67 / 167
5章:親愛をこめて
3話:大切な人
しおりを挟む
とうとう聖リマの日がやってきた。仕事終わりに予定通り誘われたラウルはシウスと一緒に劇場にいた。今日開かれる音楽会に行ったのだ。
「素敵な演奏でしたね」
公演が終わって多くの恋人達が帰る中、ラウルは満足な笑みでシウスを見上げる。暖かなコートを着た人はとても柔らかな笑みで頷いた。
「小さな音楽会だったが、良い演奏であった」
「はい」
小さな室内楽だったけれど、それが良かった。二人掛けのソファ-が鑑賞者の数だけ置いてあり、そこに少しの料理とお酒が置かれてある。恋人だけの演奏会だったので二人で一つのソファーに座り、寄り添って柔らかな演奏を聴いていた。
シウスが恋人になって、ラウルはこうした場によく足を運ぶようになった。シウスは音楽や演劇、オペラの鑑賞が趣味でよくラウルを誘ってくれるから、勉強したのだ。
「シウス様は、何か楽器をされるのですか?」
問いかけたが、シウスは難しい顔をして首を横に振った。
「あいにく、経験がない。じゃが、おそらく苦手だろうの。私はあまり器用ではない故」
不器用とは言わないあたりが、シウスのプライドに見えた。
夜の街へと歩き出したラウルは、少しだけドキドキしている。作ったマフラーを隠して持ってきた。けれどこれをいつ渡そうか、そのタイミングが掴めなかった。このままでは騎士団宿舎まで戻ってしまう。なんとかしなければ。
そんな気持ちで焦っていると、不意に冷たいものが首筋に触れた。
「あっ」
「ほぉ、降り出したの」
夜の空を白い綿毛のような雪が彩る。見上げたシウスが手を差し伸べて、雪を受ける。その姿はとても綺麗で、見とれるくらいだ。
未だにこの人の恋人だなんて、信じられない。ひょんな事からこのような関係になったけれど、本当に良かったのだろうか。どう頑張っても、この人には釣り合わないように思える。
不意に冷たい手が頬に触れた。見上げると、薄い水色の瞳が優しく見ていた。
「寒くはないかえ?」
「はい、平気です」
こんなことをこの人に悟られたら、きっと悲しませてしまう。いつも通りに笑って言ったラウルを見る瞳は、ほんの少し悲しそうだった。
「シウス様、肩に雪がついてます」
手で払い、ラウルは隠していた包みを開けてマフラーを出して、その首に掛けた。驚いたように見開かれた水色の瞳が、ジッとラウルを見ている。
「あの、僕からの贈り物です。寒いので、どうぞ」
なんて言えばいいんだろう。渡した途端に不安になった。気に入ってくれなかったら? 案外不格好になってしまっていたら?
「あの、今だけでも! 気に入らなかったら、返してくれてもいいので」
俯いてしまう。自信がなくなってしまう。思いを込めて作ってみたけれど、お店の物のようにはいかないと思う。
途端に驚いた顔をされて、次にギュッと抱きしめられる。ラウルは驚いて身を固くした。
「気に入らぬ訳がないであろう。これは、ラウルが作ってくれたのかえ」
「え? はい」
「嬉しい贈り物じゃ。どんな物にも変えられぬ宝ぞ」
本当に嬉しそうに言ってくれる言葉に、胸が熱くなる。嬉しくて、幸せで笑みが浮かんだ。
抱きしめられたまま、チョンと頬にキスをされる。人前ではあまりこのような事をしない人が、とても幸せそうに。
「有り難う、ラウル。これに見合う物が見つからぬのが心苦しいが」
「あの、本当にそんな! 喜んでもらえただけで、嬉しいです」
本当にそのままだ。こんなに喜んでもらえるなら、それだけで嬉しい。お返しなんて求めていない。
シウスの手が頭についた雪を払う。徐々に冷え込みが厳しくなる中で、やんわりと笑う人の笑みをただ見つめた。
「では、食事に行こう。その後は、私の部屋へおいで」
「はい」
甘い甘い笑みを見上げて、ラウルは微笑む。そっと寄り添って歩く道は、どこも輝いているように見えた。
