目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

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41④ ー疑いー

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「わあ、なんて綺麗なんでしょう!」

 目の前に広がる景色に感嘆して、初めて見たかのように周囲を見回しては、庭園の壮麗さに喜びを見せる。

「あちらに行ってみますか?」
「はい、旦那様!」

 笑顔で返してくると、促した方向に歩き出す。どこかへ行ってしまわないように手を繋いでいると、少しだけ恥ずかしげにして居心地悪そうにしたが、その手を離す気はないと、きつく握った。


 ————フィオナ・ブルイエは、体が弱かったようです。————

 封印の地で死亡。十八歳を迎える前で、封印を記す石碑の前で倒れていた。
 見付けたのはオリシス国の騎士で、最初は魔獣に殺されたとされていたが、実際の死因は不明。

 ————領主がオリシス国王に援軍を依頼したそうです。彼の地では数百年現れていなかったのに、魔獣が現れたと。————

 その魔獣を倒すために騎士が出て、見付かったのが、倒れた石碑とフィオナ・ブルイエだった。


「こちらは、公爵家の別邸かなにかなんでしょうか……?」
「————ええ。父が好んでいました」

 フィオナは、父親が好んでいたのも分かると、広大な土地に咲く色とりどりの花を見ながら納得した顔を見せた。
 この別邸は有名な場所で、どこよりも美しい庭園であると噂されることがある。景観に小山を利用しており、見る方向によって雰囲気が変わり、季節によってもその景色が変わった。

 それを、見せるつもりはなかったけれど、婚約中にどうしても見たいと駄々をこねられて、仕方なくここに連れてきた。父親が愛した別邸。広大な土地にある、珍しい庭園に。

 セレスティーヌはこの庭園に訪れたことがある。なのに、目の前の彼女は知りもしない。

 ノエルは言った。セレスティーヌは死んだかもしれない。中にいるのは別人だと。

(別人で当然なのだ。セレスティーヌのはずがない。むしろ、納得しかない)

 目の前で笑っている女性はセレスティーヌの姿をしていても、セレスティーヌではなく、セレスティーヌとは似ても似つかない性格をした、別人だった。

(私が愛した人は、フィオナ・ブルイエだ)

「また朝食を一緒にされませんか……?」

 どうしてそんなことを言ったのか。
 初めからやり直したいからだ。
 彼女が何者か分かって、初めから向き合いたいからだ。

 それなのに、フィオナは涙を流す。

「そうですね。そうであれば、嬉しいです」

 まるで、不可能とでもいうかのように。

 ノエルの言葉が耳に残っている。

 ————魔法陣を使用し、……元の体に戻ろうとするかも————

 もう、彼女の体はあの地に残っていないのに。






「エルネストです! 私が薬を渡したのは!」

 カタリーナは震えながら涙を溢れさせると、床に這いつくばるように何度も口にした。

「エルネストです。エルネストに、毒を渡したんです!!」
「バカな真似をしましたね」

 ノエルの冷えた声に同感しかない。しかし、カタリーナは顔を上げると、ギッとノエルを睨みつつも、クラウディオに憐れんでほしいと言わんばかりの情けない顔を向けた。

「だって、なぜあんな女と……。ずっと、お慕いしていたのに。どうして、あんな女と結婚なんて!?」
「そんなくだらないことで、エルネストに毒を?」

 クラウディオの言葉に、カタリーナは顔を歪ませた。ノエルも同情の余地はないとうんざりとした顔を向ける。

「では、禁書の魔法陣もあなたがエルネスト様に教えたんですね。あの禁書はエルネスト様が知ることのない情報でしたが」
「大国時代の魔法陣が見つかったって話したら、欲しがったのよ! あんな、古い魔法陣、伝説みたいな物だから、使えるかどうか分からなかったし、試すのも嫌だから、好きにすればって、教えただけじゃない!」
「あなたのような者が研究所に通っていたことに、憤りを覚えますよ」

 ノエルは凄みを増した。研究対象を疎かにした発言が許せないと、怒りを見せる。
 まだ見つかったばかりで研究は終わっていなかったが、危険な魔法陣だと指定されていた。にもかかわらず、古い時代の伝説のような魔法陣だからと軽視し、部外者に教えたのである。

「迂闊にも程があるな。今の時代の魔法は大国時代に作られたものばかりなのに、当時の魔法陣を軽視するなど。発動させてなにが起きるか分からない、危険な魔法陣だろうに」
「そんな考え方をする者が魔法師になどなれるわけがない。あなたが準魔法師のままである理由がよく分かりますね」

 カタリーヌはカッと顔を赤くした。魔法師になるには魔法や魔法陣のレベルを把握するのは当たり前のこと。危険なものに対しての警戒心を持つことぐらい、当然である。
 それをあまつ情報漏洩させた。エルネストは魔法師だが、まだ外に出すべき情報ではないと統制を取っていたはずなのに。

「別の毒も渡しましたか?」
「……公爵になるために必要だからって」
「金でも渡されたか? 教員の任は金で買ったか?」

 クラウディオの問いに、カタリーナは口を閉じた。赤いのか青いのか分からないような顔色をし、黙りこくったのを見て、ノエルの怒りは頂点に達した。

「厳重に、処罰をします」
「そうしてくれ。私はサルヴェール公爵邸へ行く。父親殺しの書状はもらっていくぞ」

 ノエルと別れてサルヴェール公爵邸へ騎士たちと移動する。空は暗闇に覆われて、雲間に隠れた月は見えず、不吉なほど真っ暗だった。

 公爵邸に到着すると、エルネストが抵抗することを想定して、魔法師が陣を取った。反撃されても逃げられないようにするためだ。

「バラチア公爵、一体何事ですか!?」
「公爵殺害に関わったとして、エルネストを連行する」

 執事がいきなり現れたクラウディオたちに面食らっていたが、書状を確認して青ざめた顔をした。ばらばらと屋敷に侵入する騎士たちを見たメイドたちの悲鳴が響く。

「え、エルネスト様は出掛けていて……」
「どこに行った!?」
「わ、分かりません。出掛けると行って馬で出て行ったきりで」

 気付かれたと分かり逃げたのか。エルネストがいきなり出て行って、執事たちも何事かと思っていたらクラウディオたちが現れたと口を揃えて言う。

「行く場所に心当たりは!」
「エルネスト様が行く場所などは……」
「母君はどうしている。エルネストの場所を知らないのか!?」
「奥様は、病で眠ったままです! エルネスト様がなにをしているかなど、ご存知では……!」

 騎士たちがエルネストの母親の部屋を確認したか、首を横に振る。寝たきりでほとんど動けないようで、意識も虚ろだと報告してくる。

「バラチア公爵! こちらを!!」

 一人の騎士が手紙を手に走ってきた。手紙の内容にクラウディオは目を見張った。

「————、フィオナ!!」
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