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3章:How about tea?
2話:思いがけない依頼
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一日の業務を終えて、エリオットは溜息をついた。今日だけで騎兵府と近衛府、合わせて五人の患者。どれも風邪だった。最近急に冷え込んだ事と、空気の乾燥が進んだことが原因だろう。
幸い重症化している者はない。発熱も微熱程度、頭痛などはなく、咳と喉の痛みが顕著だ。
それにしても数が多い。一週間で考えると、すでに二十人くらいが同じ症状でドクターストップがかかっている。このままで考えると、来週にはもっと数が増えてくる。
考え込んでいると、ドアがノックされる。弾かれたように顔を上げて声をかけると、困った顔のシウスがそこにいた。
「ちょっと、よいか?」
「えぇ、かまいませんが。もしかして、シウスも風邪ですか!」
驚いて声を上げてしまう。シウスは全体的に白のイメージがある人物で、あまり強そうには見えない。だが、案外病気などには強い人だ。風邪などもあまり引かないのに。
だが、そうではなかった。彼は首を横に振った。
「私ではなく、ラウルがな。少し怠そうにしている。熱はないようなのじゃが、風邪も流行っているでな。少し、診てもらえないだろうか」
「分かりました、すぐに行きます」
立ち上がり、奥の仲間に声をかけてシウスの後に続く。ついでに今日調子を崩した面々のところに行って、容態を聞いて薬を置いて行かないと。やることがまだ多そうだった。
診断の結果、ラウルも風邪。ランバートが看病を引き受けてくれて、今は眠っている。幸い気づくのが早く、今まででは最も軽症だった。
「それにしても、急に来たな」
緊急会議が開かれている小会議室で腕を組むファウストが唸る。それに、オスカルも頷いた。
「城の大臣だとか役人も、何人か調子悪そうにしてたよ。城で働いている人達の間でも流行ってるみたいで、医務室大忙し。医者も何人か倒れたみたいだし」
どうやら城の中でも同じ事が起こっているようだ。それもまた心配だ。
「薬などは大丈夫かえ? 少し、融通をつけようか?」
「いえ、そちらは大丈夫です。遅かれ早かれ、この時期には流行りますから多めに準備はしてあります」
これだけが救いだろうか。国中で流行るとなると、途端に薬が不足する。
「隊員たちには、こまめに手を洗う事やうがいをするように言っておいてください。温かくして眠るように。後、濡れタオルなどを室内に掛けて加湿するようにとも」
「分かった」
真面目な顔でファウストが言う。他の人達もそれぞれ頷いて、明日の朝一でそれらを伝えてくれる事になった。
思わぬ依頼は、その翌日にやってきた。
◆◇◆
「私が、パーティーの医務室管理ですか?」
思ってもみない依頼に、エリオットは目を丸くする。目の前には城の医事課を預かるベテラン医師とオスカルがいる。ベテラン医師は明らかに疲れ切っていた。
「ごめんね、急な話で。城の中も大変な事になっててさ」
「申し訳ありません、エリオット殿。わしらも手を尽くしてはいるのですが、城お抱えの医師も数名倒れてしまい、奥院ではメイドや従者、果てには執事までもが体調を崩しまして」
「大変ですね。それで、手が足りなくなってしまったのですね」
「不甲斐ない」と項垂れる彼を見ると気の毒になる。この人もきっと疲れているに違いない。
「パーティーというと、年末の?」
「そっ、一週間後。城の中はこれの準備で大忙しなんだ」
オスカルも疲れた顔でそう言う。近衛府も風邪でダウンしている者が多い。彼の負担も多くなっているだろう。
「お願いできませんか、エリオット殿」
「……わかりました」
正直あまり自信がない。城の、しかもパーティーの医師なんて経験がない。相手は荒事ができる騎士ではなく、注文の多い貴族達。そんな人を相手にいつもの調子で接すればクレームがつく。余計なトラブルを招いてしまったら。
