恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
139 / 167
12章:ルシオ・フェルナンデス消失事件

4話:新たな脅威

しおりを挟む
 翌日、シウスは朝からクラウルの執務室を訪ねた。首を傾げながらも招いたクラウルに様子の違いはない。あくまで白を切り通す、そういうことだ。

「クラウル、何か掴んだのではないのかえ?」

 ソファーに腰を下ろして問う。それにもクラウルは涼しい顔だ。

「何の事だ?」
「お前、随分忙しく人を動かしておるようじゃ。事は大きな祭りの前、些細な事でも隠すべきではない」

 それでも何も言わない。大きな溜息をつき、シウスは揺さぶりをかけた。

「昨夜、ランバートと少し話をした」

 ほんの僅か、注視していなければ見逃すだろうほど僅かに肩が揺れた。ほんの数秒、手が止まった。効果があったと知るには十分だ。

「書庫でばったり出会っての。お前も好きな騎士物語を読んでおったよ、眠れぬと」
「あれか」

 眉が僅かに下がる。穏やかな男の顔だ。

「ついでに世間話をな。そこで少し、気になる話を聞いた」
「なんだ?」
「奴の知り合いの娼婦がテロリストに利用されている疑いがあったそうな」

 またほんの少し手が止まる。せっかく下がった眉が気難しく引き上がってしまった。

「会話の中で不審を感じ、知り合いを助け真偽を確かめにいったそうな」
「それで?」
「不審な客はもぬけの空。かわりに、覚え書きが忘れられていて、お前に届けたそうだな」

 クラウルの瞳が初めてシウスを捉えた。それに、シウスはニンマリと笑った。

「ランバートから預かっておるのだろ? その不審者が持っておった覚え書き。昨日動いていたのはその真偽を確かめるため。違うか?」

 あくまでそういうことにする。そう分かりやすく示してやらなければこの秘密主義は動きはしない。シウスの態度に溜息をつきながら、クラウルは机の中から数枚からなる冊子を取り出した。

「真偽のほどがまだ分からない。昨日で不審が深まり、更なる追加調査を今日命じたばかりだ」
「どれ」

 出された冊子を見ると、全てが地図だ。王都の地図に印がある。この印が何を示しているかを探っているのだと分かった。

「昨日の調査では、なんと?」
「この印の場所には、昨年から新たな就労者が住んでいる。一つ所に二~三人。夫婦であったり、同郷の友であったりだ」
「不審な動きがあるのか?」
「ない。真面目に王都で生活している」
「では」
「ただし、そこに住んでいる者は皆、王都へ転居の届けを出していない」

 不審ではない。そう言いかけたシウスの舌をクラウルは見事に止めた。
 王都に住み、就労するなら転居の届けがいる。表向きは治める税を定める為。だが実際は王都にいる者を把握し、テロや危険人物の把握の為だ。

「転居届の写しがなくば、家を借りる事も職に就くこともできぬはずじゃが?」
「偽造だろうな。よく見なければ判別が難しいだろうし、問題なく慎ましく暮らしていれば疑う者もない。王都も地方からの就労者が増えた。珍しい事ではない」

 忌々しい事だが、これが現実だ。まだまだザルだ。公文書と言えど偽造対策はまだ難しい。しかも彼らに発効されるのは専用の紙に役所の者が手で書き写し、受理の印を押すだけ。真似る事は可能だ。
 ここもいずれ考えなければ。そう思い腕を組んだ。

「今ネイサンに走ってもらっている。大家に出された書類の真偽を確かめているところだ」
「大家は?」
「白だろう。ぱっと見が正しければ受理するのが普通だ。来た者をまず疑うようでは商売人は務まらないし、そこを責めるのは流石に酷だ」

 クラウルの言う事はもっともだ。だがおそらく、今夜には報告出来るレベルまで事が揃うだろう。シウスは鋭い瞳でクラウルを見た。
 その時だった。コンコンと戸を叩く音がする。二人は同時に顔を上げ、クラウルが扉を開ける。そこに立っていたのはクラウルの腹心ネイサンではなく、躊躇うようなランバートだった。

「ランバート?」
「あっ」

 シウスを見た途端のランバートの顔はいっそ面白かった。「しくじった!」と、如実に出ていたのだから。

「ほれ、そのような所に立っていては秘密の話ができぬ。早う入れ」
「いえ、改めて」
「よもやここまで首を突っ込んでおいて、逃げようなどと思うでないぞ」

 鋭い視線でシウスが捉えると、ランバートはグッと押し黙り、次には諦めたように入ってきた。

「何かあったのか?」

 クラウルの表情も自然と厳しいものになる。このタイミングで何か掛かったのなら、シウスは今すぐにクラウルの口を割らせるつもりだった。だがランバートは苦笑して、青い封筒を懐から出した。

「青の知らせは急使かえ」
「はい。知らせを受けて引き取って、中を改めました」

 手紙の封筒には意味がある。通常ならば白、至急のものは青、訃報は黒だ。青で送られたなら何か特別急ぐ要件なのだろう。問題は、内容だが。

「中身はなんと?」
「武器商ギルドのマスターから、気になる事があるから来いと」
「なんと!」

 シウスはソファーから腰を浮かした。東地区の武器商と言えば立ち入れないものだ。そこのギルドマスターともなると、是非とも接点が欲しい。それに不穏だ。このタイミングで武器商からの呼び出しなど。

「行かなければ内容が分かりません。ですので、訪ねようと思っていたのですが」
「夜でもいいか?」
「いえ、今すぐでなければ」
「今すぐとな!」

 今は日中、仕事のまっただ中だ。抜けるには理由がいるだろう。
 なるほど、その理由が欲しくて困り顔で来たわけだ。

「夜ではダメなのか?」
「職人気質の石頭です。夜になど行けば『明日も仕事だ、出直せ!』と臍を曲げます。しかも短気ですから、できるだけ早くないと」
「俺は今日は動けないんだ。例の事案で報告を待っている。すまないが」
「私が同行しようぞ」

 声を上げると、ランバートもクラウルも驚いた顔で見ている。歩み寄り、ランバートの肩を抱いて引き寄せた。

「私の所用に同行させる。お前は護衛ぞ」
「あの」
「勝手に抜けられぬだろ。宰相府の長を護衛というのは立派な職務じゃ。今はテロ警戒期間じゃて、筋も通る」

 虐めるようにジロジロと見て、口元をニンマリと歪める。思案顔で眉間に皺など寄せるランバートも、それしかもうないのだろう。当然だ、これは全てファウストに伏せて動いている。今更何かを言えば奴の雷が落ちるだろう。

「さぁ、案内せよ! 私も興味があるのだ」
「お願いですからそのテンション落としてください! もう、はしゃがないでくださいよ」

 引きずるようにシウスはランバートを拉致する。大人しく引きずられるランバートを伴い、シウスはファウストの執務室へと向かった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

処理中です...