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46 日々
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カロリーナが死んでしまったので、すべてを明らかにするのは難しいが、事件は収束に近づき、オレリアの実習も終わりが近づいていた。
日常は戻ったが、オレリアは普段とは違った生活を始めている。
「婚約するんですって?」
王女アデラがにんまり笑って問うてくる。オレリアは頬が熱くなるのを感じながら、頷いた。
「卒院してからの話で、まだしっかり決まったわけではないのですが」
「お兄様が婚約する気になったのだもの、話がなくなることなどないでしょう。お兄様と結婚ならば、私たちは姉妹のようなものよ。お父様も喜んでいたわ。やっと相手が見つかったのかって」
王族と姉妹のようになると言われると、ぐっと婚約に重みが増す。社交界にほとんど出ていなかったのに、いきなり王族と関わることになるとは。
これから家族間で顔合わせが行われ、婚約のあれこれを確認し合うことになるのだが、その前に、
「食事会が楽しみねえ」
アデラが満面の笑みを湛えた。オレリアはがくりと肩を下ろす。
そう。食事会という名の、顔合わせがあるのだ。エリザベトたち、セドリックの両親との顔合わせではなく、王との顔合わせである。
「気を張ることはないわよ。ただの伯父との食事会じゃない」
「それは、無理ではないでしょうか」
セドリックは王と親しいこともあり、王と王妃、アデラ、エリザベト、その夫と共に食事会が予定された。まだ婚約は決定ではないのだが、という言い訳はきかない。
「仕方ないわよ。みんなずっとお兄様のこと心配していたんだもの。あのまま独身だったらどうしようって。それにあなたが風穴を開けたわけだし。あの研究バカと話していても飽きないというところが素晴らしいわ。それだけで、普通の令嬢では話相手にならないのよ? 信じられないでしょう」
褒められているのか貶されているのかわからないが、それほど衝撃的な婚約のようだ。王が大喜びだとは聞いていたが、他にも心配していた人は多かったのだろう。エリザベトは、オレリアとセドリックが夜中研究について話し続けていたことに呆れていた。自分たちにとっては日常でも、畑違いの令嬢には難しいかもしれないと思い直す。
そこまで気が合うのは珍しいと言われて、研究者なら同じだと思ったのだが、なにかが違うらしい。そのなにかは、エリザベトには教えてもらえなかった。
「ちょっと待って、もしかしてお兄様には、研究仲間で気が合うと言われただけ? それで婚約しようって?」
「え、ええと。セドリック様には、そのようにしか言われてなくて」
「あの、朴念仁! ちょっと、どうやって婚約になったのよ!」
「え、えええっと。婚約に至ったのは、事件が収束してから、お話があると言われていて、その、そのお話が、婚約についてでして。研究について意見を忌憚なく言い合えるし、薬学について切磋琢磨できるし、この先同じ方向を向いていけるからと」
「ちょっと、本当にそれだけなの!? まさか、あなたも!?」
セドリックからすれば、それだけと言うか。それしかなかった、と言うか。オレリアにとっては、セドリックの研究熱心さに加えて、頼り甲斐のあるところから、性格諸々、兄のような存在から、隣に並べるような者になれればという、願望が膨らみ……。
「ダメだわ。あなたたち。もう少し、研究から離れて話し合いなさい!」
アデラが頭を抱える。ついでに、もっと恋愛脳はないの? と真剣な顔で問われる。
「まあ、これからは、あのむさいヒゲ面を見なくて済むと思えば、まだましだけれど」
「あ、また伸ばしていましたよ?」
「なんでよ!!」
「顔が寂しいっておっしゃっていました」
「止めなさい! 命令だからね!!」
アデラは絶対許さないとがなる。女性たちに囲まれるのをかわいそうにと眺めていた手前、汚らしくするのは仕方がないと思い込もうとしていたそうだ。しかし許せないと、いつか必ずあの髭を剃らせるつもりだったとか。
オレリアは苦笑いをする。オレリアにとってセドリックはボサボサ頭の髭面なので、むしろその方が安心するのだが。そんなことを言ったら怒られそうだ。
「噂をすれば、やっと来たわね」
髭は伸ばしているが、まだ短く、前髪を軽く上げて、髪の毛をゆるくまとめたセドリックがやってくる。あの程度ならまだ許せるわね。とアデラの呟きが聞こえた。
「遅いじゃないの、お兄様。もうお茶は飲み終わってしまったわよ」
「王の話が長かったんだ」
婚約について根掘り葉掘り聞かれたらしい、セドリックが席に着くなり、ちらりとオレリアを横目で見た。
「なにか、ありましたか?」
「いや、なんというか、……婚約式が大きくなるかもしれない」
「え、どうして、また」
セドリックとオレリアの希望が合って、婚約式は小さく、親しい人を呼ぶだけにしようと話し合っていた。セドリックは派手なものは嫌いで、オレリアは社交界に友達は少ない。両親は自分の娘であることを大きく出したかったようだが、なんとか納得してもらえていた。
「当然じゃない。王の親族で、血の繋がった、たった一人の甥なんだから。私が結婚したら、相手は王配になるだけなのよ。私に何かあった場合、お兄様が王だと考えれば、婚約は大々的にしたいでしょう?」
「不吉なことを言わないでくれ」
「安心してちょうだい。私が女王になったら、こき使ってやるから。日々お茶会だらけよ!」
「オレリアと話したいだけじゃないか。今だって、こんなにお茶に呼んで」
「いいじゃないの! お兄様のなにが良かったか、事細かに聞きたいじゃない! あのボサ髭面のなにが良かったのか、根掘り葉掘り聞きたいじゃない! お兄様だって気になるでしょう!?」
「で、殿下」
オレリアは焦る。先ほど話していた話を、セドリックに言うつもりか。その通りと、アデラは、研究に熱心なところってなに!? つまらなすぎない!? と大声で口にした。
セドリックが、がっかりした顔をする。
「そ、それだけではないですからね!?」
「そ、そうか」
「あーあ、見てらんないわあ。婚約は卒院後なんでしょー。その後は、薬学研究所で研究員? 家でも仕事でも一緒にいたいって? お熱いことー。でも、今は離れて暮らしてるんですものね。束の間の独身を謳歌すればいいんじゃない?」
お互い照れていると、アデラがどうでもよさそうにして、お茶を啜った。
事件が収束したことにより、オレリアは実家に戻っていた。エリザベトは残念がっていたが、セドリックとの研究も終盤に差しかかっていたので、家に戻ることになった。婚約の話が出たこともあり、寮ではなく実家に帰っている。実習訓練も終盤を迎え、卒院のための論文も滞りなく終わったので、特に問題はない。
大臣の娘だということは、セドリックの相手となった今、公にしなければ、学院の身分のない生徒でもセドリックの相手になれるのだと考える貴族の親たちが、娘を我先に紹介してくることが予想されたため、結局オレリアの身分を出すことになった。
それについてセドリックは申し訳なさそうにしたが、公にするのは卒院後になるため、その頃には薬学魔法士の資格は得られているだろう。それと、水のない場所で植物を育てる研究について、正式に評価され、実用化されたので、実績を得られたおかげで、コネについても問題視されなかった。
オレリアが気にしていたのは、大臣の娘だとわかり優遇されることだ。すでに薬学研究所で研究の手伝いをし、自分の研究も認められたので、セドリックが謝る必要はない。セドリックも似たような経験があって気になるのだろう。
日常は戻ったが、オレリアは普段とは違った生活を始めている。
「婚約するんですって?」
王女アデラがにんまり笑って問うてくる。オレリアは頬が熱くなるのを感じながら、頷いた。
「卒院してからの話で、まだしっかり決まったわけではないのですが」
「お兄様が婚約する気になったのだもの、話がなくなることなどないでしょう。お兄様と結婚ならば、私たちは姉妹のようなものよ。お父様も喜んでいたわ。やっと相手が見つかったのかって」
王族と姉妹のようになると言われると、ぐっと婚約に重みが増す。社交界にほとんど出ていなかったのに、いきなり王族と関わることになるとは。
これから家族間で顔合わせが行われ、婚約のあれこれを確認し合うことになるのだが、その前に、
「食事会が楽しみねえ」
アデラが満面の笑みを湛えた。オレリアはがくりと肩を下ろす。
そう。食事会という名の、顔合わせがあるのだ。エリザベトたち、セドリックの両親との顔合わせではなく、王との顔合わせである。
「気を張ることはないわよ。ただの伯父との食事会じゃない」
「それは、無理ではないでしょうか」
セドリックは王と親しいこともあり、王と王妃、アデラ、エリザベト、その夫と共に食事会が予定された。まだ婚約は決定ではないのだが、という言い訳はきかない。
「仕方ないわよ。みんなずっとお兄様のこと心配していたんだもの。あのまま独身だったらどうしようって。それにあなたが風穴を開けたわけだし。あの研究バカと話していても飽きないというところが素晴らしいわ。それだけで、普通の令嬢では話相手にならないのよ? 信じられないでしょう」
褒められているのか貶されているのかわからないが、それほど衝撃的な婚約のようだ。王が大喜びだとは聞いていたが、他にも心配していた人は多かったのだろう。エリザベトは、オレリアとセドリックが夜中研究について話し続けていたことに呆れていた。自分たちにとっては日常でも、畑違いの令嬢には難しいかもしれないと思い直す。
そこまで気が合うのは珍しいと言われて、研究者なら同じだと思ったのだが、なにかが違うらしい。そのなにかは、エリザベトには教えてもらえなかった。
「ちょっと待って、もしかしてお兄様には、研究仲間で気が合うと言われただけ? それで婚約しようって?」
「え、ええと。セドリック様には、そのようにしか言われてなくて」
