恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
149 / 167
12章:ルシオ・フェルナンデス消失事件

おまけ1:カーライルとヒッテルスバッハ公爵

しおりを挟む
 ルシオを保護したこと、一命も取り留めたこと、レンゼールの首を取ったこと。全てが予定通りだと聞いて、カーライルは本当に気が抜けた。七日間にもおよぶ長い祈りの儀式を終えて、体力的にも精神的にも限界だった。
 それでも、重い体を引きずってカーライルはとある部屋を訪れた。重臣が城で仕事をする時の執務室、その一つをノックすると、すぐに中から扉が開いた。

「おや、陛下? お勤めを終えられたばかりでは?」

 現れたヒッテルスバッハ公爵ジョシュアは、言葉のわりに驚いた顔をしていない。予想はしていたのだろう。カーライルは緩く笑い、中へと入った。

「私の代わりに執務をさせてすまない。大きな変化はないか」
「これといって」

 そう簡潔に告げた男はお茶と甘い菓子を出す。既に儀式は終わり、何を食べても構わない。茶もそこそこに菓子に手を伸ばすと、笑われた。

「悪いか」
「いえ、構いません。そのつもりでお出ししたものですしね。七日も味のない穀物と白湯だけだと、流石に恋しいでしょう」

 その通り、正直空腹すぎて眠れる気がしない。疲れ果てているが、脳みそが妙に興奮状態でギラギラしてしまっている。

「ジョシュア、今回は色々と有り難う」
「ん?」

 目の前の男はとても涼しい顔をしてお茶を飲む。何でも無い事のようだ。

「ルシオの事、色々と手を回してくれただろ。危ない橋ではなかったのか?」

 ルシオを死んだことにし、別人の戸籍で側近とする。ジョシュアがカーライルに告げたのはとても簡単な事だった。だが、そんな事が可能なのか信じられなかった。できるならどれほど救われるか。
 だがジョシュアはまったく動じる事なく、さも当然という余裕の顔をした。

「当家の力を甘く見られては困ります、陛下。闇の世界を仕切ってどのくらいになるか。生きている人間を死んだことにする事も、死んだ人間を生きている様にする事も可能です。綺麗ばかりでは立ちゆかない世界のあれこれを動かすのが、我がヒッテルスバッハです」

 その話は知っているし、彼らが何者かもよく知っている。知っていて、その力に頼る事を拒んできた。裏の世界を取り仕切る彼らに頼れば、楽は出来るが歪む。そう思ってきた。

「ですが、あまり我らの力に頼る事のないように。どうにもならない時だけですので」
「あぁ、分かっている」
「それに、今回は妻とランバートからもお願いされたからね。うちのあの二人に敵う人なんていないんだよ」

 溜息混じりも嫌なわけじゃない。そんなジョシュアの様子を見ながら、酔狂なものだとも思う。
 ランバートはとてもいい子だと思う。他を思いやる優しさと、面倒見の良さがある。誠実でもある。そんな彼がこの男の息子だと、最初はどうしても思えなかった。

「ランバートがお願いすると、我が家はみんな動き出す。真ん中の子なんて弟溺愛が過ぎて少し気持ち悪いからね。妻もあの子には甘い」
「家族全員が、彼を甘やかしたいんだな」

 冷酷家臣ジョシュア・ヒッテルスバッハの締まりのない顔を見て、カーライルは苦笑した。

「まぁ、今回の事に関しては私としても利のない話ではない。陛下の側に有能な政治家がいてくれるとこちらも仕事がしやすいので」
「存分に働け、ということか」
「その通り。度を超して働けとは言わないけれど、しっかりやるべき事をしていただきたい。中だるみしている場合ではありませんよ」

 確かに忙しい時は過ぎた。だが、まだ問題も多い。テロリストの問題、西の安定、他国との睨み合い。他にも、貴族と平民の間にはまだ溝がある。そして貴族の騎士団に対する偏見も。これによって騎士団に入る者が少ない。少しずつ増えてはいるが。

「まずは国内を。外には手を出さず維持がよいかと思います。まぁ、その辺もルシオ・フェルナンデスはよく分かっていると思いますが」
「彼からも、お前からもよく学ぶとしよう。私は若輩の王だからな。だが、傀儡の王とはならない」
「そうであって貰わねば困ります、陛下。置物の王など不要ですからね」

 ニコニコと機嫌のいい顔をした男は、まるでご褒美のようにもう一つ甘いお菓子を前に置いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...