恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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2章:ロッカーナ演習事件

おまけ1:ファウストの処分

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 エドワードの処分が決まって、全ての判決が出た日の夜。ファウストの部屋は予想に反して賑やかだった。

「お前達……俺は謹慎のはずだが?」

 部屋には当然のようにシウス、オスカル、クラウル、エリオット、そしてランバートがいる。突然押しかけ、あれよあれよと酒と食べ物が運び込まれ、今の状況だ。

「謹慎はまだ決まっておらぬ。お前に今休まれては事後処理がてんてこ舞いじゃ。しばし馬車馬のように働け」

 屁理屈のような事を言って笑うシウスの笑みは空元気だ。こいつは案外優しい奴だから。

「あ、明日からトイレ掃除ね」
「お前はそこを譲らないんだな」

 楽しそうに嫌がらせをするオスカルに溜息が出るが、これもこいつなりの声援だ。これをネタに毎日のように遊びにくるつもりだろう。傍にいる理由だ。

「何にしても決まった事だ。後は明日からとして、今日は良いだろ」
「……そうだな」

 クラウルが生真面目に言う事には苦笑が漏れる。だが、その通りだ。

「第四師団から多く人が抜けることになりますが、大丈夫ですか?」
「抜けた分は埋める。足りなければ俺も現場に出るから平気だ」

 心配そうにエリオットが問う事にも苦笑するしかない。隊員が抜ける穴を埋めるのは大変だが、その分は自分が働いて埋める。そのつもりだ。

 地方の各砦に医療府の者を派遣する事が決まり、そろそろ楽隠居を考えている数人の中年スタッフがそれに名乗りを上げた。だが、そこを埋める人員の確保は難しい。特に医療スタッフだ、適性がある。
 そこで、第四師団から人を募る事にした。既に十数人の希望が出ている。元々騎士として穏やかな者が多く、戦場を苦手と思う者が多い隊だ。衛生兵としての仕事をするうち、医療府への気持ちが強まったのだろう。
 だが同時に、騎兵府から人が抜けることになる。第四師団は特殊部隊だ、適性のある者が少ない。
 それでもなんとかする。人員の確保の為に出向いたり、他の砦から希望者を募ったり。そこで既に二人、こっちに引き入れるつもりだ。

「ピアースとクリフ、来年から王都勤務になるんですか?」

 ランバートの問いに、ファウストは苦笑しながらも頷いた。
 王都勤務を希望していたピアースと、衛生兵としての才覚を見せたクリフ。この両名を王都に転属させる話をした。今回の演習を見ても、二人は意欲的で感触がいい。十分こちらでもやれると思っている。
 勿論、本人たちの意志を尊重するつもりだから、まだ明確には言えないが。

「それにしても、お前が腕章とピンを置いた時にはヒヤリとした。本気だったのか?」

 クラウルの問いかけにもファウストは頷く。その傍で、ランバートは驚いて睨み付けてきた。


 陛下も出席しての処分委員会で、ファウストは団長のピンと腕章を外して陛下の前に出した。
 武人としての武力は負ける気がしない。だが今回問われているのは、組織を預かる者としての管理能力だ。正直、そちらは何とも言えない。管理能力なしと判断されるのなら、より適任な者に団長の地位は譲るべきだ。
 だがここに居る皆が、即座にピンと腕章を奪い取ってファウストの前に戻した。陛下が手を出すよりも、よほど早くて驚いた。
 「お前の武がこの国の抑止だぞ!」という、クラウルの叱責は強い動揺だ。
 「陛下、この男の再教育を致します故、此度の事は見なかった事に願いたい」とは、シウスだ。平謝りをするこいつは珍しい。
 「彼以外を団長としても、騎兵府の誰も納得はしません」と、オスカルが真っ直ぐに言う。こいつに庇われるとは思わなかった。
 「お願いです、陛下。彼は騎兵府の要です」と、今にも泣きそうな声で訴えるエリオットには申し訳ない気持ちになった。
 「これが答えだよ」と、嬉しそうな顔をした陛下の笑みを思い出す。本当に大きくて、温かい人だ。


「ほんと、考えてよね。国の軍事の要がそう簡単に辞めるなんて言わないでよ。あんなに心臓に悪い事、今までないよ」
「簡単だったわけじゃない。だが……」

 自信がなくなった。と言えば今更だが、今回の事は響いた。自分は武人であって、管理者としての能力に優れているとは思っていない。それでも周囲に支えられて今までやってきた。だが、やはりそれではダメだったんだ。

「貴方が辞めれば、この国を脅かす者達はお祭り騒ぎですよ」

 厳しい声が返ってくる。見ればランバートが怖い顔をして睨み付けていた。多分、相当怒っているのだろう。

「辞める事が責任だと言う者もいますが、俺には逃げにしか見えない。貴方は皆の憧れ、皆の規範です。責任をと言うなら、留まって堂々としていてください。ロディに合わせる顔が無いなんて考えているなら、合わせられるように改革をしてください。それが、貴方の仕事です」
「……厳しいな」

 だが、自然と笑みが浮かんだ。そして、飲みこんだ。
 クシャリと頭を撫で、グラスを手にする。飲み干すと、苦しいものを含めて腹に流れた。
 こんな風に言われては気合も入るだろう。そんな気持ちが戻ってきて、ファウストは自らを叱責し、再び堂々と立つ覚悟をした。
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