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12章:ルシオ・フェルナンデス消失事件
おまけ2:劣等感
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聖ユーミル祭から三週間と少しがたった。ランバートの怪我は全快のお墨付きが出て、通常業務に戻る事ができた。食事も普通に食べられる。
だが、ランバートの剣はまだ戻らない。今あるのは予備のもので、騎士団預かりのものだ。やっぱり自分の物とは違うような気がする。形も長さも重さも変わらないはずなのに、愛着のようなものが違うのだろうか。
だが、ランバートの憂いはそれだけじゃない。この日、ランバートはその憂いを晴らすべくとある人を探してラウンジにいた。
目的の人は直ぐに見つけた。カウンターに座って隊員達と陽気に飲んでいる。ランバートはその前に立って、思い切り頭を下げた。
「グリフィス師団長、折り入ってお願いがあります」
「んぁ? なんだ、ランバート」
「俺に、手ほどきをしていただけませんか」
「はぁ?」
きついウェーブのかかった黒髪が揺れ、獣のような金の瞳が見開かれる。それを見ながら、ランバートはなおも頭を下げた。
「お願いします」
「んー、まぁ、いいけどよ。んじゃ、ちょっくら動くか」
スツールから腰を滑らせたグリフィスがランバートの肩を叩いて歩き出す。その後を追って、ランバートも一階の修練場へと降りた。
修練場にはなぜかギャラリーもできた。その真ん中に立つグリフィスはニヤリと笑って上着を脱ぐ。途端に現れた逞しい上腕の盛り上がり。ランバートは制服のまま構えた。
「ほい、んじゃどこからでも来い」
「いきます」
初速は早い。これについてはファウストも認めてくれている。踏み出したまま、低く狙う。だが、それではやはり攻略できない。拳をあっさりと受け止められると、横に投げられた。
だが、それで負けなど認めない。投げられながらも体勢を立て直すと、グリフィスは感心したように口笛を吹いた。
「いい柔軟性だな!」
「光栄です!」
次はもう少し慎重に。拳よりも得意な足技で。だがどれも受けられる。本当に獣のような瞬発力と動体視力をしている。
高く蹴り上げた足を掴まれる。が、これでもまだ手はある。立つ足で地を蹴り、反転して頭を狙う。これには流石にグリフィスも驚いたようだが、甘かった。頭を狙った足まで取られ、そのまま地面に転がされた。
「!」
「ほい、まず俺が一本」
やはり敵わない。劣等感が押し寄せて悔しい思いがこみ上げる。だが、これを克服するために来たんだ。お願いしているんだ。
「もう一本お願いします」
「おいおい、ランバートどうしたよ? お前、復帰して数日だろ? そんなんでいきなり激しい動きって、しんどくなるぞ。これでお前が体調壊したら、俺がエリオット様に怒られる」
だが、それでもなんだ。悔しくて、情けなくてたまらないのだ。
ドラクルに負けた。手も足も出なかった。遊ばれた。それが悔しくてならない。別に負け知らずだったわけじゃない。相性の悪さだってあるんだと理解している。それでも乗り越える方法がないなんて思っていない。だからこそ、見つけるんだ。
悔しさに奥歯を噛むその頭に、ゴツゴツした硬い手が乗っかった。
「どうしたよ?」
「……負けたのが悔しかったんです」
「負けたって、ドラなんとかって奴にか?」
無言で頷く。だがそれに、グリフィスは笑った。
「相性の悪い相手なんざいくらだっているだろうよ。気にすんな」
「気にします。また同じようなタイプの相手に当ったら。俺はまた、負けるのですか? それって、今度こそ死ぬかもしれないでしょ。どうにか克服するきっかけだけでも掴めないと」
ドラクルに一番スタイルが似ているのがグリフィスだ。だからこそ彼に手ほどきをしてもらい、何かを掴みたいと思ったのだ。
そのグリフィスは「うーん」と考えた後で、ポンと肩を叩いた。
「明日またやってやる。今日はここまでな」
「……分かりました。手ほどき、有り難うございました」
素直に頭を下げたランバートに、グリフィスはニンマリ笑って「おうよ」と答えた。
その翌日、ランバートはグリフィスとまた修練場にきた。だが今日はそこに、アシュレーがいるのだ。
