目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
81 / 103

38② ー思惑ー

しおりを挟む
 地下に作られた研究所のような場所で、特徴のある魔獣を合わせて、新種を作っていた。それは魔獣同士の戦いに出すためのもので、珍しさを売りにするために交配を続けていたのである。

 その魔獣たちが逃げ出し、人々を襲ったり家畜を襲ったりしていた。
 それらを作るための場所を提供していたのが子爵家で、指示を出していたのが、

「あの父親なんですね……」
「ショックでしょうが」

 セレスティーヌはショックだろう。自分が襲われるのではないかと危惧していたくらいだ。一匹二匹を売買していたのではなく、新種を作って売りに出していたのだから、

「あなたに罰が及ばないようにします。それだけは約束しますから。もちろん、アロイスにも」

 実の親が犯罪を犯したのならば、その子や孫にも影響があるだろう。だが、クラウディオはそれだけは避けられるようにすると、約束してくれる。

「二人はなんの関わりもありません。それに、あなたは、私の妻なのですから、なんの問題もありません!」
「……ありがとうございます。アロイスも、姉の家が関わっていないのでしょうか?」
「それはまだ、調査がありますが……」

 だが、アロイスに何か起きるようなことはさせないと、力強く言ってくれる。
 アロイスは自分の名前が出たのでクラウディオを見上げたが、きょとんとしていた。
 セレスティーヌの姉やその夫がどんな人なのか分からないが、もしなにかあってもクラウディオはきっとアロイスを守ってくれるだろう。

「父親についてですが、どこまで証拠があるのでしょう? 罪を問えますか?」
「現状は、証言だけです。場所も子爵家の土地ですし、訪問があったとはいえ、それが証拠にはなりません。帳簿なども子爵は持っておらず、魔獣の捕獲も子爵家が行なっていました。金の受け渡しについても、証拠はまだ出ていません」

 徹底した方法で足が付かないようにしているそうだ。それについての証拠はこれから上げる必要がある。

「私に少し考えが。旦那様にも協力いただきたいんですが……」
「協力ですか?」

 フィオナは頷く。一人で行うつもりだったが、クラウディオが来てくれればありがたい。

「あと、別件で、少し気になることがあったんですが。サルヴェール公爵のことで」
「葬式だったそうですね。私も後で行くつもりで」
「眠ったまま亡くなったそうですが、気になることがあったのでお伝えしておきます」

 フィオナはサルヴェール公爵の爪の話をした。もちろんなにかをかいて爪の中にゴミが溜まっていたのかもしれないが、皮や血の塊であれば、おかしいと思うだろう。
 エルネストは、父親は眠ったまま死んでいた。と自ら説明していたのだから。

 フィオナは他に気になっていたことをクラウディオに確認し、留守にしていた間の話をした。

「それくらい、ですかね。あとはモーリスに確認していただければ」
「分かりました。では、私は一度王宮に行きますので」
「これからですか!?」
「直接こちらに来てしまったので。知らせは出しましたが、直接行かねばなりません」

 王の命令なのだから、報告義務がある。疲労があるだろうに心配になるが、すぐに戻ってくると言ってクラウディオは部屋を出て行った。
 アロイスも話を聞いていて眠くなったのか、うとうとしていたので、乳母に部屋に連れて行ってもらう。

「はあー、なんだかどっと疲れが……」
「色々と、お疲れ様です……」

 本当に色々だ。だが、まだ何も終わっていない。
 サルヴェール公爵についてはクラウディオが判断するだろう。分かっていることは伝えた。

「セレスティーヌに渡した毒と合わせて、罪を問えるかどうか……」
「同じ毒ではないんですよね?」
「毒の種類は違うと思います。セレスティーヌが飲んだ薬は仮死状態にするもので、眠ったまま首を引っ掻く真似はしてません。サルヴェール公爵の毒は苦しみながら殺す毒です。もし同じならば、セレスティーヌの体にも苦しんだ痕が残ったことでしょう」
「フィオナ様が起きた時に、首に引っ掻き傷はありませんでしたしね」

 同じであれば、フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取れなかっただろう。その辺りは考えて薬を渡したに違いない。生贄にも依代にもできる、意識を失う薬をセレスティーヌに与えた。

「フィオナ様、刺繍はされますか? こちらにしまっておきましたが。今日はお疲れですし……」
「大丈夫です。さっさと仕上げたいですからね」

 リディは刺繍の用意をしてくれる。フィオナは広げた布を眺めながら、刺繍糸が足りるか算段した。

「足りなそうですね。すぐに取り寄せます!」
「すみません。ありがとうございます」

 リディが急いで部屋から出ようとすると、きゃっ、と悲鳴が上がった。何事かとそちらを見遣ると、扉の向こうに立っている人がいた。

「だ、旦那様」

 扉の前にいたのはクラウディオで、フィオナはサッと血の気が引くのを感じた。

(話を聞いていた!? いつからそこにいたの!?)

「セレスティーヌ、礼を言うのを忘れていました」
「え? お礼、ですか?」
「いただいたお守りが、皆と離れた時に使えました。菓子と薬草も」
「そ、そうですか。それは良かった……、薬草を使うことがあったんですか??」
「私ではないですよ。部下の熱冷ましに使わせてもらいました。傷が膿んで、薬草が必要になったので。ありがとうございます」

 その礼にフィオナはホッとする。クラウディオが使うこともなかったことにも、今の話を聞かれていなかったことにも。

 クラウディオは実用的なお守りに大変助かったと、その知識はとても素晴らしいもので、討伐に行く者たちにも常備させようかと考えている。と褒めるように礼を言ってくれ、これから王宮へ出発すると、再び部屋を出て行った。

「————び、びっくりしたあ」
「驚きました。目の前にいらっしゃったので」

 足音が遠退いてリディが扉の向こうにクラウディオがいないことを確認して、二人で脱力する。クラウディオはいつも通り緩やかに微笑んでいたので、聞かれていないだろう。
 それにしても、心臓に悪い。

 リディは刺繍糸を頼んでくると、部屋を出ていく。その後ろ姿を見送って、フィオナはソファーでだらしなく伸びをした。

(まだ、気付かれてはいけないわよ。フィオナ)

 セレスティーヌと夢で約束した。体は返すからと。セレスティーヌは泣きそうな顔をして、ヴァルラムを通してフィオナの言葉を聞いていた。

(大丈夫。私はやれるわ)

 まだ自分にはやることがある。それをすべて終えて、フィオナはセレスティーヌに体を返すのだ。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...