恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
150 / 167
12章:ルシオ・フェルナンデス消失事件

おまけ2:劣等感

しおりを挟む
 聖ユーミル祭から三週間と少しがたった。ランバートの怪我は全快のお墨付きが出て、通常業務に戻る事ができた。食事も普通に食べられる。
 だが、ランバートの剣はまだ戻らない。今あるのは予備のもので、騎士団預かりのものだ。やっぱり自分の物とは違うような気がする。形も長さも重さも変わらないはずなのに、愛着のようなものが違うのだろうか。
 だが、ランバートの憂いはそれだけじゃない。この日、ランバートはその憂いを晴らすべくとある人を探してラウンジにいた。
 目的の人は直ぐに見つけた。カウンターに座って隊員達と陽気に飲んでいる。ランバートはその前に立って、思い切り頭を下げた。

「グリフィス師団長、折り入ってお願いがあります」
「んぁ? なんだ、ランバート」
「俺に、手ほどきをしていただけませんか」
「はぁ?」

 きついウェーブのかかった黒髪が揺れ、獣のような金の瞳が見開かれる。それを見ながら、ランバートはなおも頭を下げた。

「お願いします」
「んー、まぁ、いいけどよ。んじゃ、ちょっくら動くか」

 スツールから腰を滑らせたグリフィスがランバートの肩を叩いて歩き出す。その後を追って、ランバートも一階の修練場へと降りた。
 修練場にはなぜかギャラリーもできた。その真ん中に立つグリフィスはニヤリと笑って上着を脱ぐ。途端に現れた逞しい上腕の盛り上がり。ランバートは制服のまま構えた。

「ほい、んじゃどこからでも来い」
「いきます」

 初速は早い。これについてはファウストも認めてくれている。踏み出したまま、低く狙う。だが、それではやはり攻略できない。拳をあっさりと受け止められると、横に投げられた。
 だが、それで負けなど認めない。投げられながらも体勢を立て直すと、グリフィスは感心したように口笛を吹いた。

「いい柔軟性だな!」
「光栄です!」

 次はもう少し慎重に。拳よりも得意な足技で。だがどれも受けられる。本当に獣のような瞬発力と動体視力をしている。
 高く蹴り上げた足を掴まれる。が、これでもまだ手はある。立つ足で地を蹴り、反転して頭を狙う。これには流石にグリフィスも驚いたようだが、甘かった。頭を狙った足まで取られ、そのまま地面に転がされた。

「!」
「ほい、まず俺が一本」

 やはり敵わない。劣等感が押し寄せて悔しい思いがこみ上げる。だが、これを克服するために来たんだ。お願いしているんだ。

「もう一本お願いします」
「おいおい、ランバートどうしたよ? お前、復帰して数日だろ? そんなんでいきなり激しい動きって、しんどくなるぞ。これでお前が体調壊したら、俺がエリオット様に怒られる」

 だが、それでもなんだ。悔しくて、情けなくてたまらないのだ。
 ドラクルに負けた。手も足も出なかった。遊ばれた。それが悔しくてならない。別に負け知らずだったわけじゃない。相性の悪さだってあるんだと理解している。それでも乗り越える方法がないなんて思っていない。だからこそ、見つけるんだ。
 悔しさに奥歯を噛むその頭に、ゴツゴツした硬い手が乗っかった。

「どうしたよ?」
「……負けたのが悔しかったんです」
「負けたって、ドラなんとかって奴にか?」

 無言で頷く。だがそれに、グリフィスは笑った。

「相性の悪い相手なんざいくらだっているだろうよ。気にすんな」
「気にします。また同じようなタイプの相手に当ったら。俺はまた、負けるのですか? それって、今度こそ死ぬかもしれないでしょ。どうにか克服するきっかけだけでも掴めないと」

 ドラクルに一番スタイルが似ているのがグリフィスだ。だからこそ彼に手ほどきをしてもらい、何かを掴みたいと思ったのだ。
 そのグリフィスは「うーん」と考えた後で、ポンと肩を叩いた。

「明日またやってやる。今日はここまでな」
「……分かりました。手ほどき、有り難うございました」

 素直に頭を下げたランバートに、グリフィスはニンマリ笑って「おうよ」と答えた。


 その翌日、ランバートはグリフィスとまた修練場にきた。だが今日はそこに、アシュレーがいるのだ。

「あの」
「ランバート、お前は今日そこで見ているだけだ。グリフィス、やるぞ」
「おうよ」

 厳しい声で言ったアシュレーに対し、グリフィスは浮かない顔をしている。そして呆然としているランバートの隣にはウェインがいた。

「見る事も大事。あの二人の手合わせなんて滅多に見られないんだから、ちゃんと学んでね」
「え? はい」

 鬼気迫る様子の二人に視線を向けたランバートは、目の前で繰り広げられる戦いに徐々に魅入られるようになった。
 グリフィスは剣も豪快だ。力のある攻めは破壊力が高い。だが、明らかにアシュレーが優位だ。優位なのに、アシュレーは剣を抜いたまま一撃も加えていない。力強い剣を右に左にと避けている。距離も近寄らず、遠くならず。

「あぁ、くっそ! やっぱお前嫌いだ!」

 グリフィスが苛立っている。剣も最初の精彩を欠き始めた。腕の振りが大きくなればそれだけ隙もできてくる。そこをアシュレーは見逃さない。ほんの少し大きく振りかぶった所を懐に入り、剣の柄で腹を突いた。

「勝ちだ」
「あぁ、くっそ!」

 剣を収めたアシュレーに対し、グリフィスは随分悔しそうにしている。だが取り合うつもりはない。さっさとランバートの側へと来た。

「俺とあいつのタイプは相性が悪い。俺の剣は力業で押し切られると負ける。あの馬鹿力の相手などそうしていられないし、まっとうに受け止めていては長くやれない。だが、馬鹿力は振ってやれば案外乗ってくる。ポイントは、相手が嫌がる距離感で動く事だ」

 アシュレーの言う事に、ランバートは頷く。確かにあの間合いでウロウロされると目障りだし、届きそうで届かないのが腹が立つ。グリフィスの苛立ちが簡単に見て取れた。

「ランバート、重要なのは相手に場を支配されないことだ。冷静に見極め、翻弄し、相手をこちらのペースに引き込むことだ。お前はそういう駆け引きが出来る奴だと俺は評価している。訓練でもやってみろ」
「分かりました。有り難うございます」
「礼ならグリフィスに言え。あいつが俺に頼み事なんて、珍しい事をしたんだからな」

 驚き、未だ修練場の真ん中でふて腐れているグリフィスを見る。ランバートは歩み寄り、深く頭を下げた。

「有り難うございます、グリフィス様」
「まぁ、いいってもんだ。上官たるもの、強くなりたいって部下の気持ちを汲まなきゃよ」

 照れたように顔を赤くしたグリフィスに笑い、ランバートは心より感謝した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...