どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき

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第一章

第17話 策士、策あり

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 翌朝、車に乗り込んで隔離施設へと出発した七人を見送って、俺は一階和室の畳をひっくり返した。

 そこには各種武器の予備が置かれている。

 要はゾンビに有効そうだが、大きくて持ち運びに適さない武器が置いてあるわけだ。基本が拳銃と近接武器使用の俺には関係ないが、銃とナイフと警棒に加えて何か間合いの広い武器が欲しかったのだが……まぁ、良くて木刀かバットだな。移動がバイクってことは変わりがないし、常に剥き出しで持ち歩くものとしては使い勝手が重要だ。日本刀なんかもあるが、ナイフなどと違って刃毀れしやすく使いにくい。

「殺すことよりも、戦わないことを選ぶべきか」

 つまり、長物や刃物より重しの付いている鎖のほうが良さそうだ。

 準備を整え、備蓄してあったガソリンをバイクに注ぎ込んで警察署に向かって走り出した。

 法定速度無視の速度超過で約二時間半。隔離施設への半径からは出てしまったが、それ自体は大した問題では無い。日が昇っているから、ここまでゾンビもどきに出くわさなかったのは良いとして、生きている者の気配が無かったのは気掛かりだな。

 警察署の入口にはバリケードが張られた痕があるが、今は見事に破壊されている。開けっ広げって感じだ。おそらく昨日の無線傍受の時点では壊れていただろうから、ゾンビもどきの侵入を許したのは良くて丸一日。どこか厳重な部屋で立て籠もれていれば生きている可能性は十分にある。

「車が五台と、バイクが三台――パトカーと白バイを含めれば……最大で二、三十人ってところか」

 生き残っている人数が多いに超したことは無いが、少なくても責めることは出来ない。俺だって全員を救えるわけじゃない。

 さて――行くか。

 鎖を腕に巻き付けて、警察署内に足を踏み入れた。

 ルールは一つ。日の当たる窓の近くを歩くこと。

 ゾンビもどきが侵入するとしたら一階からだけ。だから生存者は上階に逃げたと考えるべきだ。なら、下から上へ虱潰しにしていけばいい。

 一階から二階へ。二階から三階へ。

 人がいた形跡はあるが、相当激しく争ったのか荒れているというだけじゃない。真新しい血の痕は当然として、頭の潰れたゾンビもどきと勇敢に戦ったであろうガタイの良い男の死体も転がっている。

 そして、七階建ての四階へ。

 角を曲がる直前に何かが近付いてくる気配に気が付き、息を殺して足を止めた。問題は生者か死者か。まぁ、ゾンビもどきであれば即座に殴るだけだ。

 さん――に――いち。

「っ――」

 デカい。角で出くわしてお互いに拳を構えているが、視線が交わることは無かった。身長約二メートルで筋骨隆々。……見覚えがある。

「はぁ――土門か」

「そういうお前は零士か。会合以来だから、一年振りだな」

「いや、十か月振りだ」

 握った拳を下ろせば、漸く目が合った。見下ろされる視線も、被っている野球帽も久し振りだ。

「一人か? たしか佐々木兄妹と合流して隔離施設に向かうのが手順だろ」

「ああ。だから合流のために大学に向かったんだが、手遅れだった。そういうお前の担当地域はここじゃないよな?」

「警察無線を聞いて飛んできたんだ。そっちは?」

「同じだよ。車であちこち回っていたら自動無線受信機がここからの無線を拾ったんだ。昨日のだろ?」

「昨日のだ」

 土門司、二十七歳。仲間の一人で元消防士。こと戦闘においてこれ以上に頼りになる男はいない。

 それはそうと、佐々木兄妹が死んだのは痛手だな。共に大学院生で、遺伝子とウイルスを研究していた。もちろん、隔離施設には誰かが欠けても補うためのマニュアルを用意してあるが専門家がいるに越したことはない。まぁ、仕方が無い。

「零士はもう戦ったか? あの、ゾンビと」

「個人的にはをゾンビだと言い切ることはしないが――当然、戦ったよ。情報共有をしたいところだが、今はここにいるかもしれない生存者の捜索が先だ。俺は下から虱潰しに来たが、お前は?」

