恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
74 / 167
6章:朋友

3話:飲みにケーション

しおりを挟む
 トレヴァーが連れてきたのは、大きな通りにある賑やかな店だった。開店してから時間が経っていなかったのか、二階の個室が取れた。好きに料理を頼み、飲み物を注文する。お酒が苦手だというコナン以外は酒を頼み、揃ったところで乾杯となった。

「さて、まずは改めて自己紹介だな。トレヴァー、いけ」
「俺から?」

 場の取り仕切りをするゼロスに名前を挙げられて、トレヴァーは自身を指さし驚いた声で言う。けれどこの人選をしたのはトレヴァーなのだから、当然といえば当然だ。

「えっと。トレヴァー・ワイネス、第三師団所属だ。目標はまず一勝! よろしく」

 恥ずかしそうにほんの少し頬を染めたトレヴァーに全員が頷く。だがレイバンだけは楽しげに「一勝なんて生ぬるい」と言って立ち上がった。

「レイバン・ラングリッジ、第五師団所属。奇襲も速攻もお手の物。とにかく楽しくやれればいいかな。このメンバーはなかなか刺激的で楽しそうだから、期待してる。一勝と言わず全勝が目標かな。よろしく」
「随分大きく出たな」

 ニヤリと楽しげに笑ったレイバンを見て苦笑しながら、ゼロスが呟く。だがその表情には否定的なものはない。むしろやりがいを感じた。

「第一師団所属の、ゼロス・レイヴァースだ。俺もこのチームでのゲームを楽しみにしている。ただ、怪我のないようにだけ気をつけてもらいたい。後で一人入れるなんて、興ざめだろ?」

 ニッと悪い笑みを浮かべたゼロスは、案外俗な感じなのかもしれない。ただ、間違い無く人を引っ張っていく奴だ。そう、ランバートは感じていた。

「さて、次は」
「あの、先に僕が。最後は緊張して、声が出なくなりそうなので」

 消え入りそうな声でコナンは立ち上がり、オロオロしながらも前を向く。その手がちょっと震えていた。

「コナン・オーウェンです。第四師団所属ですが、弱くて。剣も槍もあまり得意じゃありません。正直、皆さんのお役に立てるかとても心配していますが、足を引っ張らないようにだけ頑張ります。どうか、よろしくお願いします」

 勢いよく頭を下げたコナンに、レイバンが大きく拍手する。席を立って隣に並んだ彼はコナンの肩を叩いて「よろしく」と声をかけていた。
 案外、彼は面倒見がいいのかもしれない。視線には暖かみがあるし、表情にも穏やかさがある。おふざけはするが、相手は選んでいるのだろう。

「じゃ、最後はランバートな」
「あぁ、そうか」

 気づけば最後だ。どう言えばいいかと悩みながら立ち上がり、メンバーの顔を見る。なんとも個性的で、気のいい奴らが集まっている。ここに自分が参加できている事が嬉しかった。

「第二師団所属の、ランバート・ヒッテルスバッハです。俺は、このメンバーとやれるだけで嬉しく思う。こんな接点の無かった俺に声をかけて受け入れてくれただけで、本当に嬉しいんだ。だから、楽しくやれればと思っている。今後もよろしく」

 これはそのままランバートの気持ちだった。
 トレヴァーが声をかけてくれなかったら。ここの誰かが難色を示したら。それだけできっとここにいなかった。文句もなく、話したことも無い相手を仲間に入れてくれた彼らに感謝している。
 ドンッと背中を叩かれて、見ればレイバンが笑っていた。

「もっと楽に構えろよ、ランバート。それに、みんなお前には興味があったんだ。俺たちは組めてラッキーだったよ」
「そうなのか?」
「なんだ、気づいて無かったのか?」

 ゼロスまでもがそんな事を言う。酒を傾けながら楽しげにする彼に首を傾げたのはランバートだった。

「お前を誘いたかった奴は、正直沢山いたと思う。ただ、誰もその一歩が出なかったんだろうな」
「なんせ有名人だしな。しかもファウスト様たちと懇意で、色々と謎が多い。実力だけでも欲しがった奴は多いって。そして、そんな雰囲気まったく無視で声をかけたトレヴァーは偉い」

 視線がトレヴァーに向く。まったくそんな事を意識していなかった様子のトレヴァーは、むしろ驚いていた。

「え? そんなに競争率高かったのか? 俺は話してみたいって思ったから、声かけたんだけど」
「周囲の牽制とか、声をかけづらい雰囲気とか読まなかったのか?」
「そういうことをこいつに期待しても無駄だって、ゼロス。なんせ思考と行動が直通なんだから。ある意味いいことだと思うが」

