恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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8章:花の誘惑

5話:触れる香

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 ベッドの端に正座のような格好で座った。そしてその正面から、ファウストが座る。ギシリとベッドが沈み込む。月明かりだけの仄明るい空間で、ランバートは頼りない視線を向けた。

「最初に言っておく。あまり深く考えず、旅のトラブルか、さもなければ犬にでも噛まれたと思え」
「え?」

 ぼんやりした頭が通り過ぎる言葉をゆるゆると受け入れる。温かい手が背に触れる。ゾクッと走った痺れに悲鳴が上がり、縋るように目の前の胸に手を置いた。

「これはお前が悪いわけではない。お前の意思に反して起こっている事だから、責があるわけじゃない。それと、どうしても嫌なら拒め」

 耳元に注がれる声は低く、ほんのりと熱を感じる。色を感じる。
 ローブの紐が解かれて、前があらわになる。ひやりと肌に冷たさを感じたが、直ぐに上回る熱に身を焼かれた。形のいい指が頭をもたげトロトロと蜜を流すものに触れ、一つ緩やかに上下した。

「あぁぁ!」

 強すぎる刺激は一気に意識を焼き切るように伝わる。体がどうしようもなくなる。息が出来なくなりそうな切迫したものがあって、苦しくてハクハクと息を吸う。腰に回った腕が強く引き寄せてくる。

「何度か出せば落ち着くか、落ちる」

 そんな事を言われたって、これに耐えきれる思いがしない。ファウストの手が緩く上下する度、腰が重く痺れ全身が欲している。声を止められない。背が跳ね上がり、座ったままなのに崩れそうだ。

「最初は辛いが、少し我慢しろ」

 背中を撫でる手はまるであやしているようだ。優しい声は、この状況を嫌っていない。それは伝わってくる。優しく上下される手の動きも、気遣われているんだと分かる。
 でもその気遣いが余計に恥ずかしくて、情けない。こんな風に大切に扱われるくらいなら、滅茶苦茶に犯されたほうがよほど楽だ。その場の衝動で済ませてしまえる。こんなに優しい抱擁を貰ったら、心が追いつかない。

「はっ、あっ、い、ゃ……」

 トロトロに蕩け硬く持ち上がり、濡れて粘る卑猥な音が耳につく。触れているファウストの肌も熱い。ランバートは見られなくて、ファウストの肩の辺りに額をこすりつけた。肌の匂いを感じる。心なしか、前に感じたものよりも甘い。

「あぁぁ! いっ! んぅぅ!」

 速度を上げた手が追い詰めるように扱く。暴れ狂うような熱が下肢を犯している。心臓が壊れそうだ。そして指がカリを引っかけ先端に潜り込むように探られた瞬間、目の前がチカチカと点滅した。
 トクトクと脈を打つように熱い本流が放たれる。腹に熱いものがかかる。それはファウストのローブや手も汚していく。数度そうして快楽を放ったそれは、だがまだ熱を失っていない。それどころか体の奥にある甘い疼きは更に主張して、達したばかりの鈴口はみっともなくパクパクと口を開けている。

「あっ、なん、でっ」
「薬を盛られると自分の意思ではどうにもならなくなるからな」

 低い声はやっぱり熱っぽい。触れている手も、熱く感じる。肌の匂いはより甘く、色香を感じている。
 ファウストの手が再びランバートのものを包み込む。今度は最初から少し強く刺激され、達したばかりのドロドロのものは直ぐに熱を持っていく。

「いやぁ、だ……こんな……っ」

 顔を見られない。一度出した事で少しだけ頭が回る。体のコントロールは全くきかないし、むしろ体に力が入らないけれど、頭の中だけが少しだけまっとうになってしまう。
 急に気恥ずかしさを感じた。自分ばかりが欲情して感じている今が恥ずかしい。これは薬のせいだとファウストは言うが、それにも自信がなくなってしまう。こんなに簡単に反応してしまうのは、この人だからじゃないかと思えてしまう。
 背をあやしている手が、頭に触れて優しく撫でる。慰められているようだ。

「恥ずかしいなら、肩に顔をつけて目をつぶっておけばいい。そう長く続くわけじゃない」

 軽く引き寄せられて、肩に額をつけたまま目をつぶる。下肢にかかる指の動きがよりリアルに感じられる。油断すれば腰を振りそうなほど感じている。この人は一切乱れていないのに、自分ばかりがこんなにも淫らになっていく。浅ましくて、辛い。
 何が辛いのか、ぐちゃぐちゃで分からない。止まらない欲情と刺激が辛いのか。こんなにも乱れているのに目の前の人は一切それを見せない事が辛いのか。どこかで求めるような感情があるのが辛いのか。

「んぅ!」

 二度目もあっという間に上り詰めていく。鼻先を胸にこすりつけ、瞳を閉じてしがみつく。トトトトトッという心臓の音。けれどしがみついた手に感じたのは、自分の心臓の音ばかりではない。熱い肌に浮かぶ汗と、甘い香り、感じる心音は少し早い。

「っ」

 僅かに低く、息をつめるような感じがある。放たれた熱はさっきよりも少ない。けれどまだファウストの手の中で、それは熱があり芯がある。でもまた少し、頭の中はクリアになった。
 恐る恐る顔を上げてみる。見下ろすような黒い瞳はやはり濡れていた。端正な顔に浮かぶのは欲情だと思いたい。
 ほとんど無意識に手を伸ばし、頬に触れて伸び上がる。触れるように唇を重ねた。驚いたように僅かに開いた黒い瞳は、だがゆっくりと切なげにすがめられた。

