織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅

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第一部『序章』

第参話

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この頃、駿府の今川家、甲斐の武田家、関東の北条家が同盟していた。

俗に言う『三国同盟』である。


それはさておき、織田信長は美濃の斉藤家が後ろ盾と成った事で、清洲城の奪取に専念していた。


信長は弟である信勝と信勝配下の柴田勝家を名古屋城に呼んでいた。


「兄上、いや殿。私に何の用ですか?」

「お前の配下である権六(柴田勝家)をワシの家臣に取り立てようと思う。」


その言葉に驚きを隠せない信勝は
「殿!それは、どういう事でござるか?某は、その話を初めて聞きましたが?」

「今、初めて言ったのだが?」

「暫し待たれよ!いくら殿でも、横暴ではござらぬか!」

「ほう。それはどうしてじゃ?」

「勝家を引き抜かれたら、私がいざという時困るのですが!」

「いざという時とは、どんな時だ?」


それを見かねた信秀は
「三郎、そう信勝をいじめるな!」

「父上!ワシは権六を信勝のところで燻られるのは、織田家にとって損失の何者でもないと思っただけでござる!」

「それは、そうじゃが… 権六はどう思ってるのじゃ?」

「はっ!僭越ながら申し上げると、私は信勝様より殿に仕えとうございまする。」

「な?!勝家!!ワシより、兄上の方が良いと申すか!」

「すみません。今までお世話に成りましたが私も出世したいのです。武家に生まれたからには城持ちに成りたいですし…」

「権六も、こう言っておるが信勝はどうじゃ?」

「くっ、分り申した。」

と、渋々返答した。


「よし、権六!ワシの家臣に成ったのじゃ、おぬしを家老に任命する!」


勝家は凄く驚き
「え?!某を家老にですか?某をそこまで買って下さるとは身に余る光栄!一生、殿に忠義を誓いまする!」

「うむ。しっかり励めよ!」

「ははぁぁぁぁ!」


信長は信勝を見て
「信勝、なにもただで権六を貰った訳ではないぞ。清洲城を取ったら、この名古屋城をおぬしにくれてやる!どうじゃ?まんざら悪い話ではなかろう?」

「え?!この名古屋城を私に下さるのですか?」

「不服か?」

「いえ、滅相もございません!!(なんと太っ腹な兄上なのじゃ。ワシは兄上の事を誤解していたのやもしれんな…)謹んでお受けします!」

「阿呆、まだ清洲を取ってないわ!わっはっはっは!」


信勝も笑顔に成り
「それもそうですね。ははは。」


(これで少しは信勝の反感も抑えたな。まぁ、信勝の場合は権六や林に唆されての謀反だったのだがな。後は時間が立てば信友が勝手に斯波義統を殺してくれるのを待つだけだ…)


そして、史実通り清洲城を手に入れた信長は尾張一国を統一し名実共に国主と成ったのだった。


【斯波義統(シバヨリトモ)。織田信友に擁立され清洲城に入るが実権は無く、信友が信長を暗殺する計画を知り信長に密告したのが信友にばれて、信友に住居を攻められ自害した。】

【織田信友(オダノブトモ)。斯波義統を擁立したが信長を暗殺する計画を義統が信長に密告し、義統を自害に追い込むが、信友に傀儡にされてるとはいえ尾張守護を任されてた義統が殺された事で信長側に大義名分が出来、信長の命を受けた信光に攻められ自害した。】