けれど、大変な思いをしているオスカルを助けてあげたい。陰ながらでも彼の助けになれるのなら、そうしたいのが本心だ。
エリオットが引き受けた事で、ベテラン医師は手をガシッと掴み、そこに額を当てる勢いで頭を下げて何度も「有り難うございます」と繰り返していた。
それから三日、風邪の患者は今も増え続けている。幸いなのが、最初の頃に感染した者が復帰できていること。それでも、新たな患者の方が多い。
「治療に当たる時はマスクに薬草を挟み込んでやってください。症状が重くなっている場合は私を呼んで。我々医療府が倒れる事は、決してあってはなりません」
仲間達を鼓舞し、朝の会議を終えて皆が散っていく。エリオットも自分の診察室に戻り、今の患者のカルテを書き込む。
城でも流行しているようで、そこに務める近衛府が一番患者が多い。近衛府だけで二十人。一人あたりの仕事量も増えてきている。それに加えてパーティーの警備もある。疲労が溜まれば免疫力が落ちる。そうして風邪を引いてしまう。
意外にも騎兵府はそう多くない。さすが、普段から体力訓練をしているだけある。並の体力ではないのか、少し調子を崩しても数日薬を飲んだだけで復活してくる。彼らはどんな体をしているのだろう。
あれこれとやっていると、突然廊下が騒がしくなる。数人の話し声だ。そのうちに扉がノックされ、目にも明るい金の髪が飛び込んできた。
「すいません、今大丈夫ですか?」
「どうしました、ランバート? 怪我ですか?」
現れたのは騎兵府のランバート。最近入った隊員だが、ファウストのお気に入りだ。目鼻立ちのいい綺麗な顔をした、美しい金髪の青年だ。
彼は首を横に振って背後を気にしている。声が徐々に近づいてきていた。
「大丈夫だから、仕事するよ」
「大丈夫じゃないから強制連行してるんじゃないですか!」
「暴れないでください!」
一人の声は知っている。ランバートの上司にあたる、第二師団のウェインだ。小柄で元気がよく、とてもハキハキした青年だ。
「ウェイン?」
「多分風邪です」
肩を落として溜息をついたランバートのすぐ横に、おそらく第二師団の他のメンバーが顔を出した。そして、その両脇を抱えられるようにウェインがジタジタ暴れている。
顔がほんのりと赤く、暴れていてもあまり力が入っていない様子。声も多少変わっている。咳はないが、発熱を疑うには十分だ。
「大丈夫だから、離してってば! 僕まで倒れたら誰が仕事するのさ」
そんな事を言うウェインを、エリオットはキッと睨み付ける。立ち上がり、少し早足に近づいていくと、二人がかりで抱えていたウェインの体を肩に担ぎ上げ、暴れる間も与えずにベッドに下ろして肩を押さえつけた。
「健康なら、私くらい簡単に出し抜けるでしょ? さぁ、どうぞ」
「いや、エリオット様相手だと健康でも難しいです……」
縮み上がったウェインににっこり笑って、エリオットは呆然としている三人に視線を移した。
「一人残って、後は持ち場に戻りなさい」
「では、俺が残ります」
「俺たちは他の奴らにも知らせとく。副長に伝えて、調整してもらうか」
ランバートが残り、他の二人は帰っていく。大人しくなったウェインを診察して、すぐに風邪だと判断できた。しかもかなり重度だ。喉が腫れて痛そうな色をしている。
「辛かったでしょう。こんなになるまで我慢して」
「隠し通そうと思ったのに……」
「そんな努力はいりません」
ぴしゃりと言って、口の中に体温計を突っ込む。その間に薬の準備をし始めた。
「お忙しそうですね。パーティーの医務室管理も引き受けたとか」
「え? えぇ、まあ。みんな困っていますから、助け合いです」
ランバートの指摘に、少しドキドキする。本当はやっぱり、不安があるのだ。
「俺も当日、パーティーの警備に参加することになりました。よろしくお願いします」
「君が?」
目を丸くして問い返すと、ランバートは少し困ったような顔で頷いた。
「近衛府の患者が増えたので、通常警備の他にパーティーの警備となると人手が足りなくなったそうです。そこで、騎兵府と宰相府から人を出すことになりまして」
「それで、君が?」
