目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
41 / 103

23① ー夢ー

しおりを挟む
 暗闇の中、ぽつねんとフィオナはそこにいた。
 前も後ろも真っ暗で、何も見えない。そして既視感を感じた。

(前と同じ、夢……?)
 
 セレスティーヌがフィオナを呼んでいるのだろうか。勝手にセレスティーヌの体を乗っ取り、彼女のふりをして生活をしているからと。

「セレスティーヌ、いるの!?」

 大きく叫んでも、声が響かない。自分の声だけが耳に届いて、シンとした何もない空間に閉じ込められたような気がする。

「私に用があるんじゃないの!?」

 もう一度叫んでみるが返る声はない。暗闇が濃く何も見えない空間にいると、夢だと分かっていても怖さがある。

 その時、ぞわりと悪寒を感じた。振り向いた先、何もなかった場所に座る者がいる。宙に浮いているのか、何かに座っているのか分からないが、片膝を抱えるようにしているのが見えた。
 何も見えないほどの暗闇なのに、そこに人がいることだけははっきりと分かる。

 首までのうねった癖毛の黒髪の男で、青白く見えるほどの肌の白さを持っていた。
 整った目鼻立ちは人間離れした美しさだったが、こちらを見る瞳は柔らかな青味を帯びた銀色で、その色にフィオナは後退さる。
 どこかで見たような顔。けれど、銀の瞳をした者など思い出せない。

 男がニヤリと口角を上げると、口端に鋭い牙が見えたような気がした。

『調子はどうかな。フィオナ?』

 低音の声音が耳に届く。まるで耳元で囁かれているように内耳に響いた。

「……どちら様ですか?」

 言い返したはいいが、冷や汗が流れそうになる。
 男はクスリと笑うが、銀色の瞳がどうにも笑っているように見えない。

『君は僕を覚えていかもしれないけれど、僕は君のことをよく知っているよ』
「どこかでお会いしたかしら?」

 フィオナは後退りしたい気持ちになりながら、問いかけた。目を逸らしたらいけないような気がして、男の姿をじっと見つめる。

『……会っているような。ないようなだね。それよりも、その体はどうかな? 丁度あいた体だけれども、君には合っていると思うんだ』
「言っている意味が分からないのだけれど?」
『分からない? その体を使っているのに?』

 男はふっと消えると、一瞬でフィオナの背後に現れる。宙に浮いたまま逆さになって、フィオナの顔の前にその顔を見せた。恐怖以外の何者でもない。恐ろしさに震えることもできず、ただ立ち尽くす。

『哀れな魂にその体を与えたのに、本人はご不満かな?』

 そう言ってまたパッと姿を消すと、再び宙に浮いて足を組む。

「……セレスティーヌはどこにいるの?」
『そこにいるよ』

 瞬間、フィオナの側で啜り泣く女性が現れた。涙を流し、こちらを見上げる。前に見たセレスティーヌだ。

『その体は私のものよ。どうして私がそこにいるの。私を返して』

 か細い声で嘆きながら、セレスティーヌは恨み言を口にする。その様を、男は眇めた目で見ていた。

「私も好きであなたの体を乗っ取ったわけじゃないわ。あなたは一体何をしたの!?」
『クラウディオ様の心がほしかっただけよ。あの方に見てほしかっただけよ。こちらを見つめてほしかっただけよ』

 セレスティーヌは啜り泣くが、一体何をしたらそうなったのか教えてくれない。
 男なら何か知っているはずだ。そちらに向いたら、またも瞬時に移動して、遠くでふわりと体を浮かせた。

『仕方がないよ。魂が離れてしまったのだから。けれど、君は運が良い。彼女の体がなければ死んでしまうところだった。僕に感謝すると良いよ』
「感謝? 一体何を感謝しろというの!?」

『体があって、魂があった。丁度良かったんだよ。僕を呼ぶ者がいるとは思わなかったけれど、できれば女ではなく男にしてほしいからね。ああ、そろそろ戻るといい。あまり長くいると、君が疲れてしまうから』

 その瞬間、体が飛ばされるような感覚を受けた。男の姿が遠退き、光に向かった気がした。

『僕の名前は、ヴァルラムだよ。また会おう』
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...