恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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6章:朋友

8話:第一試合

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 翌日も快晴、実に試合日よりだ。勝ち残ったチームは早々に対戦相手を決めるくじ引きをした。現在残っているのは八チームとなっている。

「午前中に全部の試合が終わるな」
「まぁ、昨日ほど楽な試合はさせてもらえないだろうけれど。実際、俺たちが一番に当たる相手は楽じゃない」

 トーナメント表を目の前に体を解していたレイバンが睨み付けるように言っている。その側で同じように柔軟をしていたランバートもトーナメント表を見る。

「第五師団中心のチームなのか?」
「そっ。しかもこいつら、五人全員で襲ってくるよ」

 それを聞いて、ゼロスもランバートも嫌な顔をした。

「第五師団にしては珍しく、連隊で襲うのが得意な奴だ。中心になってるのは兄弟だしな。足も速いし、五人で一人を襲うような方法だからまず狙われると辛い」
「単独で挑むのは無謀ということか」

 ゼロスが難しい顔をする。つまり、昨日の作戦は使えないということだ。

「一人になったのを見つかれば、逃げるのは至難の業かな」
「俺でも逃げられないか?」
「ランバートでもちょっとな。二人、もの凄く動きの素早いのがいるんだ。そいつらの相手してる間に他の三人もきて、結局五対一」

 レイバンが珍しく嫌な顔をしていると、トレヴァーとコナンも合流する。そして全員で、試合フィールドへと向かっていった。
 挨拶をして初期位置に立ったゼロスは、珍しく厳しい顔をして全員を見回した。そして、その視線をトレヴァーに向けた。

「次の試合、コナンは上から見て敵が来たことをトレヴァーに伝えろ。トレヴァー、お前はあいつらの前に出て囮になって俺たちの所に誘導してくれ」

 ゼロスの提案は、レイバンやランバートを一瞬固まらせた。けれど一番固まったのは、間違いなくトレヴァーだろう。

「ちょ! 俺でいいのか?」
「お前が失敗したら俺たち三人でいく。でもできれば誘導してくれたほうがやりようがある。お前は一番足が速いから逃げ切れる可能性もある」

 ゼロスは譲る気がないようで、真っ直ぐ射るようにトレヴァーを見ている。
 ランバートも、レイバンも何も言わなかった。トレヴァーがやれないなら、他を考える。けれどやれるなら奴らの不意を突ける。
 じっくりと腕を組んで考えたトレヴァーは、やがて全員を見回して頷いた。

「分かった、どこに誘い込めばいい?」
「ここだ。初期位置のここに誘い込んでくれ。ここでなら存分に暴れられる」
「罠もしかけようか。草を結んで輪にしてさ、足を引っかけるように」
「トレヴァーまで巻き込む。それよりも、どこから奴らを襲うかが重要だ」

 トレヴァーが腹をくくったことでそれぞれの動きが決まった。皆がそれぞれの動きを確かめて解散したところで、開始の鐘が鳴った。

◆◇◆

 トレヴァーは息巻いていた。初めて活躍らしい活躍ができるかもしれない。それを思うと震えるし、怖いけれどやろうと思う。
 このチームの中で活躍していないように思っている。一対一でも上手くやれない。誇れるのは足の速さと体力のみ。そうなると、どうしろっていうんだろう。
 だからここで、せめて回ってきた役目だけでもきっちりこなしたい。そう思えば震えが止まった。そして、改めて闘志がわいてきた。

「トレヴァー、右から五人来てるよ」
「わかった」

 頭上からコナンが声をかけてくれて、トレヴァーは右側を睨む。そうすると五人の人影がジリジリと近づいてきていた。

「トレヴァーじゃん。なに、やっぱり見捨てられた?」

 目つきの悪い意地悪な笑みを浮かべた奴がニヤニヤ笑う。その隣にも同じような奴がいる。

「そんなんじゃない」
「じゃあ、なに? もしかして、俺たちに挑もうっての?」

 軽く構えた奴はフットワークが軽い。そして静かな奴が二人、この状況を静観している。

「軽くもんでやるよ」
「ほら、早く来いって」

 挑発されて、トレヴァーは冷や汗をかきながら乾いた笑みを浮かべた。そして回れ右して、猛然と走り出した。

「あっ! 逃げた!」
「待て!!」
「待てるかぁぁぁ!」

 多分一人一人は体重が軽い。けれど囲まれたらそれでも取られる。逃げるが勝ちだが直ぐに目的地には行けない。奴らに悟られちゃいけない。
 脱兎のごとくとはこのことだ。トレヴァーは考えもなくもの凄い勢いで走る。けれど身が軽い奴らは速いし俊敏だ。追いつかれそうになって手を払い、迫るタックルを避け、どうにかこうにか逃げ続ける。森を右へ左へ。こんなに本気で走った事なんてあまりない。
 心臓が壊れそうだ。足なんていつもつれたって可笑しくない。脇腹痛い。木の根に引っかけたら前にぶっ飛んでいく。視野が狭くなりそうだ。それでも目的地は見えてきている。不思議とゴールテープが見えてきそうだ。
 寸前で掴まれそうになったのを払いのけて、開始地点まで戻ってきた。少し開けた平らなそこを走り抜けて人が隠れていそうな茂みに転がるように走り込んだトレヴァーの肩を、大きな手が叩いた。

「お疲れ、後はこっちでやる」

 ゼロスがすれ違いざまにそう言って前に出て行く。それだけで安心して、そのままズザーァッと地面に倒れ込んだトレヴァーは、自分の役目を終えたことに安堵した。

◆◇◆

 トレヴァーと入れ替わりでフィールドに出たゼロスの前には、残るところ三人だった。最初に急き込んできた二人はランバートが蔦で作った縄に足を取られて転んでいる。そこをレイバンが素早く捻り上げ、リボンを奪った後だった。

「ゼロスゥ!」

 一番背の高い銀髪の男が唸るような声で言う。その顔を見ると、どうも見覚えのある人物だった。

「入団テストの」
「そうだ! お前と当たって、お前にやられた奴の顔だ! 覚えとけ!」

 そうは言われても、いちいち覚えていられない。何より基本的な実力を見るための入団試験で、負けたら後が無いわけじゃない。事実こいつも無事に合格できてるわけだから、そんなに恨まれるような事をしたつもりはない。
 けれど相手は違うようだ。今にもかみ殺しそうな雰囲気で近づいてくる。近づこうとしたランバートとレイバンの前にはそれぞれ違う人物が立った。

「この時を、とにかく待っていたんだ。俺の顔に泥を塗ったお前を倒す日をな!」
「悪いが、泥を上塗りする事になると思うぞ」
「ほざけぇぇぇ!」

 奇声と共に突進してきた男は、だが素早い。右ストレートを腕で受け、すぐさま飛んできた左もかわした。だがそこに足まで使い始めると忙しい。
 驚くべきは目だ。ゼロスの目には男の動きがしっかりと見えている。前もだが、こんなに的確ではなかった。だから驚いている。
 鍛錬の賜だ。確実に実力がついている。それに、体力も上がっただろう。そう思うと本当に驚いてしまう。
 軽く攻撃に出てみる。左から右へ飛んできた拳を受け、その手を掴んで投げる。男は面白いようにバランスを崩して地面に倒れた。そのまま男の手を後ろに捻り上げたゼロスは悠々とリボンを奪い取る事ができた。

「はなせぇぇぇ!」
「暴れると折れるぞ」

 上手く決まっているから、下手に暴れると外れるかもしれない。リボンは奪ったけれど、このまま離したら問答無用に殴りかかってきそうだ。

「うわぁ、みっぐるしー」
「レイバン!」
「ゼロスに負けたんだから、殴りかかっちゃダメだぞ。それしたら、大将に告げ口するからね」

 ゼロス以外の二人もしっかり相手のリボンを手にしている。心配はなかったようだ。

「ゼロス、離していいんじゃないか?」
「だが」
「試合は終わったんだし、それを無視してそいつが攻撃したら違反だ。俺からファウスト様にきっちり報告するさ」

 レイバンとランバート、両方からの威圧感に負けたように男は何も言わなくなる。ゼロスが避けても、項垂れたまま動かなかった。それはそれで心配だが。

「トレヴァー、大丈夫?」

 茂みの中から心配そうなコナンの声がして、全員がそっちに向かう。トレヴァーは地面に転がったまま、安心したように寝ていた。こいつもある意味で凄い奴だ。

「寝るかぁ、こんなところで?」
「こいつ、簡単には死なないな」

 信じられないとレイバンが声を上げ、ランバートが穏やかに笑う。ゼロスは肩を担ぐと審判達のいる場所へと歩いていく。丁度、試合終了の鐘が鳴った所だった。

◆◇◆

 トレヴァーが目を覚ましたのは、試合が終わって随分たってからだった。草原に寝転がらされているその側に、上官のウルバスがいた。

「ウルバス様!」
「あぁ、起きた? よほど疲れたんだね」

 穏やかかつ爽やかな笑顔で言われると、少し恥ずかしい。

「あれ? そういえば、他の奴は」
「あぁ、給水場。流石に一試合の負担が大きそうだったから、間に三十分の休憩を入れる事にしたんだ」
「そうですか」

 色々迷惑かけたのかな? そんな思いがあって申し訳なく俯くと、その頭にふわっとおおきな手が乗って、ポンポンと撫でられた。

「あの」
「あいつらについて行くのは、大変だろ?」
「え?」
「俺もさ、大変だなって思ったんだ。他の師団長は凄いのばかりだからさ」

 その気持ちはよく分かった。トレヴァーはなんて言っていいのか分からない。言葉がないまましばらく黙ってしまうと、ウルバスが続けた。

「でもさ、俺にしかできない事もある。武力じゃない方法でもさ、いいんだって思える」
「武力じゃない方法、ですか?」
「お前は人の間を垣根無しに渡れる。いい意味で空気を読まないからな」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるよ?」

 大真面目な表情で返されると疑う余地がない。そしてこんな上官なんだ、他意も悪意もない。

「他が牽制して声をかけなかったランバートに声をかけて、戸惑ってるコナンを引っ張ってきた。そうして、まったく面識のない人を繋ぐことができる。それだって、十分大事で他にはできない事だよ」

 褒められ慣れていない顔が火照って熱くなっていく。そして少しだけ、自分に「よくやった」と言ってやれた。
 少し遠くから手を振って近づいてくる仲間達を見て、トレヴァーは太陽のように笑う。そこにはもう憂いなんて何も残っていなかった。
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