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事業4
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「姫さん、あれなに、あれなに!?」
『フィルリーネ、あれなに、あれなに!?』
ヘライーヌとヨシュアが同じ物を見て、フィルリーネに問うた。
答える間もなく、別の物が目に入ったか、ヘライーヌはそちらを指さす。
「あれは、なに!?」
本日は、精霊を祀る祭りである。
午前中は、去年と同じくコニアサスと演奏をしようと思ったが、コニアサスの後ろにはミュライレンの家がしっかりあるんだぞ。ということを見せるために、ミュライレンに伴奏を頼んだ。
フィルリーネが、前王の第二夫人を蔑ろにしているのでは。という噂を払拭するためだ。
貴族は、有る事無い事噂するものである。それにいちいち反応していたら身は持たないが、コニアサスには味方がいることを、しっかり見せつける必要があった。
ミュライレンとコニアサスの演奏は、とても素晴らしいものだった。
精霊たちが集まり、小さく瞬く。貴族たちはその光に目を奪われながら、二人の演奏を心地良さそうに聞いていた。
精霊に祈りを捧げたら、次は会場を別にしてパーティである。去年は式典のみで、パーティは催さなかった。
今年は国が安定していることを見せるために、行うことを決めた。
そのパーティに出ていたので、外に出るのが少々遅くなってしまった。
ヨシュアに転移してもらい、アシュタルとヘライーヌと一緒に、街を歩く。
ヘライーヌは魔導院のコートを着ているので、かなり浮いているが、気にしないでおこう。外は暑いので蒸れそうだが、ヘライーヌは気にならないようだ。
ヘライーヌは屋台のお菓子が気になると、店に走った。
「まだ、食べるの? よく食べるわね」
パーティでも珍しくがっついて食べていたのに、まだ食べるようだ。その小さい身体のどこに入っていくのか、不思議である。
魔導院の研究員に、いつもの制服を着てパーティに出席しろというお達しはなかったのだが、ヘライーヌは黒のフードを被ったまま、パーティ会場でテーブルに齧り付くように食事をしていた。
研究案を出した後、また閉じ籠もっていたようだ。イムレスに怒られてお風呂に入れば、お腹が空いていたことに気付いたらしい。
「姫さんは、外のもの、結構食べるんだね」
一緒に同じ物を頼んで飴を舐めていると、ヘライーヌが意外そうな顔をした。
貴族っぽいことを気にするようだ。
「気にしたことないわね。家庭料理とかおいしいし、屋台のお菓子も美味しいでしょう? ルヴィアーレも食べてたわ」
「へー。あの人、そんなことするんだ?」
無理やり食べさせたかもしれないが、まあいいかと頷いておく。
「あの人、おーさまになったんでしょ? 姫さん、なんでついてかなかったの?」
「なんでついていくと思うのよ」
「婚約者じゃん」
「……婚約破棄したの、知らない?」
「え、知らない。婚約破棄したの??」
ヘライーヌは初めて聞いたと、目を瞬かせた。
ヘライーヌは研究所に引き籠もっているので、世間の噂など耳にしない。ルヴィアーレが王になったことは知っていて、婚約破棄について知らないとは思わなかったが。
婚約破棄をして一年。今度はキグリアヌンから婚約打診が来た。正式ではなかったが、それは予想通りだった。キグリアヌン王が、コニアサスが王になった後のことを気にしていたからだ。
キグリアヌン王が敵か味方か、どちらか分からなかった時、ヨシュアを使い、調査を行った。キグリアヌンがオルデバルトと同じ意思ならば、こちらは全面戦争になる。しかし、オルデバルトからは、キグリアヌンの総意でグングナルドを乗っ取ろうという姿が見えなかった。キグリアヌン王が一切出てこなかったからだ。親子で乗っ取る気ならば、王が出てきた方が話は速い。
しかし、それがなかった。オルデバルト単独で行っている可能性を感じたのである。
だから、キグリアヌン王に繋ぎをつけた。そこから、第一王子との婚約話が浮かぶとは思わなかったが。
