恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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2章:ロッカーナ演習事件

17話:騎士というもの

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 事件から一か月後、軍法会議は全て終わり、ようやく色々な事が落ち着いた。

 一連の虐めに関わった者のうち、ロディの死に関与していなかった者は半年の減俸と一カ月の謹慎。
 ロディの死に関わった者は、王都でみっちり再教育となった。
 主犯のダレルは十年の実刑が確定し、刑期終了後に除名処分が決まって今は刑務所だ。だが、おそらく彼への罰は十年では終わらないだろう。実家から勘当され、庇った母親も離縁された。更に、エドワードの一撃はダレルの利き腕の筋を切っていた。手術はしたが、生活にも支障が出るだろうとの診断だ。もちろん、剣を握る事はできない。


 そしてこの日、最後の人物が刑を執行された。
 王都の門外に三つの影がある。まだ早朝で朝靄が立ち込めている。旅装をした青年が、見送りの二人に深く頭を下げた。

「本当に、お世話になりました」

 頭を下げたエドワードは、すっかり落ち着いた顔をしている。まるで憑き物が落ちたようだ。

「結局、大した力になれずにすまなかった、エドワード」
「とんでもない! ファウスト様がいなければ、俺は今頃実刑です。誰も殺していなかったにしても起こした事件は大きいですから、これでもかなりの減刑ですよ」

 エドワードは恐縮したように言った。
 エドワードの罪は軍に与えた影響を考えれば、決して軽くはなかった。だが、そもそも軍の虐めに対する対処が不十分であったこと。それによって一人の隊員が命を奪われたこと。襲撃事件の被害者もまた無罪ではなく、かつエドワードを訴えていないこと。そして死人がでなかったことで減刑された。
 エドワードに下った刑は、軍の追放だけだった。

「これから、どうするんですか?」

 ファウストの隣で見送りに出ていたランバートが問う。それに、エドワードは困ったように苦笑した。

「まだ、何も。とりあえず、王都とロッカーナには戻らない。実家にも」

 エドワードの実家はだいぶ離れた所らしい。そもそも家が嫌で出てきたらしく、元より帰るつもりなどなさそうだ。
 ランバートは懐から、一枚の紙を取り出してエドワードに渡した。それは紹介状と、そこまでの地図だった。

「これは」
「ちょうど、少し離れた港町で仕事のできる者を欲していたので。商家で、物品の在庫管理が主な仕事です。腕に覚えのある者なら尚よしとのことでした。悪い話ではありませんよ」

 悪戯っぽく笑うランバートに、エドワードは申し訳なさそうな顔をした。

「家が嫌いなのに、掛け合ってくれたのかい?」
「使えるものは兄でも使います。それに、エドワードさんなら適任だと思いますよ。ただし、実力社会です。使えないと判断されれば容赦なく給料と待遇に関わってきます。その辺が、当家の非情なところでして」
「有難う」

 素直に礼を言って、エドワードは紹介状を懐にしまった。
 一連の様子を見ていたファウストが、一歩前に出る。そして改めて、真剣な目でエドワードを見た。

「必ず、変えてみせる」
「はい、よろしくお願いします」

 頭を下げたエドワードの前に、スッと一振りの剣が差し出された。装飾の無い、だが使いやすそうな剣だった。

「どんな近場でも、身を守るものもなく行くのは危険だ。持って行け」
「受け取れません、ファウスト様。俺は下賜された剣を返した身です。そんな者が、貴方から剣を受け取るわけには参りません」

 辞退するエドワードだが、ファウストも引き下がらない。真っ直ぐに射るような瞳が、エドワードを見据えている。

「騎士とは、剣を下賜された者だけじゃない。お前の心に騎士としての誇りがあるのなら、この剣を受け取る資格がある」

 差し出された剣は、騎士が下賜された物ではない。誰もが手にする事が出来る物だ。だが、渡す相手がファウストである意味は大きい。騎士の資格を剥奪された者に、軍神が剣を贈るのだ。知られれば、問題になりかねない。

「どうだ、エドワード。お前の心は、騎士のままか?」

 エドワードは拳を握った。重い時間が流れて、緊張する。周囲に目がないか、ランバートは警戒していた。
 やがて、エドワードは地に両膝をついて頭を垂れ、手を水平に差し出す。ファウストも厳かに、剣を水平に持った。

「汝、騎士の誇りを持つ者よ。弱き者を助け、苦しむ者に手を差し伸べる心を持つ者よ。汝に、この剣を授ける。たとえどれほど苦しくとも、正しいと信じる道を貫け。たとえこの剣が折れようとも、騎士の誇りまで失うことなかれ。騎士の魂を、その胸に抱け」

 それはまるで、入団の儀式のようだった。
 朝靄が薄くなり、陽が温かく降り注ぐ中エドワードは旅立っていった。それを見送ったランバートとファウストは、旅立つ人の幸福だけを祈り続けていた。
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