「あの」
「ランバート、お前は今日そこで見ているだけだ。グリフィス、やるぞ」
「おうよ」
厳しい声で言ったアシュレーに対し、グリフィスは浮かない顔をしている。そして呆然としているランバートの隣にはウェインがいた。
「見る事も大事。あの二人の手合わせなんて滅多に見られないんだから、ちゃんと学んでね」
「え? はい」
鬼気迫る様子の二人に視線を向けたランバートは、目の前で繰り広げられる戦いに徐々に魅入られるようになった。
グリフィスは剣も豪快だ。力のある攻めは破壊力が高い。だが、明らかにアシュレーが優位だ。優位なのに、アシュレーは剣を抜いたまま一撃も加えていない。力強い剣を右に左にと避けている。距離も近寄らず、遠くならず。
「あぁ、くっそ! やっぱお前嫌いだ!」
グリフィスが苛立っている。剣も最初の精彩を欠き始めた。腕の振りが大きくなればそれだけ隙もできてくる。そこをアシュレーは見逃さない。ほんの少し大きく振りかぶった所を懐に入り、剣の柄で腹を突いた。
「勝ちだ」
「あぁ、くっそ!」
剣を収めたアシュレーに対し、グリフィスは随分悔しそうにしている。だが取り合うつもりはない。さっさとランバートの側へと来た。
「俺とあいつのタイプは相性が悪い。俺の剣は力業で押し切られると負ける。あの馬鹿力の相手などそうしていられないし、まっとうに受け止めていては長くやれない。だが、馬鹿力は振ってやれば案外乗ってくる。ポイントは、相手が嫌がる距離感で動く事だ」
アシュレーの言う事に、ランバートは頷く。確かにあの間合いでウロウロされると目障りだし、届きそうで届かないのが腹が立つ。グリフィスの苛立ちが簡単に見て取れた。
「ランバート、重要なのは相手に場を支配されないことだ。冷静に見極め、翻弄し、相手をこちらのペースに引き込むことだ。お前はそういう駆け引きが出来る奴だと俺は評価している。訓練でもやってみろ」
「分かりました。有り難うございます」
「礼ならグリフィスに言え。あいつが俺に頼み事なんて、珍しい事をしたんだからな」
驚き、未だ修練場の真ん中でふて腐れているグリフィスを見る。ランバートは歩み寄り、深く頭を下げた。
「有り難うございます、グリフィス様」
「まぁ、いいってもんだ。上官たるもの、強くなりたいって部下の気持ちを汲まなきゃよ」
照れたように顔を赤くしたグリフィスに笑い、ランバートは心より感謝した。
だが、ランバートの剣はまだ戻らない。今あるのは予備のもので、騎士団預かりのものだ。やっぱり自分の物とは違うような気がする。形も長さも重さも変わらないはずなのに、愛着のようなものが違うのだろうか。
だが、ランバートの憂いはそれだけじゃない。この日、ランバートはその憂いを晴らすべくとある人を探してラウンジにいた。
目的の人は直ぐに見つけた。カウンターに座って隊員達と陽気に飲んでいる。ランバートはその前に立って、思い切り頭を下げた。
「グリフィス師団長、折り入ってお願いがあります」
「んぁ? なんだ、ランバート」
「俺に、手ほどきをしていただけませんか」
「はぁ?」
きついウェーブのかかった黒髪が揺れ、獣のような金の瞳が見開かれる。それを見ながら、ランバートはなおも頭を下げた。
「お願いします」
「んー、まぁ、いいけどよ。んじゃ、ちょっくら動くか」
スツールから腰を滑らせたグリフィスがランバートの肩を叩いて歩き出す。その後を追って、ランバートも一階の修練場へと降りた。
修練場にはなぜかギャラリーもできた。その真ん中に立つグリフィスはニヤリと笑って上着を脱ぐ。途端に現れた逞しい上腕の盛り上がり。ランバートは制服のまま構えた。
「ほい、んじゃどこからでも来い」
「いきます」
初速は早い。これについてはファウストも認めてくれている。踏み出したまま、低く狙う。だが、それではやはり攻略できない。拳をあっさりと受け止められると、横に投げられた。
だが、それで負けなど認めない。投げられながらも体勢を立て直すと、グリフィスは感心したように口笛を吹いた。
「いい柔軟性だな!」
「光栄です!」
次はもう少し慎重に。拳よりも得意な足技で。だがどれも受けられる。本当に獣のような瞬発力と動体視力をしている。
