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5章:親愛をこめて
5話:親愛なる人へ
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宿舎で夕食を食べたが、今日は閑散としていた。相手のいる者は大概外に出ているし、仕事のある者も姿を見せない。いつもは騒がしい食堂が、今日はまばらに見えた。
「こういう光景も、珍しいものだな」
いつものように対面に座ったファウストが、辺りを見回しながらそんな事を言う。それにつられるように、ランバートも周囲を見る。
今日はラウルもシウスも、オスカルもいない。皆恋人と幸せな時間を過ごしているだろう。
「独り者って感じがしますね」
「そうだな」
静かに言うファウストはこれといって関心もないのか、静かに食事を始める。ランバートも静かな食事を開始した。
「そういえば、恋人のいない奴らを集めてラウンジで飲むとグリフィス様が言っていましたが、行きますか?」
食堂に来る少し前に、大声で人を集めるグリフィスに出会った。それに賛同する男どもの、いっそ清々しい活気ある声が響いているのを聞いてどうにもやるせない気持ちになってしまった。
ファウストは苦笑して首を横に振る。まぁ、これも予想はできたが。
「行きたいなら行ってこい」
「いえ、遠慮します。なんか、余計に寂しいので」
べつに独り身なのが悪いわけでも、特別寂しい訳でもないのだが。それでもあの中にいるのはちょっと、冷静な自分が待ったをかける。
ファウストは笑い、頷いた。
「それなら、少し付き合うか? 新年に妹から酒が届いたんだが、一人では飲みきれない」
思わぬお誘いに、ランバートは目を丸くする。そして、やんわりと笑った。
いったん戻って私服に着替え、ランバートは手に一つの包みを持つ。そしてそのまま、ファウストの部屋へ上がっていった。
部屋は相変わらず必要なものだけがある。これといった装飾もなく、趣味の物もない。だがローテーブルの上に数本のワインやシャンパン、摘まめる程度の軽食がある。今日の食堂の残りだ。
「早かったな」
私服に着替えたファウストが迎えてくれて、それぞれ好きに座る。グラスを持つとすぐにシャンパンが注がれた。
「俺も注ぎますよ」
受け取って、同じようにファウストのグラスに酒を注いでいく。淡い色の液体の中を小さな気泡が立ち上るのを見ながら、互いに乾杯を言って一口。甘みと酸味が程よい、上品なものだった。
「美味しいですね」
「妹は毎年何かしら送ってくるんだが、量が多くてな。俺だけでは消費しきれないんだ」
「それで、いつもはどうしているのです?」
「日をかけて消費するか、あいつらを誘う。だが、今日はな」
苦笑したファウストは、やっぱり少し寂しそうだった。
「オスカルまで恋人ができたとは、少し意外だった」
「相手は分かっていたでしょ?」
「まぁ、確かめはしなかったが。エリオットは元々俺の下にしばらくいてくれたし、オスカルの視線を感じる事はあったしな」
それでも短気なオスカルが五年以上も関係を進めなかった事で、どこまで本気かはかりきれなかったのだろう。ランバートも少し意外だった。相手というよりは、彼の気長さに。
「だが、素直に祝ってやりたい。数少ない友人で、仲間だからな」
そう言ってグラスの酒を覗き込み、流し込むファウストは苦笑していた。
「俺でよければ、お付き合いしますよ」
「そうだな」
悩むことも躊躇う事もなく返ってきた言葉が少し意外だ。けれど、心地よいようにも思えた。
「あっ、そうだ」
紙袋に入れたままの包みを取り出し、ランバートはファウストの前に置く。彼は首を傾げながらもそれを受け取ってくれた。
「なんだ?」
「まぁ、聖リマの日なので」
包みを開けたファウストの目が驚きに見開かれ、次にランバートを映す。その表情が何よりも嬉しくて、ランバートは笑った。
中身はマフラーだ。黒ではなく、グレーにした。デザインも父と同じにはせず、彼に似合うように考えた。多分、一番こだわっただろう。
「入団してからずっと、ファウスト様にはお世話になっています。だからこれは、感謝と親愛を込めて」
「手間だっただろ」
手に取って触れる柔らかな手つきが嬉しい。大事にしてもらえそうなのも嬉しい。ランバートの顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「それほど手間ではありませんし、材料費もタダです。時間もありましたから」
ラウルに言われて、ほんの少し考えた。幸い毛糸は余る予定だし、順調にいけば時間もある。だが意外とデザインに凝った為、最後は突貫になった。
ふと、ファウストの手が頬に触れ、目の下に触れる。驚いていると、困ったような笑みが覗き込んでいた。
「隈ができてるぞ」
「これからはゆっくり寝ます」
「無理をして」
「楽しみましたから、苦痛ではありません」
気遣わしい顔が、それでも嬉しそうにしているのを見ている。ふわりと取って巻いた姿は、やっぱり様になった。
「温かい。これなら外回りも辛くないな」
「寒いですからね」
「特に今日は冷える」
「先ほど雪が降り始めましたよ」
窓の外は今雪が降っている。積もっていたその上に、新しい雪が重なっていく。
「だが、これを貰っていいのか? 俺は用意していないが」
申し訳なさそうに首に巻いたマフラーを手で遊びながら、ファウストは口にする。それを聞いて、ランバートは笑った。お返しなど期待していないし、貰う気もない。それでも気にするのがこの人だ。
ふと、手にしたグラスを覗き込む。そしてそれを、ファウストの前に出した。
「お返しは、もう貰っていますよ」
一口飲み込んだシャンパンを見て目を丸くしたファウストは、次には楽しげに笑う。そして改めて乾杯をし、夜の時間を穏やかに過ごしたのであった。
「こういう光景も、珍しいものだな」
いつものように対面に座ったファウストが、辺りを見回しながらそんな事を言う。それにつられるように、ランバートも周囲を見る。
今日はラウルもシウスも、オスカルもいない。皆恋人と幸せな時間を過ごしているだろう。
「独り者って感じがしますね」
「そうだな」
静かに言うファウストはこれといって関心もないのか、静かに食事を始める。ランバートも静かな食事を開始した。
「そういえば、恋人のいない奴らを集めてラウンジで飲むとグリフィス様が言っていましたが、行きますか?」
食堂に来る少し前に、大声で人を集めるグリフィスに出会った。それに賛同する男どもの、いっそ清々しい活気ある声が響いているのを聞いてどうにもやるせない気持ちになってしまった。
ファウストは苦笑して首を横に振る。まぁ、これも予想はできたが。
「行きたいなら行ってこい」
「いえ、遠慮します。なんか、余計に寂しいので」
べつに独り身なのが悪いわけでも、特別寂しい訳でもないのだが。それでもあの中にいるのはちょっと、冷静な自分が待ったをかける。
ファウストは笑い、頷いた。
「それなら、少し付き合うか? 新年に妹から酒が届いたんだが、一人では飲みきれない」
思わぬお誘いに、ランバートは目を丸くする。そして、やんわりと笑った。
いったん戻って私服に着替え、ランバートは手に一つの包みを持つ。そしてそのまま、ファウストの部屋へ上がっていった。
部屋は相変わらず必要なものだけがある。これといった装飾もなく、趣味の物もない。だがローテーブルの上に数本のワインやシャンパン、摘まめる程度の軽食がある。今日の食堂の残りだ。
「早かったな」
私服に着替えたファウストが迎えてくれて、それぞれ好きに座る。グラスを持つとすぐにシャンパンが注がれた。
「俺も注ぎますよ」
受け取って、同じようにファウストのグラスに酒を注いでいく。淡い色の液体の中を小さな気泡が立ち上るのを見ながら、互いに乾杯を言って一口。甘みと酸味が程よい、上品なものだった。
「美味しいですね」
「妹は毎年何かしら送ってくるんだが、量が多くてな。俺だけでは消費しきれないんだ」
「それで、いつもはどうしているのです?」
「日をかけて消費するか、あいつらを誘う。だが、今日はな」
苦笑したファウストは、やっぱり少し寂しそうだった。
「オスカルまで恋人ができたとは、少し意外だった」
「相手は分かっていたでしょ?」
「まぁ、確かめはしなかったが。エリオットは元々俺の下にしばらくいてくれたし、オスカルの視線を感じる事はあったしな」
それでも短気なオスカルが五年以上も関係を進めなかった事で、どこまで本気かはかりきれなかったのだろう。ランバートも少し意外だった。相手というよりは、彼の気長さに。
「だが、素直に祝ってやりたい。数少ない友人で、仲間だからな」
そう言ってグラスの酒を覗き込み、流し込むファウストは苦笑していた。
「俺でよければ、お付き合いしますよ」
「そうだな」
悩むことも躊躇う事もなく返ってきた言葉が少し意外だ。けれど、心地よいようにも思えた。
「あっ、そうだ」
紙袋に入れたままの包みを取り出し、ランバートはファウストの前に置く。彼は首を傾げながらもそれを受け取ってくれた。
「なんだ?」
「まぁ、聖リマの日なので」
包みを開けたファウストの目が驚きに見開かれ、次にランバートを映す。その表情が何よりも嬉しくて、ランバートは笑った。
中身はマフラーだ。黒ではなく、グレーにした。デザインも父と同じにはせず、彼に似合うように考えた。多分、一番こだわっただろう。
「入団してからずっと、ファウスト様にはお世話になっています。だからこれは、感謝と親愛を込めて」
「手間だっただろ」
手に取って触れる柔らかな手つきが嬉しい。大事にしてもらえそうなのも嬉しい。ランバートの顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「それほど手間ではありませんし、材料費もタダです。時間もありましたから」
ラウルに言われて、ほんの少し考えた。幸い毛糸は余る予定だし、順調にいけば時間もある。だが意外とデザインに凝った為、最後は突貫になった。
ふと、ファウストの手が頬に触れ、目の下に触れる。驚いていると、困ったような笑みが覗き込んでいた。
「隈ができてるぞ」
「これからはゆっくり寝ます」
「無理をして」
「楽しみましたから、苦痛ではありません」
気遣わしい顔が、それでも嬉しそうにしているのを見ている。ふわりと取って巻いた姿は、やっぱり様になった。
「温かい。これなら外回りも辛くないな」
「寒いですからね」
「特に今日は冷える」
「先ほど雪が降り始めましたよ」
窓の外は今雪が降っている。積もっていたその上に、新しい雪が重なっていく。
「だが、これを貰っていいのか? 俺は用意していないが」
申し訳なさそうに首に巻いたマフラーを手で遊びながら、ファウストは口にする。それを聞いて、ランバートは笑った。お返しなど期待していないし、貰う気もない。それでも気にするのがこの人だ。
ふと、手にしたグラスを覗き込む。そしてそれを、ファウストの前に出した。
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