どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき

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第一章

第14話 自己犠牲の順番

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 日の光が窓の隙間から差し込み始めた頃、外から感じていた気配は無くなっていた。

 この場から移動するために必要なことは三つ。

 子供を含む五人が眠っているうちに拳銃を手にソファーで塞いだドアから外に出れば、そこに村中の姿は無く、血溜りの痕だけが残っていた。

「相も変わらず……わからないことも多いな」

 ゾンビもどきの行動には未だに不明なこともあるが、幸いにも今日は快晴のようで移動するには良い日だ。

 まずは周囲の陰にゾンビもどきがいないのかを確認する。仮にいたとしても日の下なら襲ってくることは無いと思うが……現状ではそれも確証は無い。

 あれだけ入り込んできていたゾンビもどきがどこに行ったのか。ここはキャンプ場なだけに他にもコテージはあるから鍵が開いていればそこだろう。そうでなければ山を少し登ったところに日を遮る森がある。おそらくはその辺りだと思うが、確かめに行くにはリスクが高い。

 とりあえず軽トラもバイクも無事、と。荷台と車体の下にもゾンビもどきはいない。

「あとは――エンジン掛かるといいんだが」

 開いた門を塞ぐように置いた車を動かさなければ軽トラも出せない。という心配もあったが、車も問題なく動く。一先ずは慎重のバックで車を動かし道を開けて準備は出来た。

 昨夜と同じようにショッピングモールで生き残った者がいる可能性もあるが、待っている余裕は無いし、突っ込まれるのは一度で充分だ。

「さて……メシだな」

 この生活を始めて数日経ったが、今のところはパンや保存食で凌いでいる。隔離施設に辿り着けば肉や魚もあるが、辿り着くまではまだ数日掛かる。俺の分だけならバッグパックの中に栄養が偏らないような非常食が入っているが、人数分は無い。炭水化物とタンパク質は良いとして、脂質とビタミンだな。

「肉、魚……果物。スーパーに寄っていくか」

 どれだけの物が残っているのかわからないが、行ってみればわかる。

 コテージに戻れば、目を覚ましていた那奈と美島、それに美夏が俺に気が付いた。

「零士。村中さんは……?」

「お前らは気にしなくていい。それより準備ができたら移動するぞ。今日中にはもう一つ先の安全施設まで行きたい」

 そう言って裏口の見張りにやった二人の様子を見に行こうと三人の横を通り過ぎようとすれば美島に腕を掴まれた。

「気にしない、なんて……そんなこと、出来るわけないじゃないですか!」

「気持ちはわかる。言いたいこともな。だが、だとするなら村中の想いも汲んでやれ。……察しろ」

 こちらに詰め寄ってこようとした美島に腕を伸ばして止めたのは意外にも美夏だった。

 そっちは任せておいて俺は奥へと進ませてもらう。

「……おい」

 裏口のドアを背に床に座り込んで眠っている二人の脚を蹴れば、体を震わせて目を覚ました。

「ああ……戎崎くんか」

「移動するぞ。準備しろ」

 寝惚けているようだが、運転をする武蔵にはしっかりと目を覚ましてもらわないと困る。

 とはいえ、こうなるのも仕方が無い。緊張感を保ちつつ眠ることなど普通に考えて出来るはずが無い。俺の場合はこういう世界になった時のためにと、短時間睡眠と何かあれば即座に起きて対応できるだけの練習をしているから良いが……まぁ、慣れだ。

「戎崎さん、次はどこへ行くんですか?」

「中間地点にある避難所だ。ショッピングモールや、ここのコテージとは違って、俺たちが事前に用意した場所だから安全なのは間違いはずだ」

「中間地点というのは安全な隔離施設とのってことかい?」

「そうだ。まぁ行けばわかる。とりあえず武蔵は運転だ。子供は寝かせたままでいいから車に乗り込め。あまり悠長にしている時間は無いぞ」

 促すように手を叩けば那奈と美島がそれぞれ子供たちを抱えて、バックパックを背負った俺のあとを付いてきた。

 見当たらない村中の姿に疑問符を浮かべているようだったが、残っている血の痕を見て口を噤んだのがわかった。村中がいなくなったことについては俺も説明できないから都合が良い。

 軽トラの荷台に五人を乗せると、武蔵と修司も慌てたように運転席と助手席に乗り込んでエンジンを掛けた。

「武蔵、ガソリンはあとどれくらい残ってる?」

「あ~、三割ってところかな」

「ならまだ大丈夫か。車一台分開けて付いてこい」

 そうして俺もバイクに乗って先導する形で進んでいるわけだが――やはり、気掛かりはある。

 音の無い街中でこれだけエンジン音を響かせているのだから、他の生存者の一人や二人くらい姿を見せて良い気もするが未だに誰も目に付かない。単にゾンビもどきの習性を知らないせいで外に出ることを拒否している可能性もあるが……だとすれば俺には助けられない。

 スーパーへと辿り着いたところですぐに這入ることはしない。当然、建物の中にはゾンビもどきが這入り込んでいる可能性が高い。究極的には何もここで食材を手に入れる必要は無いが、物資が多いに越したことは無い。

 さて、問題は割り振りだ。できれば三人一組で行動するのが望ましいが……俺たちの中でまともに戦えるのは男三人。他は那奈が辛うじて戦えなくはない、ってところか。まぁ、現状は外でゾンビもどきに襲われる可能性は無いから考えるまでも無いな。