 互いを知っているような口ぶりの三人を見て、少しだけ羨ましいと思う。そしてそこに自分も参加できていることが、ちょっとだけ嬉しかった。

「三人は、入団テストで知り合ったんですか?」

 遠慮がちにコナンが聞いてくるのを、三人が肯定する。それに「いいな」と呟いたコナンが、ランバートを見た。

「ランバートさんは、途中からですよね? どうして騎士団に入ったんですか?」
「あぁ、なんて言うか……婚活?」
「「婚活!」」

 驚いて素っ頓狂な声を上げたレイバンとトレヴァーを見るのは実に楽しい。そして、ゼロスが頭が痛いと言わんばかりに額を押さえている。

「母に綺麗な息子が欲しいとせがまれたのがきっかけかな」
「え? じゃあ、相手探し中なわけ?」

 ぎょっとした目でトレヴァーが一歩引く。ランバートはニヤリと笑って、あえて一歩近づいた。

「俺はダメだぞ!」
「分かってるって」

 ゲラゲラ笑ったランバートの肩を、いつの間にか近づいてきたレイバンが組む。そして、ニッと笑った。

「俺でよければ相手しようか?」
「こら、レイバン」
「だって、すっごい玉の輿。しかもランバート美人だから、夜も楽しそう」

 妙に艶のある紫の瞳が覗き込むのを見て、ランバートは苦笑する。確かに一時を楽しむには悪くないのだが、生涯の相手となるとちょっと違って見えた。

「だっ、ダメだぞ! そんな不純な動機」
「おやぁ? 不純じゃない動機ってあるのかなぁ?」
「それは、その! だって、玉の輿とか体の相性とかで人生決めるのは!」
「トレヴァー、からかわれてるぞ」

 あきれ顔のゼロスが取りなし、ランバートは側のレイバンと顔を見合わせて大いに笑った。
 酒が進み、食事が進み、それぞれ楽しく時間が過ぎる。みんな気のいい相手で腹を割って話せた。
 トレヴァーは性格が真っ直ぐで嘘がなく、思った事は口にする。
 ゼロスは多くは語らないが付き合いがよく、全体に気を回せる奴だ。
 レイバンは悪戯や悪乗りもするが、相手は選ぶ。それに、案外暖かみのある相手だ。
 そしてコナンは控え目だけれど、慣れてくれば笑顔で話をしてくれる。

「なぁ、ランバート」

 酒が進んだトレヴァーの目は据わっている。持っていたジョッキを置いてズイッと顔を寄せたかと思えば、さっきまでの遠慮がどこに飛んだのか迫る勢いで近づいた。

「ファウスト様って、どんな人なんだ」
「はぁ? ファウスト様?」

 と言われても、なんて言えばいいのか。どんな人かを語るには、まだまだ分からないのだが。

「まーた始まったよ、トレヴァーのファウスト様愛」
「ファウスト様愛?」
「尊敬してやまないファウスト様について、熱ーく語りたい」
「適当なところで切らないと厄介だぞ、ランバート」

 あきれ顔のレイバンと苦笑するゼロス。その様子を見ると、相当なのだろう。

「なぁ、ランバート親しいんだろ? どんな人なんだ?」
「どんなって……そうだな。優しくて、お人好しで、案外世話好きかな。でも、話すと俗物っぽい所もあるし、付き合いもいいかな」
「おっ、深いねぇ」

 レイバンは笑っている。興味が無いわけではなさそうだ。

「強いよなぁ、やっぱり。俺はあの人を見て騎士団に入ったんだ。かっこいいよなぁ」
「そういう人、多いのか?」
「あぁ、多いと思うぞ。先輩の中にもかなりいる。確かにあの人はかっこいいからな」

 やっぱり行き過ぎた憧れや尊敬があるのだろう。そんな風に思えた。

「声かけないのか?」
「とんでもない! 俺程度が声かけたって、なんて言えばいいかもわかんない」

 慌てたように言うトレヴァーの様子を見て、ランバートは少しだけ寂しくなる。もっと近づけば受け入れてくれる人だ。あの人は面倒見もいいのに。
 ふと考えが回って、ランバートは笑う。そしてその場にいる全員を巻き込むつもりで見回した。

「そんなにファウスト様と話してみたいなら、明日早起きして俺と一緒にこいよ」
「何があるのかなぁ?」

 乗り気らしいレイバンがニッと笑う。それに、ランバートも詳しくは話さずに笑った。

「まぁ、楽しい事かな? 二日酔いじゃなければ、楽しいよ」
「ファウスト様と話せるのか!」
「勿論」
「行く!」

 熱意がいっそう溢れる顔のトレヴァーに溜息をつくゼロスだったが、彼も乗る気でいるっぽい。そして戸惑うコナンも、誘うと素直に頷いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...