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第二章
サイドストーリー 草壁塵虎
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流星群の閃光に包まれてからこっち――望んでいた世界になったわけだが、さすがに山中での孤軍奮闘は厳しいものがある。
奴らを殺すこと自体は容易いが携帯食も尽き、野生の動物や虫を食べるのにも限度がある。苦肉の策として奴らの肉を捌いて焼いて食い始めたわけだが、観察と実験の結果として空気感染も経口感染も血液感染もしないことはわかっていた、のだが。
「っ――んっ、がぁあ、あぁあああっ――!」
全身を駆け巡る激痛に蹲ることしか出来ない。
まるで細胞の一つ一つに針を刺されているような感覚――それに加えて頭の中に何かが流れ込んでくる。
「なんっ、だ……くそっ――」
痛みで頭が割れる。意識が、保てない。
――――
……どれくらい気を失っていた?
起き上がろうとした時、違和感に気が付いた。視界に入る自分の体つきが違う。
「痛み、は……無い。だが――っ」
頭の中に流れ込んでくる映像と音が処理し切れない。
どういう理屈かわからないが、それを無視すれば体は無駄な多幸感に包まれている。今なら山を下りて施設と連絡を取ることもできるはずだ。
善は急げと、出来ることからやるべきだ。
思考は働いているものの未だに脳内に溢れる情報を処理できない。視界と重なるように浮かび上がってくる映像のせいであまり急いで行動することはできないが――気が付いた。
疲れない。腹も減らない。眠くもならない。
それなのに、何故だ? 意識が、遠退いていく。
――――
再び意識が戻った瞬間、目の前にいた奴らを咄嗟に殴れば首が吹き飛んでいった。
「ここは……街中だな」
いつの間に山を下りたのか――そう考えた時、頭の中にここまで来た経緯の全てが浮かんできた。そして、同時にそれが俺自身でないことも。
民家のガラスに映った自分の顔を確認すれば、片目が奴らと同じように白目が黒く、瞳が白くなっていた。
「やはり、意識が反転しているのか」
おそらくは奴らの細胞を体内に取り込んだことが原因だろう。俺の中に俺自身と俺じゃない意識が存在していて、それが入れ替わっている。
「っ――」
視界の中に戦っている映像が見える。しかも、これは――やはりあいつらか。実際に目にするまではわからないが生きていることは信じていた。だが、俺の中にある別の意識が教えてくる。
今の俺があいつらに会えば、間違いなく殺し合うことになる。
血塗れの手に残る肉の感触。微かに残る記憶……俺は、人間を殺した。そして、おそらく次に意識が交替したら俺自身が戻ってくることは無いだろう。
すでに、今も意識がごちゃ混ぜの感覚だ。
「くそっ……どうせ死ぬなら、出来ることをやるか」
俺じゃない俺も、俺であることに変わりがない。入れ替わったとしても俺は俺だ。それなら潜在意識に植え付けよう。
たぶん殺すこと自体は抑えられない。だとすれば、それを限定させる。今の俺は奴らと繋がっているが、俺を殺したところで意味は無い。あいつなら必ず解決策を見出すはずだ。その時まで殺すことは許さない。絶対に――絶対にだ。
破ったところでどうなるものでもない。だが、これは枷だ。せめて自分で自分に課したルールくらいは守ってみせろ。そうでなければ、俺は俺を許せない。
「そうでなければ――俺は俺を誇れない」
体の奥底から湧き上がる力のせいで、今の俺は前の俺よりも圧倒的に強いのがわかる。
だが、それでも、そんな俺に勝てる奴がいるとすれば一人だけ――零士だけだ。あいつなら俺を殺せる。
「っそ……意識、が……」
わかっているはずだ。あいつなら、すべての先を見ている。すべての可能性を想定している。そんなあいつだからこそ、俺が用いるすべてを託したんだ。
頼んだぞ、零士。俺を殺して、世界を救え……なんて、今更だな。俺が何かを言うまでもなく、あいつは――
『よぁ、草壁。一緒に世界を救おうぜ』
ああ、もちろんだ。
奴らを殺すこと自体は容易いが携帯食も尽き、野生の動物や虫を食べるのにも限度がある。苦肉の策として奴らの肉を捌いて焼いて食い始めたわけだが、観察と実験の結果として空気感染も経口感染も血液感染もしないことはわかっていた、のだが。
「っ――んっ、がぁあ、あぁあああっ――!」
全身を駆け巡る激痛に蹲ることしか出来ない。
まるで細胞の一つ一つに針を刺されているような感覚――それに加えて頭の中に何かが流れ込んでくる。
「なんっ、だ……くそっ――」
痛みで頭が割れる。意識が、保てない。
――――
……どれくらい気を失っていた?
