お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。

イコ

文字の大きさ
58 / 153
第二話

計画は密かに進行する。

しおりを挟む
《sideノクス》

 俺が生まれた村は小さくて貧しかった。

 だけど、平穏で温かな場所で、村人たちは家族同然に暮らしていた。
 
 隣の家で穫れた野菜はみんなで分け合い、誰かが病気になれば、みんなで看病した。貧しいながらも、助け合いの心がそこにはあった。

 俺の家も例外じゃない。

 父さんと母さん、それに妹のエリー。父さんは狩人で、母さんは村の集会でよく話し役を務めていた。

 エリーは小さい体でいつも俺の後を追いかけてきて、「お兄ちゃん、大好き」って笑ってくれた。

 そんな平和な日々が、ある日突然壊された。

 それは、隣村の若者が領主の倉庫から食糧を盗んだことがきっかけだった。隣村だけじゃなく、俺たちの村も同じ領地の一部だからと、領主は連帯責任を求めた。

「盗賊をかくまったのはこの村だな?」

 領主の兵士たちが村にやってきて、そう言った。村長は必死に弁明した。

「我々は何もしていない! 隣村の者たちとも話していない! 何の関係も!」

 だが、兵士たちは話を聞こうとしなかった。

 領主の命令は絶対だとばかりに、村の家々を壊し始めた。大人たちは止めようとしたが、次々と兵士たちに殴られて倒れていく。

「火を放て!」

 兵士の一声で、村が燃え上がった。俺の家も、隣の家も、炎に包まれていく。母さんが必死にエリーを抱えて逃げようとする姿が今でも目に焼き付いている。

「お兄ちゃん、怖いよ……」

 エリーが泣きながら俺の服を掴んでいた。俺は何もできなかった。ただ、彼女を守るために手を握り返すことしかできない。

 村人のほとんどは命だけは助けられたが、住む家も、家族を養うための畑も、全てを失った。

 その後、俺たちは隣村の一部の人々に匿われたが、彼らも余裕がなかった。母さんは病気になり、エリーを守るために身を削るように働いていたが、結局ある冬の日に倒れた。

 父さんも村を守れなかった責任を感じていたのか、最後には母さんをおって亡くなった。

「自由で、平等だって……笑わせるな」

 父さんが死ぬ前、そう吐き捨てたのを俺は忘れられない。小さいながらもその言葉の意味を考え、心の奥底に刻み込んだ。

「俺たちが何をした? どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだ?」

 領主の顔も見たことがない俺たちが、何の罪もない俺たちが、貴族の気まぐれで全てを奪われる。

 そんな理不尽が許せなかった。

 俺は誓った。いつか、この不平等な世界を変えると。

 その後、俺は成長するにつれてリベルタス・オルビスと呼ばれる自由軍に参加した。

 誰もが自由で平等に生きられる世界を目指すため、今この瞬間も俺は戦っている。

「エリー、見ててくれよ。俺は必ず……」

 妹の名前を呟きながら、俺はまた次の行動に移る準備をしていた。

 リベルタス・オルビスに属する者として、俺は戦闘技術を叩き込まれ、その才能があったのか、リベルタスの中でも剣術は相当な腕前だと言われるほどになった。

 俺たちが目指すのは、すべての種族が平等に、自らの意志で生きる世界だ。だが、現実はどうだ? 一部の王族や貴族が富を独占し、他の多くの者たちは虐げられたまま。種族間の力関係だって崩れることなく、下の者は上の者に従うしかない。

 そんな状況を変えるには、言葉だけでは足りない。それが俺たちリベルタス・オルビスの教えだった。

 そして今、俺たちに絶好の機会が訪れた。

 グランド・ユナイト・フェスティバル。

 種族を超えた統一を目指すこの大規模イベントは、表向きは平和の象徴として称賛されているが、俺たちから見れば矛盾の塊だ。

 少数派を押しつぶし、強者が都合よく作り上げた「平和」の名のもとに、新たな支配体制を築こうとしているだけだ。

 このフェスティバルを利用して、「自由」の旗を掲げるための作戦が動き出す。

「ノクス、準備はできたか?」

 声をかけてきたのは、仲間の一人、アレンだった。背が高く痩せた男で、いつも目つきが鋭い。

「もちろんだ。全部運び終わったよ」

 俺はアレンに答えながら、そっと視線を周囲に走らせた。

 ここは学園都市の外れにある廃屋。作戦のために俺たちが集まる拠点として使われている場所だ。

「こっちも順調だ。実行犯たちも予定通り潜伏を始めている」

 アレンは静かに笑みを浮かべる。

 その表情を見て、俺は少しだけ心がざわついた。俺たちがやろうとしていることは、確かに大義のためだ。でも、実行することで、誰かが傷つくのも間違いない。

「ノクス、どうした?」
「……いや、なんでもない」

 アレンに気づかれないよう、慌てて顔をそらした。

「まあいい。お前が運んだ物資はこれで最後だ。これさえ終われば、フェスティバルの最後の週が終わる頃には、全ての準備が整う」
「……ああ」

 俺は小さく頷く。そう、俺の役割は、学園都市に必要な物資を運び込むことだ。

 中身は知らないが、だけど、それが何であれ、俺たちの「自由」のために使われることだけは確かだ。

 その夜、俺は学園都市の裏通りを一人で歩いていた。肩にはリュックを背負い、中には今日最後の物資が入っている。

 学園都市は、表の華やかな顔とは裏腹に、裏通りには暗い影が落ちている。ここには奴隷として売られた者や、行き場を失った者たちが身を寄せている場所がある。

「ねぇ、兄ちゃん」

 ふと、声をかけられた。振り返ると、薄汚れた服を着た幼い獣人の少女が立っていた。目は不安げで、痩せた体つきだった。

「お腹、空いてるの?」

 俺はポケットから硬貨を取り出して、少女に手渡す。

「これで何か買いなよ」

 少女は一瞬戸惑ったが、すぐに手を伸ばして硬貨を受け取った。

「ありがとう、兄ちゃん」

 その笑顔に、胸が締め付けられる。こういう子供たちがいる限り、俺たちの活動は正しいのだと思う。そう信じようとした。

「それで救えるのは、目の前の一人だけだ」

 頭の中で誰かが囁く。それはきっとアレンの声だろう。俺たちの活動は、もっと大きな規模で人々を救うためのものなのだ。

 拠点に戻ると、すでに他の仲間たちが集まっていた。

「これで全部運び終わったな」

 リーダー格の男、ダリルが物資の山を見て満足そうに頷く。彼は冷静で賢いが、どこか怖さも感じさせる男だった。

「次の手順に移る。ノクス。今回はお前の仕事は以上だ」
「何か手伝えることはないか?」
「ない」
「でも!」
「これは、ボスが考えたことだ。それぞれに役割があり、明確に知らせないことで、もしも誰かが捕まっても計画が漏れないためにな」

 ボスに俺はあったことがない。だけど、その計画性から、かなりのキレ者だと知っている。

 そのボスが言うなら従うしかない。

「わかった。成功を祈っているよ」
「ああ、後はまかせろ。お前も怪我をするなよ」
「うん」

 俺は計画の全貌を知らないまま、仲間たちと別れた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...