目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

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28③ ー訪問者ー

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「エルネスト様もこちらで調べます。このメモは、」
「うわっ!」

 ノエルが手をかざすと、机の上にあった魔法陣の紙が、ボッと燃え出した。一瞬でそれは燃えて、灰さえ消えてしまう。

 魔法だ。こちらでは初めて見た。
 橙色の光がともし火のように光ったかと思った瞬間、すぐに消えてしまった。
 紙を燃やすにしても消すのが早い。フィオナが行えば、ちりちりと時間をかけて燃えていくはずだ。

(あんな簡単にパッと燃やしきるのは無理ね)

 炎の魔法は覚えている。紙を燃やすくらいならばたやすいので、フィオナも行うことができた。魔力を持っており、魔法の使い方を学べばすぐに行える魔法だ。

(確か、こうやって)

 手のひらに小さな炎を作ると、なんだか懐かしくなる。この程度であればフィオナでも炎を作ることができた。

「……、夫人、魔法を習ったことが?」
「ええ。少しだけ」

 言って、間違えたと思った。こちらでは魔法を学ぶには許可がいる。セレスティーヌは学びに力を入れてはおらず、魔力がありながら学ぶことはしなかった。

「……どこでですか? 王宮にある学び舎で学ぶ以外に、知り得ることはありません」

 墓穴を掘った。懐かしいからと魔法を使うなど。

「公爵から教わったとなれば……」
「クラウディオはそんなこと教えませんよ。あの真面目さで、教えると思いますか!? 私に!!」
「ならば、なぜ? どこで魔法の使い方を覚えたのです!?」
「ゆめ、そう。夢で!使っていたんです。知らない人が! それを真似しただけです!!」

 さすがに無理があるか。考えなしの言い訳をして、冷や汗が流れる。緊張で口の中が渇きそうだ。

「……。とにかく、この魔法陣は使わないでください。また、薬が手に入ったらお知らせください」

 ノエルはフィオナを疑り深く睨みつけたまま、強い口調でフィオナに忠告する。

「他言無用です!」
「了解です!」

 ここは言うことを聞いておいた方がいい。フィオナが背筋を伸ばして返事をすると、ノエルは胡散臭いものでも見るような視線に変えて、こちらを横目で見た。

「……デュパール公爵夫人からあなたの性格が変わったと聞きましたが。本当に変わったんですね。魔法陣のせいでは……、ないですよね?」
「とんでもないわ。そんなこと、あるわけがないでしょう! 薬が手に入ったら、お知らせします。お忙しい中来ていただいて、ありがとう」

 早口でまくし立てて返してみたが、ノエルは帰るまで疑い深い瞳を見せていた。




「はー、なんか、色々……」

 ノエルを見送って、フィオナはぐったりとソファーにもたれた。

 稀代の天才と言われた魔法使い。その人が封じられていた。魔獣と共に。それを呼び寄せるための魔法陣かもしれないとは。
 だが、その人を呼び寄せてどうする気だったのか。しかも、セレスティーヌの意識を奪ってまで。
 夢の話と合わせる限り、その悪い魔法使いをセレスティーヌに依らせるつもりだったとしか思えない。

「ノエルは、確かじゃないって言ってなかったけど……」

 彼もまだなにか隠していることがあるように思える。さすがに禁書で魔法使いであっても知らぬことを、ぺらぺらとセレスティーヌに話したりはしないだろう。
 しかし、結果としてフィオナはセレスティーヌの魂を追い出し、彼女の体を奪ったのである。

「あの石碑に、悪い魔法使いが封印されてたってことなのかしら……。だって、同じ話すぎるのよ」

(眠っている私が死んじゃって、石碑に封じられた魔法使いが、私の魂を引っ張りセレスティーヌにうつしたってこと……?)

 そう言葉にすると、なぜそんなことになるのだろう、と再び考えてしまう。
 ヴァルラムはなぜそんなことをしたのだろうか。男じゃなかったから代わりにだと言うが、偶然たまたまフィオナが死に、丁度良いとセレスティーヌの体に連れて行く。

「はー、もう分からない」

 もしもその話が本当ならば、祖父は悪い魔法使いを封じた石碑を、大切に守ってきたことになる。祖父だけではない。ブルイエ家代々、長い間、ずっと。
 どちらにしても、まともな理由でエルネストが魔法陣を教えたわけではない。

「フィオナ様、すぐに馬車が参りますので。……大丈夫ですか?」

 あまりにフィオナがぐったりとソファーに寄りかかっていたので、リディが心配そうに寄ってくる。

「大丈夫です。まだ色々分からないことだらけですけど。それより、別に気になることが」

 フィオナはそっと手のひらを前に出す。リディが何をしているのかと首を傾げると、その手に現れたゆらめくものに、あっと声を上げた。

「フィオナ様、これは、魔法ですか!?」
「セレスティーヌさんは、魔力をかなり持っているみたいですね」
「そ、そうなのですか?? きゃっ!!」
「あ。ごめんなさい」

 炎の大きさを天井に当たりそうなほど大きく変えたら、リディが驚きに転びそうになってしまった。フィオナは慌てて炎を消す。
 使って分かる。その魔力の多さ。大きさを変えてみれば、魔力が失われる感じがまったくしなかった。

(私の魔法の知識があるのならば、魔法は使えるんだわ)

 本を読み続けて知識は持っていたが、魔力が少ないため簡単な魔法しか試せなかった。だが、セレスティーヌの魔力があるのならば、フィオナは簡単に魔法が使えるのだ。
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