信長は清洲城に居城を移し、約束通り信勝に名古屋城を譲渡した。


数ヶ月、何も無かったが美濃から変な噂が囁き始めてていた。


それは斉藤義龍が父である斉藤道三に対して謀反を起こすのではないかという噂が…


その事を事前に知っていた信長は、越後の長尾景虎へその噂が流れる前に密書を送っていたのだった。



時間を尾張統一をはたしたあたりまで戻す。


「御屋形様、織田殿より密書が届いています。」

「どれどれ。おお!そうか、そうか。」

「御屋形様、どのような内容ですか?」

「信長殿によれば、尾張一国を統一したとの事だ。」

「それは、めでたいですな。しかし、あの信長殿の事それだけでは無いのでござろう?御屋形様。」

「うむ。美濃で謀反が起こるらしい。」

「ほう、それは誰ですか?」

「斉藤義龍とある。」

「義龍と言えば、道三の息子でござるな。で、信長殿は何と?」

「うむ、謀反の噂が流れると道三を攫って匿ってほしいらしい。」

「その見返りは当然あるのでしょうな?」

「うむ。それは…」



そして、時間を元に戻す。


信長の密約通り、景虎は柿崎に命じ道三を保護という名の拉致計画を実行する。


「おぬしらは何者じゃ?ワシをどうするつもりじゃ!ワシは斉藤道三だぞ!」

「それは承知している。我らは信長殿に頼まれた者だ。安心して我らに付いて来て欲しい。」

「婿殿に?そりゃまた何故?」

「知らぬのか?道三殿の息子が謀反を企ててる事を。」

「何!?あの噂は本当じゃったのか!しかし、何故事前に分っていたのじゃ?」

「それは「うつけ」にしか分らないのでは?わっはっはっは!」

「ふっ。そういう事にしておくか。して、ワシは長尾殿に匿われるという事で間違いないかな?」

「ほう、さすがは「マムシ」といったところか… まぁ、細かい事は越後で。」

「うむ。世話に成るが宜しく頼む。」

「申し遅れましたが、私は長尾景虎家臣、柿崎景家と申す。以後お見知りおきを。」



その頃、稲葉山城では斉藤道三が突然居なくなったと大騒ぎに成っていた。


「父上はどうなされたのじゃ!」

「これは義龍様。それが皆目見当も付きません。大殿は何処に行ってしまわれたのか。」

「尾張の織田に向ったのでは?」

「いえ、それはあり得ません!例の計画があったので尾張への検問砦を封鎖していますので。」

「では、何処へ行ったと申すのだ!」


斉藤道三は数十日経っても戻って来なかった為、道三の傀儡で斉藤家当主を任されていた義龍が正式な斉藤家当主に成ったのだった。


そして、道三の無事は長尾家から密書が届き判明した。


信長は道三の無事が分り、そして謀反を画策した義龍が病に犯されるのを分っていて数年で死ぬのを知っていたので、美濃を放置し今度は東に位置する駿河の今川家に目を向けた。


(本来なら桶狭間の合戦になるが、今回は竹千代に活躍してもらう事になりそうだな。それには岡崎をなんとしても取る必要があるが、さて…)

と、信長は思案していた。



                   ★



『西暦1551年某月』


信長は三河(現在の愛知県東部)の岡崎城を落とす為、竹千代を清洲城に呼び寄せていた。


「竹千代。つかぬ事を聞くが、お前は自身の父の事をどう思ってるのだ?」

「私の父は、自分の保身と松平家存続の為に私を今川家へ人質に出した後、家臣に殺されたと織田家に引き取られた時に聞き及んでますので、私にとってはもう父上ではございません。それに、私を父上よりも可愛がってくれた家臣達の方が私に取って育ての親だと思ってます。なので、私を今川へ人質に出す事で父と揉めたすえの結果だと今ではそう思っています。」