「俺は一度、屋上まで行ってから降りてきた」

「で、ここで合流したわけか。ということは――」

「〝地下だな〟」

 声が揃ったところで、土門の装備に気が付いた。車で移動していることもあって荷物もなくミリタリーな格好に、武器は腰に鉈を下げているだけだった。素手、か。

 共に一階へと降りていく最中に、背負っていたバックパックに手を伸ばした。

「ここに来る前、俺は中間地点の避難所に寄ってきたんだが――これをやる。お前のだろ?」

「ん? おお、俺のメリケンか」

 念のためにと小さくて持ち運びに苦も無く、容易に扱うことが可能な武器を詰め込んできた中の一つだ。受け取った土門は早速メリケンに指を通していた。

 握りを確かめていた土門は、不意に気が付いたように口を開いた。

「避難所に行ったってことは施設と連絡取れたのか? 無線は?」

「今朝の時点では自動音声だった。無線は先に施設へ向かわせた奴らに持たせたよ」

「で、お前は一人でこっちに来たのか。外れクジを引いたな」

「そうか? こちらとしては土門が生きているとわかっただけでも当たりだが」

 一階に着いて地下へと向かう道を探しているのだが見つからない。いや、より正確に言うのなら階段はあるが、通れない。おそらく、署内に逃げ込んだ者たちは奴らは暗がりを動くという結論に到り、暗闇である地下への道を閉ざしたのだろう。

「下へ行く方法……あるにはあるが、どうする?」

「わかってる。はぁ、仕方がない。乗るか――エレベーター」

 映画なんかの定番だ。狭い密室の箱に入ったが最後、どこからともなくゾンビに襲われて命を落とす。もしくは開いたドアからゾンビが出てきて襲われるってのが定石だな。

「じゃあ、押すぞ」

「ああ、構えろ」

 ボタンを押した土門は拳を構えて、俺は左手に巻いた鎖を握りながらも片手は拳銃に伸ばした。上から降りてきたエレベーターが一階に着いて扉が開いた――無人だ。

「ふぅ。零士、俺が先に入る」

 中に入った土門はエレベーター内と上に嵌められているパネルを確かめて、頷いて見せた。

「一つの行動を取るにも心労が絶えないな」

「消防士だったときは日常だ。さて、地下は……一階と二階があるな。どっちにする?」

「地下一階は多分駐車場だろ。行くなら二階だな」

「はいよ」

 地下二階のボタンを押せば扉が閉まって、ガタンッと音を立ててエレベーターが動き始めた。

「さぁ、気合いを入れろ。どこに奴らが潜んでいるのかわからない。準備を――」

 エレベーターが動きを停めて、扉が開いた先に居たのは――目の前を埋め尽くすほどのゾンビもどきの群れだった。

「閉めろぉ!」

 叫びながら、即座に拳銃を抜いた。

 油断していたわけではない。だが、扉が開き始めた時点で数匹のゾンビもどきはこちらに気が付いて、銃を構えるよりも先に襲い掛かってきた。だから余裕なく鎖を巻いた拳で殴るしかなかった。おかげで続々とこちらに気が付きやがる。

 扉が開き切るまで数秒――どれだけ閉まるボタンを連打したところで機械的なタイムラグがある。文字通りにどん詰まりの状況で約十秒間を持ち堪えなきゃならないわけだ。

「押し続けろ!」

「わかってる!」

 距離が近い分、頭を狙いやすいのは良いが逆に言えば外せばそこで終わる。

 厄介なのは倒れたゾンビもどきを気にする様子もなく踏みつけにして向かってくることだ。少しの足止めにもならない。


 カチンッ――


 確実に動きを止めるため、一匹につき二発撃ち込んでいたのが仇となった。

「弾切、れっ!」

 とはいえ、想定の範囲内だ。頭を撃ち抜いて倒れる前のゾンビもどきを押し倒すように蹴り飛ばしながら、空の弾倉を落として新しい弾倉を取り出そうとした時、漸く扉が閉まり出した。

 よし。なんとか切り抜け――られてない。

「くっそ!」

 扉が閉まる直前で伸びてきた腕が弾倉を取り出した俺の腕を掴んできた。何がマズいって、エレベーターは閉まるときに何かが挟まると、再び全開になるまで開くってことだ。

「退け! 零士!」

 その言葉にエレベーターの内側へと体を退けば、振り下ろされた鉈がゾンビもどきの腕を斬り離した。その瞬間に弾倉を込めて閉まる直前の扉の隙間から、腕を失ってもこちらに向かって来ようとするゾンビもどきの頭を撃ち抜いた。

 たかだか十秒程度の攻防で息切れが激しい。

 会話も無いままエレベーターが停まり一階で降りれば、やっと大きく息を吐くことができた。

「……巣窟だったな。生存者、いたか?」

「ああ、いた」

「見えたのか?」

「なにぶん視点が高いものでね。間違いなく、奴らの先のドアの向こう側に生きている人間がいた」

「そうか。まぁ、とりあえず確認できて良かった」

 生存者は見つけたが問題は、おそらく二人では対処し切れないほどのゾンビもどきがその前に陣取っているということだ。夜になれば外に出てくる可能性はあるが、そうなるとこの場から避難することも難しくなる。

 とはいえ、策はある。どんなことも、大抵は想定済みだ。
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