幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO

文字の大きさ
32 / 47

32 調べ

しおりを挟む
「邪魔をする気か!!」
「謂れなきことでここに入るならば、局長として対処するだけだ」
「局長!」
「オレリアは下がっていろ。皆は部屋から出るなよ!」
 セドリックが廊下に足を踏み出す。

 騎士たちは、セドリックを前に、とうとう剣に手を伸ばした。
 一人が奇声を上げて剣を振り上げる。それをさっと避けると、腹へ膝蹴りをして首へ手刀を落とす。騎士が悶えると、もう一人が同じように剣を振るってきた。セドリックの隙をついたと思っただろう。左手から発せられた炎にまかれると、悲鳴を上げてのけぞった。その瞬間、セドリックの長い足が顎に入り、一回転しそうなほど吹っ飛ばされる。起き上がった騎士が諦めず剣を振るうが、セドリックの相手にならない。かざした手から風が吹けば、鋭利な刃物で切られたように、騎士の肌を削いで血液が舞った。
 呆然とそれを見ている騎士もいる。セドリックの強さに驚きを隠せないようだ。

「手加減されてんなあ」
「あれで、手加減、しているんですか?」
 そうであれば、強すぎではなかろうか。騎士たちがまったく相手になっていない。相手は剣を構えているのに。

「局長は魔法部門で優勝してんだぞ。ついでに剣の腕は、そんじょそこらの騎士じゃ相手にならないほど。ふっつうに本気出されてみろ。首が物理的に飛ぶわ」
「首が飛んだら、廊下が汚れるわね」
 リビーが冗談に聞こえない発言をした。腹に据えかねているのか、もっとやっちゃえばいいのに、とリビーらしからぬ言葉も出てきた。

「こんな、こんなことをして、どうなるかわかって、」
「わかっているさ。わかっていないのは、お前たちだろう」
 口元を拭いながら騎士が負け惜しみを言うが、セドリックは何も気にしないと、鼻で笑った。
 威嚇するように手のひらに光を集めると、騎士たちがいかにも負け犬の遠吠えをして、傷んでいるであろう、足や腕を押さえながら、逃げるように去っていった。

「オレリア、大丈夫か。騎士相手に、よく防御魔法なんて使ったな。騎士が弾け飛んだから、笑いそうになったぞ」
「局長こそ、騎士相手にして、あんな簡単に倒してしまうなんて」
「さほどの奴らではなかったからな」
 それでも強すぎだろう。強すぎて、呆気に取られてしまう。セドリックは軽く手をはたいて、汚れを落とすだけだ。

「隊長を呼ぶまでもなかったですね」
「しかし、いい加減になんとかしないとな。一体、どうしてやつらは、オレリアを犯人に仕立てたいんだ?」

 皆がオレリアに注目する。オレリアも聞きたい。いくらカロリーナの話があっても、そこまで恨まれる理由がわからない。なにがあって、オレリアをあそこまで恨むような態度をするのだろう。心当たりがまったくない。騎士で関わりがあるのはエヴァンだけだ。エヴァンが妙な話を騎士たちにしているとは思えない。

「この間のあの金髪の騎士は、謹慎後、騎士をクビになったそうよ。牢屋の門番兵に命じられたとか。先ほどの騎士たちは、その逆恨みで犯人を決めつけているのかしら」
「ざまあみろじゃないですか。でも、あの金髪騎士がしつこくオレリアさんを悪く言ったのを、他の騎士たちが信じてるのなら、よっぽどあちこちに言いふらしたんだろうな」
「それで、私がいつでも犯人なのは、お断りしたいです」

 騎士たちはオレリアを直接知らないため、同じ騎士の話を鵜呑みにしたのだろうか。噂が噂を呼び、騎士たちの認識を深めてしまったのかもしれない。しかし、実際に人が亡くなっているのに、ずいぶんお粗末な話だ。オレリアを悪く言う風潮だけで決めつけるには、人が死んで、小さな話ではなくなっているのに。

「それにしても、毒で暗殺とは、物騒ですね。先に毒について調べる必要がありますね」
 ベンヤミンの言う通り、騎士たちと争っている場合ではない。毒を盛った者がいるのだ。
 患者のいる部屋に入り込み、薬湯の中に毒を入れた。薬湯ならば必ず患者は口にする。そこに毒が入るなどと、誰が思うだろうか。