キグリアヌン王は体調不良が続いている。第一王子セルファムは、あの通り人の良さそうな男だ。第二王子は歩くことができない。他の王子や王女たちは後ろ盾が弱く、脅威ではない。
第三王子オルデバルトが他国乗っ取りを行おうとした罪は重く、貴族たちは王族を糾弾するだろう。
その対策として、グングナルドの王女を娶ろうと思うあたり、キグリアヌン王の図太さが感じられる。大国の王らしい考え方だ。助けてもらいながらも、婚姻を打診して、立場を逆転させたいのだ。
そんな政治的役目など、お断りである。
こちらは自国のことだけで精一杯だ。自分たちでできないことを、人に頼らないでほしい。
「姫さん! あれなに! 食べたい!!」
「まだ食べるの!?」
『俺も食べたい』
ヨシュアとヘライーヌの反応は一緒だ。ヘライーヌが美味しそうに屋台の物を頬張っているのを見て、ヨシュアが外に出たがる。
鳥追いは既に終わり、あちこちに机と椅子が並べられ、そこで飲んだり食べたりしている。皆はほろ酔い気分だ。子供達はもう家に帰っているだろう。
『フィルリーネ、俺も食べたい!!』
ヨシュアが頭の中でがなる。ずっとうるさい。仕方なく、大人しくすれば外に出ていいと伝えれば、いきなり背後に現れた。
「フィルリーネ、あれ食べたい!」
「せめて、フィリィって呼んで……」
どうせ夜だからそこまで見えないだろうと思ったが、突然現れた大男に、周囲にいた人たちが怪訝な顔をした。見ないふりをしておこう。
「姫さん! あれなに!?」
「ヘライーヌも、姫さんて呼ばないで……」
「あれ、食べたい!」
「はいはい。買ってくるから待ってなさい」
ヨシュアは我慢できないと地団駄を踏む。大男が子供のようにねだった。後ろでアシュタルが甘やかさないように言ってくるが、放置していたら翼竜になって飛び立ちそうなので、仕方なく買ってくる。
戻れば、ヨシュアの身長の半分くらいほどしかないヘライーヌが、じっとヨシュアを見上げていた。
「翼竜って、どうやって人型になるの?」
「知らない。俺は最初から人型だった」
買ってやった肉団子の煮込みを口に入れながら、ヨシュアは首を傾げる。
「魔導量の違いかしらね。人型になれない翼竜もいるから」
「精霊も同じなのかな。姫さんのその頭の精霊、やっぱり大きくなってると思うよ」
ヘライーヌに言われて視線を上にする。上にしても見えないが、精霊が髪の毛を引っ張っているので、定位置で座っていることだろう。
「魔導量だとしたら。姫さん、その精霊に、魔導分けてるかもよ?」
「私がもらってるんじゃなくて?」
「王族として精霊の力を得るって、精霊の小さな力が集まってもらえるって感じじゃん。精霊には王族でも魔導を与えたい人とそうじゃない人がいて、姫さんはきっと前者なんだよね。だから、普通より多く魔導がもらえる。それを、逆にその精霊に与えてるとしたら?」
だから大きくなっているのではないか。ヘライーヌは肉団子を頬張りながら、そんな分析をしてくる。
「その精霊が姫さんに魔導量を分け与えたとしても、頭の上でその精霊が姫さんの魔導吸収する量の方が多いってこと。もしかしたら、ずっと側においてると、人型になるんじゃないかな」
「面白い研究ね。それ、論文出したら?」
「人型とそうじゃないのって、ずっと気になってたんだよね。姫さんとこ、やたら人型来るじゃん」
マリオンネの女王代理になってから、マリオンネで精霊に祈る儀式を行っているからか、マリオンネの精霊たちが地上に降りてくるのである。その中に、なぜか人型の精霊もいる。堂々と姿を現して来るので、ヘライーヌも見ていたようだ。
「マリオンネの女王とか、姫さんみたいに魔導量の多い人の側にいる精霊は、人型になるのかもよ。長い間魔導を身体に取り込んで、ゆっくりと大きくなってく。どれだけの時間掛かるか、分かんないけどね」
「エレディナは、長生きしてるって言ってたわ」
「そっちの翼竜は何歳なの?」
「俺、まだ七十歳」