起き上がろうとした時、違和感に気が付いた。視界に入る自分の体つきが違う。
「痛み、は……無い。だが――っ」
頭の中に流れ込んでくる映像と音が処理し切れない。
どういう理屈かわからないが、それを無視すれば体は無駄な多幸感に包まれている。今なら山を下りて施設と連絡を取ることもできるはずだ。
善は急げと、出来ることからやるべきだ。
思考は働いているものの未だに脳内に溢れる情報を処理できない。視界と重なるように浮かび上がってくる映像のせいであまり急いで行動することはできないが――気が付いた。
疲れない。腹も減らない。眠くもならない。
それなのに、何故だ? 意識が、遠退いていく。
――――
再び意識が戻った瞬間、目の前にいた奴らを咄嗟に殴れば首が吹き飛んでいった。
「ここは……街中だな」
いつの間に山を下りたのか――そう考えた時、頭の中にここまで来た経緯の全てが浮かんできた。そして、同時にそれが俺自身でないことも。
民家のガラスに映った自分の顔を確認すれば、片目が奴らと同じように白目が黒く、瞳が白くなっていた。
「やはり、意識が反転しているのか」
おそらくは奴らの細胞を体内に取り込んだことが原因だろう。俺の中に俺自身と俺じゃない意識が存在していて、それが入れ替わっている。
「っ――」
視界の中に戦っている映像が見える。しかも、これは――やはりあいつらか。実際に目にするまではわからないが生きていることは信じていた。だが、俺の中にある別の意識が教えてくる。
今の俺があいつらに会えば、間違いなく殺し合うことになる。
血塗れの手に残る肉の感触。微かに残る記憶……俺は、人間を殺した。そして、おそらく次に意識が交替したら俺自身が戻ってくることは無いだろう。
すでに、今も意識がごちゃ混ぜの感覚だ。
「くそっ……どうせ死ぬなら、出来ることをやるか」
俺じゃない俺も、俺であることに変わりがない。入れ替わったとしても俺は俺だ。それなら潜在意識に植え付けよう。
たぶん殺すこと自体は抑えられない。だとすれば、それを限定させる。今の俺は奴らと繋がっているが、俺を殺したところで意味は無い。あいつなら必ず解決策を見出すはずだ。その時まで殺すことは許さない。絶対に――絶対にだ。
破ったところでどうなるものでもない。だが、これは枷だ。せめて自分で自分に課したルールくらいは守ってみせろ。そうでなければ、俺は俺を許せない。
「そうでなければ――俺は俺を誇れない」
体の奥底から湧き上がる力のせいで、今の俺は前の俺よりも圧倒的に強いのがわかる。
だが、それでも、そんな俺に勝てる奴がいるとすれば一人だけ――零士だけだ。あいつなら俺を殺せる。
「っそ……意識、が……」
わかっているはずだ。あいつなら、すべての先を見ている。すべての可能性を想定している。そんなあいつだからこそ、俺が用いるすべてを託したんだ。
頼んだぞ、零士。俺を殺して、世界を救え……なんて、今更だな。俺が何かを言うまでもなく、あいつは――
『よぁ、草壁。一緒に世界を救おうぜ』
ああ、もちろんだ。
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