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1 ープロローグー
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フィオナ・ブルイエが目を覚ました時、そこは見知らぬ部屋の中だった。
誰のベッドで寝そべっているのか、自分のベッドにはない天蓋が付いている。
「奥様、セレスティーヌ様!! 私の声が聞こえますか!?」
涙を溜めている女性が、ベッドの側で誰かの名を叫ぶように呼んだ。
焦茶の髪をまとめた見慣れない女性は、同じ色の瞳からぼろぼろと涙を溢れさせる。
「部屋で倒れていて、息もしていなかったので、死んでしまったのかと……っ」
そう言って、うっ、と嗚咽を漏らした。
周囲には見知らぬ顔の者たちがいた。部屋はフィオナの部屋と違い、美しい装飾が施された調度品などが置かれている。
見たこともない豪華な部屋だ。フィオナの部屋ではないことは、はっきりと分かる。
「はあ、一体なにをしたら気を失うのですか? またおかしな物でも飲んでこれ見よがしに倒れて、人を驚かせたかっただけですか?」
明らかに棘のある言い方をして鼻で笑ったのは、ベッドから離れて立っていた男だ。
輝く銀髪とターコイズブルーの瞳。すこぶる顔が良く整った容姿で、他の人とは違う装飾の多い身なりをしている。人形みたいだなとぼんやり思ったが、フィオナを見る視線に嫌悪感が見えた。
男は目を眇めてうんざりした顔を隠しもせず、扉の方へ踵を返す。
「注目を浴びたいからといって、妙な真似は金輪際やめていただきたいですね」
そう捨て台詞を吐いて、銀髪の男は部屋から出ていった。
側にいた白衣を着た医師のような男性がその後ろ姿を視線で追いつつも、同情めいた顔をこちらに向ける。
「しばらくは、安静になさってください」
その医師らしき男が遠慮げに言って部屋を出ていくと、メイドのような女性たちや執事のような男性も頭を下げて出ていく。残ったのは涙を流していた一人の女性だけだ。
「奥様、あの、ご無事で良かったです。床に倒れていたのを見た時は、心臓が止まりそうになりました。旦那様も急いでお部屋に来てくださって……」
「奥様? 旦那様? ちょっと待ってください。これ、夢かしら?」
フィオナは自分の手で頬をつねろうと腕を出したが、その腕にギョッとした。
フィオナは体が弱いこともあって、腕は肉がほとんどなく血管が浮き出て青白かった。爪も栄養が届かないとぼこぼこだったのだが、今のフィオナの腕は色白で、手も爪先も綺麗に手入れがされている、健康で何もしたことのない手だった。
「かがみ、鏡はどこですか!?」
「え、こ、こちらに」
茶色髪の女性が手鏡を持ってくる。そこに映った顔を見て、フィオナは愕然とした。
そこにいた女性はミルクティーのようなブロンドのまっすぐな髪を腰まで伸ばしており、瞳はそれに似合う炎を連想させる茶色がかったオレンジ色だ。
目鼻立ちが整っており相当美人に見えるが、目の下にはクマがあり、少しだけやつれているように見えた。
「ど、どうなってるの?」
考えても良く分からない。今分かっているのは、フィオナは自分の体ではなく、別人の体になっていることだけだ。
「なにか、おかしなことが起きているんだわ。夢ではないわよね」
「お、奥様……? 倒れられて、なにか混乱されているのでは?」
目の前にいるメイドのような女性は、オロオロとフィオナを見遣っている。確かに彼女は奥様のメイドなのだろう。調度品などから見るに、セレスティーヌと呼ばれた女性は裕福な家の奥様で、フィオナはその女性の体を乗っ取っているのだ。
「あの、メイドさん? 今、私は、一体、誰なんでしょうか?」
フィオナの言葉に、メイドの女性は呆然と口を開けたままだった。
誰のベッドで寝そべっているのか、自分のベッドにはない天蓋が付いている。
「奥様、セレスティーヌ様!! 私の声が聞こえますか!?」
涙を溜めている女性が、ベッドの側で誰かの名を叫ぶように呼んだ。
焦茶の髪をまとめた見慣れない女性は、同じ色の瞳からぼろぼろと涙を溢れさせる。
「部屋で倒れていて、息もしていなかったので、死んでしまったのかと……っ」
そう言って、うっ、と嗚咽を漏らした。
周囲には見知らぬ顔の者たちがいた。部屋はフィオナの部屋と違い、美しい装飾が施された調度品などが置かれている。
見たこともない豪華な部屋だ。フィオナの部屋ではないことは、はっきりと分かる。
「はあ、一体なにをしたら気を失うのですか? またおかしな物でも飲んでこれ見よがしに倒れて、人を驚かせたかっただけですか?」
明らかに棘のある言い方をして鼻で笑ったのは、ベッドから離れて立っていた男だ。
輝く銀髪とターコイズブルーの瞳。すこぶる顔が良く整った容姿で、他の人とは違う装飾の多い身なりをしている。人形みたいだなとぼんやり思ったが、フィオナを見る視線に嫌悪感が見えた。
男は目を眇めてうんざりした顔を隠しもせず、扉の方へ踵を返す。
「注目を浴びたいからといって、妙な真似は金輪際やめていただきたいですね」
そう捨て台詞を吐いて、銀髪の男は部屋から出ていった。
側にいた白衣を着た医師のような男性がその後ろ姿を視線で追いつつも、同情めいた顔をこちらに向ける。
「しばらくは、安静になさってください」
その医師らしき男が遠慮げに言って部屋を出ていくと、メイドのような女性たちや執事のような男性も頭を下げて出ていく。残ったのは涙を流していた一人の女性だけだ。
「奥様、あの、ご無事で良かったです。床に倒れていたのを見た時は、心臓が止まりそうになりました。旦那様も急いでお部屋に来てくださって……」
「奥様? 旦那様? ちょっと待ってください。これ、夢かしら?」
フィオナは自分の手で頬をつねろうと腕を出したが、その腕にギョッとした。
フィオナは体が弱いこともあって、腕は肉がほとんどなく血管が浮き出て青白かった。爪も栄養が届かないとぼこぼこだったのだが、今のフィオナの腕は色白で、手も爪先も綺麗に手入れがされている、健康で何もしたことのない手だった。
「かがみ、鏡はどこですか!?」
「え、こ、こちらに」
茶色髪の女性が手鏡を持ってくる。そこに映った顔を見て、フィオナは愕然とした。
そこにいた女性はミルクティーのようなブロンドのまっすぐな髪を腰まで伸ばしており、瞳はそれに似合う炎を連想させる茶色がかったオレンジ色だ。
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考えても良く分からない。今分かっているのは、フィオナは自分の体ではなく、別人の体になっていることだけだ。
「なにか、おかしなことが起きているんだわ。夢ではないわよね」
「お、奥様……? 倒れられて、なにか混乱されているのでは?」
目の前にいるメイドのような女性は、オロオロとフィオナを見遣っている。確かに彼女は奥様のメイドなのだろう。調度品などから見るに、セレスティーヌと呼ばれた女性は裕福な家の奥様で、フィオナはその女性の体を乗っ取っているのだ。
「あの、メイドさん? 今、私は、一体、誰なんでしょうか?」
フィオナの言葉に、メイドの女性は呆然と口を開けたままだった。
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