4 / 103
3② ー朝食ー
しおりを挟む
「旦那さん、全く私のことに気付いてませんよね」
そもそもクラウディオはセレスティーヌを視界に入れない。透明人間にでもなったかのような気分にさせられた。
話さずに済んで良かったと安堵したくなるが、クラウディオの態度のせいで美味しい食事が全く楽しめなかった。
セレスティーヌがあの無言の状況で朝食を毎朝味わっていたのかと思うと、さすがに同情する。
「旦那様はセレスティーヌ様と朝食以外ご一緒されることは少ないですから。だからといって、このまま気付かれないとは限らないかと。さすがに、別人だとは思われないでしょうが」
体はセレスティーヌなのだから、別人とは思わないだろう。しかし、顔を合わせて話すことが増えれば、クラウディオもおかしいと思うかもしれない。
「リディさん、旦那さんと一緒の朝食をなしにできないですか?」
「旦那様との朝食でしたら、やめられると思いますけれど」
廊下を歩きながら、フィオナはリディに問うた。むしろ喜んでやめてくれるだろう。あれは不毛すぎる。それに、一人で食べた方が美味しい朝ご飯もさらに美味しくなるはずではなかろうか。
「では、そうしましょう。私が別人だと知られないように、できるだけ顔は合わせない方がいいでしょうし」
「お話ししなければ気付かれないとは思いますが、今のフィオナ様と前のセレスティーヌ様とではお顔も若干違いますから、会わない方が良いと思います」
リディは今と前のセレスティーヌの違いを口にする。顔は同じでも雰囲気が違うのだと遠慮げに言った。
セレスティーヌはクラウディオの前では緊張するのか、遠慮をしておどおどと話すことが多い。
弱気で臆病ながらヒステリックであり、時折ひどくしつこく食い下がるセレスティーヌと、はきはき話すフィオナでは顔色すら違うらしい。
それはなおさら、クラウディオに会わない方が良い。
決して、日も上らぬ朝に早起きをして、風呂やら化粧やら髪型やらなんやら、整えるのが面倒だからではない。
「フィオナ様。こちらが書庫になります」
リディに案内されてフィオナは書庫に入った。フィオナの住んでいた町がどこに位置しているのか調べるためだ。
書庫に行けばなにか知り得るかもしれない。元の体に戻るためにも、原因を調べなければどうにもならない。そのため、書庫にこもることに決めたのだ。
本来ならば公爵家のなにかしらの仕事をするのが夫人の役目なのだが、クラウディオはそれを許していない。セレスティーヌはここでなにかを行うことはなく、いつもぼんやり庭を散歩し、特に趣味もなく過ごしていたようだ。
セレスティーヌは毎日余程つまらない時間を過ごしていたのだろう。
「フィオナ様は、文字は読めるのでしょうか……?」
「大丈夫です。言語は同じようですし」
リディが遠慮げに聞いてくるが、フィオナの家にも書庫があり多数の本があった。
学校には行っていなかったが、祖父が勉強を教えてくれたので文字を読むのは問題ない。幸い背表紙に書かれた題名は読め、文字は同じだった。話している言葉も同じなのだから、問題はなさそうだ。
「フィオナ様のお家は教育に熱心だったんですね。お食事のマナーも問題なかったので、安心しました」
リディはクラウディオとの朝食で間違いがないよう、セレスティーヌの真似をさせるため、前日にマナーの練習をさせた。セレスティーヌと同じようなマナーを行えなければ、さすがにクラウディオが変に思うからだ。
そこでフィオナの動作に安堵していた。体を乗っ取った名ばかり貴族のフィオナが、まともにマナーを学んでいるとは限らないと心配していたのだろう。
「ブルイエ家は没落寸前で、父が花嫁修行の方が大事だと言って学校には通わせてくれませんでした。そもそも私は体が弱いので、寮に入ることもできなかったんですけれど。なので、教育熱心だった祖父がなんでも教えてくれたんです」
「素晴らしいお祖父様がいらっしゃったんですね」
「おかげで本を読むのは大好きです。それに、ブルイエ家では儀式を継ぐ者が必要だったので、そういった伝統も習う必要があるんです」
「儀式、ですか?」
フィオナの生まれたブルイエ家には、古い歴史があった。古くに王様から賜った広い土地を持ち、その土地を代々守ってきたのである。
ただし持っていたのは土地だけだ。その土地もお金がなくなるたび売る羽目になり、フィオナが生まれた頃には屋敷が建っている土地と、屋敷の裏にある広い森だけになっていた。
「その森の中に、いわく付きの石碑があるんです。昔の王様からこの石碑だけは守れと言われたとかなんとか。年に一度、お供えをしたり祈ったりする儀式を行うんですが、何百年も続けて行なっているみたいです」
「それは、とても歴史のあるお家なんですね」
「本当かどうか分かりませんけれどね」
父親はその儀式になど目も向けなかった。本来ならば妹も学ぶべきだったが、そんなことを学ぶくらいならば刺繍でも学べとののしった。もともと、妹に学ぶ気はなかったが。
祖父は厳格に儀式を行なっていたが、それも自分の代で終わるのではないかと恐れていた。フィオナの体力ではその儀式が行えなかったからだ。
