恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
123 / 167
番外編:オリヴァーシリーズ

7話:オリヴァーの覚悟

しおりを挟む
 アレックスの見合い当日。オリヴァーは宿舎の食堂にいた。結局答えは出ないまま、今も逃げを決め込んでいる。
 「また失恋か」とは、処理できていない。では、次に会いたいと言われたときに会いに行けるかと言われると、それもまた微妙。一度手を振り払った、不安から。それを繋ぎ直す方法を知らないのは、そう願う相手がいなかったからだろう。

「オリヴァー、行かないの?」

 側に心配そうなウェインがいる。ずっと側にいるのだ、子犬みたいに。

「行く必要は」
「意地っ張り! 仲直りの方法も知らないの?」
「そんな簡単事じゃ」
「簡単でしょ! 貴方の事が好き。この間はごめんなさい。人間の基本だからね」

 いとも簡単に言ってしまえるこれが、彼の強さ。謝罪や素直な愛情表現がどれだけ強いか知らないくせに、こんなに簡単にできてしまう。
 どうしてこの素直さを得られなかったのか。後悔しても仕方のないことだ。

 動けないまま尻込みをしていると、不意に誰かが肩を叩いた。驚いて見れば、困った様な笑みを浮かべる上官がいた。

「オリヴァー、今日と明日お前は休みだ」
「え?」
「特別外泊届出しておいた。決着つくまで帰ってくるな」
「そんな!」

 事情を知っているようなファウストに立ち上がって抗議するも通用しない。誰がと思っていれば、少し離れてアシュレーがいる。フッと笑った。

「余計な」
「お前のその顔で他の奴の前に出せない。まずは、片付けてこい」

 そんな風に言うファウストだって、自分の感情に蓋をしたままだ。とっくの昔に愛情を認識しているのに、知らんぷりをしている。今はまだランバートが自覚なく振る舞っているからいいが、気づくのだって時間の問題だろう。その時、同じ事が言えるのか。
 気持ちが荒れる。だがウェインに連れられて出されてしまっては、行き場がない。
 トボトボと歩くその足は、自然とお見合い会場であるレストランへと向かっていた。

◆◇◆

 麗らかな陽気、人の笑み。そんなものをかき分けて、オリヴァーは引きずるようにお見合い会場であるレストランに来た。オープンガーデンは外からでも様子が見える。その一つに、彼を見つけた。
 濃紺の髪に、黒のジャケット。対面に座る女性は穏やかそうで、でも芯のある女性に見える。

「なんだ、案外朗らかにしている」

 笑ったはずなのに、笑えていないように思える。握りしめた手があまりに痛む。見れば爪が食い込んで痕が消えなくなっていた。
 これでいい。いいじゃないか、気があいそうで。彼が笑っている。それならそれで、いいことだ。送り出してやれる。忘れていいと自分に言える。幸せを願えと言い聞かせられる。

 なぜ、この胸の痛みばかりが消えてくれない……。

 崩れ落ちそうに。でも、一歩下がったその腕をグッと掴む人がいた。弾かれた様に見れば、以前少しだけ見た事のある女性が立っていた。

「あ、の……」

 不審人物に思われただろう。どう取り繕おうか考えていると、彼女はにっこりと笑った。

「オリヴァー様ですね?」
「え?」
「ほら、一度お会いした」
「……はい」
「覚えていて下さいましたか」

 ほっとしたような彼女は改めて頭を下げてくる。状況に置いていかれるオリヴァーは、ただ立ち尽くしてそれらを見た。

「アレックスの妹で、サフィールと申します。兄がいつもお世話になっております」
「そんな、こちらこそアレックス殿にはお世話になっております」

 呆然と会釈をすると、クスクスと笑われる。濃紺の髪と同じ色の瞳が、ジッとオリヴァーを見据えた。

「お見合い、壊しに来てくださったのですね?」
「え? あの」
「良かった」
「え?」

 「良かった」なんて言葉を聞けるとは思わず、マジマジと見ている。サフィールは穏やかに微笑むと、視線をアレックスへと移した。

「お兄様、ずっと元気がありませんの」
「え?」
「オリヴァー様にふられたと、ずっと悲しんでらして」
「……」

 彼が受け取ったのはその通りだ。逃げたのだ、彼から。

「今日も自棄です。本当は女の人なんて、家族以外では愛せないのに」
「よい縁談だと思いますが」
「代用品では意味がありませんよ」

 サフィールの言葉に、オリヴァー自身も捕まった。フフッと笑った彼女が腕を引き、店の中へと連れ込んでいく。そして、オリヴァーの背を押した。

「さぁ、ぶち壊してしまって下さいな」
「そんな!」
「こんなの不幸ですもの。いっそぶち壊して逃避行なさってくれたほうが幸せってものです」
「だって!」

 何も話していない。オリヴァーは自分を何も明かしていない。その日だけの相手に出来なくて、会えば楽しくて言えなくて、気づいた時には愛していて言えなかった。言わないといけない事が沢山ありすぎる。その何も言えていないのに、壊すなんて。

「ごちゃごちゃしたことは出たとこ勝負ですわよ!」
「わぁ!」

 この女性もウェインタイプだった! 思った時には背中を押され、オープンガーデンの彼らのテーブルの前に立たされていた。

「誰ですの?」

 少しきつい感じの女性が、訝しむように見てくる。この問いに、答える事ができない。引きつった様な息しか吸えなくて、思わず踵を返した。
 その背を強く抱きしめられ、動けなくなった。

「オリヴァー殿」

 名を呼ばれ、背に感じる心地よい温かさと重みを振り払えない。捕まえる腕に触れて、オリヴァーは目を閉じた。
 ささくれた心が一瞬で落ち着いた。あんなにも痛んだものが消え去った。灯る胸の明かりは、ガス灯の様にゆらゆらと揺らめいている。

「やっぱり、貴方がいいんだ」
「!」
「貴方でなければ、ダメなようだ」

 紡がれる言葉を拾い集めて、繋いでいく。それを自分の気持ちにも繋いで、オリヴァーは頷いた。

「すみません、大事なお見合いを壊します」

 言って、振り向いたオリヴァーはアレックスの首に腕を回して深く口づけた。舌を交えて欲情を煽り、自らも煽られて瞳を涙に濡らしていく。誰の目があっても構わない。むしろ見せつけた。この人は自分のだと、初めて誰かに宣言をした。
 呆然と、お見合い相手の女性と気の強そうな女性が見ている。その前で、オリヴァーは意地悪く笑いより妖艶に腕を回した。

「この方は、私のものです。どうかお手を触れないようお願いします」
「あ、の……」
「奪い取りたいというなら、私を殺してからにして下さい。そのくらいの覚悟もないなら、このお話は縁のないものと諦めてください」

 呆然とする二人の女性の側で、サフィールだけが目をキラキラさせて頷いている。少なくとも一人、完全なる理解者がいるようだった。
 呆然とするアレックスの手を引いて、オリヴァーはレストランを後にする。そしてそのまま、気の向くままに歩き出していた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...