「武蔵、修司、付いて来い。那奈、ここは任せた」

「うん、わかった」

 修司は木刀を、武蔵は前に渡したバールを。俺も室内ということを考慮して銃ではなく警棒を取り出した。

「戎崎さん、何を探すんですか?」

「二人は店内で果物を。腐ってないものを探してくれ。できれば柑橘系」

「戎崎くんは?」

「肉を探してくる。ヘッドライトを付けていけ。奴らがいたとしても戦いは極力避けろ」

「そっちは一人で行くのか?」

「そのほうが楽だ」

 守るためには、一人のほうが良い。それに少し試したいこともあったしな。

 スーパーの中を覗き込めば、とりあえず入り口付近にゾンビもどきの姿は無い。俺が先頭で中に這入れば、あとを追うように二人も入ってきてそれぞれの売り場へと別れた。

 肉……さすがに生で放置されていたものは無理だな。真空パックのベーコンとかソーセージがあればいいんだが、隕石衝突騒動による大量購入の影響で店頭にはほぼ在庫が残っていない。まぁ、想定内だが。

 いわゆる世紀末論の買い溜めと同じだ。が過ぎても生きていることを仮定して、こういう場所は多めに在庫を抱えている可能性が高い。つまり店の奥なわけだが外からの日差しが入らない分、ゾンビもどきがいる可能性も高い。

 問題は二人を連れ立っていくかどうかってっことだが、狭いところで固まるのは得策じゃない。当然、俺もヘッドライトは付けていくが仮にゾンビもどきに襲われたとしても一人のほうが動ける。

「まぁ、店内にいない時点でな……」

 従業員口から店の奥へと這入れば、早速ゾンビもどきに出くわした。とりあえず目の前の奴を無視して先へ進めば、思った通り積まれた箱の中には真空パックの肉が詰められていた。手近にあった手提げバッグの中を空にして肉を入れて、そこら辺を歩き回っているゾンビもどきに視線を向けた。

 この場にいるのは一匹のみ。……試してみるとするか。

 ヘッドライトの明かりを消せば、こちらに気が付いたゾンビもどきが一直線に向かって来た。服装からしてここの従業員かな。

 大口を開けてやってくるゾンビもどきの口元目掛けて警棒を振り抜けば顎が砕けて閉まらなくなった。お次は鉄板入りのブーツの先で膝を蹴り砕く。

 すると倒れ込んだゾンビもどきは立ち上がることも噛み付くこともできずにもがいている。あとは頭を踏みつけて終了だ。

「とはいえ……やっぱり練習は必要そうだな」

 一撃で倒すことが出来ない場合、顎を壊せば噛み殺されることはないし、脚を壊せば歩けないからその分だけ時間を稼げる。仮にすでに死んでいるゾンビもどきを殺すことに抵抗があったとしても、このやり方なら戦うことができる。ま、戦わないのならそれで済めばいいのだが。

 再びヘッドライトを付けて店内へと戻れば、俺を探していた二人と鉢合わせた。

「あ、良かった。どこにいるのかと思いましたよ」

「在庫が店の奥だったんだ。そっちは?」

「腐っていないものを探すのは大変だったが柑橘系の他にもいくつかあったよ」

「よし。じゃあ、さっさとここを出よう。奴らがこっち側に来る前に」

 そう言って出口のほうへ足を進めれば、開いたままのガラスドアの向こう側――太陽の下を歩く一体のゾンビもどきがいた。

「戎崎くん、あれはいったい……奴らは日の下を歩けないのではなかったのか!?」

 そのはずなのだが、どうやら嫌な予感が如実に表れ始めているのかもしれない。しかし、動きが鈍いところを見るに、まだ完全には対応していないって感じか。

「まだ一体だけだな。なら、お前らに頼みたいことがある。どっちがどっちでもいいから、一人は顎を、一人は脚を砕いてあいつの動きを止めてみてくれ。もちろん、何かあれば俺が片を付ける」

 聞きながら不安そうな顔を見せる二人に拳銃を取り出して見せれば、覚悟を決めたように頷いて外に向かって行った。

「じゃあ、俺が顎をやる。脚を頼んだ」

「わかりました」

 危険なほうを武蔵が担当するか。

 すると、ゾンビもどきが二人に気が付いたようだがこれまでの奴と違って全力で駆けてくることは無く、じわじわと歩み寄ってきた。

 そんな様子に今のうちだと思ったのか、武蔵は顎の下からバールを突き刺して、引き抜くのと同時にバキンッと下顎を外した。その間に背後に回り込んだ修司が腰を落として脛に目掛けて木刀を振り抜くと、派手な音が響いた。

 ふむ。覚悟の有る無しに拘らずそれなりにゾンビもどきを殺してきた二人ならこれくらいは楽に熟せるか。

 肩で息をする二人を一瞥して倒れているゾンビもどきの頭を掴んで、その眼と視線を合わせた。どす黒く染まっていた眼球の真ん中に白い斑点が見えた。変化中、か?

 頭を放して考えるように立ち上がれば、疑問符を浮かべる二人の視線がこちらに向かってきた。

「……どうするんだい?」

「どう? いや、別に」

 抜いた拳銃で倒れている頭に二発撃ち込むと、その光景を見ていた修司が途端に口元を抑えて駆けていった。

「っ――おっ、えぇ――」

 今更なんだ? これまで何体も殺しているだろうに。何より、この変化を見逃すわけにはいかない。いずれは可能性もあるが、今はまだ困る。

「さぁ、行くぞ」

 必要なものも調達したし、知りたいことも知れた。今のゾンビもどきのこともあるし、これ以上この場に留まるのはリスクしかない。

 人が死ぬのは仕方が無い。だが、もし次に誰かを犠牲にしなければならない時は――その時は俺の順番だ。相も変わらず、偽善だな。
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