「そうか。では、竹千代を思った行動でお前の父を殺した家臣達は今どこに居るか分るか?」

「はっ!確か、岡崎の町に居ると思いますが…」

「そうか。いや実はな、元松平家の家臣達を竹千代に召抱えて貰いたいのだが、どうだ?」

「私は元服もまだですから無理ですよ。」

「まぁ聞け!そやつらに清洲城へ来てくれるように書状を送ってはくれないか?当然だが、竹千代が元服した暁には元松平家家臣全てを配下に加えてくれれば良いのだがな。」

「それはあり難い申し出ですが、領地も無いのに召抱えても金子が払えず出奔されますよ?」

「お前は馬鹿なのか賢いのか、どっちじゃ?」

「それはどういう意味でしょうか!!」

「あのな、ワシは今川から岡崎城いや三河を取り戻してやろうと思って竹千代に頼んでるのが分らんのか?」


竹千代は信長の言葉にキョトンとした表情を浮かべ
「へ?殿?いまいち状況飲み込めないのですが?それって…」


信長は大きく溜息をして
「三河一国を竹千代にくれてやろうと言ってるのだ!」


竹千代は目を見開き
「三河を私にですか?それは誠ですか?」

「うむ。それとな、切り取り次第ではあるが遠江も竹千代に治めて貰おうと思っているのじゃ。」

「え?!まさかそこまで私を買って頂いてるとは!この竹千代、一生、殿に付いて行きまする!」

「うむ。頼りにしているぞ!」


暫くして、信長は竹千代に岡崎城攻略の方法を話し始めた。


「まず、元松平家の家臣達に竹千代が密書を送り、我らが正面から敵に罵声を浴びせ、元松平家の家臣達はその隙に城門を開かせ、我が軍がそのまま雪崩れ込む。どうだ?」

「しかし、それでは今川義元(イマガワヨシモト)が黙っておりませんが、どうするつもりですか?」

「駿府から三河までは早馬で5日だが、軍を率いてなら諸々で1ヶ月を要する。」

「今は三国同盟で武田の援軍が来る可能性も視野に…」

「武田については大丈夫じゃ!」

「まさか?!」

「お?やっと頭が回ってきたな?そうだ、長尾景虎殿自身先頭に立ち信濃に侵攻するが攻撃はしかけない。」

「そうか、長尾景虎殿が出張って来たら武田はこちらの援軍に兵を割けなくなると?」

「そうじゃ。遠江(現在の静岡県磐田市)の曳馬城(後の浜松城)城主の飯尾連龍(イノウツラタツ)が援軍を差し向ける可能性があるので、保険で権六に鉄砲騎馬隊300騎を三河と遠江を繋ぐ街道に布陣させる。」

「さすが、三郎殿!」

「決行は来年の2月じゃ。それまでにワシは色々と根回しをしておく。竹千代は元松平家家臣達と連絡を取り決行の日まで念入りに準備をしておけ!」

「はっ!」

「だが、用心に越した事はないので、この事はワシと竹千代だけで他には伝えるなよ!だだし、作戦内容に関しては元松平家の家臣達に岡崎城を落とす作戦だけ伝えるようにな!」

「敵を欺くには味方からですか!承知つかまつった!」


【今川義元。東海一の弓取りとして有名で一番早く上洛を果たせる人物だが、その上洛の途中で信長軍の奇襲に会い討ち死にした。これが世に言う『桶狭間の合戦』だ。】

【飯尾連龍。桶狭間の合戦で義元を失うと、松平元康に内通が義元の息子の今川氏真(イマガワウジザネ)にばれ謀殺された。】

【今川氏真。父である義元を失った氏真は武田の介入で今川家が滅亡。その後は徳川や北条の庇護を受けた。】


信長は作戦決行の日まで、鉄砲を量産し、三間槍を用いた訓練や馬上で火縄銃を放つ訓練を勝家や利家に任し、自分は再び越後に向った。


越後の春日山城町に着いた信長は、柿崎の屋敷に向った。


「たのもう!柿崎殿!」

「その声は信長殿か!戸は開いてる、入って参られよ!」

「では、お言葉に甘えて。」


”ガタッ!ガタガタッ”