「ラーク迎賓館での働きが評価されまして、是非にと」
苦笑するランバートに、エリオットも苦笑で返すしかなかった。
少し前に起こった騎兵府襲撃事件と、ファウストの拉致事件。彼はその件に深く関わっている。というよりも、当事者の一人だ。一流迎賓館に余裕の合格を果たした実力を、オスカルが見逃すはずはなかったということだ。
「大変だね、君も。体調に変わりはないかい?」
「はい、これといった変化は」
「ラウルはどうしてる?」
「少しずつ回復していて、食事や水分もとれています。夜間の発熱も落ち着いてきて、寝苦しい様子もありません」
「君、医療府でも十分やれそうだね」
医療府だってそう人手が多いわけではない。他の兵府よりは人がいらないけれど、こうした事態に十分な対応ができるほどには充実していない。しかも適正のある人となると更に限られる分野だ。
思わず誘ってしまうと、ランバートは申し訳なさそうに笑っていた。
「さて。熱は……三十八度。これまでで一番重症じゃないか」
「すみません……」
「いいから、熱が下がるまでは安静にしていて。食欲は?」
「正直あまり」
「スープでも、パン一つでもいいから食べてね。薬飲んで、こまめに水分補給して」
そう言って、今日一日の薬をランバートに渡す。薬紙に包まれた粉薬を見たウェインが、「うげっ」という顔をしている。
「粉薬は」
「子供じゃないんだから、飲みなさい」
ぴしゃりと言いつけると、すごすごと「はい」と返ってきた。
「では俺は、このままウェイン様を部屋に送って食事と薬を取ってもらいます。ファウスト様にも、一応連絡しますので」
「分かった、お願いするよ。私からも後でファウストには詳しく報告をしておくから。後、マスクしなさい」
「分かりました」
ぐったりしているウェインを抱えて、ランバートが出て行く。本当に頼もしい若者だ。
それにしても、今日だけでまた増えた。治療中の者は回復傾向にあるとはいえ、あまりに拡大すれば騎士団の機能不全にもなりかねない。早々に対策をしよう。
「料理府とも相談して、予防効果のある食材を多めに取ってもらうようにして」
栄養学の資料を引っ張り出して、ネギや生姜といった体を温める野菜や、肉料理、喉にいい蜂蜜レモン水なんかもピックアップする。それらを持って、エリオットは忙しく料理府へと駆け出していった。
幸い重症化している者はない。発熱も微熱程度、頭痛などはなく、咳と喉の痛みが顕著だ。
それにしても数が多い。一週間で考えると、すでに二十人くらいが同じ症状でドクターストップがかかっている。このままで考えると、来週にはもっと数が増えてくる。
考え込んでいると、ドアがノックされる。弾かれたように顔を上げて声をかけると、困った顔のシウスがそこにいた。
「ちょっと、よいか?」
「えぇ、かまいませんが。もしかして、シウスも風邪ですか!」
驚いて声を上げてしまう。シウスは全体的に白のイメージがある人物で、あまり強そうには見えない。だが、案外病気などには強い人だ。風邪などもあまり引かないのに。
だが、そうではなかった。彼は首を横に振った。
「私ではなく、ラウルがな。少し怠そうにしている。熱はないようなのじゃが、風邪も流行っているでな。少し、診てもらえないだろうか」
「分かりました、すぐに行きます」
立ち上がり、奥の仲間に声をかけてシウスの後に続く。ついでに今日調子を崩した面々のところに行って、容態を聞いて薬を置いて行かないと。やることがまだ多そうだった。
診断の結果、ラウルも風邪。ランバートが看病を引き受けてくれて、今は眠っている。幸い気づくのが早く、今まででは最も軽症だった。
「それにしても、急に来たな」
緊急会議が開かれている小会議室で腕を組むファウストが唸る。それに、オスカルも頷いた。
「城の大臣だとか役人も、何人か調子悪そうにしてたよ。城で働いている人達の間でも流行ってるみたいで、医務室大忙し。医者も何人か倒れたみたいだし」
どうやら城の中でも同じ事が起こっているようだ。それもまた心配だ。
「薬などは大丈夫かえ? 少し、融通をつけようか?」
