれ。オレリアに失礼だろう」
「だってえ。王がうるさいのだもの!」
「結局、そこか!」
「そうよ。うるさいのよ、あの方は! 王女の心配だけしておきなさいと言っているのに、息子の相手はまだか、決まらないのか。なら、こちらで決めるぞ。って言うのだもの。だったら、私が決めた方がいいでしょう!?」
「よくない……」
「お前が決めないのだから、私が決めると言っているだけです。ねえ、オレリアさん。大丈夫よ。ナヴァール大臣も心配されているのではないの? お相手が決まっていないのは、お互い様。お互いに、偽装すれば良いのではなくて? それって、とっても面白いと思うのよ。それで、本当になっても良いのだし?」
「母上!」
エリザベトの勢いが激しい。オレリアの手をぎゅっと握りしめてくる。
「かねがね、娘が欲しいと思っていたの。だから、着飾ったりしたいのよ」
「趣旨が違っているから、手を離してあげてくれ。困っているだろう!」
「はあ、残念ね。では、一人で頑張りなさいな。王は本気でいらっしゃるわよ」
いい加減身を固めろと、王からの圧力がかかるとは。セドリックは頭を抱えた。いつまでも逃げられないとは思っていただろうが、こんなに早く言われるとは、考えていなかったようだ。
「悪かったな。先ほどは」
「いえ、エリザベト様の気持ちもわかりますし。私の両親にも、似たようなことは言われているのだろうなと、想像できます」
お互いに、いつも薬学の研究をしている。オレリアに至っては、貴族の令嬢らしく、淑女のための学院で終えるべきだという親は多いのに、魔法学院に入学した。
成績によっては、薬学魔法士として王宮で働ける可能性も出てくる。薬学魔法士の資格は卒院にかかっており、成績によっては資格が取れないかもしれない。
オレリアの成績でそれはないだろうが、父親にとっては、王宮で働けた方が安心できるだろう。最高の研究所で働いて欲しいと思っているのは、オレリアもわかっている。オレリアのわがままで、大臣の娘ではなく、薬学魔法士を目指す一学生として生活しているのだから、王宮に辿り着いてほしいのだ。そうすれば、周囲の誰も文句は言えない。
身分を隠しているのも同じ。研究に没頭するのも同じ。両親に心配をかけているのも同じ。
「親近感を抱くな」
セドリックも同じことを考えていると、恥ずかしそうに笑う。
なんだかおかしくなってくる。二人で笑い合うと、セドリックは、エリザベトの言う通り、反論もできないと、静かに肩を下ろした。
「わかってはいるんだがな。アデラが女王になれば、俺は彼女の補佐になるだろう。俺たちは継承権で争っていないし、仲もいい。アデラの今後のためにも、力になれる家の者を娶って欲しいんだ」
「家の力は、必要な時がありますからね。当然だとは思います」
もしもセドリックが娶った女性の家が、アデラを推さず、セドリックを推すようなことになれば、国の派閥が揺らぐことになる。無駄な争いに身を投じることは、セドリックもアデラも好んでいない。協力し合いたいのだから、セドリックの後ろ盾となり、意志を尊重する相手が必要だ。
セドリックは、薬学に通じているのだから、国のためにも良い補佐となるだろう。疫病の多い我が国の根底を覆し、支えになる人のはずだ。
その手伝いを、オレリアもできればいい。むしろ、それを目標にしたい。
「私も、お手伝いしたいです」
言葉が口から勝手に出て、急にストンと、心の中にその目標が入った気がした。オレリアの目標は、子供たちのための薬草作りだが、進む先は子供たちの病を少しでも減らすこと。それは、王宮で働く薬学魔法士として、基盤を支え、薬学の水準を上げることである。
「オレリア、それは、そういう意味で、とっていいのか?」
「え?」
一瞬、意味がわからなかったが、すぐにその意味に気づく。
(局長の相手が、私になったら? 何を考えているの。でも、もしも、そうなれるならば)
「毎日、研究三昧ですね」
「そ、そうだな」
(なにを言っているの!? でも、なんて答えればいいのか)
そんなつもりで言ったのではなかったが、セドリックの問いを否定できなかった。けれど、なんと答えれば良いのか分からず、誤魔化すようになってしまった。
セドリックは軽く気が抜けたようになったが、微かに笑う。そうして、突然、床に膝を突くと、オレリアの手を取った。
「オレリア。俺のパートナーに、なってもらえないだろうか」
「それって、ぎ、偽装ってことですよね! そ、それくらい、任せてください! 女の敵になるのは、慣れていますから。楽勝ですよ!」
「……君を、危険な目に遭わせたりはしない」
「局長……」
セドリックは、約束すると、手の甲に口付けた。髭が当たろうがなんだろうが、そんなことされたことがなくて、オレリアは飛び上がりそうになった。
「そ、そうだ。あの研究で、わからないところがあって!」
空気に耐えきれない。オレリアは立ち上がった。セドリックの頭がボサボサで髭面だろうが、その言葉に舞い上がりそうになる。勢いよく立ち上がったので、セドリックは一瞬目を丸くしたが、すぐにフッと口元だけで笑った。
「疑問点があれば、なんでも言ってくれ。おかしなところは、全て明らかにしないと」
そう言って立ち上がると、セドリックは共同研究を行っている部屋に、オレリアを促したのだ。
2,843
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。私は彼女の秘密を知ってしまったようです【完結】
小平ニコ
恋愛
選ばれた貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される王立高等貴族院で、私は婚約者のチェスタスと共に楽しい学園生活を謳歌していた。
しかし、ある日突然転入してきたチェスタスの幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変してしまう。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。
チェスタスが言うには、『まだ王立高等貴族院の生活に慣れてないエミリーナを気遣ってやりたい』とのことだったが、彼のエミリーナに対する特別扱いは、一週間経っても、二週間経っても続き、私はどこか釈然としない気持ちで日々を過ごすしかなかった。
そんなある日、エミリーナの転入が、不正な方法を使った裏口入学であることを私は知ってしまう。私は間違いを正すため、王立高等貴族院で最も信頼できる若い教師――メイナード先生に、不正の報告をしようとした。
しかし、その行動に気がついたエミリーナは、私を屋上に連れて行き、口封じのために、地面に向かって突き落としたのだった……
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる