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12章:ルシオ・フェルナンデス消失事件
おまけ1:カーライルとヒッテルスバッハ公爵
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ルシオを保護したこと、一命も取り留めたこと、レンゼールの首を取ったこと。全てが予定通りだと聞いて、カーライルは本当に気が抜けた。七日間にもおよぶ長い祈りの儀式を終えて、体力的にも精神的にも限界だった。
それでも、重い体を引きずってカーライルはとある部屋を訪れた。重臣が城で仕事をする時の執務室、その一つをノックすると、すぐに中から扉が開いた。
「おや、陛下? お勤めを終えられたばかりでは?」
現れたヒッテルスバッハ公爵ジョシュアは、言葉のわりに驚いた顔をしていない。予想はしていたのだろう。カーライルは緩く笑い、中へと入った。
「私の代わりに執務をさせてすまない。大きな変化はないか」
「これといって」
そう簡潔に告げた男はお茶と甘い菓子を出す。既に儀式は終わり、何を食べても構わない。茶もそこそこに菓子に手を伸ばすと、笑われた。
「悪いか」
「いえ、構いません。そのつもりでお出ししたものですしね。七日も味のない穀物と白湯だけだと、流石に恋しいでしょう」
その通り、正直空腹すぎて眠れる気がしない。疲れ果てているが、脳みそが妙に興奮状態でギラギラしてしまっている。
「ジョシュア、今回は色々と有り難う」
「ん?」
目の前の男はとても涼しい顔をしてお茶を飲む。何でも無い事のようだ。
「ルシオの事、色々と手を回してくれただろ。危ない橋ではなかったのか?」
ルシオを死んだことにし、別人の戸籍で側近とする。ジョシュアがカーライルに告げたのはとても簡単な事だった。だが、そんな事が可能なのか信じられなかった。できるならどれほど救われるか。
だがジョシュアはまったく動じる事なく、さも当然という余裕の顔をした。
「当家の力を甘く見られては困ります、陛下。闇の世界を仕切ってどのくらいになるか。生きている人間を死んだことにする事も、死んだ人間を生きている様にする事も可能です。綺麗ばかりでは立ちゆかない世界のあれこれを動かすのが、我がヒッテルスバッハです」
その話は知っているし、彼らが何者かもよく知っている。知っていて、その力に頼る事を拒んできた。裏の世界を取り仕切る彼らに頼れば、楽は出来るが歪む。そう思ってきた。
「ですが、あまり我らの力に頼る事のないように。どうにもならない時だけですので」
「あぁ、分かっている」
「それに、今回は妻とランバートからもお願いされたからね。うちのあの二人に敵う人なんていないんだよ」
溜息混じりも嫌なわけじゃない。そんなジョシュアの様子を見ながら、酔狂なものだとも思う。
ランバートはとてもいい子だと思う。他を思いやる優しさと、面倒見の良さがある。誠実でもある。そんな彼がこの男の息子だと、最初はどうしても思えなかった。
「ランバートがお願いすると、我が家はみんな動き出す。真ん中の子なんて弟溺愛が過ぎて少し気持ち悪いからね。妻もあの子には甘い」
「家族全員が、彼を甘やかしたいんだな」
冷酷家臣ジョシュア・ヒッテルスバッハの締まりのない顔を見て、カーライルは苦笑した。
「まぁ、今回の事に関しては私としても利のない話ではない。陛下の側に有能な政治家がいてくれるとこちらも仕事がしやすいので」
「存分に働け、ということか」
「その通り。度を超して働けとは言わないけれど、しっかりやるべき事をしていただきたい。中だるみしている場合ではありませんよ」
確かに忙しい時は過ぎた。だが、まだ問題も多い。テロリストの問題、西の安定、他国との睨み合い。他にも、貴族と平民の間にはまだ溝がある。そして貴族の騎士団に対する偏見も。これによって騎士団に入る者が少ない。少しずつ増えてはいるが。
「まずは国内を。外には手を出さず維持がよいかと思います。まぁ、その辺もルシオ・フェルナンデスはよく分かっていると思いますが」