と、建てつけが悪かった…


「悪い!その戸は「コツ」がいるのだ。それより、そんな所に立ってないであがれ!」

「ご無沙汰してるな、柿崎殿。」

「殿はよしてくれ!信長殿はもう一国の主ではないか!信長殿の配下に示しが付かんぞ!」

「そんな事はない。柿崎殿は私を疑わずに景虎様に会わせてくれた御仁ですし、「殿」と付けるのは当たり前です。」

「そうか?では、本題に移ろうか?信長殿。」

「某の義父殿の事を聞きたいが、それは後程聞くとして、某は今川の領地の三河岡崎城を攻め取ろうと思っています。」

「ほう。今川と事を構えるのか。しかし、道三殿の後ろ盾が無くなったのに今川を攻めてる場合では無かろうに。」

「それについては、道三の息子の義龍が病に伏せってるので当分動かないと見込んでの事です。」

「ほう。相変らず凄い情報収集能力だな。」

「柿崎殿には毎回で悪いが景虎様に取り次いで貰いたいのだが?」

「それは良いが…」

「何か都合が悪いのですか?」

「いやな。今、関東管領の上杉憲正(ウエスギノリマサ)様が越後に来ていてな。」

「上杉憲正様は確か、北条と戦って敗走したと聞き及んでますが?」

「この情報も知っているとはな!」

「私にとって情報は宝に匹敵しますからな。」

「その上杉憲正様がな、ここだけの話だが、飲み食いして金がかかるのだ。息子が北条に殺されて落ち込むのは分るが、些かやり過ぎだと思ってるのだ。」

「景虎様が頭を悩ませてると…」

「そうなのだ。今は武田・今川・北条が手を組んでる状態だから、迂闊に北条へ侵攻出来ないとワシは踏んでるが御屋形様はどう思ってるのか不明でな。」


【上杉憲正。関東管領で関東ではかなりに支配力があったが、邪魔な北条家を大軍で攻めたが北条氏康ホウジョウウジヤスの奇襲に会い大敗し、景虎を頼った後に上杉の家名と関東管領職を譲る。】

【北条氏康。上杉憲正軍8万を、わずか8千で大勝利を収めた。世に言う『河越夜戦』である。武田家や上杉家(謙信)と渡り合った智勇兼備の戦国大名。】


(これは知ってるぞ。確か景虎が北条討伐に小田原城に進軍して攻めきれずに帰還する途中で上杉政虎(ウエスギマサトラ)に改名するはず。一度、尾張に戻るか。まだ、決行まで日にちはあるしな。義親父殿には、次で良いか。)


「取り込んでおるなら、また次の機会という事で。」

「道三殿のは、おうて行かんのか?」

「また来月、越後に来るので。その時で良いかと。」

「そうか。すまんな。では道中、気を付けてな。」

「柿崎殿、景虎様はたぶん北条に進軍するかと思いますよ。」

「ほう。信長殿の勘ですかな?」

「そうです。もし現実の物に成ったら、ご武運を。」

「うむ。先ほどの件だが御屋形様に折を見て話しておく。」

「感謝致す!でわ。」


(信長殿は道三殿に会いたいであろうに、気を使われてしまったな。この仮はいつか返さねば…)


柿崎はそう思って信長の帰りを見送るのだった。



それから…


信長は尾張に帰還するのだが、道中で猿によく似た面白い奴を拾う…



                   ★



信長が猿に似た奴を連れ、清洲城の城門に行くと1人の少女が信長に近寄って来た。


「兄上!その猿は何じゃ?」

と、信長に尋ねて来た少女の正体は信長の妹お市(イチ)であった。


【お市。信長の妹。信長が上洛する際、道中の浅井家と友好を結ぶ為に浅井長政(アザイナガマサ)と政略結婚させられた。本能寺の変後、秀吉に攻められ勝家と共に自害した不運な娘。】


「この者の顔が、余りにも面白くてな。」

「見れば見る程、猿に似ておりますな。兄上!」

「うむ。」


突然、信長に良い案が思い浮かび手を”ポン”と叩く

「そうじゃ!お前の名は「猿」でよいな?」

「あの、お殿様。某にも名前があるのですが、木下藤吉郎(キノシタトウキチロウ)という名前が…」

「お前に名前など不要じゃ!猿でよいではないか!」

「そんなぁ…」

と、藤吉郎は落ち込んだ。


【木下藤吉郎。後の豊臣秀吉(トヨトミヒデヨシ)である。物凄い速さで出世した人物。】


「猿は、馬周りの仕事をやる!ワシのいや、織田家の為に励めよ!」

「はい!粉骨砕身、勤めさせて頂きまする!」

「市も屋敷に戻っておれ!」

「分かりました!兄上。」


お市と別れた信長は、越後から帰還後すぐに竹千代に作戦の要である元松平家家臣達を仮に召抱える為の進行状況を確かめに竹千代の屋敷に向った。


「竹千代!帰ったぞ!進行…」

と、勢いよく戸を開けると信長が知らない顔ぶれが、そこに居た。


「あっ!これは殿!」

「あっ!殿ではない!誰だ?」

「若、ここは私が!織田信長様ですね、私の名前は石川数正(イシカワカズマサ)と申す者です。後の2人は内藤正成(ナイトウマサナリ)と夏目吉信(タツメヨシノブ)、共に元松平家家臣です。この度は今川に攻め入る件と岡崎城奪還の件、誠にありがとうございまする。」

「で、あるか。」

「殿!手筈は整いつつあります。後は数正に任せておけば、残りの者達も私の元に集うかと。」

「うむ。頼んだぞ!ワシは来月、もう1度遠方に向わなくてはならないので、決行数日前に会うとしよう。」

「はっ!心得ました!」


【石川数正。徳川家の家老を勤めたが小牧長久手合戦後に出奔し豊臣家の家臣になった。】

【内藤正成。弓の達人で、その腕を買われ松平家に召抱えられ、徳川十六将の1人にも数えれれた猛将。】

【夏目吉信。三方ヶ原合戦で敗走する際、家康の影武者と成って殿シンガリを勤め討ち死にした。】


信長は順調に進んでると安心して、竹千代の屋敷を後にした。



清洲城に帰って評定の間に向うと、信長の家臣達が待ち構えていた。


秀隆「殿!いままで、何処に行っていたのですか!」
「ちと、用で色々とな。」

長秀「内政の仕事が溜まってまするが!」
「おお!そうであったな。許せ。これでも織田家の為に頑張ってるのだぞ。」

盛重「柴田殿や前田殿に足軽の訓練をさせている様ですが、どこかと合戦でもするのですか?」
「いや、備えをと思ってな。あれだ!斉藤や今川に対するな。」

長秀「しかし、その斉藤家が動かないのは何故なのでしょうか?」
「それはな、斉藤義龍が病にかかってるとの噂を聞いたぞ。」

秀隆「病ですと?なら、今攻めれば勝てるのではありませんか?」
「それは無理だ。西美濃三人衆が目を光らせてるからな。」


長秀「稲葉、安藤、氏家ですか、厄介ですね。」
「内政の事だが、秀隆を筆頭に上手く廻しておけ!ワシはまだ用が山のようにあるのでな。」

盛重「また、そのような事を!」

信秀「皆、信長に付いて行けば大丈夫じゃ!ワシが保障する!」

秀隆「ご隠居様には適わないですね。分かりました。もう何も言いません。」
「すまんな。時が来たら話すゆえ。でわな!」

と、信長は父と家臣達に別れを告げ奥に下がった。


秀隆「ご隠居様、信長様はいったい何を考えているのですか?」

信秀「さあな。あやつの考えてる事は凡人の我らでは分からんのであろうな。」

長秀「まぁ、時が来たら話すと申しておるのじゃ。待とうではありませぬか。」



奥には濃姫が待っていた。

「濃、今帰ったぞ。」

「これは旦那様、以外に早いお帰りですね。」

「うむ。少し宛が外れてな。早く帰れたのじゃ。」

「まあ!私にとっては良い事です。でも旦那様、お顔がすぐれないご様子。少し休ませては?」

「最近、ゆっくり休んでなかったな。分かった、そちの言うようにする。」


そして信長は濃姫と数日間、ゆっくり過ごした。


月が変わり、再び越後に向った信長は柿崎を還して景虎に会っていた。


「景虎様、ご無沙汰しております。」

「信長殿、ワシは名前を改名したのだ。」

「おお!では何とお呼びすれば?」

「政虎(マサトラ)と呼んでくれ!そして、関東管領職も譲りうけて上杉の姓も貰ったのじゃ。」

「上杉政虎様ですね。おめでとうございまする!」

「うむ。それより柿崎より聞いたが、今川と事を構えるのじゃったな。」

「はい。そこで、政虎にお願いの義がありまする。」

「よし、分かった!」

「そうですね… やはり何か見返りが必要… はぁ?」

と、信長は政虎に何かしらの見返りを要求されると思っていたのに、政虎に2つ返事で了承されたのに驚いた。


「今何と?もう1度お願い出来ますか?」

「信長殿は、もうそんな歳か?不憫よのう… 分かったと申したのじゃ!」

「まだ、用件を話してませんが?」

「柿崎から聞いたぞ。ワシを訪ねて来たのは今回を入れて2回目というではないか。」

「はい。そうですが…」

「まぁ、なんだ。1度目の訪問で早々に帰らせる事になった侘びも込めての、ワシなりの借りの返し方じゃ。」

「はぁ。(何の事を言っとるのか分からんが…)では、お言葉に甘えて。私は来年2月に今川領の三河岡崎城に侵攻します。」


政虎は顔を曇らせて
「それは侵略か?」


政虎は大義名分も無しに他国に攻める行為を好まない性格だった。


「いえ、これは奪還です。我が織田家には竹千代なる私直属の配下がおります。その者はかつて松平家存続の為に今川へ人質に出される所をたまたま通りがかった織田家の者が見つけ保護し(嘘だが)、我が織田家に来て私が父の許しを得て配下にしました。その竹千代の居た城が三河の岡崎城なのです。」

「ほう。松平家の元々の居城を取り返すとな。大義名分があるのは分かった。で、ワシに頼みとは?」

「来年2月に信濃へ政虎様自ら兵を差し向けて欲しいのです。しかし、一切戦わず睨み会うだけで良いので。」

「2月か、まだ雪が残ってるかもしれんが、分かった。しかし、何故か理由を聞かせてくれぬか?」

「武田・今川・北条が同盟を結んでるのはご存知でございますよね?それで武田の援軍が来るかもなので…」


政虎は”ポン”と手を叩き
「そうか、そういう事か!」

「はっ!義元は援軍を出そうにも遠いので武田に頼んで援軍を信濃から三河に派遣する。それを政虎様が信濃に侵攻するとなると…」

「援軍どころではなくなるな!あい、分かった!その申し出、面白い!」

「はっ!有り難き幸せ!では、お頼み致しまする。」

「待て、道三殿はどうするのじゃ?おうて行かんのか?」


信長はその問に対して笑顔で
「義父上には美濃を取ったら迎えに行く所存でござる!」

「ほう!分かった!ワシも信濃侵攻の準備に取り掛かるとしよう!信長殿、ご武運を!」

「はっ!」


こうして信長は、三河・岡崎城奪取の為の今川家との合戦に挑む…



                   ★



『西暦1552年1月』


信長は三河の岡崎城を攻略する為の評定を開いていた。


秀隆「今川領の三河・岡崎城を攻めるですと?」
「そうじゃ。お前達に話して無かったが、この計画は数ヶ月前から念入りに手筈を整えてたからな。」

長秀「時が来たら話すとは、この事だったのですね?何故、我々にその事を先に話さなかったのですか?我々の事を信用していないのですか!」
「いや、信用はしているが、敵を欺くには味方からと申すではないか。それにな、もし今川にこの事が事前に分かっていたら勝ち目なぞ無いに等しいのでな。」

信勝「せめて、この信勝に一言声をかけてくれれば、兄上の為に一肌も二肌も脱ぎまするのに!」
「すまなっかたな。(こやつが一番危険なんだがな。)」

盛重「殿!援軍に武田が信濃より介入して来ると思われますが、どういった対応を?」
「それに関しては越後の上杉政虎殿が信濃に向け進軍するので問題無い。」

秀隆「なんと?!では、それを見越して当時の長尾家と友好を深めたのですか?」
「今回の為だけでは無い。将来的に上杉殿と友好関係でいる方が織田家にとって良いと思ってな。」

