林檎の蕾

八木反芻

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ご『“友だち”の有効活用/なれる夏』

7 遅れた記念日

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 小松と早めのディナーを済ませ、帰路につく。これ見よがしに腕を絡ませひっつく小松が邪魔で歩きにくい。
「もう少し離れて」と言っても「こんな道、知り合いなんて歩いてませんよぉ」と、まとわりつく。
 バレて噂になっても構わない。それよりもハルは歩きにくくて仕方がなかった。
「この後どうします?」
「帰ります」
「いけずぅ~、うち寄ってってくださいよぉ」
 帰りたいわけでもなかったがそんな気にもなれず断ると、小松は体から離れて前に回り込み、通せん坊するように手を広げた。
「フフッ、絶対帰さない」
 ここで張り倒してもよかったが、ハルは呆れて小松の頭を小突いた。
 
 ハルは左手の薬指を口へ突っ込み、はめている指輪を噛んでゆっくりと引き抜き、そしてそのままキスをした。
 結局彼女の部屋で飲み直すことになり、断りきれなくて、流され、現在にいたる。鞄にクスリはあるが、キスを重ねる今も、このまま最後までする気にはなれない。
 小松はハルのベルトに手をかけ外そうとする。
「いけません、もう帰らなくては」
「この前もしてくれなかった」
「……指輪」
「え?」
「指輪を見せて」
 小松は大きく口を開けて舌を突き出してみせた。震える舌先に乗っている指輪は濡れて光っている。
 ハルは小松の顎に手を添え、クッと持ち上げた。
「そのまま……」
 小松に上を向かせたまま、ハルはテーブルの上の炭酸水に口をつける。
 上手く話せない小松は、ハルのシャツをクンと引っ張って次の指示を仰いだが、ハルはつけっぱなしのテレビをただぼうっと眺めているだけで、聞いてくれない。
 唾液が溜まっては、ゴクリと飲み込む。それを繰り返す小松。
 ハルはテレビに目を向けたまま、小松の太ももに触れ、内側へ手を滑らせる。
 ねだるスイッチを強く押してやると、体がピクリと動き、舌先が跳ね、指輪が転がった。指輪は舌の根本へ落ち、小松はたまらず飲み込んだ。
「んっ、エホッ……」
 慌てる様子は見せなかったが、その表情はどこか不安げで、ハルは言う。
「プレゼント」
「っえ……?」
「その指輪」
「でもこれ」
「遅くなってしまいましたが、記念日のプレゼントです」
 うつむく小松の目尻から一粒の涙が綺麗に流れ、足元のクッションを軽く濡らした。
「……嬉しい……ありがとう、波瀬さん……」
 小松は光悦な笑みを浮かべ、愛おしそうにお腹を撫でる。その様子を静かに見下ろしていたハルは立ち上がった。
「そろそろおいとまします」
 小松は背を向けるハルを玄関先まで見送る。
「では」
 素っ気ない言葉を残しそのまま出ていくハルに、寂しさか物足りなさを感じた小松は急いでサンダルを履いて、ドアノブに手をかける彼の腕を引き、振り向きざまに頬へ軽くキスをした。
「またね」
「はい」
 彼が部屋を出て、ドアがガチャンと閉まる。
 ため息にも似た息を吐いた小松は、ドアに背を預け、目をつむり、柔らかく微笑む。
(この子に会えるのが待ち遠しい……)
 そしてまた、お腹に手を伸ばし優しく触れた。
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