「彼からも、お前からもよく学ぶとしよう。私は若輩の王だからな。だが、傀儡の王とはならない」
「そうであって貰わねば困ります、陛下。置物の王など不要ですからね」
ニコニコと機嫌のいい顔をした男は、まるでご褒美のようにもう一つ甘いお菓子を前に置いた。
それでも、重い体を引きずってカーライルはとある部屋を訪れた。重臣が城で仕事をする時の執務室、その一つをノックすると、すぐに中から扉が開いた。
「おや、陛下? お勤めを終えられたばかりでは?」
現れたヒッテルスバッハ公爵ジョシュアは、言葉のわりに驚いた顔をしていない。予想はしていたのだろう。カーライルは緩く笑い、中へと入った。
「私の代わりに執務をさせてすまない。大きな変化はないか」
「これといって」
そう簡潔に告げた男はお茶と甘い菓子を出す。既に儀式は終わり、何を食べても構わない。茶もそこそこに菓子に手を伸ばすと、笑われた。
「悪いか」
「いえ、構いません。そのつもりでお出ししたものですしね。七日も味のない穀物と白湯だけだと、流石に恋しいでしょう」
その通り、正直空腹すぎて眠れる気がしない。疲れ果てているが、脳みそが妙に興奮状態でギラギラしてしまっている。
「ジョシュア、今回は色々と有り難う」
「ん?」
目の前の男はとても涼しい顔をしてお茶を飲む。何でも無い事のようだ。
「ルシオの事、色々と手を回してくれただろ。危ない橋ではなかったのか?」
ルシオを死んだことにし、別人の戸籍で側近とする。ジョシュアがカーライルに告げたのはとても簡単な事だった。だが、そんな事が可能なのか信じられなかった。できるならどれほど救われるか。
だがジョシュアはまったく動じる事なく、さも当然という余裕の顔をした。
「当家の力を甘く見られては困ります、陛下。闇の世界を仕切ってどのくらいになるか。生きている人間を死んだことにする事も、死んだ人間を生きている様にする事も可能です。綺麗ばかりでは立ちゆかない世界のあれこれを動かすのが、我がヒッテルスバッハです」
その話は知っているし、彼らが何者かもよく知っている。知っていて、その力に頼る事を拒んできた。裏の世界を取り仕切る彼らに頼れば、楽は出来るが歪む。そう思ってきた。
「ですが、あまり我らの力に頼る事のないように。どうにもならない時だけですので」
「あぁ、分かっている」
「それに、今回は妻とランバートからもお願いされたからね。うちのあの二人に敵う人なんていないんだよ」
溜息混じりも嫌なわけじゃない。そんなジョシュアの様子を見ながら、酔狂なものだとも思う。
ランバートはとてもいい子だと思う。他を思いやる優しさと、面倒見の良さがある。誠実でもある。そんな彼がこの男の息子だと、最初はどうしても思えなかった。
「ランバートがお願いすると、我が家はみんな動き出す。真ん中の子なんて弟溺愛が過ぎて少し気持ち悪いからね。妻もあの子には甘い」
「家族全員が、彼を甘やかしたいんだな」
冷酷家臣ジョシュア・ヒッテルスバッハの締まりのない顔を見て、カーライルは苦笑した。
「まぁ、今回の事に関しては私としても利のない話ではない。陛下の側に有能な政治家がいてくれるとこちらも仕事がしやすいので」
「存分に働け、ということか」
「その通り。度を超して働けとは言わないけれど、しっかりやるべき事をしていただきたい。中だるみしている場合ではありませんよ」
確かに忙しい時は過ぎた。だが、まだ問題も多い。テロリストの問題、西の安定、他国との睨み合い。他にも、貴族と平民の間にはまだ溝がある。そして貴族の騎士団に対する偏見も。これによって騎士団に入る者が少ない。少しずつ増えてはいるが。
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「彼からも、お前からもよく学ぶとしよう。私は若輩の王だからな。だが、傀儡の王とはならない」
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