どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき

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第二章

第26話 同一の仲間意識

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 ゾンビもどきと殺し合うよりは対人戦闘のほうが得意だが、前にやり合ったアマチュアボクサーや、技術を教えてくれた仲間と違い、目の前にいるのは素人で、基礎がある相手と違って戦い辛いのは確かだ。

 教祖を救おうという意志とは別に、俺たちを殺した者にはボーナスを与えるという言葉が尾を引いているのか我先にと向かってくるから対処は楽だ。振り下ろしてくる金属バットを警棒で弾き、残った警棒で脚を砕いて蹴り飛ばせば次の奴が襲い掛かってくる。その繰り返しだとしてもゾンビもどきのように単調で無い分、普通にキツい。

「死ねオラァ!」

 真っ直ぐに振り下ろされた木刀は二本の警棒で防ぐしかなかった。これだけの人数がいればそりゃあ剣道経験者くらいいる。そして、当然その隙を突いてくる者もいる。

「オラァ!」

「っ――」

 金属バットで脇腹よりも少し上を殴られて息が止まった。そのおかげで俺の気が緩んだと思ったのか木刀を振り下ろしている男の力が弱まった。その瞬間を逃さずに警棒を手放し間合いを詰めて、鳩尾に一発。そして、横っ腹に思い切り蹴りを入れれば金属バットの男と共に倒れ込んだ。

 軋むような痛み。息をしろ――躊躇うな。

「すぅ、はぁ……」

 痛みの原因はあばらが折れたかひびが入ったか。だが、呼吸に問題は無いし、動いても激しい痛みがあるわけではないから大丈夫だ。

 落とした警棒に視線を向ければ木刀を防いだ時の衝撃で曲がっていた。もう使えない。

 残り二十五人。手加減しながら戦うことの難しさを思い知っているところだが、柳木さんが攫われた者を見つけ出すまでは時間を稼がなければならない。

 ラバー警棒を取り出して向かってきた男を殴り飛ばした時、外が騒がしくなったことに気が付いた。

「土門、見えるか?」

 問い掛ければ、男を殴り飛ばした土門は開かれている門の向こうに視線を飛ばした。

「あれは――予感的中だ! 大群が押し寄せてくるぞ!」

 ざわつく声と、土門の言葉で男たちは動きを止めて振り返った。

 嫌な予感――つまり、ゾンビもどきの進化だ。最初は闇の中でしか行動できず、次は日の下でも動けるようになった。そして今度は、おそらく音だ。テルミット反応を利用した爆発だとしても威力は抑えてあるからすでに火は消えている。何より熱源を追っているのなら人の体温にも反応するはずだから、やはり爆発音に反応したと考えるべきだろう。

 厄介なのは、視覚聴覚ではなく視覚に加えて聴覚も、ってところだ。

 俺のことをバットで殴った男の胸倉を掴んで起き上がらせた。

「おい、ここのバリケードはどれだけ持つ?」

「わ、わからない。だが、あれを造ったのは俺たちだ。プロじゃない」

 造ったのがプロなら、もっとちゃんと簡単に人が乗り上げられない高さにするはずだからそれはわかっている。問題は耐久力だ。俺たちは一人ずつ登ったからグラつくこともなかったが、杭もなく、ただ地面に載せられているだけだとしたら、押し寄せてくるゾンビもどきには耐えらないだろう。

「零士、来るぞ!」

「バリケードを押さえろ! 奴らが入ってくる前に迎え撃つ準備をしろ!」

 叫んだところで男たちは動き出そうとしない。俺の言葉で駄目なら教祖に言ってもらうしかない――そう思って振り返ったところに教祖の姿は無かった。案の定、一人で逃げたか。

「見ろ! お前らが信じていた教祖はお前らを措いて一人で逃げたぞ! それでも、まだそうしているつもりか!?」

 それでも動かない。

 教祖への喪失感か、逃げ場のないこの場所でゾンビもどきが迫ってきていることに観念したのか知らないが、生きることを諦めた者にこれ以上構っている暇は無い。

 ラバー警棒を仕舞って、痛む胸を押さえながら拳銃を取り出して弾倉の中身を確認した。まったく……どうしてこう事ある事に悪いほうへと進んでいくのかね。

「お前らぁ! ここは教祖様にとっても俺たちにとっても大事な場所だ! なんとしても守り通すぞぉお!」

 俺のことを殴った男が声を上げると、動こうとしていなかった男たちが途端に動き出した。ゾンビもどきに押されて揺れているバリケードに、最も扉の近くにいた五人が駆け寄り押さえて、次の五人は外に出て樹々の間で待ち構えた。

「土門、裏口を見つけて外に出ろ。多分、近くにトラックか何かが置いてあるはずだ」

「教祖はどうする?」

「放置でいい。どうせ何も出来はしないだろうからな」

「はいよ。じゃあ、ここは任せたぞ」

 軽く肩を叩いた土門は踵を返して裏口を探しに行った。

 さて、そろそろか。

「もう駄目だ! 壊れるぞ!」

 バリケードを押さえている者が叫ぶと同時に壁が押し倒されて、大量のゾンビもどき共が敷地内になだれ込んできた。

「皆殺しだぁああ!」

 誰かが発した言葉に続いて周りの男共が声を上げると一斉に戦いが始まった。人を殺すことに躊躇いが無い分、ゾンビもどき共にも怯むことなく向かって行くのは良い。壊されたバリケードから教会の入口までは一直線だから守り易いのは確かだが、如何せん数が多い。

