恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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6章:朋友

10話:決勝戦・前編

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 なんとも言えない空気のまま、決勝の相手が決まった。
 トレヴァー、コナンと合流した三人は三十分後の試合相手をそれぞれ話す事にした。

「決勝の相手は俺たちと同じ、全師団から一人ずつの混合チームだ。それぞれ、知っている相手か?」
「第二師団のチェスターはいい奴だ。俺とは同い年だからなんだかんだで話をする。多分、俺が押さえられる」
「第三師団のトビーは、一言でいえば馬鹿? 後、俺の事を妙に敵対視してる」

 溜息をつきながら言ったトレヴァーに、レイバンは口笛を吹く。その意味はなんとなく分かった。

「お前を嫌う奴なんているんだ」
「そりゃ、いるだろ」
「珍しいな。トレヴァーは誰にも壁を作らないタイプの人間なのに、嫌うのか」
「なんか、妙に突っかかってくるんだよな。張り合うみたいな? 持久走の時とか、ちょっと困る」

 腕を組んでのトレヴァーの言葉に、ランバートとレイバンはなんとなく察して笑った。多分それは嫌ったんじゃなくて、勝手にライバル視されているんだろうと。

「第四師団からはハリーが出ています。ちょっと珍しくて、好戦的です。動きも速いし」

 おずおずと言うコナンは、とても困った顔をしている。おそらくあまり合わないのだろう。大人しいコナンを考えると、好戦的な相手にあえて近づいたりはしなさそうだ。

「ごめんなさい、僕ではとても抑えられないと思います。本当に、お役に立てなくて」
「なに言ってるの? コナンは十分に役立ってるし、頑張ってるでしょ。自信持ちなよ」

 レイバンが自然な笑みでそう励ましている。少し意外なのだが、レイバンは世話好きで面倒見がいい。コナンの場合は庇護欲を感じるから余計なのだろうか。

「お前はどうなんだ、レイバン? 第五師団のドゥーガルドはどんな奴だ?」
「別名バッファロー。でかい図体で足が速くてとにかくしつこい。腕力が強いから、食らうと厳しいかな。ただ、攻撃自体は大味だから俺やランバートやゼロスならかわせる。ただ、やたらと頑丈なのが嫌」

 レイバンはかなり嫌そうな顔で言う。おそらくここも合わないんだろう。

「第一師団のコンラッドは強いとは思うが、多分俺の所に真っ直ぐ向かってくるだろう」
「なんで?」
「ガキの頃から知ってる幼馴染みなんだよ。そして、前の練習試合で俺が勝った。あいつの性格なら、前の再戦を挑むと思う。力的には五分かな」

 そうなると、ゼロスはコンラッドの相手で手一杯になるだろう。トレヴァーはまずどうにかなるとして、コナンは早々に助けないと危ないかもしれない。

「俺は直ぐにチェスターを見つけて奪ってくる。そうしたら、コナンを探す」
「俺はトビーを引きつけておく。足の速さじゃまだ負けてない」
「俺はドゥーガルド相手かな。苦手だけど、他も手一杯だし。隙を見て他のを取れそうなら、やってみる」
「僕はとにかく頑張ります」

 コナンの決意が一番涙ぐましい感じがした。

◆◇◆

 とにかく捕まらないように、気づかれないように。そればかりを考えているけれど、多分隠れていてもダメだ。ハリーはどんなに隠れていても見つける。まるでこっちの考えが分かっているように。
 コナンは森の中を隠れながら移動している。できるだけ他の人の迷惑にならないように。そうして進んでいくけれど、程なく木漏れ日に立つ人の姿が目に入った。
 白に近い銀の髪に、眦の切れ込んだ緑色の瞳。すらりと背の高いその人は間違いなくこっちを見て笑った。

「逃げないでよ、コナン。逃げても追うけれど」
「あ……」

 まともにやっても絶対に勝てない。けれど、逃げたくない。そう思うのはきっと、仲間の姿を見てきたからだ。痛いのも辛いのも苦しいのも嫌いだけれど、今は逃げる事が一番嫌いだ。
 慎重に木漏れ日の中に進み出たコナンは、そのままハリーを睨み付ける。その顔に、ハリーの方が感心したようだった。

「弱虫のコナンが男の顔をするようになったね。正直逃げると思ってたよ」
「逃げません。僕がみんなの重荷になっちゃいけないから」

 リボンはお願いして白にしてもらった。取られたとして一点。でも、簡単に負けるわけにもいかない。ランバートに沢山鍛えてもらったんだから。
 ハリーは前に出て、嬉しそうにする。軽快な足取りだ。この人は第四師団の中でも好戦的なほうで、武術も得意だ。

「まぁ、俺としては今の顔の方がいいかな。じゃ、お手合わせ願おうか」

 軽く構えて、おいでと手招きされる。コナンは息を整えて、真っ直ぐにそこに走りこんだ。
 小さなコナンは懐に入り込むのは分けない。けれどそれはハリーだって分かっている。当然のようにガードされているのも分かっている。そこで、コナンはフェイントをかけて左側からハリーの背へと回った。そしてその膝裏を思い切り蹴りつけた。

「!」

 流石に驚いたんだろう。瞬間的に膝が落ちたのを見て、コナンは森の中に身を隠して走った。これでどのくらい時間が稼げるかわからない。けれど今求められているのは、とにかく時間を稼ぐことだ。

「! わぁ!」
「まったく、どこでそんな手の悪い方法を覚えたの?」

 突然後ろから手が伸びて首根っこを掴まれると、そのまま持ち上げられた。足をバタバタさせて暴れても敵わない。ひやりとした声が怖い。

「まぁ、おおかたレイバンかランバートだろうね。あの二人は乱戦に強そうだから」
「離して!」
「うーん、どうしようかな。もう少し遊んでもいいけれど」

 悩むような口振りの後、突如体が放り出される。お尻から落ちたコナンは、マジマジとハリーを見上げた。

「コナンが俺に一撃入れたのって、初めてだから。これはご褒美ね。いい感じだったよ? ちょっと面食らった」

 上から褒められても何も嬉しくない。コナンは睨み付けると立ち上がり、構えた。

「やるの?」
「やる!」
「いいけど、怪我しないでね」

 緊張した感じが広がっていく。自分の心臓の音がやけに大きい気がする。喉が渇く。それに、どこからかドタバタと音がして……。

 ドタバタ?

「どいてくれぇぇ!」

 突然脇の方から現れたトレヴァーにてコナンは驚いた。ハリーも驚いて後ろに飛んだ。そこを、トレヴァーが走り込んできてコナンの側にくる。そんなトレヴァーの後ろから、同じくらいの青年が走り込んできた。
 赤茶けたトゲトゲした髪に、ヤンチャっぽい黄色の瞳、身長はそう高くない。息を切らしたその青年は一度立ち止まって息を整えると、キッとトレヴァーを睨み付けた。

「逃げるなトレヴァー!」
「いや、逃げるだろうが!」

 コナンを置き去りにして言い合いをしそうな二人にオロオロしていると、困った顔のハリーが溜息をついていた。

「トビー」
「ん? あっ、ハリー。どうしたんだ?」
「どうしたもこうしても、お前が邪魔したんだ」

 きょとっとした顔をするトビーは、言われて初めて状況を理解したっぽい。しばらくして、とても素直に頭を下げた。

「ごめん、邪魔した」

 なんていうんだろう、いたたまれない不思議な沈黙が続いた。

「なんか興ざめ。トビー、どうしてくれるのさ」
「いや、なんていうかさ。つい夢中になって」
「そういうの迷惑って、何度も言っただろ?」
「しかたないだろ、忘れるんだから」

 清々しいくらい素直な人なんだと思う。喉元まで出かかった言葉をコナンは飲み込んだ。その側で、トレヴァーはとにかく溜息をついている。

「こういう奴なんだよ、トビーって」
「うん、なんか分かった。悪い人じゃないでしょ?」
「そうなんだけど、果てしなく面倒っていうか」

 トレヴァーもけっこう素直な人だとは思うけれど、流石にこんなに自由な人じゃない。大変だ。
 なんとなく誰も動けない。そんな雰囲気を壊すような轟音がする。怯えたようにコナンはそっちを見た。トビーの更に後ろから、誰かが近づいてくる。黒い髪が一瞬見えた。

「あ!」

 言いかけるよりも速く、黒い影はトビーの側を走り去ってコナンの側にくる。その手には赤いリボンが握られていた。

「あっ! 俺のリボン!」
「トビーどけろ! 危ないぞ!」
「トレヴァーとコナンもどけろ!」

 怒号が飛び交ってそう広くない場所が騒然とする。コナンは咄嗟に右側に逃げた。同じ方にレイバンがいて、驚いた顔をしている。そしてその目の前に、突然真っ黒い影が差した。

「コナン!」

 腕を引かれて明後日の方向に投げられる。その次には、レイバンが殴られて側の木にたたきつけられたのを見た。

「レイバン!」

 悲鳴に近い声で駆け寄ったコナンは、あっけなく地に転がったレイバンを見て青い顔をした。こんなふうになるレイバンを今まで見た事がなかったから、驚いたのと怖いのと。
 その前に、まるで山みたいな人が立った。
 あまりに背が大きくて、体は山のように大きくて、ただ怖い。金の髪が乱雑で、ライオンのたてがみみたいだった。

「ようやく一発殴れたぞ、レイバン」

 バキバキとごつい指を鳴らす男は、転がったレイバンを見下す。庇うように前に出たコナンは震えていたけれど、どけるつもりなんてなかった。

「止めなよコナン、怪我するから!」

 敵のはずのハリーが咄嗟に言ってくれるけれど、どけない。殴られたって、こんなレイバンを差し出すなんてできない。
 ごつい腕が伸びてくる。体を硬くしながらも、コナンはそこにいた。けれど、その手が腕を掴むよりも前にレイバンは前に出て男の顔面を足蹴にしていた。

「レイバン!」
「コナン、危ないから隠れてな」
「でも!」
「このくらいでやられたりしないから、平気」

 でも、平気そうな顔をしていない。不敵に笑っているけれど、その笑みが時々引きつっている。痛いはずだ、あんなに激しくぶつかったんだから。

「トレヴァー、トビーは片付けたからハリーをなんとかしろ!」

 ビクッとしたトレヴァーが、側のハリーを見る。ハリーは少し考えて、走りだしていった。トレヴァーがその後を急いで追いかけ始める。

「コナンは違う所に逃げて」
「僕は側にいる。これでも、第四師団なんだ」

 レイバンは怪我をしている。第四師団の重要任務は仲間の救護。レイバンはコナンにとって、今は救護対象者だ。
 レイバンは困った顔をして、それでも笑って頷いてくれた。

「離れてなよ」
「うん」

 レイバンから少し距離を取って、コナンはそれでも前に出られる準備はした。最悪二人の間に割って入って止めようと思ったのだ。無謀だけれど、できなきゃいけない気がしたのだ。
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