長秀「この長秀、そんな事とは露知らず「うつけ」と下げるすんで… 失礼。と、思っていたのです。」


列席の家臣達が皆頷いた。


「そうじゃ。ワシは世間に「うつけ」と呼ばせていた真の意味は、諸大名や各豪族達にワシを阿呆に見せる為じゃ。尾張の「うつけ」とワシの事を馬鹿にしていた奴は多かろう?お前達にしてもじゃが…」

秀隆「まさか、そのような意図が隠されていたとは!?不肖、この河尻秀隆が家臣達に成り代わり、お詫び申し上げまする。」
「いや、お前達が見破れなかったくらい馬鹿な振る舞いをしていたのじゃ。こちらこそ、お前達家臣を不安にさせたのは悪いと思っている。ゆるせ!」

と、信長は深々と頭を下げた。


(前世のワシではまず有り得ないな…)


一同は、その信長の行為に驚いて
「「「「「殿!頭をおあげ下さい!我らも気が付けずに「うつけ」「うつけ」と言ってしまい、申し訳ございませぬ!」」」」」

「で、あるか。何にせよ、この作戦の真意は竹千代を岡崎城主にし三河・遠江を治めてもらい。今川・武田に睨みを利かせてもらう狙いがあるのじゃ。」

長秀「殿はいったい何を目指してすのでござるか?」
「無論、天下じゃ!」


一同は驚愕に震え、後に大声で喜んだ!

「「「「「おおおおおおーーーー!!!」」」」」


秀隆「天下ですか!それなら某にも分かります!東は竹千代殿と上杉殿に睨みを利かせ、上洛するつもりですね?」

「まあ将来的にはな。しかし、道中には斉藤・浅井・六角・三好がある。そう容易くはないが、お前達はこの信長に付き従ってくれるか?時には残虐非道な行為もするやもしれんがな。」


一同は
「「「「「どこまでも、殿に付いて行きまする!!!」」」」」


(皆の結束の固さは分かったが、信勝だけは要注意だな。今川と内通するやも知れんし…)


信長は家臣達の結束を確認したが信勝には警戒をしていた。


「ともあれ、作戦内容を説明する!かねてより、勝家と利家に訓練をさせている鉄砲騎馬隊、鉄砲足軽隊、三間槍隊、一般足軽、通常騎馬隊、総勢12000が我が軍であるが、その内の300の鉄砲騎馬隊を勝家に任して三河・遠江の国境街道で遠江からの援軍を足止めしてもらうように手筈を整えてる。次に、我ら本体は岡崎城が見えるところまで夜間に進軍し、夜明けと共に号令をかけ進軍。竹千代の配下が岡崎城を調べたところ、常駐の足軽しか居ないのを確認している。で、号令と同時に敵の混乱が予想される。この混乱で隙を突き、竹千代の配下が城門を開けて本体が流れ込む。以上だ。」


長秀「殿!竹千代殿の配下というのは?」
「うむ。元松平家家臣達の事じゃ。」

長秀「元松平家という事は岡崎城を知り尽くしてる…と、いう事ですね?」
「そうじゃ。きゃつらに任せておけば良い。決行は2月始めじゃ。皆の者、宜しく頼むぞ!」


一同
「「「「「ははぁぁぁぁ!!」」」」」



だが、そうは簡単ではなかった。


案の定、信勝は今川に密書を送るべく動いたのだった。


「兄上に天下など取らせん!ワシが天下を取るのじゃ!そうであろう?林。」

「はっ!殿こそ天下人に相応しいかと!」

「そうであろう。そうであろう!すぐに早馬を出し、この事を義元殿に伝えるのじゃ!」

「はっ!」


しかし、警戒していた信長は信勝の密書を奪う事に成功したが…


「秀隆!信勝は何と申しているのじゃ!」

「はっ!知らぬと一点張りで、どうしましょう?」

「このままでは岡崎に攻められんな。致し方ない、信勝を捕らえて参れ!」

「はっ!盛重に向わせます。」


後日、信勝を捕らえに行った盛重が林によって殺され、信勝が兵をあげたとの事を信長が知る事となった!