 長椅子の上に立って銃口を向け、少し離れているゾンビもどきの頭を撃ち抜いていくが、押し寄せてくるゾンビもどきの端が見えない。

「……マズいな」

 弾倉を一つ使い切って入れ替えていると、噛み殺されて殴り殺された男たちの落とした武器を拾ったゾンビもどき共のほうが優勢になってきた。すると、一人の男がこちらに駆けてきた。

「おい! さっきみたいな爆弾はもう無いのか!?」

「あれはもう無い」

「くそっ! じゃあどうしろってんだ!」

 今更、後悔したところで遅いってのが本音だが、相容れなくてもこの場だけは協力しよう。

「生きてる奴らを下がらせて、入口に椅子を積み上げろ。低くてもいいからバリケードを作るんだ。足並みを遅らせて入ってきた奴らだけを殺すんだ。……急げ!」

「っ――おい! 今の聞こえていただろ! 椅子を動かすぞ!」

 相も変わらず、俺の言葉だけでは動かないか。まぁ、結果的に言う通りにするのなら特に言うこともないが。

 椅子を積み上げている間は俺が時間稼ぎをしているが、扉の近くまで来ているゾンビもどきは手前で動く男たちが邪魔で撃てない。それでも二人が犠牲になっただけで椅子は詰み上げられた。

 あとは男共だけでも大丈夫だろうと拳銃を下ろすと、背後から聞こえた足音に振り返った。

「戎崎くん!」

 柳木さんがこちらに向かって頷いたのを見て、攫われた者たちを見つけ出したのだと理解した。

「外に土門がいるはずだ。全員を連れてそっちに向かえ」

「戎崎くんはどうするんだ?」

「俺は俺でやるべきことがある。土門に伝えてくれ。俺のことは待たなくていい、と」

 言いながら取り出した弾倉の残弾を確認して、再び差し込んだ。

「いや、それは自分で伝えるんだ。私もここで共に戦おう」

「駄目だ。女子供合わせて十人以上、それを土門一人で守り切るのは無理だ」

「だが――」

「それと、許す心を持ってくれ」

「……それはどういう意味だ?」

 柳木さんの問い掛けと共に、胸ポケットに入っていた無線が鳴った。

「――零士、トラックを見つけた。こちらにゾンビはいない。来るなら今だぞ」

 そんじゃあ最後通告といこう。

「全員、聞け! 裏口にトラックが停まっている! 今なら誰でも例外なく乗せることができる! 助かりたい奴は武器を持ったまま走れ! 戦えない奴を守るんだ!」

 動かないことはわかり切っていたが、さすがに三度目ともなると苛立ちを抑えられなくなってきた。何人かは迷うように俯いているが、そんな余裕もないんだよ。

「ここで死ぬか生きるかを決めるのはお前らだ! いねぇ奴のことなんて気にしてねぇで自分で考えろ! 生きたいのか死にたいのか! どっちだ!?」

「……お、俺は生きたい!」

「俺もだ!」

 その二人を皮切りにまずは生き残っていた者の中で女八人が全員、柳木さんのいるほうへ向かって走った。そして、あとは男が十三人。全員が覚悟を決めて頷いたのを見て、ようやく俺の為すべきことを為す時が来たのだと思ったのだが――またも厄介事が増えた。

「う、あぁあああ!」

「放せオラァ!」

 最も入口の近くにいた二人が声を上げた。

 そこにいたのは身長三メートルはあろうかというゾンビもどきだった。いや、身長だけじゃない。その両手で男二人の体を鷲掴みにして――握り潰し、地面に叩きつけた。

 これまで遭遇したゾンビもどきとは明らかに見た目からして違う。身長もさることながら筋骨隆々で、見たところ眼が潰れている。つまり、音を聞くようになった変化はこいつからか? 変異種とでもいうのか――いや、今はそれどころでは無いな。どうやら冷静でいるのは俺だけのようだ。

「逃げろぉおお!」

 誰かが叫んだのと同時に六人が駆け出して、残った五人はこの場に残った。

「……お前らは逃げないのか?」

「そういうお前こそ。俺たちは仲間が逃げられるだけの時間を稼ぐ」

 仲間意識はどの組織も変わらないか。

 死ぬつもりはない。だが、無事で済むとも思っていない。とはいえ、そろそろだと思うんだが……まぁ、車を爆発したことに気が付いていれば、だな。

「零士!」

 誰に呼ばれたのか振り返らずにわかったが、その声に不安が混じっていることに気が付いて微かに顔を向けた。

「那奈」

 強がりではない笑顔を見せて名前を呼べば、しっかりと頷いて柳木さんと共に裏口へと向かったようだ。

 これで残ったのは俺たちだけだ。さて、変な仲間意識は措いといて――生き残ることを考えよう。
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