「いえ、そちらは大丈夫です。遅かれ早かれ、この時期には流行りますから多めに準備はしてあります」
これだけが救いだろうか。国中で流行るとなると、途端に薬が不足する。
「隊員たちには、こまめに手を洗う事やうがいをするように言っておいてください。温かくして眠るように。後、濡れタオルなどを室内に掛けて加湿するようにとも」
「分かった」
真面目な顔でファウストが言う。他の人達もそれぞれ頷いて、明日の朝一でそれらを伝えてくれる事になった。
思わぬ依頼は、その翌日にやってきた。
◆◇◆
「私が、パーティーの医務室管理ですか?」
思ってもみない依頼に、エリオットは目を丸くする。目の前には城の医事課を預かるベテラン医師とオスカルがいる。ベテラン医師は明らかに疲れ切っていた。
「ごめんね、急な話で。城の中も大変な事になっててさ」
「申し訳ありません、エリオット殿。わしらも手を尽くしてはいるのですが、城お抱えの医師も数名倒れてしまい、奥院ではメイドや従者、果てには執事までもが体調を崩しまして」
「大変ですね。それで、手が足りなくなってしまったのですね」
「不甲斐ない」と項垂れる彼を見ると気の毒になる。この人もきっと疲れているに違いない。
「パーティーというと、年末の?」
「そっ、一週間後。城の中はこれの準備で大忙しなんだ」
オスカルも疲れた顔でそう言う。近衛府も風邪でダウンしている者が多い。彼の負担も多くなっているだろう。
「お願いできませんか、エリオット殿」
「……わかりました」
正直あまり自信がない。城の、しかもパーティーの医師なんて経験がない。相手は荒事ができる騎士ではなく、注文の多い貴族達。そんな人を相手にいつもの調子で接すればクレームがつく。余計なトラブルを招いてしまったら。
けれど、大変な思いをしているオスカルを助けてあげたい。陰ながらでも彼の助けになれるのなら、そうしたいのが本心だ。
エリオットが引き受けた事で、ベテラン医師は手をガシッと掴み、そこに額を当てる勢いで頭を下げて何度も「有り難うございます」と繰り返していた。
それから三日、風邪の患者は今も増え続けている。幸いなのが、最初の頃に感染した者が復帰できていること。それでも、新たな患者の方が多い。
「治療に当たる時はマスクに薬草を挟み込んでやってください。症状が重くなっている場合は私を呼んで。我々医療府が倒れる事は、決してあってはなりません」
仲間達を鼓舞し、朝の会議を終えて皆が散っていく。エリオットも自分の診察室に戻り、今の患者のカルテを書き込む。
城でも流行しているようで、そこに務める近衛府が一番患者が多い。近衛府だけで二十人。一人あたりの仕事量も増えてきている。それに加えてパーティーの警備もある。疲労が溜まれば免疫力が落ちる。そうして風邪を引いてしまう。
意外にも騎兵府はそう多くない。さすが、普段から体力訓練をしているだけある。並の体力ではないのか、少し調子を崩しても数日薬を飲んだだけで復活してくる。彼らはどんな体をしているのだろう。
あれこれとやっていると、突然廊下が騒がしくなる。数人の話し声だ。そのうちに扉がノックされ、目にも明るい金の髪が飛び込んできた。
「すいません、今大丈夫ですか?」
「どうしました、ランバート? 怪我ですか?」
現れたのは騎兵府のランバート。最近入った隊員だが、ファウストのお気に入りだ。目鼻立ちのいい綺麗な顔をした、美しい金髪の青年だ。
彼は首を横に振って背後を気にしている。声が徐々に近づいてきていた。
「大丈夫だから、仕事するよ」
「大丈夫じゃないから強制連行してるんじゃないですか!」
「暴れないでください!」
一人の声は知っている。ランバートの上司にあたる、第二師団のウェインだ。小柄で元気がよく、とてもハキハキした青年だ。
「ウェイン?」
「多分風邪です」
肩を落として溜息をついたランバートのすぐ横に、おそらく第二師団の他のメンバーが顔を出した。そして、その両脇を抱えられるようにウェインがジタジタ暴れている。