高く蹴り上げた足を掴まれる。が、これでもまだ手はある。立つ足で地を蹴り、反転して頭を狙う。これには流石にグリフィスも驚いたようだが、甘かった。頭を狙った足まで取られ、そのまま地面に転がされた。
「!」
「ほい、まず俺が一本」
やはり敵わない。劣等感が押し寄せて悔しい思いがこみ上げる。だが、これを克服するために来たんだ。お願いしているんだ。
「もう一本お願いします」
「おいおい、ランバートどうしたよ? お前、復帰して数日だろ? そんなんでいきなり激しい動きって、しんどくなるぞ。これでお前が体調壊したら、俺がエリオット様に怒られる」
だが、それでもなんだ。悔しくて、情けなくてたまらないのだ。
ドラクルに負けた。手も足も出なかった。遊ばれた。それが悔しくてならない。別に負け知らずだったわけじゃない。相性の悪さだってあるんだと理解している。それでも乗り越える方法がないなんて思っていない。だからこそ、見つけるんだ。
悔しさに奥歯を噛むその頭に、ゴツゴツした硬い手が乗っかった。
「どうしたよ?」
「……負けたのが悔しかったんです」
「負けたって、ドラなんとかって奴にか?」
無言で頷く。だがそれに、グリフィスは笑った。
「相性の悪い相手なんざいくらだっているだろうよ。気にすんな」
「気にします。また同じようなタイプの相手に当ったら。俺はまた、負けるのですか? それって、今度こそ死ぬかもしれないでしょ。どうにか克服するきっかけだけでも掴めないと」
ドラクルに一番スタイルが似ているのがグリフィスだ。だからこそ彼に手ほどきをしてもらい、何かを掴みたいと思ったのだ。
そのグリフィスは「うーん」と考えた後で、ポンと肩を叩いた。
「明日またやってやる。今日はここまでな」
「……分かりました。手ほどき、有り難うございました」
素直に頭を下げたランバートに、グリフィスはニンマリ笑って「おうよ」と答えた。
その翌日、ランバートはグリフィスとまた修練場にきた。だが今日はそこに、アシュレーがいるのだ。
「あの」
「ランバート、お前は今日そこで見ているだけだ。グリフィス、やるぞ」
「おうよ」
厳しい声で言ったアシュレーに対し、グリフィスは浮かない顔をしている。そして呆然としているランバートの隣にはウェインがいた。
「見る事も大事。あの二人の手合わせなんて滅多に見られないんだから、ちゃんと学んでね」
「え? はい」
鬼気迫る様子の二人に視線を向けたランバートは、目の前で繰り広げられる戦いに徐々に魅入られるようになった。
グリフィスは剣も豪快だ。力のある攻めは破壊力が高い。だが、明らかにアシュレーが優位だ。優位なのに、アシュレーは剣を抜いたまま一撃も加えていない。力強い剣を右に左にと避けている。距離も近寄らず、遠くならず。
「あぁ、くっそ! やっぱお前嫌いだ!」
グリフィスが苛立っている。剣も最初の精彩を欠き始めた。腕の振りが大きくなればそれだけ隙もできてくる。そこをアシュレーは見逃さない。ほんの少し大きく振りかぶった所を懐に入り、剣の柄で腹を突いた。
「勝ちだ」
「あぁ、くっそ!」
剣を収めたアシュレーに対し、グリフィスは随分悔しそうにしている。だが取り合うつもりはない。さっさとランバートの側へと来た。
「俺とあいつのタイプは相性が悪い。俺の剣は力業で押し切られると負ける。あの馬鹿力の相手などそうしていられないし、まっとうに受け止めていては長くやれない。だが、馬鹿力は振ってやれば案外乗ってくる。ポイントは、相手が嫌がる距離感で動く事だ」
アシュレーの言う事に、ランバートは頷く。確かにあの間合いでウロウロされると目障りだし、届きそうで届かないのが腹が立つ。グリフィスの苛立ちが簡単に見て取れた。
「ランバート、重要なのは相手に場を支配されないことだ。冷静に見極め、翻弄し、相手をこちらのペースに引き込むことだ。お前はそういう駆け引きが出来る奴だと俺は評価している。訓練でもやってみろ」
「分かりました。有り難うございます」
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驚き、未だ修練場の真ん中でふて腐れているグリフィスを見る。ランバートは歩み寄り、深く頭を下げた。
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