目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

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43③ ー今後ー

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「クラウディオ??」
「フィオナ、私が愛したのはあなたです」

 突然の告白に、フィオナは頭の中が一瞬空になった気がした。

「え……、は?」

 クラウディオはフィオナの手を取ると、まっすぐに見つめる。頬は紅潮しているが、目は真剣そのもので、必死さが伝わってきた。

「私は、あなたにここにいてほしいんです」
「クラウディオ……」

「このままセレスティーヌとして生きることが、あなたにとって苦痛だということは理解できます。亡くなったセレスティーヌには、不誠実でしょう。彼女になんと言えば良いのか分かりません……。それでも、私が初めて愛した人はあなたで、あなた以外の誰かを愛することなど考えられない。どうか、ここから離れるなど言わないでほしい」

 クラウディオは懇願するように言うと、取っていた手を引き寄せ、そっと口付ける、

「フィオナ。私の側にいてください」

 真剣な瞳を向けられて、フィオナはぐっと込み上げるものを感じた。
 セレスティーヌがなにを思うのか。彼女の気持ちをどうするのか。
 そう考えながらも、その言葉に嬉しさを感じている。

「フィオナ……、どうか」
「あい、あろいすも!」

 重ねていた手にアロイスがべちりと手を合わせてきた。二人で手を繋いでいると思ったのか、アロイスの小さい手がクラウディオとフィオナの手の上に乗せられている。

「おばたま、おじたま、あろいすも!」

 アロイスの言葉に、フィオナとクラウディオは顔を見合わせた。アロイスの満足げな顔を見て弾けるように笑うと、フィオナは頬に涙を流して、静かに頷いた。






「封印の魔法について本に記したいので、詳しく教えていただきます」

 ノエルがメガネの端をくいっと上げて、フィオナを見下ろす。
 机の前に並べられた白紙に、覚えていることをすべて書けと、インクとペンまで用意してきた。

「ブルイエ家の屋敷は封印が壊れた際に、風で崩壊が起きたそうです。そのせいで家人に怪我人が出たとか。地下の書庫も崩れてしまったため、古い書籍などに破損が見られているそうで、あなたが記憶しているのならば、修復に役立つでしょう」
「はあ……」

 ノエルはメガネを光らせる。
 オリシス国とは交流がなかったが、大国の歴史や魔法の調査について協力し合うことになったそうだ。この国で王弟召喚の魔法陣を使用したことは内緒らしいが、ナーリア国とも協力して大国時代の魔法について情報共有するらしい。

 今回、封印が解けたことにより、今後も知らぬ封印が解けて魔獣が暴れ出すかもしれない。それを防ぐために、大国の歴史を調べ直すのだ。

「大国は広大な土地を持っていましたからね。封印が解けたことが他国にも知られれば、危険を感じる国は多いはずです。なので、真実を知っているあなたには、先に、知っている情報を教えてもらいませんと!!」

 この国は大国時代の汚点をなかったことにするため、歴史を曲解して伝えてきたので、遠い国に比べて信じていたことが嘘である可能性が高い。
 魔法についても、処分されていることが多く、他国に比べて情報が薄かった。
 ノエルは他国に引けを取らないために、フィオナの覚えていることをすべて吐き出せと言っているのである。

(ちゃっかりしてるなあ……)

 フィオナがセレスティーヌの体を奪ったことは、公になっていない。
 ノエルは珍しい症例を黙っていてくれているようだが、フィオナがどんな風に呼ばれたのか、魔法陣を使うとどんな風になるのか、詳しく聞きたがり、あまりのしつこさにクラウディオと睨み合い、子供の喧嘩のような言い争いをしている。

 今日も屋敷にやってきて、クラウディオと睨み合いをしていた。フィオナが大丈夫と言うまで、永遠に睨み合っているに違いない。

「今日は一刻までだ。それ以上は許さないからな!」
「一刻でどこまで思い出せると言うんですか。今日はこの紙すべてに書いてもらいますから!」
「この枚数を書いていたら、夜中になるだろうが!!」

 二人とも仲が良いのか、悪いのか。フィオナの前で言い争いを続ける。その言い合いは放っておいて、フィオナは覚えている魔法や魔法陣を描いていく。

(私が知っている魔法とか、こっちと微妙に違うとは思わなかったわ)

 ノエルがルールを破るとは思わなかったが、フィオナが魔法陣を繋げるなどの創作をしたため、こちらの禁書をこっそり見せてくれている。
 魔法陣をいくつも繋げる方法はこちらでは主要ではないようだ。

(お祖父様が得意だから、コツを教えてもらっただけなんだけれど……)

「今日はここまでだ!! フィオナ、これ以上は結構ですよ。さ、あちらで休みましょう。アロイスが待っています」
「そうですね。アロイスと一緒にお茶をしましょう」
「また、明日来ますからね!!」
「来るな! 来なくていい!!」

 ああ言えば、こう言う。二人はなんにしても仲良しだ。

「ノエルさん、お菓子持ってきませんか。甘いもの食べて、休憩した方がいいですよ。目元のクマひどいから」

 ノエルは余計なお世話だと、お菓子の袋を手に帰っていく。いつでも研究熱心な青年である。お菓子は案外好きらしい。

「おばたまー。おかし食べるの。おいしいの」

 アロイスはまだしばらく預かることに。
 セレスティーヌの姉は両親の悪行に関わっていなかったが、今度は生まれた赤ん坊だけで大変なんだそうだ。

「学び舎に行くまで預かって、そのまま学び舎に通えば良いのでは?」

 クラウディオは真剣にそんなことを言ってくる。アロイスにとっては両親の側にいた方が良いと思うのだが、セレスティーヌの姉はあまり子供が好きではないらしく、環境としてはこちらの方が良いのだと乳母が言うので、姉の屋敷の環境を見つつ、アロイスの今後を考えていくつもりだ。

 王に子ができたと発表されたのは、つい最近。ちゃんと生まれるか分からなかったため秘密裏にされていたが、この度赤ん坊が生まれた。
 クラウディオの継承権は今のところ白紙となり、セレスティーヌの両親の思惑は外れ、エルネストの妬みも想像で終わることになるだろう。

 セレスティーヌの両親は罪を問われ今は裁判待ち。父親は死刑になると予想されている。母親は流刑となり、実質処刑のようなものだった。
 エルネストは父親殺し。カタリーナは殺人ほう助と魔法陣の持ち出しで罪に問われる。エルネストはヴァルラムの予想通り死刑になるだろう。

 セレスティーヌの使っていた部屋を移動して、フィオナは別の部屋をもらった。
 クラウディオは時折セレスティーヌの部屋に入っていく。彼があの部屋でなにを思っているかは分からないが、花を持っていくこともあるので、彼なりの謝罪をしているのだと思う。

「おいで、アロイス」
「おばさま。おじさま。はなび、きれい!」
「今日は雲がないから、良く見えるな……」
「綺麗ですね」

 花火の時期になって、整理されたあの塔の部屋で花火を眺める。
 耳に届く花火の音を聞きながら、美しくも儚く散る一瞬の美しさを目に焼き付けていると、クラウディオがフィオナを見つめた。

「フィオナ……」

 クラウディオがアロイスの目元を隠した。打ち上げられる花火の音を耳にしながら、アロイスが花火が見えないと嫌がるのを見つつも、フィオナはそっと長いまつ毛を頬に下ろす。

「クラウディオ」
「ずっと、ずっと一緒にいよう」
「……はい」

 小さな温もりを唇に感じて、フィオナは微笑む。その顔を見て、クラウディオがにこやかに破顔した。

 綺麗になった部屋で一人、外を見上げることはない。
 これからは一緒に。

 私たちは三人で、幸せに暮らしている。





『ねえ、ヴァルラム。私は今、とても幸せだよ。でも……』
「君はもう気にしなくていいんだよ。その体は、もう君のものだ。だから、今度は幸せに生きればいい」

 ヴァルラムは壊れた石碑の上に座り込んだまま、夢の中でそう語る。

「ブルイエ家は良い人たちばかりだったよ。君の両親と妹はどうかと思うけれど。僕はこの場所が好きだった」

 暗闇にいた魂の残滓は消えて、もうどこにもない。いつか彼女も新しく生まれ変わり、別の人生を過ごすだろう。

「だから、君が気にすることはない」

 ヴァルラムは壊れた石碑の上で立ち上がる。もう自分は自由で、自分をつなぐ鎖も、封印を守る者もいない。フィオナのために魂の残り滓の側にいたけれど、それもなくなった。

 さてこれからどうするか。

 長く見続けていた森はそのままだが、石碑の周囲は木々が薙ぎ倒されていて隕石が落ちたみたいになっている。

「まったく、綺麗な景観が台無しだ」

(ここにいる必要もないな……)

 ヴァルラムはふわりと浮くと、石碑を離れる。高く飛び上がれば、フィオナが住んでいた屋敷も小さく霞んで見えなくなった。

「さよなら、フィオナ。君は君の幸せを考えればいいんだよ」







 ◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇


  これで本編は終わりになります。
  ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

  次回、ヴァルラム過去編になります。恋愛要素ほとんどなしの話になります。
  ただの過去話になりますので、ご興味のある方よろしければ読んでやってください。


 ◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇
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