「はぁ」

 キスを拒まれなかった事に、ほんの少し胸が甘く熱くなる。明らかな安堵だ。自然と口元に笑みが浮かんだ。

「お前な……」

 クシャリと困ったように髪をかき上げる人はいつもよりずっと色っぽくて雄々しくて、そして飢えて見える。強い力が体を抱く。肩口に触れた吐息は、熱い。
 抱きすくめられる中で、ファウストの体も見えた。ローブの合わせが乱れて、そこから彼の雄々しいものも見えた。頭をもたげ、熱を持っているようなものが。
 自然と手が伸びて、先端に触れる。息をつめたのが如実に分かった。もう一度、今度はもう少し確かに触れる。それはトロリと蜜をこぼして、ランバートの手を汚した。

「やめろ」
「なぜです?」
「理性が切れる」

 隠しもせず言われた憎らしいと言わんばかりの声に、ランバートは笑った。同時に、羞恥も消えた。同じだと分かれば何も怖くはなかった。

「後ろ、使いますか?」

 悪戯っぽく問いかける。睨むような黒い瞳は、だがそれは拒んだ。

「使わない」
「ローションなら、ありましたよ」
「そういう問題じゃない」

 憎たらしいと隠しもしない態度が笑える。熱は相変わらず嵐のように体の中を荒れているのに、二度目を放ってもそこはまだ立ち上がって蜜を流しているのに、普通に会話ができている。おかしな感じだ。

「言っただろ、俺は部下と寝ない」
「……そう、ですね」

 切ないというのは、こういう感情だ。胸が締め付けられて苦しくなる。でもそれは分かっている事だ。ランバートだって、この人とどうこうとは考えていない。むしろ今だって、本当に事故としか言いようのない状態だ。

「だが」

 不意にファウストが笑った。男の色香を含む瞳だ。

「少しだけ、体を借りる。流石に俺もこれでは眠れる気がしない」

 そう告げた人の瞳が危険な色を持つのを見て、ランバートは受け入れた。とても素直に全てを預けられた。
 ローブの紐を解き、はだけた肌に触れる。薄らと汗を浮かべる逞しい体に手を置いて、距離をつめた。

「んぅ……」

 上向いた唇に重なった唇から、舌が深く入り込む。受け入れたそれは熱を持ち、絡みつく。吸われて甘く声が漏れる。その間にも、下肢に触れる手は上下に揺れる。
 ただ、さっきとは少し違う。手はランバートのものだけを握っているのではない。ファウスト自身のものも一緒に握り込み、扱かれている。

「くっ」

 甘い熱を持つ吐息に声が混じる。肩に触れるようなそれはランバートを安堵させ、同時に追い詰めた。
 自分のものとは違う熱い存在。先端をこすり合わせるように扱かれる。ひりつくような激情が少し薄れたから、どうにか体を動かせる。自ら腰を振って、先端を強くこすり合わせるようにしてみた。

「あぅ、んぅっ」

 ビリッと駆け上がる刺激は思いのほか強い。けれど癖になる。

「お前な……」

 そう言いながらも気持ちいいのか、ファウストが深く息を吐き辛そうに眉根を寄せている。明らかに感じている、そう分かる仕草だ。
 ランバートは止められなくて何度も腰を揺り動かした。たまらなく気持ちがよくて、でもなかなか上り詰めない。流石に三度目だ、簡単じゃないのかもしれない。
 そしてファウストも静かに息を早める。耐えるような表情だが、上下する手の動きは欲望のままに速くなっている。こすりあわせ、濡れた音がより卑猥に広がり、熱く浮き立つ筋の感じやカリに触れてビクンと浮く。

「もっ、いっ……」

 腰が重く息が乱れて周囲が見えなくなっていく。見上げると、ファウストも同じように乱れた表情をする。扇情的なその瞳がゆっくりと近づいて、深く再びキスをする。絡ませて、吸い上げて、飲み下せない唾液が口の端を伝い落ちていく。

「んぅ! ふっ、ふぅぅ!」

 先に上り詰めたのはランバートだった。流石にもう出る物が少なくて、焼き付くような感覚とほんの僅かな残りがトロトロと溢れ出る。

「んっ」

 綺麗な眉根が寄って、ほんの短く息を詰めたファウストもまた、温かなものを放つ。こんなにも熱いものだろうか。朦朧とした意識が肌で感じる情報を伝えてくる。もう体はドロドロだ。
 近づいていた体が離れて、寝かされる。柔らかな布団は包むように気持ちいいけれど、触れていた熱が消えてしまうのは少し寂しい。
 出ていったファウストが湯に濡らしたタオルを持ってきて、丁寧に体を拭いてくれる。それは少しくすぐったくて、思わずくすくすと笑った。

「寝れるか?」

 静かに問われた言葉に、まどろみながら頷く。まだどこかで燻っている気はする。けれどそれはこれまでの切迫感なんてなくて、体の疲れに勝るものじゃなかった。

「では、ゆっくりと寝ろよ」

 体が少し浮いて、しばらくしてまた布団の上に下ろされる。事態をあまり正しく認識しないまま、ランバートは引きずられるように眠った。
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