そもそもクラウディオはセレスティーヌを視界に入れない。透明人間にでもなったかのような気分にさせられた。
話さずに済んで良かったと安堵したくなるが、クラウディオの態度のせいで美味しい食事が全く楽しめなかった。
セレスティーヌがあの無言の状況で朝食を毎朝味わっていたのかと思うと、さすがに同情する。
「旦那様はセレスティーヌ様と朝食以外ご一緒されることは少ないですから。だからといって、このまま気付かれないとは限らないかと。さすがに、別人だとは思われないでしょうが」
体はセレスティーヌなのだから、別人とは思わないだろう。しかし、顔を合わせて話すことが増えれば、クラウディオもおかしいと思うかもしれない。
「リディさん、旦那さんと一緒の朝食をなしにできないですか?」
「旦那様との朝食でしたら、やめられると思いますけれど」
廊下を歩きながら、フィオナはリディに問うた。むしろ喜んでやめてくれるだろう。あれは不毛すぎる。それに、一人で食べた方が美味しい朝ご飯もさらに美味しくなるはずではなかろうか。
「では、そうしましょう。私が別人だと知られないように、できるだけ顔は合わせない方がいいでしょうし」
「お話ししなければ気付かれないとは思いますが、今のフィオナ様と前のセレスティーヌ様とではお顔も若干違いますから、会わない方が良いと思います」
リディは今と前のセレスティーヌの違いを口にする。顔は同じでも雰囲気が違うのだと遠慮げに言った。
セレスティーヌはクラウディオの前では緊張するのか、遠慮をしておどおどと話すことが多い。
弱気で臆病ながらヒステリックであり、時折ひどくしつこく食い下がるセレスティーヌと、はきはき話すフィオナでは顔色すら違うらしい。
それはなおさら、クラウディオに会わない方が良い。
決して、日も上らぬ朝に早起きをして、風呂やら化粧やら髪型やらなんやら、整えるのが面倒だからではない。
「フィオナ様。こちらが書庫になります」
リディに案内されてフィオナは書庫に入った。フィオナの住んでいた町がどこに位置しているのか調べるためだ。
書庫に行けばなにか知り得るかもしれない。元の体に戻るためにも、原因を調べなければどうにもならない。そのため、書庫にこもることに決めたのだ。
本来ならば公爵家のなにかしらの仕事をするのが夫人の役目なのだが、クラウディオはそれを許していない。セレスティーヌはここでなにかを行うことはなく、いつもぼんやり庭を散歩し、特に趣味もなく過ごしていたようだ。
セレスティーヌは毎日余程つまらない時間を過ごしていたのだろう。
「フィオナ様は、文字は読めるのでしょうか……?」
「大丈夫です。言語は同じようですし」
リディが遠慮げに聞いてくるが、フィオナの家にも書庫があり多数の本があった。
学校には行っていなかったが、祖父が勉強を教えてくれたので文字を読むのは問題ない。幸い背表紙に書かれた題名は読め、文字は同じだった。話している言葉も同じなのだから、問題はなさそうだ。
「フィオナ様のお家は教育に熱心だったんですね。お食事のマナーも問題なかったので、安心しました」
リディはクラウディオとの朝食で間違いがないよう、セレスティーヌの真似をさせるため、前日にマナーの練習をさせた。セレスティーヌと同じようなマナーを行えなければ、さすがにクラウディオが変に思うからだ。
そこでフィオナの動作に安堵していた。体を乗っ取った名ばかり貴族のフィオナが、まともにマナーを学んでいるとは限らないと心配していたのだろう。
「ブルイエ家は没落寸前で、父が花嫁修行の方が大事だと言って学校には通わせてくれませんでした。そもそも私は体が弱いので、寮に入ることもできなかったんですけれど。なので、教育熱心だった祖父がなんでも教えてくれたんです」
「素晴らしいお祖父様がいらっしゃったんですね」
「おかげで本を読むのは大好きです。それに、ブルイエ家では儀式を継ぐ者が必要だったので、そういった伝統も習う必要があるんです」
「儀式、ですか?」
フィオナの生まれたブルイエ家には、古い歴史があった。古くに王様から賜った広い土地を持ち、その土地を代々守ってきたのである。
ただし持っていたのは土地だけだ。その土地もお金がなくなるたび売る羽目になり、フィオナが生まれた頃には屋敷が建っている土地と、屋敷の裏にある広い森だけになっていた。
「その森の中に、いわく付きの石碑があるんです。昔の王様からこの石碑だけは守れと言われたとかなんとか。年に一度、お供えをしたり祈ったりする儀式を行うんですが、何百年も続けて行なっているみたいです」
「それは、とても歴史のあるお家なんですね」
「本当かどうか分かりませんけれどね」
父親はその儀式になど目も向けなかった。本来ならば妹も学ぶべきだったが、そんなことを学ぶくらいならば刺繍でも学べとののしった。もともと、妹に学ぶ気はなかったが。
祖父は厳格に儀式を行なっていたが、それも自分の代で終わるのではないかと恐れていた。フィオナの体力ではその儀式が行えなかったからだ。
419
あなたにおすすめの小説
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる