どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき

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第二章

第45話 進む

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 翌日、十一時四十五分――俺たちは変異種が並ぶ小学校の校庭の門の横で車を降りた。

「……奴ら、黙って通してくれると思うか? 戎崎くん」

「それなら楽なんだがな。校舎までたかだか五百メートルぽっちがとんだデスロードだ。お前ら、準備はいいか?」

 音羽はショットガンに弾を装填し、カナリアが目の前の門を開け、俺は最後の仮想武器であるウォーハンマーを肩に担いだ。大層な名前だが、要は柄の長いハンマーだ。但し、これは打撃部が円錐形になっていて普通のものより強力な武器だ。

「準備オッケー! 零くん、いいよ」

「そんじゃあ始めるとしようか」

 片腕を高々と挙げれば、昨夜のうちに配置しておいたドローンが一斉に姿を現し――腕を振り下ろせば、真っ直ぐに変異種の軍団に向かって飛んでいき、落ちると共に爆発を起こした。

 積んであったのは猪熊のコレクションから拝借した手榴弾と、ガソリンだ。爆発と共に広がったガソリンに火が点き、変異種共が叫び声を上げた。

「お先に!」

 カナリアが駆け出すのと同時に、待ち構えていた変異種共も動き出して殺し合いが始まった。

 音羽を一瞥すれば、頷いて向かってきた変異種βにショットガンの弾を撃ち込んだ。

 そんで――俺だ。

 俺は、カナリアや土門のように体力があって武術を学んだわけじゃない。ましてや大鳳の狙撃のような特殊技能があるわけでも無い。ただ不器用で、殴ることや切ることの力押しか、数で攻められる銃などしか使えない。

 身体能力が並よりも少し上なだけという自覚があるからこそ、脳をフル回転させるしかないわけで。とはいえ、今は何も考えずにハンマーを振り抜くだけだ。

 振り被ったハンマーで一体の頭を潰せば、その後ろからすぐ別の変異種が出てきて握った鉄パイプを振り下ろしてきた。それを避けつつ、取り出した拳銃で膝を数発撃ち抜き、崩れ落ちたところで頭を叩き割った。

 ここで体力を使うのは得策ではないが、だからといって手を抜けば殺される。加えて何が厄介かと言えば、俺は犬型の変異種と戦ったことが無い。

「っ――動きが早ぇな」

 ハンマーは振り遅れるし、拳銃の弾も避けられる。なるほど、天敵だ。が、それならそれで俺が相手をする必要はない。地面を這うようにハンマーを振れば、当然ように跳び上がったがそれと同時に飛んできた銃弾が個体βの体を貫き、その後ろにいる個体αまでも貫いた。

「良くやった!」

 無線が繋がっているわけでは無いから伝わらないが、さすがは大鳳だ。こちらの状況を見て、援護射撃をしてくれる。安心して背中を預けられる人材は有用だ。

 カナリアは右側で大刀を振るい、左側は音羽が片手でショットガンを撃ち片手で斧を振るう。正面突破が最短距離なのは間違いないが、誰も百メートルすら進めていない。

 拳銃を仕舞い、担いだハンマーを振り抜けば変異種の腕に防がれた。

「鎖か。そりゃあ使い勝手が良いよな」

 ハンマーの欠点は防がれてからの切り返しに時間がかかること。

 胸倉を鷲掴みにされ体が浮かされるのと共にハンマーを落とし、掴まれている腕に脚を絡ませ、抜いた拳銃で膝を撃ち抜いた。変異種が膝を折るのと同時に緩んだ腕から地面に着地し、鋸刀でその首を刎ねた。

 刀を仕舞い、ハンマーを拾い上げると近付いてきていた変異種に気付かず顔面を殴られた。

「っ――」

 脳が揺れる。そんで久しい血の味だ。

 再び落としたハンマーの代わりに、鋸刀の脇に差していたマチェットで変異種の顎下から頭を貫くと、その陰から姿を現したβ型が俺の脇腹に噛み付いてきた。

 噛みついたままの頭を握るように目を潰しながら、その首にありったけの弾を撃ち込めば力なく地面に倒れ込んだ。

 防弾防刃の服でも貫く牙は厄介だが、動きさえ止めればα型よりも肉質が柔いから殺すのは容易いな。

 傷は浅いし、薬のおかげで痛みも然程感じない。

 拳銃の弾倉を入れ替えてホルスターに戻し、ハンマーを手にすれば左右に分かれていたカナリアと音羽が集まってきた。

「零くん、無事!?」

「ああ、問題ない。お前らは?」

「平気だけど全然進まない!」

「右に同じ。どうする?」

 三人が揃った途端に変異種共は警戒するように動きを止めた。

「予想が当たった。ここからは三人で進む。互いをカバーしろ」

「りょ~かい!」

 声を上げると共に目の前の変異種に大刀を放り投げて突き刺したカナリアを先頭に、再び前進を始めた。

 カナリアに向かってくる変異種を横からハンマーで殴り殺し、その俺を狙ってくる犬の頭を音羽がショットガンで吹き飛ばした。

 命懸けだが危なげなく門から二百メートルほど進んだところで、一瞬だけ襲ってくるゾンビもどきの波が止まった。

「二人とも、上だ!」

 音羽の声に視線を上げれば、小学校の校庭に置かれている朝礼台が飛んできていた。あれはさすがに受け止められない。

 カナリアは飛んできた朝礼台を潜るように前に進んだが、俺と音羽は左右に分かれて直撃を避けた。おそらく目的は分断すること。つまり、この場で終わらせに掛かってくるってことだ。

「警戒しろ!」

 言うや否や、周りを囲まれて文字通りの八方塞がり。カナリアと音羽も同様に囲まれていて互いに助けを求められる状況では無い。

「ふぅ――舐めるなよ、くそがっ!」

 近付いてきた変異種共の膝目掛けてハンマーを振り抜けば、崩れ落ちた背後からβ型が跳び掛かってきた。が、切り返したハンマーを振り下ろして頭を潰した。

「連携を取られると厄介だな」

 大鳳からの狙撃も援護になっているが、徹甲弾の数も限られているから連射は出来ない。それを知っているからこそ、頼り過ぎずに戦うしかない。

 動けなくなったゾンビもどきにわざわざ止めを刺すことはしない。純粋に体力の無駄だ。

「っ――」

 などと思った矢先に、倒れた変異種に足を掴まれて動けなくなったところで噛み付いてきた犬にハンマーの柄を噛ませると、横から突進してきた変異種に吹き飛ばされた。受け身を取るように転がり起き上がれば、顔目掛けて拳が飛んできた。

「あぶっ、ねぇな!」

 掴んだ腕を勢いのまま背負い投げをして、取り出した土門の手甲を嵌めた。出し渋りは無しだ。あくまでも目的は草壁であって、こんなところで殺されるわけにはいかない。

 向かってくるα型とβ型を手甲で斬り飛ばしながら進んでいくが、さすがに土門のようにはいかない。避けられることもあるし、カウンターで受ける奴らの攻撃は一発で意識が飛びそうになるくらい強力で――正直、眠くなってきた。

 血が巡っていないんだ。脳が酸欠状態でボーっとしてきているが、それでも反射的に動く体がゾンビもどきを殴っている。

「…………くそっ」

 体が重い。

「零くん!」

 駆け寄ってきたカナリアが俺の目の前にいた変異種の首を刎ね、落ちていたハンマーは音羽が拾い上げて向かって来た犬をショットガンで撃ち抜くと、こちらにやってきた。

「こっちは弾切れだ。いよいよって感じだな」

 全員、満身創痍だ。当然、こうなることも想定していたし奥の手も用意はしてある。だが、それは俺ら自身も巻き込む最終手段で、使わないに越したことは無い。

 ぼんやりとする頭のまま、取り出したエピペンを太腿に打ち込んだ。本来であればアナフィラキシーショックなどの対処に使うものだが、エピペンとはエピネフリン――アドレナリンだ。元医学生とは思えない間違った使い方だが、殺されるよりマシだ。

「はぁ――第一ラウンド終了。第二ラウンドだ。殺すより、進むぞ」

 手甲を外して仕舞い、音羽から受け取ったハンマーを担いで口内に溜まった血を吐き出した時――遠くから近付いてくる車の音に気が付いた。

 振り返れば開いた門から突っ込んできたハンヴィーが俺たちを追い越しゾンビもどきを撥ね飛ばして戻ってくると真横で停車した。すると、見覚えのある奴が姿を現した。

「助太刀に来たぞ。こんな老いぼれで申し訳ないが」

「……柳木さん。助力には感謝するが、体は大丈夫なのか?」

「医師曰く血を流さなければ平気だとか。死の縁よりと呼び戻されたこの命――恩人のために死ねるのなら是非も無い」

 柳木さんの腰にあるのは仮想武器の振動する刀だ。おそらく燐佳あたりが渡したのだろう。そして――

「折角生き残ったんだ。死なれちゃ困る。お前もな、修司」

 運転席に視線を向ければハンドルを握り締めたまま呼吸の荒い修司と目が合った。

「乗ってください! 送り届けます!」

 その言葉にカナリアと音羽に視線を向ければ、笑顔で頷いたのを見て後部座席に乗り込んだ。

 言葉は必要ない。誰もが自らの役割を理解している。

 急発進した車はゾンビもどきを撥ねながら校舎に向かっていくが、近付かせんとする変異種共が隊列を組んで進行方向に陣取り――ぶつかった。

「っ――!」

 その衝撃で運転席ではエアバッグが膨らみ、車は停止した。

 こうなることがわかっていたから俺たちも車で突っ込むことはしなかったが、そこそこ数を減らしていたからここまで来られた。

「修司、無事か!?」

「大っ、丈夫です! 行ってください!」

 エアバッグを外しながら答えた修司の隣の助手席に、アサルトライフルが置かれているのが横目で見えた。そうか。戦うことを選んだんだな。

 後部座席の天窓から車の上に立ち、校舎までの距離を見れば、まだ数体の変異種が道を塞いでいる。

「ん?」

 気配というか、背中に嫌な違和感を覚えてしゃがみ込めば頭上を銃弾を通り抜けて目の前にいた変異種共の頭を貫いた。

 こちらを見ているであろう大鳳を一瞥して、倒れたゾンビもどきを越えて校舎内へと足を踏み入れた。
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