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03.ルカの秘密
しおりを挟むルカが宰相である父に下心を隠しながらも「赤騎士団所属の騎士リーヴァイはどうか」と打診し「その話を正式にお受けする」と数日も待たずに返答がきてから後は、とんとん拍子に話は進む。
それはまるでルカも予想していなかった程の速さで、全てが固められていく。
ルカの父からすれば、ルカが誰かと婚姻関係にある、という事実さえあれば構わないのだから、とっとと式を執り行い、二人を同じ家へ押し込んでしまいたかった。
ルカの父だけではなく、突然に養子を指名された赤騎士団の団長も、また結婚相手と名指しされたリーヴァイですら、この関係は国内外へルカが結婚したと知らしめる為だけのものだ、と理解していたし、その時点で下心しかないのはルカただ一人。
そう、下心しかない。取り繕う気持ちなどリーヴァイを名指しした時点でルカにはない。
一生誰とも結婚しないと思って生きてきたのに、合法で好きな相手と一緒にいられるのだから下心をフルに活用せずにどうしろというのだ。
リーヴァイは結婚を受けてくれたのだから、ほんの少しでもルカに好意を――持ってはないかもしれないが、ルカの事が嫌すぎて「いただいた話はお断りする」と言わないだけの好意は持っているはずだ。
で、あれば、結婚後すぐでなくとも構わないからいつの日か仲良くなれたら、あの……他では類を見ない程の大きく長いアレを、己の後ろの穴にハメてもらえないだろうか。ハメてくれたらいい。
リーヴァイはいつもしかつめらしい表情でルカを見ていて表情も殆ど変えない。今回の件も政略結婚のようなものだと思っているだろう。そんなこと、浮かれて下心が踊っている状態のルカにだってちゃんとわかっている。
だから、最初は、ゆっくりと。お互いの距離を縮めよう。そう思っていた。
――結婚式当日。
最低限の人数、簡略儀式が行えればそれで良いのだと、出席者は文官の制服を着たルカ本人とルカの家族、一応式典用の騎士服を着たリーヴァイ本人と親代わりの赤騎士団団長、式に必要とされる立会人に至ってはルカの父が兼任するという簡易さだ。
みなが集い、リーヴァイとルカ、お互いの名が刻まれた銀のバングルを交換してお互いの左手首につける。一度付けると二度と外れない仕組みになっているそれは、国内では既婚者が着けるとされている伝統的な代物だ。
隣国の姫には正式に返答するとして、国内であれば特に吹聴してまわらなくとも自ずとルカは結婚したのだ、と知られることになるだろう。
ともかく、こうしてルカとリーヴァイは、つつが無く式を終えて家族になった。
リーヴァイがその日その時間ルカの家族になった瞬間、どんな表情をしていたのかなんて全く覚えていない。覚えているのは、緊張しているふりで目を伏せがちにしながら、一瞬の時も見逃さないぞという気持ちで見続けていたリーヴァイの股間で、騎士服を着ると意外と目立たなくなるものなんだな……なんて、式には何一つ関係の無い欲望しかない感想のみ。できる文官と評判の人間にしてはお粗末すぎるもので。
「しょうがないだろ、……身体目当てなんだからさ……」
夜、新しく引っ越した屋敷の自室でルカはため息をついた。
本当は、自分を見ても他の人のように浮かれないその心根を好ましく思っていたとか、実は苦労して赤騎士団に入ったというのにそれを鼻にかけずただただ職務に邁進する姿をずっとかっこいいと思っていたとか、出自が複雑であるのにそれを外には見せずに振る舞う彼の様子に憧れを持っているだとか、彼の人に思う事は色々とあったのだけど、身体目当てだなんて言葉を使っておかないと自分の心が落ち着かない。なんて。一体誰に言い訳しているのかすらわからない。
自分で思っている以上に思う相手と共に暮すということに緊張しているようだ。
必要なものだけを持ってくればすぐに生活ができるように準備がなされている屋敷は、父が用意してくれたものだ。結婚祝いだと言うのでありがたく貰っておいた。
一階には玄関ホール、向かって左手に台所、食事部屋、向かって右手には大人数が集まっても寛ぎ話ができる部屋、正面の階段をのぼると二階には大きな寝室兼個室が二つ、真ん中にある扉で繋がっている。それぞれに風呂場やクローゼットもついており、生活には全く困らない。
もちろん、ルカの宝物が入っている大事な両開きの鍵付き扉の入れ物も運び込んである。
結婚初日。新婚初夜だ。隣の部屋にいるであろう彼を妄想しながら一人で楽しむのもまた乙なものでは……? などと、本当にどうしようもないことを考えながら、ルカは鍵を差し込み扉を開いた。
今日はどれで楽しもうか……? 最近少しご無沙汰だったから……うーん、木を滑らかに加工したこれ……。
熟考の末、一番肌馴染みの良いと思うものを手に取る。あくまでも自身の楽しみのため、ルカは真剣だ。
瞬間、寝室兼個室を繋ぐ扉が密やかに叩かれた。密やか過ぎて聞き間違いかとも思ったが、再度叩かれたその音にルカは動揺する。
「え? ……はい?」
思わず出た声に、低目のよく通る声で「すみません、少しだけいいですか」リーヴァイの声が聞こえた。「お手間は取らせません。この扉の所で少しだけ」続く言葉にルカの足はふらりと動いた。
だって、なんだかんだ言い訳をつけながらも結婚したいと思ったほどの相手だ。
股間だけしか見てなかっただろうがと言われても仕方のないルカではあるが、それでもルカの知る全ての男性の中では一番好きな相手が自分を呼んでいる。
リーヴァイの部屋と繋がる扉の鍵を外し開いた。
既に風呂も済ませて寝るばかりのルカの様子に反応したのか、目の前に立つリーヴァイは「あ、うわ」と密やかな声を出し、少しだけ視線を彷徨わせながらも挨拶をしてきた。
