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第一章
絶望の救い手
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《sideエドガー・ヴァンデルガスト》
自らの誇りをかけたゴーレム決闘が終わった。
ヴァンデルガスト家が秘蔵としていたエレメンタルゴーレムを持ち出して使ったにも関わらず負けてしまったのだ。
ならば、潔く受け入れるしかない。
私の誇りも、名誉も、全てが粉々に砕け散った。
「これで全て終わりだ……」
自分で口にしてみると、その言葉の重さが全身にのしかかる。
土煙の中で見上げたフライ・エルトールの姿が鮮明に思い出される。あいつは私を全否定し、決闘の場で私を完全に打ちのめした。
アイアンゴーレムの自爆は私の最後の切り札だった。戦いの中でゴーレムが暴走することはよくあることだ。それを利用してあいつを殺せていれば、事故だと居直ればよかった。
しかし、それすらもフライに通用せず、私は全ての手札を切った上で勝つことができなかった。
ヴァンデルガスト侯爵家から正式に廃嫡の知らせが届いたのは、学園都市に用意された屋敷に帰った時だった。
屋敷には、父上が待ち構えていた。
「エドガー、貴様……」
父の怒りは、冷たい声に凝縮されていた。普段は厳格で落ち着きのある父の表情が、怒りに震えている。
父は、帝国の貴族として誇りを持っており、何よりも他人に負けることを何よりも嫌う。だからこそ、負けないための兵士としてエレメンタルゴーレムの研究に力を入れていた。
そして、この力を使ってブライド様を皇位についてもらって、我らヴァンデルガスト侯爵家を重用してもらう手筈だった。
「フライ・エルトールとの決闘、そしてその結果によって、お前はこの家の全てを台無しにした」
「……はい、父上、私は――」
「黙れ!」
父の一喝が、私の言葉を遮った。
「お前の行動は単なる敗北ではない。学園の他国の王子がジャッジをする場所で負けたのだ。ヴァンデルガスト家を辱めた。これ以上この家に居場所はない」
その言葉が下されると、家臣たちが私の荷物をまとめ始めた。
「廃嫡だ」
その一言が、私の全てを奪った。侯爵家の後継者としての立場も、未来への希望も、全てを失った。
家を追い出された後、私は学園都市の安宿に身を寄せた。かつては侯爵家の次期当主として、多くの従者や侍女に囲まれ、何不自由なく暮らしていた私が、今や一人で狭く薄暗い部屋に座り込むしかない。
髪を掻きむしり、こんなことになった原因であるフライ・エルトールに向けて怒りを感じていると、不意に手に髪が抜ける感触があった。
「なんだ?」
驚きながらも鏡を見つめる。自分の髪に異変を感じた。
「な、なんだ……?」
指で触れると、ぽそぽそと髪が抜け落ちる。まるで命を失った草木のように、一筋一筋が私の指先から消えていく。
次第に髪が薄くなり、頭皮が露わになる。
「なんだこれは?! どうなっている?!」
自分の精神がおかしくなったせいで、髪まで抜け落ちたのかと思った。だが、不意に私はフライ・エルトールの言葉を思い出す。
「殺しはしない。だが、一つだけ、貴様にプレゼントを残してやる」
その言葉を思い出して、私は青ざめる。
「これは……フライ・エルトールの仕業か……」
私の胸に怒りと絶望が渦巻く。あいつは私をただ打ち負かすだけでは満足せず、このような屈辱をも与えたのだ。
「くそっ……くそっ……!」
拳を壁に叩きつけても、この屈辱は消えない。髪を失い、名誉を失い、家族を失った私は、ただの無力な存在だ。
あれからどれほど経っただろうか、扉を叩く音がした。
「エドガー・ヴァンデルガスト。いるか?」
聞き覚えのある声。
ブライド様の剣であるアイクの声だ。
「なんだ?」
「その姿は、お前! ブライド様がお呼びだ」
私の頭を見て驚いた顔をするが、どうでもいい。
「ブライド様が?」
全てを失った私に何の意味がある? だが、ブライド様の呼び出しを断るわけにはいかない。
案内された場所に向かうと、そこにはブライド・スレイヤー・ハーケンス様の姿があった。
「ブライド皇子、申し訳ありません。私は全てを失いました」
ブライド様に止められていたのに、このような無様な結果を晒してしまった。父上の前でも我慢できた涙が溢れ出した。
私はブライド様のために生きたかった。そのための力を持っていたのに、それをわざわざ自ら手放したのだ。
「ああ、そのようだな。だからやめておけと言ったんだ」
「はい。ブライド様が正しかったです」
「だが、これでお前は余計な誇りを捨てられた」
「えっ?」
「お前を迎えに来た。エドガー、我の側近になれ」
「なっ、何を言われているのですか?」
皇子の目には、私を軽蔑する様子はなかった。ただ、静かな威圧感と揺るぎない自信だけが感じられた。この方はどこまでも純粋で圧倒的な存在感を誇っている。
「私は……全てを失いました。何の価値もない人間です」
私が発した言葉を聞くと、ブライド皇子は笑みを浮かべた。
「だからこそ、お前には価値がある。失うものがない者は、何者にも縛られず、何にでもなれる」
「……何をおっしゃらるのですか?」
「お前はまだ終わっていない、エドガー。私の手を取れ。そして再び立ち上がれ」
差し出されたその手を、私はしばらく見つめた。拒絶する理由はない。だが、この手を取ることが、本当に正しいのか? 頭の中で自問自答が繰り返される。しかし、私はすでに選択肢を失っていた。
ゆっくりと、私はその手を掴む。
「……私は、まだ立ち上がれるのでしょうか?」
「もちろんだ。お前にはまだ戦える力が残っている。そして、その力を私のために使え」
その声は不思議と温かく、私の心を震わせた。
「……わかりました」
私はブライド皇子の手によって、新たな道を歩み始めた。失墜した誇りと共に、新たな誓いを胸に秘めて、絶対に私はこの命をブライド様のために使うと……。
自らの誇りをかけたゴーレム決闘が終わった。
ヴァンデルガスト家が秘蔵としていたエレメンタルゴーレムを持ち出して使ったにも関わらず負けてしまったのだ。
ならば、潔く受け入れるしかない。
私の誇りも、名誉も、全てが粉々に砕け散った。
「これで全て終わりだ……」
自分で口にしてみると、その言葉の重さが全身にのしかかる。
土煙の中で見上げたフライ・エルトールの姿が鮮明に思い出される。あいつは私を全否定し、決闘の場で私を完全に打ちのめした。
アイアンゴーレムの自爆は私の最後の切り札だった。戦いの中でゴーレムが暴走することはよくあることだ。それを利用してあいつを殺せていれば、事故だと居直ればよかった。
しかし、それすらもフライに通用せず、私は全ての手札を切った上で勝つことができなかった。
ヴァンデルガスト侯爵家から正式に廃嫡の知らせが届いたのは、学園都市に用意された屋敷に帰った時だった。
屋敷には、父上が待ち構えていた。
「エドガー、貴様……」
父の怒りは、冷たい声に凝縮されていた。普段は厳格で落ち着きのある父の表情が、怒りに震えている。
父は、帝国の貴族として誇りを持っており、何よりも他人に負けることを何よりも嫌う。だからこそ、負けないための兵士としてエレメンタルゴーレムの研究に力を入れていた。
そして、この力を使ってブライド様を皇位についてもらって、我らヴァンデルガスト侯爵家を重用してもらう手筈だった。
「フライ・エルトールとの決闘、そしてその結果によって、お前はこの家の全てを台無しにした」
「……はい、父上、私は――」
「黙れ!」
父の一喝が、私の言葉を遮った。
「お前の行動は単なる敗北ではない。学園の他国の王子がジャッジをする場所で負けたのだ。ヴァンデルガスト家を辱めた。これ以上この家に居場所はない」
その言葉が下されると、家臣たちが私の荷物をまとめ始めた。
「廃嫡だ」
その一言が、私の全てを奪った。侯爵家の後継者としての立場も、未来への希望も、全てを失った。
家を追い出された後、私は学園都市の安宿に身を寄せた。かつては侯爵家の次期当主として、多くの従者や侍女に囲まれ、何不自由なく暮らしていた私が、今や一人で狭く薄暗い部屋に座り込むしかない。
髪を掻きむしり、こんなことになった原因であるフライ・エルトールに向けて怒りを感じていると、不意に手に髪が抜ける感触があった。
「なんだ?」
驚きながらも鏡を見つめる。自分の髪に異変を感じた。
「な、なんだ……?」
指で触れると、ぽそぽそと髪が抜け落ちる。まるで命を失った草木のように、一筋一筋が私の指先から消えていく。
次第に髪が薄くなり、頭皮が露わになる。
「なんだこれは?! どうなっている?!」
自分の精神がおかしくなったせいで、髪まで抜け落ちたのかと思った。だが、不意に私はフライ・エルトールの言葉を思い出す。
「殺しはしない。だが、一つだけ、貴様にプレゼントを残してやる」
その言葉を思い出して、私は青ざめる。
「これは……フライ・エルトールの仕業か……」
私の胸に怒りと絶望が渦巻く。あいつは私をただ打ち負かすだけでは満足せず、このような屈辱をも与えたのだ。
「くそっ……くそっ……!」
拳を壁に叩きつけても、この屈辱は消えない。髪を失い、名誉を失い、家族を失った私は、ただの無力な存在だ。
あれからどれほど経っただろうか、扉を叩く音がした。
「エドガー・ヴァンデルガスト。いるか?」
聞き覚えのある声。
ブライド様の剣であるアイクの声だ。
「なんだ?」
「その姿は、お前! ブライド様がお呼びだ」
私の頭を見て驚いた顔をするが、どうでもいい。
「ブライド様が?」
全てを失った私に何の意味がある? だが、ブライド様の呼び出しを断るわけにはいかない。
案内された場所に向かうと、そこにはブライド・スレイヤー・ハーケンス様の姿があった。
「ブライド皇子、申し訳ありません。私は全てを失いました」
ブライド様に止められていたのに、このような無様な結果を晒してしまった。父上の前でも我慢できた涙が溢れ出した。
私はブライド様のために生きたかった。そのための力を持っていたのに、それをわざわざ自ら手放したのだ。
「ああ、そのようだな。だからやめておけと言ったんだ」
「はい。ブライド様が正しかったです」
「だが、これでお前は余計な誇りを捨てられた」
「えっ?」
「お前を迎えに来た。エドガー、我の側近になれ」
「なっ、何を言われているのですか?」
皇子の目には、私を軽蔑する様子はなかった。ただ、静かな威圧感と揺るぎない自信だけが感じられた。この方はどこまでも純粋で圧倒的な存在感を誇っている。
「私は……全てを失いました。何の価値もない人間です」
私が発した言葉を聞くと、ブライド皇子は笑みを浮かべた。
「だからこそ、お前には価値がある。失うものがない者は、何者にも縛られず、何にでもなれる」
「……何をおっしゃらるのですか?」
「お前はまだ終わっていない、エドガー。私の手を取れ。そして再び立ち上がれ」
差し出されたその手を、私はしばらく見つめた。拒絶する理由はない。だが、この手を取ることが、本当に正しいのか? 頭の中で自問自答が繰り返される。しかし、私はすでに選択肢を失っていた。
ゆっくりと、私はその手を掴む。
「……私は、まだ立ち上がれるのでしょうか?」
「もちろんだ。お前にはまだ戦える力が残っている。そして、その力を私のために使え」
その声は不思議と温かく、私の心を震わせた。
「……わかりました」
私はブライド皇子の手によって、新たな道を歩み始めた。失墜した誇りと共に、新たな誓いを胸に秘めて、絶対に私はこの命をブライド様のために使うと……。
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