目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
9 / 103

6① ー襲来ー 

しおりを挟む
「フィオナ。無理をしてでも、パーティに行くんだ」
「起きるのよ、フィオナ。パーティに行かなければ」

 父親も母親も、熱を出して動けないフィオナに、パーティに出席しろと、何度も言う。

「お姉様、また体調が悪いのね。パーティに行けなくて、可哀想。でも、休んだ方がいいものね」

 妹のジネットは人の体調が悪いことを喜ぶように、わざとらしく可哀想と口にする。
 その三人の態度も言葉も慣れた。

 うるさいから、さっさと部屋から出て行ってほしい。

 パーティへの参加が決まったのに、どうして病気になるのか。両親は口々に言うが、参加してもダンスは踊れない。長時間立ち続けていることも難しい。そんな体力のないフィオナに、なんとしてでもパーティに参加しろと命じる両親にうんざりする。

 病気が長引いてほとんどベッドの上にいれば、両親は顔を見せなくなった。メイドが食事を運んでくるだけで、今が一体何日なのか分からなくなるほどだった。
 けれど、体調が良くなって森への散歩をしたり、孤児院に出掛けたりすれば、再び両親がパーティには出られるのか聞いてくる。

 そうするとジネットは醜く見えるほど鼻の上に皺を寄せて、お姉様ばかりパーティに行くのはずるいと、怒鳴り散らした。

 面倒な両親と妹。

 体が強く、元気であれば、フィオナは家を出ただろう。だが、元気であればパーティに出席しなければならない。それが嫌だったから、ベッドで眠っている方が良かった。
 それでも、どこへ行っても体調が悪くならないように、元気であればと、いつも願っていた。




 目が覚めると、そこは天蓋のある豪華なベッドの上で、フィオナは汗を拭って起き上がった。銀縁と薄い青に統一された部屋。セレスティーヌの部屋であることに、フィオナは大きくため息をつく。

「元気でも、この体じゃね……」
「セレスティーヌ様、おはようございます」

 ベッドから降りようとすると、メイドのリディが顔を洗うお湯の入った桶を運んで来てくれた。

「……、フィオナです」

 がっかり顔のリディは毎日セレスティーヌに挨拶する気だ。フィオナもそうであればと祈っているが、その祈りは未だ届いていない。

「本日はお客様がいらっしゃいますので、頑張ってくださいね」
「分かってます。何とかバレないように、気を付けますね」

 クラウディオに会わずに、慣れないセレスティーヌの体でなんとかこの生活に慣れようとしている時に、新しい風がやってくるそうだ。

「こちらが、アロイス坊ちゃんです」

 出迎えた先、馬車から現れたのは、セレスティーヌの実の姉の子、アロイスである。

「ふ、ぎゃあああああっ!!」

 耳をつんざく激しい泣き方に、皆が後退りしそうになる。
 アロイスは連れてきた乳母の抱っこを嫌がり、かといってフィオナの方に寄ってくることもせず、ただ暴れるように大きく泣き喚いた。

「いつも、これほど泣くのか……?」

 幼い子供を見たことがないのか、アロイスの怪獣のような喚き声にクラウディオは若干辟易するような顔を見せていた。

 アロイスはまだ三歳にも満たない子供で、母親の妊娠をきっかけに幼児返りをしているそうだ。
 セレスティーヌの姉は第二子を妊娠したのだが、悪阻がひどくアロイスの相手が難しくなった。その上精神面も不安定になってきたため、アロイスを遠ざけることにしたのだ。
 母親がアロイスの泣き声を聞くだけで気鬱になってしまうとか。

「ほぎゃあああああっ!!」

 アロイスは甲高い声で泣き叫ぶ。連れてきている乳母やメイドたちの目も虚ろだ。ここに来るまで馬車の中でも大騒ぎだったのだろう。もうあやすことすらできずに、アロイスの泣き声を聞いている。
 しかも、見たことのない大人や、見知らぬ建物に入ったせいで、泣き声がさらに増す。

 クラウディオは聞いているだけで頭痛がすると頭を抑えた。セレスティーヌの姉の子であるため無下にできないのだろうが、そこまで嫌そうな顔をしてここにいなくていいだろう。

「アロイス~。これはなにかな~」

 フィオナは急遽手作りした指人形を取り出した。五本指の手袋に刺繍糸で顔と髪の毛を作った単純な物だ。それを見せたが、しかし一瞬で叩かれる。
 フィオナはめげない。孤児院の子供たちの相手をした経験もあり、指人形で子供をあやすくらいお手のものだった。

「こんにちは、アロイス~。どうして泣いているの~?」

 甲高い声色でフィオナはアロイスに話しかけた。ぐずっているアロイスは顔を背けるが、そちらに向けて再び話しかける。

「なんで泣いてるのかな~? 泣いてないで一緒に遊ぼうよ~」
「ふぐ、ふぐっ」

 アロイスは顔を擦ってフィオナを見遣った。鼻水だらけの顔に人形を近付けて話しかけてやると、少しだけ泣くのをやめる。

「お腹はすいていない? クッキーがあるよ。はい、食べてみて」

 フィオナは昨日焼いておいたクッキーを取り出した。甘く柔らかいミルククッキーだ。きっと気に入るだろう。
 割って小さくしたクッキーを指人形で口に持っていくと、匂いで甘いものと分かるのかぱくりと口に入れる。もごもごしたのを見てフィオナは勝利を確信した。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

処理中です...