恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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12章:ルシオ・フェルナンデス消失事件

9話:ユーミル祭準備

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 ユーミル祭を三日後に控えたこの日、ファウストは師団長を集めて最終的な警備と役割を伝えていた。

「第三師団、第四師団混合でいく。第三師団は二グループに分け、城と大聖堂に配置。第四師団は三グループに分け、城と大聖堂と町に配備」
「「はっ」」

 ウルバスとオリヴァーが引き締まった表情で返事をする。それに頷き、ファウストは残る三人へと視線を向けた。

「第一、第二、第五師団も混合でいく。前に話した通り、今この町にはそれと分からないようレンゼール派のテロリストが拠点を複数置いている。パレードの時間を目指し、動くだろう。奴らが拠点を出てきた所を抑える」
「編成は」
「今春入った一年目はパレードの警備だ。見物人とパレードコースの間に入り、コース内に人が入らないように警備させる」
「取り逃がしたり、既に知られずに見物人に紛れている可能性もあると思いますが」
「それについては二年目にやらせる。町中で起こる混乱や見落とされたテロリストの確保だ。一班五人のチームを組ませる。残り全員で、テロリストの拠点を抑える。明け方には配置につくから、そのつもりでいてくれ」
「分かりました」

 アシュレー、ウェイン、グリフィスが頷いて早速チーム編成を話し出す。そこに割って入るように、ファウストは声をかけた。

「今回二年目で、特別編成を組ませる。全体把握をさせ、手に負えない事態には俺達を呼ぶなどの判断をさせる」

 ファウストの言いように、三人の師団長は目を丸くした。二年目でも百人以上いる。これらの統率は本来青ラインでは出来ない。それをさせようというのだから、当然の反応だろう。

「一つの訓練だ。何より、俺達が容疑者を全て抑えられれば二年目の役目はない。あいつらに仕事をさせない事が上官としての理想だ」
「分かりました。では、誰を呼びましょう」
「東地区を、ランバート、ゼロス、トレヴァー、コナン、レイバン、シュテルの六人。西地区を、コンラッド、ボリス、チェスター、トビー、ハリー、ドゥーガルドの六人。東西の町の異変をいち早く察知し、的確に指示が出せるようにする」
「分かりました。個別に呼んだほうがよろしいですね」
「頼む」

 師団長達が立ち上がり、一礼して出ていく。そして三十分もすると、上げられた十二人の隊員がファウストの前に立った。

「お呼びですか、ファウスト様」

 ランバートが前に出て言うのに、ファウストは静かに頷いた。

「この十二人に、東西に別れ二年目の統率をしてもらいたい」
「統率……ですか?」

 ゼロスが困惑した顔をした。当然だろう、その力も経験もまだ彼らにはない。
 だが、出来ると信じている。その実力は昇級試験で示されているのだから。

「俺達はテロリストの拠点を潰す。だが、間違いなく捕らえられるとは限らない。逃げる者もいるだろうし、既に拠点を離れて潜んでいる者もいるかもしれない。それらを民に近づけさせるな。怪しい奴を即座に捕らえろ」

 ファウストの言葉に、コンラッドやゼロス、ボリスといった冷静な奴らは難しい顔をした。だがランバートはとても静かに全てを聞いている。青い瞳は深く多くを飲み込んでいる。

「編成を言い渡す。東地区担当、ランバート、ゼロス、トレヴァー、コナン、レイバン、シュテル。総指揮はランバートが取れ。ゼロス、ランバートのサポートについてくれ」
「畏まりました」
「努力いたします」

 名を上げた二人が深々と頭を下げ、仲間は頼もしい視線を二人に向けている。

「西地区担当はコンラッド、ボリス、チェスター、トビー、ハリー、ドゥーガルド。総指揮はコンラッドが取れ。ボリスは補佐としてついてくれ」
「「はっ」」

 同じように返った了承の言葉に、ファウストは頷く。昇級試験において優秀な成績を収めた二チームだからこそ、任せたいと思った。彼らの成長はめざましく、期待しているのだから。

「当日の動き、注意点などを話し合い、動きのシミュレーションを行っておいてくれ。不審者を捕らえたら各砦へ連行しろ」

 指示を出し、それに全員がよい顔で見る。解散を言い渡したファウストはそのまま執務室へと向かい、大きく溜息をついた。

◆◇◆

 その夜、ファウストはクラウルの部屋を訪ねた。執務室ではなく、自室に行くのは久しぶりだった。相変わらず片付いた部屋にいたのは、ファウストだけではなかったようだ。シウスと、そしてオスカルもいる。二人はファウストを見て、「やっぱりか」という顔をした。

「どうしたんだ、俺に用なら執務室で聞くが」
「ならぬ。私は暗府団長のクラウルに問いたい訳ではない。クラウル・ローゼンとして問いたいからここへ来たのじゃ」

 シウスの厳しい声に、クラウルは苦笑する。ファウストもそのつもりで訪ねてきた。団長としての判断ではなく、彼の私的な気持ちを聞きたくて。

「のぉ、クラウル。お前、ルシオとはどうしたいのじゃ」

 代表するようにシウスが問いかける。クラウルは辛そうに目を細め、視線を外した。言いたくはないという頑なな彼の姿勢だ。

「クラウル、どうするかを聞いているんじゃない。どうしたいかを聞いているんだよ」
「そこに何か差があるのか?」

 威嚇する表情は自己防衛だ。都合が悪い時にこいつはよくこういう顔をする。こういう顔をするようになったのはカール暗殺事件後、ルシオ・フェルナンデスが離れてからだ。 こいつは本来、情が深く親身で面倒見のいい奴だ。昔はもう少し心の内を話してくれていた。それが、あの事件以降そうではなくなった。

「大ありじゃ! お前の心を問うておる。責務ではない、お前の心じゃ。お前とルシオの関係を私たちが知らぬと思うたか。お前が望むならば、私はお前の味方をしよう。例え側に置く事叶わなくとも、見逃すことはする。だがお前が事を焦って他にそれが見とがめられれば出来なくなるのだぞ。クラウル、お前」
「シウス、オスカル、ファウスト。お前達に心配を掛ける事はない。俺の問題だ。俺が」
「ルシオ・フェルナンデスは王都にいる」

 確信を持ってファウストは言い当てる。クラウルの瞳が僅かに見開かれたのが分かった。

「別人を装い、ランバートに密かにコンタクトを取っていた。俺もその手紙を見た」
「何も聞いていない」
「ならばランバートがあえてお前に伏せたのだろう。俺には情報を伝えてきた。レンゼール・ブラハムが王都近辺で目撃されていること。教会に協力者がいること。シウス、お前も聞いているな」
「聞いておる。大方の予想がついておった故、大きく騒ぐような事はせなんだ」

 ランバートは明らかにクラウルだけにこの情報を伝えなかった。何を狙っているのか今は分からないが、ヒッテルスバッハの家に帰った事は知っている。随分ぐったりとしていた奴に問うと、「少し根回しを」と言っていた。
 コンコンと、戸を叩く音がする。その相手をファウストは知っていた。呼んだのがファウストなのだから。
 扉を開けるその先で、ランバートは静かに待っていた。迫力のある少し暗い瞳で。

「悪いな」
「構いません。むしろ、助かります」

 ランバートは静かに進み出て、呆然とするクラウルの前に立つ。暗い瞳はそのまま、気迫はより強くなった。

「ルシオは死ぬつもりです」

 開口一番、ランバートがクラウルに伝えたのはこの言葉だった。これには流石にファウストも驚いた。事務的な情報しか伝わっていなかったから。

「な……に?」
「ユーミル祭が終われば、二度と姿を現さない。疲れたのだと言っていました。俺が『死ぬつもりか』と問うても、曖昧に誤魔化していました。でもあの目は既に生きる力を失っている。疲れたというあの人の言葉が、全てだと取りました」

 クラウルの表情に恐れが広がっていく。目に見えて震えているのがわかる肩を、ランバートは両手で掴んだ。

「助けに行ってください。引き留められるのは、貴方かカーライル様だけです。貴方が引き留め、守らないとあの人はダメになります」
「だが、どうしろと。あいつはA級犯罪者だ。逃がす事が精々の俺では、結局役に立たない」

 死を望む者を留める事は難しい。側にいられないならなおのことだ。クラウルがカーライルの側を離れられないなら、ルシオは一人。説得に応じるような人物には思えない。
 だがランバートは薄く、困った顔で笑った。

「あの人を、二人の側に戻します」
「どうやって」
「忘れないでください。俺は、ヒッテルスバッハの息子です。建国の王より賜った責務は未だ、我が家の責務なのです」

 その言葉に思い当たったファウストとシウスは、途端に表情を引きつらせた。彼の言わんとしている事を知っているからだ。
 闇のヒッテルスバッハ。
 建国の王は現在の四大貴族家にそれぞれ重要な役割を与えた。ファウストの家、シュトライザーは国の剣であり武としての役割を得た。そしてヒッテルスバッハ家は国の闇を背負った。他国の闇商人や、国にとっての暗い部分を請け負ってきたのだ。表は名門貴族、だがその裏では暗い組織との関係や暗殺、情報操作などをしている。

「家に話をつけました。父も兄も説得しました。俺が請け負う事を条件にルシオを国政に戻す算段をつけました。クラウル様は彼を説得し、ヒッテルスバッハの隠れ屋敷につれてきてくれるだけでいいのです」
「だが、それでは!」
「表に出ません。疑いが出ても、消します。俺達にはそれだけのノウハウと人脈があります。後は説得だけなのです」

 戸惑いと困惑がクラウルの表情に浮かぶ。鬼気迫るランバートの表情に、飲まれているのだろう。
 暗い部分が多いとは思ったし、随分多才な面を持つと思っていた。だが、必要スキルだったのだろう。背負うものの大きさと深さを考えると達観したのも頷ける。そして同時に、悲しかった。

「クラウル、当日は一人で動け」
「ファウスト」
「ルシオ・フェルナンデスを探し、説得しろ。幸い祭りで人も多い、他人の事など構う者もいない。ランバートの誘いに乗らなければ、二度とチャンスはない」
「そうだよ、クラウル。僕も暗い顔をするクラウル見てるの嫌だし、陛下が悲しむのも嫌。今陛下は頑張ってるんだから、最高のご褒美用意しないとさ」
「左様ぞ。あの男が死ねばお前も陛下も悲しみ苦しむ。それを見続けるこちらの気持ちにもなってみよ。友を放っておけるほど、私は冷血ではないのだぞ」

 五年。長い間苦悩するクラウルを見てきた。少しでも噂があると表情を曇らせる姿を知っていた。西に行く用事は率先して出ていたのも知っている。そんな事までして会いたい相手を失ったら、こいつはおかしくなるだろう。

「俺を信じてください、クラウル様」

 ランバートの顔を見つめ、頼りない瞳を三人にも向ける。だがやがてその瞳に力が戻ってきた。奴らしい、強情な瞳だ。

「すまない、みんな。すまない、俺の事で煩わせる」
「クラウル」
「有り難う。俺は、やはりあいつを放置できない。知らぬ顔をできない。大切な友なんだ。大切な、幼馴染みなんだ」

 深く腰を折ったまま顔を上げないクラウルを見て、全員が笑みを浮かべ、強く頷いた。
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