顔がほんのりと赤く、暴れていてもあまり力が入っていない様子。声も多少変わっている。咳はないが、発熱を疑うには十分だ。
「大丈夫だから、離してってば! 僕まで倒れたら誰が仕事するのさ」
そんな事を言うウェインを、エリオットはキッと睨み付ける。立ち上がり、少し早足に近づいていくと、二人がかりで抱えていたウェインの体を肩に担ぎ上げ、暴れる間も与えずにベッドに下ろして肩を押さえつけた。
「健康なら、私くらい簡単に出し抜けるでしょ? さぁ、どうぞ」
「いや、エリオット様相手だと健康でも難しいです……」
縮み上がったウェインににっこり笑って、エリオットは呆然としている三人に視線を移した。
「一人残って、後は持ち場に戻りなさい」
「では、俺が残ります」
「俺たちは他の奴らにも知らせとく。副長に伝えて、調整してもらうか」
ランバートが残り、他の二人は帰っていく。大人しくなったウェインを診察して、すぐに風邪だと判断できた。しかもかなり重度だ。喉が腫れて痛そうな色をしている。
「辛かったでしょう。こんなになるまで我慢して」
「隠し通そうと思ったのに……」
「そんな努力はいりません」
ぴしゃりと言って、口の中に体温計を突っ込む。その間に薬の準備をし始めた。
「お忙しそうですね。パーティーの医務室管理も引き受けたとか」
「え? えぇ、まあ。みんな困っていますから、助け合いです」
ランバートの指摘に、少しドキドキする。本当はやっぱり、不安があるのだ。
「俺も当日、パーティーの警備に参加することになりました。よろしくお願いします」
「君が?」
目を丸くして問い返すと、ランバートは少し困ったような顔で頷いた。
「近衛府の患者が増えたので、通常警備の他にパーティーの警備となると人手が足りなくなったそうです。そこで、騎兵府と宰相府から人を出すことになりまして」
「それで、君が?」
「ラーク迎賓館での働きが評価されまして、是非にと」
苦笑するランバートに、エリオットも苦笑で返すしかなかった。
少し前に起こった騎兵府襲撃事件と、ファウストの拉致事件。彼はその件に深く関わっている。というよりも、当事者の一人だ。一流迎賓館に余裕の合格を果たした実力を、オスカルが見逃すはずはなかったということだ。
「大変だね、君も。体調に変わりはないかい?」
「はい、これといった変化は」
「ラウルはどうしてる?」
「少しずつ回復していて、食事や水分もとれています。夜間の発熱も落ち着いてきて、寝苦しい様子もありません」
「君、医療府でも十分やれそうだね」
医療府だってそう人手が多いわけではない。他の兵府よりは人がいらないけれど、こうした事態に十分な対応ができるほどには充実していない。しかも適正のある人となると更に限られる分野だ。
思わず誘ってしまうと、ランバートは申し訳なさそうに笑っていた。
「さて。熱は……三十八度。これまでで一番重症じゃないか」
「すみません……」
「いいから、熱が下がるまでは安静にしていて。食欲は?」
「正直あまり」
「スープでも、パン一つでもいいから食べてね。薬飲んで、こまめに水分補給して」
そう言って、今日一日の薬をランバートに渡す。薬紙に包まれた粉薬を見たウェインが、「うげっ」という顔をしている。
「粉薬は」
「子供じゃないんだから、飲みなさい」
ぴしゃりと言いつけると、すごすごと「はい」と返ってきた。
「では俺は、このままウェイン様を部屋に送って食事と薬を取ってもらいます。ファウスト様にも、一応連絡しますので」
「分かった、お願いするよ。私からも後でファウストには詳しく報告をしておくから。後、マスクしなさい」
「分かりました」
ぐったりしているウェインを抱えて、ランバートが出て行く。本当に頼もしい若者だ。
それにしても、今日だけでまた増えた。治療中の者は回復傾向にあるとはいえ、あまりに拡大すれば騎士団の機能不全にもなりかねない。早々に対策をしよう。
「料理府とも相談して、予防効果のある食材を多めに取ってもらうようにして」
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