「盛重が殺されたじゃと?!(前世とは違うが盛重殺されるとは迂闊じゃった!)信勝めぇぇぇ!」


信長は怒りを露にして号令を放つ
「盛重が殺され、信勝が兵をあげた!直ちに我らも向え撃つぞ!皆の者、仕度を急げ!」


一同
「「「「「ははぁぁぁ!」」」」


ここに稲生の戦いが始まってしまったのだった!


信長は名古屋城の西に陣を置き、対する信勝は城を出て小さな川を挟み陣営を構えていた。


「信勝に文を持って行け!」


信長は兵に文を信勝陣営に持っていかせたが
「降伏しろだと?!その者を切り捨て、御印(ミシルシ)を兄上に見える様に晒しておけ!」


信長に伝令が届く!


「先ほど、文を持たせた者の御印が…」

「なんだと?!許せん!やつらには鉄砲が無い!500丁の新式一巴筒で一斉射撃した後、信盛に突撃させろ!但し、信勝は殺すなと信盛に伝えろ!」

「はっ!」


信勝に伝令が届く!


「信長の鉄砲隊がこちらを狙ってる模様です!」

「この距離では届かぬ!捨て置け!」

「しかし!」

「やかましい!ワシは今、作戦を考えておるのだ!」


信勝が届かないと思っていたのは種子島の飛距離を知っていたからだが、新式銃の事を知らなかった。


そして、ほら貝が鳴り響き合戦が始まった!


開始早々、信長軍の新式銃の轟音と共に火を吹く!!


”ドドドドォォォォン”


その音に信勝の足軽達は近くに雷が落ちたと思って混乱し、何人もの足軽達が血を吹き上げ倒れていった!


その直後、信盛が率いる500の騎馬隊が突撃して行った!


信勝陣営は混乱し
「信勝様!早くお逃げ下され!すぐそこに敵が来ています!」

「馬鹿な?!我が兵は何をしていた!あんな音如きに遅れを取るとは!」

「信勝様、お言葉ですが音だけではなく数百人が一瞬で倒されました!」

「何?!そんな!!いくらなんでも、あの距離を当てて来るとか、有り得んだろう!」


そんなやり取りをしていた矢先
「そこに居るは盛重の仇、織田信勝殿だな!」


信勝は馬に乗った信盛を見て
「ひえぇぇぇ!わ、わしは信勝では無い!信勝はこっちじゃ!」


と、指を指したのは林であった。


信盛は笑みを浮かべ
「信勝殿!言い逃れは殿の前でして下され!では、お覚悟を!」


林は信盛に殺され、信勝は捕らえられたのだった。


【本来の稲生の戦いは、西暦1556年に起こった織田家の家督争い。】


信勝は川を跨いだ信長陣営に信盛によった連れて来られていた。


「信勝。言いたい事はあるか?」

「兄上。何故私が今川と通じている事を知っていたのですか?」

「今川と通じておったのは正直知らなかったが、あの評定の時の挙動不審の動きをしていたので、もしやと思って警戒していたのじゃ。」

「なんと?!自業自得ですか… 私を捕らえたという事は助けてくれるのでしょうか?」

「貴様は盛重を殺し、文を持っていった兵を殺し、ワシとの戦で織田家の兵を殺した!分かっているのか!」

「しかし!」

「しかしもかかしもないわ!(前世では母上の嘆願もあったが、やはりこの世界でも変わらんかったか。)潔く、腹を斬れ!」


その言葉に信勝は泣きじゃくり
「いやじゃ!いやじゃ!ワシは死にとうない!父上に言上してはくれぬか?」

信盛「信勝様、お見苦しいですぞ!私は、信勝殿を憎んではいますが介錯してやると思っている。潔くなされませ!」


信勝は信長を凝視し
「兄上!弟がここまで命乞いをしているのにぃぃぃ!」


信長は信勝を見て哀れみ
「信勝…」


(結局、歴史は変わらずか…)


信長は信盛を見て静かに手を下ろした。


”ドシュッ”


享年15歳(数え)という若さで織田信勝はこの世を去った…
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