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8章:花の誘惑
6話:旅の終わり
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ふわふわとした感覚の中で、ランバートは温かな熱に体を寄せた。心地よくて、安心する。鼻先をくすぐる香は知っているものだ。
頭を柔らかく撫でられる。これも気持ちがいい。甘やかされている感じがして、こそばゆく嬉しい。
「まだ早い。寝ていろ」
触れるような距離で声がする。緩く覚醒した意識は目の前の肌を見る。白い胸は逞しく、抱き留める腕は力強い。見上げると、穏やかで柔らかい黒い瞳が見下ろしていた。
「あ……」
なんで、一緒に寝ているのか。徐々に記憶が戻ってくる。体に感じる僅かな疲れは、どうしてだったか。それもゆっくり思い出す。昨日の痴態の全てを思い出すと体がカッと熱くなって、顔から火が出そうなほどに熱くなった。
「あっ、えっと、あ……あぁぁぁ」
耳まで真っ赤になっているだろう。全て思い出すとなんて言い訳をしていいか分からない。いや、言い訳のしようもない。思わずベッドの上に正座して落胆したランバートを見て、ファウストは寝そべってまま愉快そうに「くくっ」と笑った。
「そんなにか?」
「だって、あれは」
「お前、まだ出会って間もないうちにもっと凄い状態だったぞ」
「あれは! あれは、なんていうか……」
今にして思えばあれも凄いものだが、今の恥ずかしさとは比べようもない。今の方がだんぜん恥ずかしい。
「あの、お手数おかけして申し訳ありません」
もうこれしか言葉がでない。まともに顔が見られない。というか、今現在も全裸だ。
だが、ファウストはまったく気にしていない様子だ。表情もなにも変わらない。
「気にするなと言ったぞ。それに、あれはお前が悪いんじゃない」
「そうは言っても」
「それなら、ギブアンドテイクだ。俺も久しぶりに楽しんだ。それでいいか?」
そう問いかけられて、ふとまた思い出す。熱い吐息を感じ、色に濡れた瞳を見て、熱いキスをしたこと。そしてそれらの感じがまだ肌に残っている気がすること。
「自慰に近い行為とは言え、相手がいたことなんて五年以上ないからな。俺も煽られてお前を利用した。事故だと思えと言ったはずだぞ」
「事故」という言葉が少し嫌だと思えたのは、感情的なものだろうか。あれはあれで、ランバートとしては嬉しかったのだが。
「俺は、事故でも少し嬉しかったのですが」
言いつのると、困った笑みが返ってくる。伸びた手が髪に触れる。ほんのりと肌をくすぐるような仕草だ。
「それでいいなら、俺は構わない。お前が嫌じゃないのならそれでいい」
「……時々なら、お相手しますよ」
「しない。というか、そろそろお前を部屋に泊めるのも考えないとな」
溜息をついたファウストが真剣な表情でそんな事を言う。近づいた距離が遠ざかった気がして寂しい気がしたが、冷静に考えると離れる方がいい。
この人は恋人を作らない。そういう人と体を重ねても、残るのは虚しさだ。
「まだ時間が早いな。もう少し寝るか?」
「あぁ、いえ。風呂に入って、少しゆっくりします」
頭の中を整理するにも、急速に縮まった距離を見直すにも時間がいる。風呂に入って汗やら何やらを洗い流しながら冷静になろう。
「わかった。朝はここで食べて、町を少し歩いて昼を食べてから帰るか」
「分かりました。お土産、買わないとですね」
「オリヴァーにはいらないぞ」
ふて腐れたようなファウストにランバートは笑い、首を横に振る。あの人には一番気に入ったものを買っていかなければ。
「オリヴァー様にだって、こんなの分かりはしませんでしたよ。本当に善意であれこれしてくれたのですから、お土産買います」
「あいつ、謀ったんじゃないだろうな」
「それはないと思います」
手をかけた様子もないし、細工の様子もない。今回の事は全てにおいて事故だ。
そしてやっぱり、楽しい思いが残っている。少し大変だったけれど、それを含めて悪いなんて思わない。楽しくて、素敵な春の思い出になった。
「さて、行ってきます。ファウスト様も後で入りますか?」
「そうする。まだ少しのんびりとするから先に入ってこい」
送り出されるその背後で、布団を被る人の姿が見えた。それを見て扉を閉めて、ランバートは笑う。明るくなり始めた窓の外、桜が風に枝を揺らした。
頭を柔らかく撫でられる。これも気持ちがいい。甘やかされている感じがして、こそばゆく嬉しい。
「まだ早い。寝ていろ」
触れるような距離で声がする。緩く覚醒した意識は目の前の肌を見る。白い胸は逞しく、抱き留める腕は力強い。見上げると、穏やかで柔らかい黒い瞳が見下ろしていた。
「あ……」
なんで、一緒に寝ているのか。徐々に記憶が戻ってくる。体に感じる僅かな疲れは、どうしてだったか。それもゆっくり思い出す。昨日の痴態の全てを思い出すと体がカッと熱くなって、顔から火が出そうなほどに熱くなった。
「あっ、えっと、あ……あぁぁぁ」
耳まで真っ赤になっているだろう。全て思い出すとなんて言い訳をしていいか分からない。いや、言い訳のしようもない。思わずベッドの上に正座して落胆したランバートを見て、ファウストは寝そべってまま愉快そうに「くくっ」と笑った。
「そんなにか?」
「だって、あれは」
「お前、まだ出会って間もないうちにもっと凄い状態だったぞ」
「あれは! あれは、なんていうか……」
今にして思えばあれも凄いものだが、今の恥ずかしさとは比べようもない。今の方がだんぜん恥ずかしい。
「あの、お手数おかけして申し訳ありません」
もうこれしか言葉がでない。まともに顔が見られない。というか、今現在も全裸だ。
だが、ファウストはまったく気にしていない様子だ。表情もなにも変わらない。
「気にするなと言ったぞ。それに、あれはお前が悪いんじゃない」
「そうは言っても」
「それなら、ギブアンドテイクだ。俺も久しぶりに楽しんだ。それでいいか?」
そう問いかけられて、ふとまた思い出す。熱い吐息を感じ、色に濡れた瞳を見て、熱いキスをしたこと。そしてそれらの感じがまだ肌に残っている気がすること。
「自慰に近い行為とは言え、相手がいたことなんて五年以上ないからな。俺も煽られてお前を利用した。事故だと思えと言ったはずだぞ」
「事故」という言葉が少し嫌だと思えたのは、感情的なものだろうか。あれはあれで、ランバートとしては嬉しかったのだが。
「俺は、事故でも少し嬉しかったのですが」
言いつのると、困った笑みが返ってくる。伸びた手が髪に触れる。ほんのりと肌をくすぐるような仕草だ。
「それでいいなら、俺は構わない。お前が嫌じゃないのならそれでいい」
「……時々なら、お相手しますよ」
「しない。というか、そろそろお前を部屋に泊めるのも考えないとな」
溜息をついたファウストが真剣な表情でそんな事を言う。近づいた距離が遠ざかった気がして寂しい気がしたが、冷静に考えると離れる方がいい。
この人は恋人を作らない。そういう人と体を重ねても、残るのは虚しさだ。
「まだ時間が早いな。もう少し寝るか?」
「あぁ、いえ。風呂に入って、少しゆっくりします」
頭の中を整理するにも、急速に縮まった距離を見直すにも時間がいる。風呂に入って汗やら何やらを洗い流しながら冷静になろう。
「わかった。朝はここで食べて、町を少し歩いて昼を食べてから帰るか」
「分かりました。お土産、買わないとですね」
「オリヴァーにはいらないぞ」
ふて腐れたようなファウストにランバートは笑い、首を横に振る。あの人には一番気に入ったものを買っていかなければ。
「オリヴァー様にだって、こんなの分かりはしませんでしたよ。本当に善意であれこれしてくれたのですから、お土産買います」
「あいつ、謀ったんじゃないだろうな」
「それはないと思います」
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