~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭

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新たなる道

剣聖

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 剣聖……そう彼女が口にした。
 ミュセル・グリーン・フリート。
 
 「あんた許さないからね」
 
 ミュセルは2本あるうちの1本を鞘から抜き構えている。
  
 「みんなは手を出さないで」
 
 ミュセルの言葉に他の生徒は素直に従う。そのミュセルは他の奴等から離れて俺の近くに来る。
 
 「……こんなクズがそんなに大事か?」
 
 腰を上げ俺はクズニールの顔を踏みつける。
 
 「その足をどけなさい。さもないと、痛い目にあうわよ」
 
 その言葉に思わず俺は苦笑する。
 
 「もう、十分痛い目にあってるよ。この腕、どうしてくれるんだ?」 
 
 俺は傷口を凍らして止血してある腕を見せる。
 
 「そんなの自業自得じゃない」
 
 ミュセルは当たり前の様に言う。
 
 「なら、こいつも自業自得だろ? 俺より弱いこいつが悪い」
 
 クズニールを強調するように何度か踏みつける。
 
 「もう1度言うわ。その足をどけなさい。さもないと次は足が消えるわよ」
 
 甘い。甘すぎる。誰かに助けて貰う様じゃこの先、生き残れない。
 
 「こいつに助ける価値なんてあるのかよ。自分の相棒を見殺しにしたこいつに」
 
 その言葉にミュセルはため息をつき、分かっている様に言う。
 
 「また、グリフォンを殺したのね」 
 
 「また? って事は……」
 
 その言葉にミュセルは短く頷く。そして続く様に口を開いた。
 
 「でも、仕方ないのよ。ニールはこの間、恋人を亡くしてしまったから」
 
 なにこいつ? 何が仕方ないの?
 
 「ダンジョン遠征に行った時、その階層のレベルと全くそぐわない凶悪なモンスターが出てきて、その子が皆を逃がすために囮になったのよ」
 
 だからなんだよ? 何が言いたいんだよ? ていうか 、何いきなり語り始めてんだよ。

 「そして、そこから帰ってる事はなかった。死ぬ所を見たわけでも、死体が見つかった訳でもない。だけど学園側は死亡扱いにし捜索を断念した。それを聞いてニールは心を病んでしまって、おかしくなったのよ」
 
 だから何? 病んだらガゼルを見殺しにしていいの? 
 
 「だから、私はニールが立ち直れる様にって―――」
 
 熱く語っているがそんなもん、俺の知ったこっちゃない。
 
 「傍にずっといようって――」
 
 ……もう我慢ならん。言ってやる!! 思ってる事全部言ってやる!!
 
 「だから、お前はそれで何が言いたいんだよ? 俺に分かる様に説明してくれよ」
 
 その言葉にミュセルはキョットンっとする。何? 同情でもしてほしかったの? バカなの?
 
 「恋人を失ったから何? そんなもん、生きてるんだから死ぬのは当たり前じゃん。逆に何で死なないと思うんだよ。それに、死んだ確証がないのに、どうしてこいつは探しに行かないんだよ? 見つかるまで探せよ。努力しろよ。ダンジョンにいる事は確実だろ? なら、金でも何でも使って冒険者でも、雇って探して貰えばいいだろ? そんな最低限の努力もしないで、何病んでんだよ。ただのろくでなしの救いようがないバカだろ」
 
 口からこんな言葉が漏れてる時、俺の脳内では今までの彼女や家族のエピソードが流れる。みんな死んだ。俺が殺したた、殺された。俺も殺した数と同じくらい殺された。恋人を最初に失った時、俺は自分の弱さを恨んだ。守れなかった自分の弱さを。だから強くなろうと決心した。平和ボケした日本人がこれなのに、このクソガキは何だ? 恋人を失って精神不安定になって、相棒を見殺しにして、剣聖なんかに助けられて……そんなに構ってほしいのかよ。そんなに慰めてほしいのかよ。
 
 「いいか、甘ちゃん。この世界はいつも生の隣に死がいるんだ。そんな事も理解できなくて、許容できない奴が、意気がってるからこうなるんだ」
 
 その言葉みミュセルは優しく微笑む。そして―――
 
 「私、個人ならまだしもニールをここまで否定するなんて……覚悟は出来てるでしょうねぇ?」
 
 俺とミュセルの間の距離が6メートル程あるというのに、そのままミュセルは剣を振る。剣を振る直後、刀身が魔力に覆われている事に気づいた。
 
 「これで斬ったのか」
 
 直ぐに構造が分かる。魔力を流した状態の剣を振る事で、魔力だけを飛ばすのだ。剣の様に薄く鋭い魔力は大抵の物なら豆腐のごとく斬ってしまう。
 
 
 ミュセルが剣を振った直後に、クズニールの体を持ち上げて盾にした。
 
 「なっ!」
 
 その事に驚くミュセル。慌てて剣の向きを変えた。クズニールの肩にかする。
 
 「おらよ、返して欲しいなら返してやる」
 
 ぼろ雑巾となったクズニールを投げたと同時に俺は剣聖に向かって踏み込む。クズニールの体と傘なり俺の姿は見えなくなった。

    弱い奴が悪い。……この世界は残酷なんだ。
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