「こんばんは、あの、……今日はお疲れ様でした」
普段のしかつめらしい表情に比べて、とても和らいだ顔で労りの言葉をかけてくる。
そうか、こんな表情もできるんだ、と思いながら自分よりも頭一つ分は高い位置にある瞳に視線を合わせた。
リーヴァイの股間目当てでルカが騎士たちの水浴びの近くを通っていた時、他の人と違って愛想笑いすらしなかった琥珀色の瞳が優しくルカを見つめ返してくる。
「どうしても、伝えておきたいことがありまして……夜分に申し訳ない」
「いえ、それは大丈夫なのですが。どうしました?」
「ルカ様、……自分は、あなたの事がずっと好きでした」
「……」
「なので、この度の婚姻のご指名、……ルカ様にとっては政治的配慮があったとのこと当然承知していますが、お選びいただけて嬉しかったと……それをお伝えしておきたく」
「……」
「……申し訳ない、こんな夜分にご迷惑は承知でしたが……婚姻を結んだ今日という日にお伝えしなければ、自分の性格上この気持を秘めてしまい二度とお伝えできないかと……」
「……」
「明日からは、赤騎士団団員として私情を挟まず、これまで以上にあなたをお護りします。……では、……あの、本当にこのような時間に申し訳もなく……」
あまりに何も返さないルカに焦れたのか、リーヴァイはほんの少し気まずそうにしながら半歩後ろへ下がった。
「あ、……ま、って、……!」
ルカはようやく正気に戻る。衝撃が大きすぎて一言も返事をせずにいてしまった。
好きと言ったか? この、目の前の男が、自分を好きだ、と言ったのか? あんなにしかつめらしい顔をして自分を見ていた男が、実は好きだ、と?
「待って、行かないで、……その、好きって言ってもらっていることが信じられない、だってずっと……嫌そうな顔で僕をずっと見ていた……」
「嫌そう、な、顔をした覚えはありませんが。あなたを見ると好きが高じて緊張するので……それから……一瞬もあなたを見逃したくなくて、つい不躾な視線を送ってしまっていたかもしれません」
「好きが、……高じて、緊張して、不躾な……」
なんだかルカは肩の力が抜けてしまった。
色々思うところはあったが、結局結婚を承諾してくれたのだから嫌われてはいないはずだ、と自分に言い聞かせながら過ごしたここ数日の緊張が一気に解れた。
あまりに急で簡易的に済まされた結婚話だったから、二人の間でまともな話し合いもなかったし、そもそも対面すらしなかった。政略結婚ならよくあることかもしれないが、ルカにとってみれば渡に船的な話だったのだから、下手に話す場を作って幻滅されて断られるのも嫌だった。
なんて、思っていたのに、好き? 自分を?
「はーーーー……」
腹の底から緊張で詰まっていた息を吐く。
「あの、ありがとう。君がそう言ってくれて……本当に嬉しい……実は、僕も君が好きだったと言ったら、受け入れてもらえるのだろうか」
「はっ?!」
「は?」
「ルカ様が、私を、ですか?」
リーヴァイは心底信じられない、といった表情でルカを見る。あなたが、私を? 再度呟きながらもじっとルカの瞳を見つめて……そして、首を横に振った。
まさか受け入れられないなんてことがあって、これから振られてしまうのだろうか。目の前の男がルカの事が好きだと言ったから、自分も、と伝えたつもりなのだが。
そう思いながら「せ、せっかく結婚したのに、別々の人生を送るつもりか」と、思ったことをそのまま口にすると、リーヴァイは言う。
「すみません、違います、今なら先程のあなたの気持ちがわかる。ちょっと、これは……時が止まりますね。まともな判断ができそうにない……できれば、別々の人生ではなく、共に人生を送りたい。先程、そう誓いましたね、バングルまで交換したのに別々の人生はおかしい」
「そう、バング……ル……」
ここでようやくルカは違和感に気づく。違和感というか、自分の左手について。慣れないバングルのことではなく、手に持つそれを、それとなくさりげなく、身体の後ろへとまわす。
しかし今更隠したところであまり意味はなさそうだ、完全に見られていただろう、今日これからのために選びに選んだ木製のディルドを。
ルカは考えた。
木製ディルドはリーヴァイにバレているだろう。いや、バレていないわけがない。こんな、男性ならば絶対にそれとわかる形の巨大なもの、ディルド以外の何に見えると言うのだ。手に持ったディルドに気づいているにも関わらずそれでもリーヴァイが自分に愛を告げたのならば、……それを求めても良いのでは?
「あ、の、リーヴァイ」
「はい」
「僕が手に持っていたものは、……見たよな?」
「そうですね、……見ました」
「……君は、僕と、その、……結婚してもいいと思う程には、僕を思ってくれていたのだとしたら、僕と、その、……」
そもそも、男の――だけではなく、当然女も――誘い方なんて知らないルカだ。なんと誘えばリーヴァイが乗ってきてくれるのかなんて見当もつかなくて、全く言葉が出てこない。
「えと、僕と、……あの、これ、あの、……」
「ルカ様……良ければ、その、木の……私がルカ様に使って差し上げましょうか?」
ちっがーーーーう! そう、ルカは叫びたくなった。これを使ってほしいわけではない。が、もしかしたら、それをきっかけにしてリーヴァイのあの大きなアレを入れてもらえるかもしれない。そう考えて上目でリーヴァイを見る。リーヴァイは特に表情は変わらず、嫌がっているような様子もない。視線を合わせるようにしながらルカは小さな声で「頼めるだろうか……」そう言いながら、頷いた。
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