「医療魔法士はオレリアを犯人だとは思っていないのだから、毒の種類などは聞けば教えてくれるだろう。何が起こっているかは、こちらも把握しないと。あいつらが何かの隙をついて、証拠を捏造してきそうだ。ディーン、毒の調査を手伝ってきてくれ」
「わかりました!」

 ディーンが走り去るのを見送って、セドリックは心配することはないと慰めてくれたが、さすがに今回は黙っていられない。殺人犯に仕立てられるほど、オレリアが何を恨まれると言うのだろうか。








 毒を盗んだ配送員。オレリアの部屋に毒を置いた金髪の騎士。そして、今回の、薬湯に毒を入れた者。
 オレリアを犯人に仕立てたい者がいるとしか思えない。しかしそこに共通点はなく、オレリアには関わりもない者たちだ。亡くなった騎士は、顔すら知らなかった。いや、看病の時に知っただけだ。

 騎士二人が亡くなったことは、すぐに噂された。誰が犯人かの噂はなかったが、毒が使われて亡くなったという話は、オレリアも耳にした。騎士が毒殺されるなど、かつてないことで、王宮内全体が、暗い雰囲気に覆われているようだった。

「医療魔法士も、あの部屋は誰でも入れるって、証言してたからな。気にすることはないって言いたいけど、騎士にアホが多すぎだろ」
 ディーンはぼやきながら、現状調査してわかったことを教えてくれる。

 金髪の騎士の影響か、オレリアが学生で、大した能力もなく薬草を調合していると、騎士たちの中で噂になっていたらしい。今回、オレリアが体調不良の騎士たちの薬湯を作ったため、オレリアが犯人と決めつけたようだ。
 毒の混入について、オレリアが行った証拠はもちろんなく、ただわかっているのは、薬湯に毒が入っていただけ。

 オレリアが薬湯を置いたテーブルは、二人のベッドの間にあった。犯人がそこに毒を入れたのは、一度に二人のポットに入れやすかったからだろうとの見解だ。毒はそのポットにしか入っておらず、他の患者の飲むポットには、毒は入っていなかった。

 毒は、研究所にある毒ではなく、どこからか手に入れられたようで、オレリアが研究所から盗んだということは否定された。入手経路はわからないため、騎士たちがその経路を調べている。その調査は別部隊が行なっているため、研究所にやってきた騎士は入っていない。

「そんなことで、オレリアさんを疑うってのもね。騎士クビになったあいつが、かなりしつこく言ってたらしいけど、根拠なくても、そこまで信じるかねえ。だいたい、あいつはオレリアさんを陥れようとしたわけじゃん。嘘ついてたのがバレてるのに、まだ信じてるのかっていう」
「騎士をクビにされたので、直接関わりがなくても、私のせいだと敵対視して、そんな噂を信じているんでしょうか。それにしても、メイドたちが噂するくらいの勢いで、噂がまわりすぎな気がします」
「意図的な感じはあるよな。毒もそうだけど、食中毒についても、原因がわかってないからなあ。直近で食べた物が同じでも、症状が出なかった奴もいたし、どこで同じものを口にしたのかっつう」

 団体戦に参加するため、行動は共にしていた者たちだが、全員が食中毒になったわけではない。他の所属の騎士も食中毒になっており、その騎士たちは、食事を同じにしていなかった。

「ここまでいくと、食中毒になったのも、誰かの仕業だったんだろうなあ」
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。私は彼女の秘密を知ってしまったようです【完結】

小平ニコ
恋愛
選ばれた貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される王立高等貴族院で、私は婚約者のチェスタスと共に楽しい学園生活を謳歌していた。 しかし、ある日突然転入してきたチェスタスの幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変してしまう。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。 チェスタスが言うには、『まだ王立高等貴族院の生活に慣れてないエミリーナを気遣ってやりたい』とのことだったが、彼のエミリーナに対する特別扱いは、一週間経っても、二週間経っても続き、私はどこか釈然としない気持ちで日々を過ごすしかなかった。 そんなある日、エミリーナの転入が、不正な方法を使った裏口入学であることを私は知ってしまう。私は間違いを正すため、王立高等貴族院で最も信頼できる若い教師――メイナード先生に、不正の報告をしようとした。 しかし、その行動に気がついたエミリーナは、私を屋上に連れて行き、口封じのために、地面に向かって突き落としたのだった……

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木 うりこ
恋愛
 父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。 「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」  庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。  少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *) HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい! 色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー! ★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!  これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい! 【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...