それがまだかどうかはともかく、七十年生きていてヨシュアは子供だと言われている。人間の年であれば、七歳くらいかもしれない。まだお子ちゃまだ。
「ロブレフィートある! あれ弾いていいの?」
話途中でヘライーヌが舞台にあるロブレフィートを見付けた。バルノルジが近くのテーブルに座っていて、手を振っている。それに応えながら、ふと気になった。
「自由に弾いていいのよ。精霊は音楽が好きだからね。喜ぶわ。でも、弾けるの?」
「おかーさんが、それくらい弾けるようになっとけって。姫さんの真似しよ。音楽に魔導乗せるやつ」
ヘライーヌの母親が想像つかない。ヘライーヌは人に肉団子の入ったお椀を押し付けて、ロブレフィートを弾き始めた。
音楽に乗って踊る人たちが出てくる。
去年はナッスハルトと踊ったのを思い出した。ルヴィアーレと一緒に来て、祭りを回ったのだ。
あれから一年。長いようで短い。
シエラフィアの葬式後、ルヴィアーレに手紙を書こうと思ったが、婚約破棄した王女が私的に手紙を出すのは憚れると思い、出すのはやめた。
ラータニアに王族として手紙を出す用もない。
一年の間、何も思わなかったわけではない。ルヴィアーレが立ち直るのにどれほど時間が掛かるのか、心配ではあった。同じ経験をした身として、精神が元に戻るまで、どれほど掛けたか分からない。
彼が傷付き、苦しんだ心を少しでも和らげてあげられるならば良かったが、自分はその立場にない。
婚約者のままならば、少しは何かができたかもしれないが。
他国の王と王女では、大きく立場が離れている。それを実感した。
仕方なく、シエラフィアの遺言通り、一年に一度墓に参るつもりだった。一周忌を行うだろうから、それに参加させてもらうつもりだったのだ。その時に様子を聞こうかと思っていた。
それとは別に、予定外にラータニアに行くことになったが。
「この曲……」
ヘライーヌがやけにしっとりする曲を弾きだした。前に、自分も弾いた曲だ。
昔流行った、恋歌。遠いところへ行ってしまった恋人と、再び出会い、喜びを歌う。
ヘライーヌの魔導に、精霊たちが集まって、瞬いている。
空を見上げて、去年の今頃を懐かしく思う。
二日後には、ラータニアへ行く。
『フィルリーネ、あれなに、あれなに!?』
ヘライーヌとヨシュアが同じ物を見て、フィルリーネに問うた。
答える間もなく、別の物が目に入ったか、ヘライーヌはそちらを指さす。
「あれは、なに!?」
本日は、精霊を祀る祭りである。
午前中は、去年と同じくコニアサスと演奏をしようと思ったが、コニアサスの後ろにはミュライレンの家がしっかりあるんだぞ。ということを見せるために、ミュライレンに伴奏を頼んだ。
フィルリーネが、前王の第二夫人を蔑ろにしているのでは。という噂を払拭するためだ。
貴族は、有る事無い事噂するものである。それにいちいち反応していたら身は持たないが、コニアサスには味方がいることを、しっかり見せつける必要があった。
ミュライレンとコニアサスの演奏は、とても素晴らしいものだった。
精霊たちが集まり、小さく瞬く。貴族たちはその光に目を奪われながら、二人の演奏を心地良さそうに聞いていた。
精霊に祈りを捧げたら、次は会場を別にしてパーティである。去年は式典のみで、パーティは催さなかった。
今年は国が安定していることを見せるために、行うことを決めた。
そのパーティに出ていたので、外に出るのが少々遅くなってしまった。
ヨシュアに転移してもらい、アシュタルとヘライーヌと一緒に、街を歩く。
ヘライーヌは魔導院のコートを着ているので、かなり浮いているが、気にしないでおこう。外は暑いので蒸れそうだが、ヘライーヌは気にならないようだ。
ヘライーヌは屋台のお菓子が気になると、店に走った。
「まだ、食べるの? よく食べるわね」
パーティでも珍しくがっついて食べていたのに、まだ食べるようだ。その小さい身体のどこに入っていくのか、不思議である。
魔導院の研究員に、いつもの制服を着てパーティに出席しろというお達しはなかったのだが、ヘライーヌは黒のフードを被ったまま、パーティ会場でテーブルに齧り付くように食事をしていた。