「あの、朴念仁! ちょっと、どうやって婚約になったのよ!」
「え、えええっと。婚約に至ったのは、事件が収束してから、お話があると言われていて、その、そのお話が、婚約についてでして。研究について意見を忌憚なく言い合えるし、薬学について切磋琢磨できるし、この先同じ方向を向いていけるからと」
「ちょっと、本当にそれだけなの!? まさか、あなたも!?」
セドリックからすれば、それだけと言うか。それしかなかった、と言うか。オレリアにとっては、セドリックの研究熱心さに加えて、頼り甲斐のあるところから、性格諸々、兄のような存在から、隣に並べるような者になれればという、願望が膨らみ……。
「ダメだわ。あなたたち。もう少し、研究から離れて話し合いなさい!」
アデラが頭を抱える。ついでに、もっと恋愛脳はないの? と真剣な顔で問われる。
「まあ、これからは、あのむさいヒゲ面を見なくて済むと思えば、まだましだけれど」
「あ、また伸ばしていましたよ?」
「なんでよ!!」
「顔が寂しいっておっしゃっていました」
「止めなさい! 命令だからね!!」
アデラは絶対許さないとがなる。女性たちに囲まれるのをかわいそうにと眺めていた手前、汚らしくするのは仕方がないと思い込もうとしていたそうだ。しかし許せないと、いつか必ずあの髭を剃らせるつもりだったとか。
オレリアは苦笑いをする。オレリアにとってセドリックはボサボサ頭の髭面なので、むしろその方が安心するのだが。そんなことを言ったら怒られそうだ。
「噂をすれば、やっと来たわね」
髭は伸ばしているが、まだ短く、前髪を軽く上げて、髪の毛をゆるくまとめたセドリックがやってくる。あの程度ならまだ許せるわね。とアデラの呟きが聞こえた。
「遅いじゃないの、お兄様。もうお茶は飲み終わってしまったわよ」
「王の話が長かったんだ」
婚約について根掘り葉掘り聞かれたらしい、セドリックが席に着くなり、ちらりとオレリアを横目で見た。
「なにか、ありましたか?」
「いや、なんというか、……婚約式が大きくなるかもしれない」
「え、どうして、また」
セドリックとオレリアの希望が合って、婚約式は小さく、親しい人を呼ぶだけにしようと話し合っていた。セドリックは派手なものは嫌いで、オレリアは社交界に友達は少ない。両親は自分の娘であることを大きく出したかったようだが、なんとか納得してもらえていた。
「当然じゃない。王の親族で、血の繋がった、たった一人の甥なんだから。私が結婚したら、相手は王配になるだけなのよ。私に何かあった場合、お兄様が王だと考えれば、婚約は大々的にしたいでしょう?」
「不吉なことを言わないでくれ」
「安心してちょうだい。私が女王になったら、こき使ってやるから。日々お茶会だらけよ!」
「オレリアと話したいだけじゃないか。今だって、こんなにお茶に呼んで」
「いいじゃないの! お兄様のなにが良かったか、事細かに聞きたいじゃない! あのボサ髭面のなにが良かったのか、根掘り葉掘り聞きたいじゃない! お兄様だって気になるでしょう!?」
「で、殿下」
オレリアは焦る。先ほど話していた話を、セドリックに言うつもりか。その通りと、アデラは、研究に熱心なところってなに!? つまらなすぎない!? と大声で口にした。
セドリックが、がっかりした顔をする。
「そ、それだけではないですからね!?」
「そ、そうか」
「あーあ、見てらんないわあ。婚約は卒院後なんでしょー。その後は、薬学研究所で研究員? 家でも仕事でも一緒にいたいって? お熱いことー。でも、今は離れて暮らしてるんですものね。束の間の独身を謳歌すればいいんじゃない?」
お互い照れていると、アデラがどうでもよさそうにして、お茶を啜った。
事件が収束したことにより、オレリアは実家に戻っていた。エリザベトは残念がっていたが、セドリックとの研究も終盤に差しかかっていたので、家に戻ることになった。婚約の話が出たこともあり、寮ではなく実家に帰っている。実習訓練も終盤を迎え、卒院のための論文も滞りなく終わったので、特に問題はない。
大臣の娘だということは、セドリックの相手となった今、公にしなければ、学院の身分のない生徒でもセドリックの相手になれるのだと考える貴族の親たちが、娘を我先に紹介してくることが予想されたため、結局オレリアの身分を出すことになった。
それについてセドリックは申し訳なさそうにしたが、公にするのは卒院後になるため、その頃には薬学魔法士の資格は得られているだろう。それと、水のない場所で植物を育てる研究について、正式に評価され、実用化されたので、実績を得られたおかげで、コネについても問題視されなかった。
オレリアが気にしていたのは、大臣の娘だとわかり優遇されることだ。すでに薬学研究所で研究の手伝いをし、自分の研究も認められたので、セドリックが謝る必要はない。セドリックも似たような経験があって気になるのだろう。
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