目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
83 / 103

39② ー侵入ー

しおりを挟む
「はあー。リディ、お疲れ様でした」

 フィオナは先に乗っていたリディに声を掛けた。リディは頷き、持っていた布の包みを差し出す。

「旦那様、こちらが使えるか分かりませんが、帳簿と招待状。それから、魔獣のリストになります」
「よく……、見付かりましたね」

 リディから受け取った書類を広げて、クラウディオは感嘆しつつもどうやって手に入れたのか不思議そうな顔をした。
 フィオナもよくあの短時間で見付けられたと、今さらながら無謀な計画だったことに脱力しそうになる。

「場所は分かっていたので、あとは開け方だったんですけれど、一人で二ヶ所行くには時間がなかったので、リディと手分けをしました」
「奥様はご両親の寝室へ。私は執務室に入っていました」
「————よく、気付かれずに……」

 クラウディオも呆れ顔だ。なにをやるのか言っていなかったので、面食らった顔をしている。証拠を得に寝室や執務室で家探しするとは思わなかったようだ。

 フィオナももう無理だと諦めそうになった。しかし、アロイスが足でヘッドボードのくぼみに指を突っ込んでいると、ぽろりと、ボタンが取れた。そこにスイッチがあり、その近くの彫刻に刻みを見付け、スイッチを押しながら側面の彫刻を抜くと、横にスライドできる箱が出てきたのだ。その箱を全て出すと勝手に箱の扉が開く。
 そうして、その中に隠した招待状や魔獣のリストを見付けた。

 リディは執務室で裏帳簿を奪ってきた。こちらはリディが知っていた隠し場所である。
 掃除の時に偶然見付けた、机の下に隠された秘密の引き出し。そこから取り出した帳簿を手に、フィオナの元に来て、フィオナが探した証拠を持って、先に馬車に戻っていた。

「成功してよかったです。旦那様が両親の相手をしてくださったおかげです」

 クラウディオは大したことではないと謙遜しながら手にした証拠を広げていると、眉をぴくりと上げた。

「パーティの招待状もありますね。魔獣の売買か……?」

 クラウディオは大きく頷く。役に立つ証拠のようだ。

「このパーティは魔獣の競売を行う場所かもしれません。一度潜入してみる必要があるでしょう。こちらの帳簿は申し分ないです。魔獣を売った際の利益らしきものも載っています。お手柄でしたね」
「これで、罪をつまびらかにできればいいんですが……」

(セレスティーヌのためにも……)

 フィオナの言葉に、大丈夫だとクラウディオは大きく頷いた。





 クラウディオは目元だけを隠した仮面を被り、顔を隠していた。
 そこまで派手ではなく、むしろ地味なただの黒の仮面なのだが、やけに格好良く見えるのはなぜなのか。

(うう、眩しいっ。目元を隠しても顔の形がいいから、逆に目立つんじゃないの??)

「セレスティーヌ、大丈夫ですか?」

 小声で耳元で囁かれて、瞬発力を発揮してジャンプしそうになる。思った以上に威力があるのは、自分の気持ちに気付いたからだろうか。

「だ、大丈夫です。さ、行きましょう。ささっと証拠が出ればいいんですが」

 両親の寝室から奪った招待状を持って、フィオナとクラウディオはパーティに来ていた。顔を隠した仮面舞踏会という名の、闇競売が行われている。
 クラウディオはどこから情報を得ているのか、魔獣を出す競売について噂を耳にしており、近々それが行われることも知っていた。おそらくこのパーティの招待状がそうであろうと、二人やってきたのである。

 招待状が二枚あったことから、いつも両親は二人で参加しているのだ。

(交配した魔獣をいくらで買われるのか確認してたのかしら……)

 男女で参加した方が良いため、クラウディオと二人でやってきたが、さすがに緊張する。

 パーティ会場は父親が開催しているわけではなく、他の貴族の屋敷で行われている。クラウディオはフィオナをエスコートしながら、周囲を注意深く確認していた。
 広間では飲み物片手に雑談したり、他の部屋ではカードゲームをしていたり、かなり自由なパーティで、顔が見えない分好き勝手やっている雰囲気があった。賭け事もしているか、大きな声で勝ったの負けたの騒ぐ声が聞こえる。

(なんの匂いかしら。甘い匂いもするわね。煙っぽいし)

「セレスティーヌ。これは飲まないように、持っているだけで」
「あ、分かりました」

 差し出された飲み物はお酒のようだったが、飲まないように注意を受ける。カモフラージュのためにグラスを持って楽しんでいる雰囲気を演出するようだ。潜入捜査なんて慣れていなそうなのに、芸が細かい。
 すでに酔っ払っている者もいて、たまに部屋の隅で転がっているのを見掛けた。無法地帯のようだ。
 地下へも行き来している人が見受けられて、フィオナはクラウディオと顔を見合わせた。

 地下に何があるのか。階段を降りるのに登って来る者たちとすれ違っても特に気にされない。
 降りた先、廊下を進むと広い部屋に辿り着き、そこからワッと驚く声が聞こえた。

「他にご希望の方はいらっしゃいませんか。こちら、羽の仮面の方に決まりました」

 舞台に出された品物が舞台袖に運ばれていく。宝石を競売していたのか、すごい金額だったと聴衆が興奮した声を出していた。

「旦那様……」
「し。少し様子を見ましょう」

 なんの品物でもいいのか、宝飾品であったり、絵画であったり、物はバラバラだ。
 魔法の書であったり、植木なども出てくる。

(今の植物、毒薬が作れる種類じゃなかった? 魔法の書も禁書でしょう??)

 隣でクラウディオが眉を顰めてじっとしている。怒っているのか、腕を組んだまま腕の上で指を上下させていた。

「さて、お待たせしました。本日のメイン、魔獣の卵です!!」

 運ばれてきた大きな灰色の卵に、聴衆が興奮の声を上げた。魔獣の交配した種類や、どんな特徴があるのか説明があった後競売が始まると、皆が競って値段を口にする。
 高額な金額だ。フィオナはその金額に耳を疑いそうになった。

「はい、ではこれ以上いらっしゃらないですか? では、そちらの方に決定です!!」

 購入したのは小太りで身長の低い男性だ。もちろん顔は見えないので、どんな人なのかは分からない。クラウディオはその男をじっと見つめて、嬉々として会場を出ていく姿を見つめた。

「セレスティーヌ。外に出て待っていてください。いえ、馬車で会いましょう」
「分かりました」

 なにをする気なのか。フィオナはクラウディオの言葉通り部屋を出て階上へと歩く。
 クラウディオはおそらく今の男を追ったのだろう。別の部屋へ移動したので、卵を受け取るのだろうが、その場を取り押さえても多勢に無勢。いくら魔法師のクラウディオでも無理がある。

(大丈夫かしら。騒ぎを起こすとは思わないけど……)

 小太りの男は女性と一緒で、特に付き添っていた騎士などはいなかった。

 どうするのだろう。しばらく馬車の前でうろうろと待っていると、クラウディオが走ってやってくる。

「セレスティーヌ、乗ってください!」

 卵を強奪してきたわけではなさそうなので安堵するが、クラウディオは馬車に乗り込むと、御者に命令をする。

「あの馬車を追え。あまり近付くなよ。前が止まったらすぐに馬車を止めろ」
「なにを、する気なんですか……?」
「危険な真似はしません」

 その答え方は、むしろどうにも穏やかに終わらせる気がないような気がした。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...