「素敵な演奏でしたね」
公演が終わって多くの恋人達が帰る中、ラウルは満足な笑みでシウスを見上げる。暖かなコートを着た人はとても柔らかな笑みで頷いた。
「小さな音楽会だったが、良い演奏であった」
「はい」
小さな室内楽だったけれど、それが良かった。二人掛けのソファ-が鑑賞者の数だけ置いてあり、そこに少しの料理とお酒が置かれてある。恋人だけの演奏会だったので二人で一つのソファーに座り、寄り添って柔らかな演奏を聴いていた。
シウスが恋人になって、ラウルはこうした場によく足を運ぶようになった。シウスは音楽や演劇、オペラの鑑賞が趣味でよくラウルを誘ってくれるから、勉強したのだ。
「シウス様は、何か楽器をされるのですか?」
問いかけたが、シウスは難しい顔をして首を横に振った。
「あいにく、経験がない。じゃが、おそらく苦手だろうの。私はあまり器用ではない故」
不器用とは言わないあたりが、シウスのプライドに見えた。
夜の街へと歩き出したラウルは、少しだけドキドキしている。作ったマフラーを隠して持ってきた。けれどこれをいつ渡そうか、そのタイミングが掴めなかった。このままでは騎士団宿舎まで戻ってしまう。なんとかしなければ。
そんな気持ちで焦っていると、不意に冷たいものが首筋に触れた。
「あっ」
「ほぉ、降り出したの」
夜の空を白い綿毛のような雪が彩る。見上げたシウスが手を差し伸べて、雪を受ける。その姿はとても綺麗で、見とれるくらいだ。
未だにこの人の恋人だなんて、信じられない。ひょんな事からこのような関係になったけれど、本当に良かったのだろうか。どう頑張っても、この人には釣り合わないように思える。
不意に冷たい手が頬に触れた。見上げると、薄い水色の瞳が優しく見ていた。
「寒くはないかえ?」
「はい、平気です」
こんなことをこの人に悟られたら、きっと悲しませてしまう。いつも通りに笑って言ったラウルを見る瞳は、ほんの少し悲しそうだった。
「シウス様、肩に雪がついてます」
手で払い、ラウルは隠していた包みを開けてマフラーを出して、その首に掛けた。驚いたように見開かれた水色の瞳が、ジッとラウルを見ている。
「あの、僕からの贈り物です。寒いので、どうぞ」
なんて言えばいいんだろう。渡した途端に不安になった。気に入ってくれなかったら? 案外不格好になってしまっていたら?
「あの、今だけでも! 気に入らなかったら、返してくれてもいいので」
俯いてしまう。自信がなくなってしまう。思いを込めて作ってみたけれど、お店の物のようにはいかないと思う。
途端に驚いた顔をされて、次にギュッと抱きしめられる。ラウルは驚いて身を固くした。
「気に入らぬ訳がないであろう。これは、ラウルが作ってくれたのかえ」
「え? はい」
「嬉しい贈り物じゃ。どんな物にも変えられぬ宝ぞ」
本当に嬉しそうに言ってくれる言葉に、胸が熱くなる。嬉しくて、幸せで笑みが浮かんだ。
抱きしめられたまま、チョンと頬にキスをされる。人前ではあまりこのような事をしない人が、とても幸せそうに。
「有り難う、ラウル。これに見合う物が見つからぬのが心苦しいが」
「あの、本当にそんな! 喜んでもらえただけで、嬉しいです」
本当にそのままだ。こんなに喜んでもらえるなら、それだけで嬉しい。お返しなんて求めていない。
シウスの手が頭についた雪を払う。徐々に冷え込みが厳しくなる中で、やんわりと笑う人の笑みをただ見つめた。
「では、食事に行こう。その後は、私の部屋へおいで」
「はい」
甘い甘い笑みを見上げて、ラウルは微笑む。そっと寄り添って歩く道は、どこも輝いているように見えた。
12
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる