恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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6章:朋友

2話:友人

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 それから数日後、一年目は全員修練場に集められた。何が始まるのかは皆分かっている様子だ。多分、先輩などから聞いているのだろう。
 ざわざわした雰囲気が消える。皆の前にファウストと五人の師団長が立ったからだ。

「一年間、皆よく頑張ってくれた。今年の一年目は概ね評価も良く、俺も安心している」

 ファウストの声が響く。それに聞き入るように皆が真剣な顔をしていた。

「さて、昇級試験の話は各自聞いていると思う。例年であれば武を重んじる内容になるが、今年は少し趣向を変えてみた」

 それに、場は僅かに騒がしくなった。不安がる者、緊張する者、楽しそうにする者。その中でランバートは、なんだか嫌な予感がしていた。

「今年の昇級試験は五人一組の団体戦だ。これより試験内容を説明する」

 場が一気にざわざわした。そしてランバートの嫌な予感は的中した。よりにもよって団体戦。正直同期と接点が薄いランバートは誰と組んでいいのかさえ分からない。しかもランバートは中途入団だ。本当にどうしていいか分からない状態だ。

「今年の試験は団体で行う鬼ごっこのようなものだ」
「鬼ごっこ?」

 どこからか戸惑いの声が漏れる。皆それを感じているのか、同じ言葉があちこちから聞こえる。

「チームには色の違う五本のリボンが渡される。リボンは色によって得点が違う。一点、三点、五点、七点、十点だ。決まったフィールド内でそれらを相手から奪い、得点が多いチームの勝ちとなる」

 フィールドは訓練用の森を仕切り、各フィールドに審判が複数人付く。試合時間は全部で三十分。挨拶をして、その後五分の作戦会議、実際のゲーム時間は二十五分。リボンを取られたら速やかにフィールドを出て、審判の元に行くこと。相手チームのリボン全てを奪えば時間に関わらず終了となる。
 これが、ファウストから説明された内容だった。

「この場でチームを決めて登録とする。決まりしだい前に出て名前を記入しろ。また、後日メンバーの入れ替えなどは許されない。しっかり考えて組め」

 その言葉を最後に、全員がオロオロと仲間捜しに走り始める。その中でランバートは動けなかった。
 親しい同期がいない。よく考えると先輩などとは仲がいいが、同期とは関わっていない。大抵は入団前のテストなどで関わりがあり、そこで仲良くなるそうなのだが中途のランバートはそんな相手もいない。
 しかも普段はファウスト達と過ごす事が多くて、同期とは遊んでいなかった。

 完全に裏をかかれた。

 多分、悩むファウストに入れ知恵をした人物がいるだろう。シウス辺りに違いない。幸いなのが今の一年目は五人で割りきれる。必ずどこかのチームには入れるだろう。
 これは最後まで残るだろう。どこかにおこぼれで入れればいい。誰だって関わった事の無い相手と団体行動なんてしたがらないのだろうから。
 そんなネガティブな考えでいると、不意に後ろから肩を叩かれた。驚いて振り向いたランバートの前には、一人の好青年が立っていた。

 短く刈り上げたこげ茶色の髪に、同色の瞳は見る者に好印象を与える明るさがある。身長はランバートよりも少し高くて、実に健康的な青年だった。

「ランバート、だよな? なぁ、誰かと組んだか?」
「え? いや、まだ」
「よっしゃ! なぁ、俺と組まないか?」
「え?」

 展開が早すぎてついて行けない。そもそもランバートはこの青年の名前も知らないのだ。

「あっ、悪い! 俺、第三師団のトレヴァーっていうんだ。もし嫌じゃなかったら、俺と一緒にやろうぜ。俺、お前と話してみたかったんだ」

 少し早口に言ったトレヴァーはニコニコとして手を差し伸べてくれる。ランバートは驚きながらも、その手を取った。

「俺でいいのか? 俺、付き合い悪かっただろ?」
「そんなの今から知り合えばいいだろ? それに、知る楽しみもあるじゃん」

 底抜けに明るく毒気がない。そんな彼が側にいるのは、なんだか心地よくもあった。ランバートは笑って、しっかりと彼の手を取った。

「よろしく、トレヴァー」
「おう!」

 力強い握手を互いに交わして、二人はニッと笑った。

「さて、後は誰を誘おうかな」

 そう言いながらも、トレヴァーは誰かを探している様子だった。そして程なく相手を見つけたようで、ずんずんと進んでいってしまう。行動にまったく迷いがない。ある意味凄い。

「おーい、ゼロス!」

 声をかけられた青年は視線をトレヴァーに向けて、困ったように笑った。そうして素直に近づいてきた。

「ゼロス、誰かと組んだか?」
「いや、まだだ。声はかかったんだが、決め手にかけてな」

 そう言った青年は、とても逞しくしっかりとした印象を受ける人物だった。
 薄い茶の短髪に、同じ色の切れ長の瞳。身長はランバートよりも高くて、体つきはがっちりとしている。リーダーになれる人物とは、彼のように人を引きつけ、引っ張る魅力があるのだろう。堂々とした立ち居振る舞いが似合う青年だった。
 その薄茶色の瞳がランバートへと向く。そして僅かに首を傾げた。

「ランバート? トレヴァー、お前誘ったのか?」
「勿論!」
「相変わらず怖い物知らずだな」

 そう言いながらも、青年は顎に手をやって少し考える。そして直ぐに視線を上げて、トレヴァーとランバートを見た。

「俺も混ぜてくれないか?」
「勿論! やった、ゼロスがいると助かる」

 手を上げて喜んだトレヴァーの脇に立った青年が、ランバートに手を伸ばす。ランバートもしっかりと握手を返して、改めて向き直った。

「第一師団のゼロスだ。お前の噂は色々聞いている。正直興味があったんだ。よろしく頼む」
「第二師団のランバートだ。俺こそ、よろしく頼む」

 互いに名乗って、後は笑う。彼もまた気持ちのいい相手だ。

「あとは……」
「トレヴァー、楽しそうな事してるじゃん」
「のわぁぁ!」

 ランバートとゼロスが自己紹介をしていると、突如側のトレヴァーが悲鳴を上げる。驚いて見ると、後ろから腕が回っていた。
 なんとも独特な雰囲気のある青年だった。褐色の肌に顔にかかる黒髪、瞳は切れ長の紫色だ。黒縁の眼鏡をかけた青年は、端正な顔に薄い笑みを浮かべている。

「レイバン」

 呆れた様子でゼロスが声をかける。それに、紫の瞳が向かって楽しげな笑みが浮かんだ。

「ゼロス、俺も混ぜてよ。楽しそうだ」
「お前が来ると途端にややこしいんだがな」
「その分いい仕事するさ。なぁ、トレヴァーもいいだろ?」
「分かったから首! 首ぃ!」

 悪戯を成功させて満足したのか、褐色の青年がパッと手を離す。そして静かにランバートの前に来ると顔を無遠慮に覗き込んだ。

「第五師団のレイバン・ラングリッジ。よろしくね、ランバート」
「よろしく」

 無遠慮で悪戯が好きそうな相手だ。けれど悪い感じは一切しない。癖は強そうだが、嫌いではなかった。

「はぁ、驚いた。ったく、そんな事しなくても誘おうと思ってたんだぞ」
「そりゃ良かった。俺だけ仲間はずれなのかと思って寂しかったんだよ」
「お前に寂しいなんて感情あったのか?」

 ゼロスが呆れたように言うのに、レイバンは舌をペロッと出して「ない」と悪びれもせず言った。

「あと一人か。誰かいないかな」

 そんな事を言いながらトレヴァーが辺りを見回す。そして程なく頼りない様子の少年を連れて戻ってきた。

「こいつ、第四師団のコナンって言うんだ。前に一回組んだことあってさ。一人なんだって。入れていい?」

 おどおどした少年の意見は聞いたのだろうか。そんな風に思えるくらい、少年は戸惑って俯いてしまう。なんとも気の弱そうな子だった。

「あの、僕なんてお役に立てませんし、誘ってもらうなんて」

 俯いたまま消え入りそうな声で言った少年を全員が見る。ランバートは少し前に出て、少年の肩を叩いた。

「よろしく、コナン」

 驚いて上がった顔は、困惑と嬉しさに赤くなっている。見れば愛らしい少年だ。色の薄い肌に幼げな顔立ち。金の髪は手に柔らかく、大きな緑色の瞳は愛らしさがある。
 ランバートの隣に並んだゼロスとレイバンが、頭を撫でて肩を叩く。受け入れる意思を感じたコナンは嬉しそうにはにかんだ。

「よし、これで揃った! 名前書きに行こうぜ」

 トレヴァーを先頭に師団長達の所へ行ったランバートは、驚いた顔のファウストを見た。多分、最後まで残ると思っていたのだろう。鼻を明かしたような気がして、少しうれしかった。

「これでチーム登録は終わり。これ、詳しいルールと注意事項ね。ちゃんと読んでおいてよ」

 ウェインから紙を渡されてそれを読み込む。それによると、細かな注意が書いてあった。

 ゲーム中に怪我をして欠員が出た時には速やかに審判に申し出て、医療府の治療を受ける事。そこでドクターストップがかかったときには、敗退チームから補充してもいいとの事。
 そして、このゲームは評価にプラスされるだけで、マイナスはしないということだった。

「日中午後の仕事は免除。訓練用の森も開放するから、連帯を取れるようにするように、か。試験は一週間後だな」
「それもいいけどさ、もっと素敵なコミュニケーション方法があるんじゃない?」

 レイバンがグラスを持つふりをして、それを傾ける。全員がそれで納得いった。

「明日は幸い安息日だし、いいな」
「俺、今からでも飲める店知ってる!」
「外出届貰ってこようか。師団長もいるし」

 こういう時の結束力は凄い。ランバートも笑って、ウェインの所にいく。直ぐに外出が許可され、五人は夜の街に繰り出すことになった。
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