研究案を出した後、また閉じ籠もっていたようだ。イムレスに怒られてお風呂に入れば、お腹が空いていたことに気付いたらしい。
「姫さんは、外のもの、結構食べるんだね」
一緒に同じ物を頼んで飴を舐めていると、ヘライーヌが意外そうな顔をした。
貴族っぽいことを気にするようだ。
「気にしたことないわね。家庭料理とかおいしいし、屋台のお菓子も美味しいでしょう? ルヴィアーレも食べてたわ」
「へー。あの人、そんなことするんだ?」
無理やり食べさせたかもしれないが、まあいいかと頷いておく。
「あの人、おーさまになったんでしょ? 姫さん、なんでついてかなかったの?」
「なんでついていくと思うのよ」
「婚約者じゃん」
「……婚約破棄したの、知らない?」
「え、知らない。婚約破棄したの??」
ヘライーヌは初めて聞いたと、目を瞬かせた。
ヘライーヌは研究所に引き籠もっているので、世間の噂など耳にしない。ルヴィアーレが王になったことは知っていて、婚約破棄について知らないとは思わなかったが。
婚約破棄をして一年。今度はキグリアヌンから婚約打診が来た。正式ではなかったが、それは予想通りだった。キグリアヌン王が、コニアサスが王になった後のことを気にしていたからだ。
キグリアヌン王が敵か味方か、どちらか分からなかった時、ヨシュアを使い、調査を行った。キグリアヌンがオルデバルトと同じ意思ならば、こちらは全面戦争になる。しかし、オルデバルトからは、キグリアヌンの総意でグングナルドを乗っ取ろうという姿が見えなかった。キグリアヌン王が一切出てこなかったからだ。親子で乗っ取る気ならば、王が出てきた方が話は速い。
しかし、それがなかった。オルデバルト単独で行っている可能性を感じたのである。
だから、キグリアヌン王に繋ぎをつけた。そこから、第一王子との婚約話が浮かぶとは思わなかったが。
キグリアヌン王は体調不良が続いている。第一王子セルファムは、あの通り人の良さそうな男だ。第二王子は歩くことができない。他の王子や王女たちは後ろ盾が弱く、脅威ではない。
第三王子オルデバルトが他国乗っ取りを行おうとした罪は重く、貴族たちは王族を糾弾するだろう。
その対策として、グングナルドの王女を娶ろうと思うあたり、キグリアヌン王の図太さが感じられる。大国の王らしい考え方だ。助けてもらいながらも、婚姻を打診して、立場を逆転させたいのだ。
そんな政治的役目など、お断りである。
こちらは自国のことだけで精一杯だ。自分たちでできないことを、人に頼らないでほしい。
「姫さん! あれなに! 食べたい!!」
「まだ食べるの!?」
『俺も食べたい』
ヨシュアとヘライーヌの反応は一緒だ。ヘライーヌが美味しそうに屋台の物を頬張っているのを見て、ヨシュアが外に出たがる。
鳥追いは既に終わり、あちこちに机と椅子が並べられ、そこで飲んだり食べたりしている。皆はほろ酔い気分だ。子供達はもう家に帰っているだろう。
『フィルリーネ、俺も食べたい!!』
ヨシュアが頭の中でがなる。ずっとうるさい。仕方なく、大人しくすれば外に出ていいと伝えれば、いきなり背後に現れた。
「フィルリーネ、あれ食べたい!」
「せめて、フィリィって呼んで……」
どうせ夜だからそこまで見えないだろうと思ったが、突然現れた大男に、周囲にいた人たちが怪訝な顔をした。見ないふりをしておこう。
「姫さん! あれなに!?」
「ヘライーヌも、姫さんて呼ばないで……」
「あれ、食べたい!」
「はいはい。買ってくるから待ってなさい」
ヨシュアは我慢できないと地団駄を踏む。大男が子供のようにねだった。後ろでアシュタルが甘やかさないように言ってくるが、放置していたら翼竜になって飛び立ちそうなので、仕方なく買ってくる。
戻れば、ヨシュアの身長の半分くらいほどしかないヘライーヌが、じっとヨシュアを見上げていた。
「翼竜って、どうやって人型になるの?」
「知らない。俺は最初から人型だった」
買ってやった肉団子の煮込みを口に入れながら、ヨシュアは首を傾げる。
「魔導量の違いかしらね。人型になれない翼竜もいるから」
「精霊も同じなのかな。姫さんのその頭の精霊、やっぱり大きくなってると思うよ」
ヘライーヌに言われて視線を上にする。上にしても見えないが、精霊が髪の毛を引っ張っているので、定位置で座っていることだろう。
「魔導量だとしたら。姫さん、その精霊に、魔導分けてるかもよ?」
「私がもらってるんじゃなくて?」
「王族として精霊の力を得るって、精霊の小さな力が集まってもらえるって感じじゃん。精霊には王族でも魔導を与えたい人とそうじゃない人がいて、姫さんはきっと前者なんだよね。だから、普通より多く魔導がもらえる。それを、逆にその精霊に与えてるとしたら?」
だから大きくなっているのではないか。ヘライーヌは肉団子を頬張りながら、そんな分析をしてくる。
「その精霊が姫さんに魔導量を分け与えたとしても、頭の上でその精霊が姫さんの魔導吸収する量の方が多いってこと。もしかしたら、ずっと側においてると、人型になるんじゃないかな」
「面白い研究ね。それ、論文出したら?」
「人型とそうじゃないのって、ずっと気になってたんだよね。姫さんとこ、やたら人型来るじゃん」
マリオンネの女王代理になってから、マリオンネで精霊に祈る儀式を行っているからか、マリオンネの精霊たちが地上に降りてくるのである。その中に、なぜか人型の精霊もいる。堂々と姿を現して来るので、ヘライーヌも見ていたようだ。
「マリオンネの女王とか、姫さんみたいに魔導量の多い人の側にいる精霊は、人型になるのかもよ。長い間魔導を身体に取り込んで、ゆっくりと大きくなってく。どれだけの時間掛かるか、分かんないけどね」
「エレディナは、長生きしてるって言ってたわ」
「そっちの翼竜は何歳なの?」
「俺、まだ七十歳」
それがまだかどうかはともかく、七十年生きていてヨシュアは子供だと言われている。人間の年であれば、七歳くらいかもしれない。まだお子ちゃまだ。
「ロブレフィートある! あれ弾いていいの?」
話途中でヘライーヌが舞台にあるロブレフィートを見付けた。バルノルジが近くのテーブルに座っていて、手を振っている。それに応えながら、ふと気になった。
「自由に弾いていいのよ。精霊は音楽が好きだからね。喜ぶわ。でも、弾けるの?」
「おかーさんが、それくらい弾けるようになっとけって。姫さんの真似しよ。音楽に魔導乗せるやつ」
ヘライーヌの母親が想像つかない。ヘライーヌは人に肉団子の入ったお椀を押し付けて、ロブレフィートを弾き始めた。
音楽に乗って踊る人たちが出てくる。
去年はナッスハルトと踊ったのを思い出した。ルヴィアーレと一緒に来て、祭りを回ったのだ。
あれから一年。長いようで短い。
シエラフィアの葬式後、ルヴィアーレに手紙を書こうと思ったが、婚約破棄した王女が私的に手紙を出すのは憚れると思い、出すのはやめた。
ラータニアに王族として手紙を出す用もない。
一年の間、何も思わなかったわけではない。ルヴィアーレが立ち直るのにどれほど時間が掛かるのか、心配ではあった。同じ経験をした身として、精神が元に戻るまで、どれほど掛けたか分からない。
彼が傷付き、苦しんだ心を少しでも和らげてあげられるならば良かったが、自分はその立場にない。
婚約者のままならば、少しは何かができたかもしれないが。
他国の王と王女では、大きく立場が離れている。それを実感した。
仕方なく、シエラフィアの遺言通り、一年に一度墓に参るつもりだった。一周忌を行うだろうから、それに参加させてもらうつもりだったのだ。その時に様子を聞こうかと思っていた。
それとは別に、予定外にラータニアに行くことになったが。
「この曲……」
ヘライーヌがやけにしっとりする曲を弾きだした。前に、自分も弾いた曲だ。
昔流行った、恋歌。遠いところへ行ってしまった恋人と、再び出会い、喜びを歌う。
ヘライーヌの魔導に、精霊たちが集まって、瞬いている。
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